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はじめに
インフルエンザウイルスは,最も強い感染性を示すウイルスの一つで,今世紀を通じて感染症による死亡原因の第1位を占める.このようにヒトに対して強い感染性を示すウイルスであるが,その感染性は宿主側の因子によって大きく支配されている.実際に臨床の現場では,インフルエンザウイルスに罹りやすく重症になりやすい人と,罹りにくい人がいることに気づくが,インフルエンザウイルスの感染メカニズムの解明とともに感染感受性を決めている宿主側の因子群(生体防御物質を含めて)に関心が集まっている.
強い感染力を示すインフルエンザウイルスであるが,意外なことに宿主の感染細胞から出芽したばかりのウイルスは,未熟型でヒトに全く感染性を示さない.それでは,感染力を持たない未熟なウイルスが,どのようにして成熟型ウイルスになり,強い感染能を示すようになるのだろうか.インフルエンザウイルスの感染機構に仕組まれている二つの興味深い生体側のトリックが明らかになった.第一のトリックは,図1に示すように感染初期の膜融合過程に必須なウイルス外膜糖蛋白質のヘムアグルチニン(HA)が,出芽したばかりの未熟なウイルスでは前駆体のままで膜融合能も感染能も示さないことに由来する.このHAは,感染宿主の気道細胞の分泌するプロテアーゼでHA 1とHA 2に切断され,HA 2のN末端側に膜融合領域が示されるようになって,初めてウイルスは感染性を持つという仕組みである1〜3).第二のトリックは,インフルエンザウイルスのレセプターが,ほとんど全ての細胞膜表面に見出される糖蛋白質の末端にあるシアール酸であることに関連する.レセプターが全ての細胞膜にあるならば,インフルエンザウイルスは全身の細胞に感染してもよいはずであるが,実際にウイルスの増殖は,気道の粘膜上皮でしかみられない.このトリックは,HAを切断するプロテアーゼが気道の粘膜上皮のみにしかないことで説明される.すなわち,インフルエンザウイルスの感染は,ウイルスレセプターの分布よりは,HAを切断するプロテアーゼがウイルスの感染細胞性トロピズムを決定しているといっても過言ではない.このように未熟なインフルエンザウイルスを成熟型に変えるプロテアーゼを中心に,個体のウイルス感染感受性を解明する因子群が明らかにされつつある.
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