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はじめに
血管機能に異常を来すと,様々な疾患に結び付く.抵抗血管などの機能の低下が生じると,高血圧をもたらし,高血圧は心肥大や脳梗塞などの様々な循環器疾患の基礎となる.冠動脈の機能が低下することにより,冠攣縮性狭心症,労作性狭心症などが発症し,最終的には心筋梗塞という重大な疾患へと至る.頸動脈の機能が低下すると,プラークが増生し,脳梗塞発症の引き金となる.このように,全身の血管異常は,様々な循環器疾患をもたらすことは明らかである.
血管機能の異常には,①血管を構成する細胞の機能異常,②それらの機能異常により血管壁内にコレステロールなどが蓄積して形成される動脈粥腫とに大きく分かれると思われる.①に関しては,血管を構成する細胞には血管内皮細胞と血管平滑筋細胞の2種類に代表され,それぞれの細胞機能異常により,血管機能の異常が生じると考えられる.
血管内皮細胞は,NOに代表される血管弛緩物質や様々なサイトカイン,増殖因子などを分泌するある種の臓器的役割を果たしており,さらに血管平滑筋などの血管壁を構成する細胞と血液との隔壁となり,血栓形成防止を担っている重要な細胞である.血管内皮細胞の重要性は強く認識されているが,臨床において血管内皮機能を客観的に評価することは難しく,血管内皮機能指標の探索が試みられている.血液中のNO濃度測定や反応性充血を利用したFMD(flow-mediated vasodilation)やプレスチモグラフィーなどによる血管内皮機能評価が行われている.
血管平滑筋細胞などで構成される血管壁の硬さをみる指標としては,脈波伝播速度(PWV)やaugmentation index(AI)などがある.頸動脈と大腿動脈の間のPWVであるcfPWVが世界的には広く用いられており,わが国では,簡便な上腕動脈と足首の動脈間のbaPWVが広く用いられている.大動脈PWVは心血管疾患発症の優れた指標であることが知られており,最近,メタ解析の報告がなされた.その報告によると,PWVが1m/s増加するごとに,心血管イベント,心血管疾患による死亡および総死亡のリスクがそれぞれ,14%,15%,15%増加することが示されている(図1)1).PWVは血圧および年齢の影響を強く受けるが,血圧の影響を少なくする心臓足首血管指数(CAVI)が登場し,新たなサロゲートマーカーになることが期待されている.また,動脈系全体の血管機能を反映することが期待される中心血圧やAIにおいても心血管イベントの予測因子になることが明らかにされている.このように,血管機能評価指標におけるPWVや中心血圧は,心血管イベントの代替指標として注目されている.
動脈粥腫の指標としては,侵襲的指標と非侵襲的指標に大別される.心血管イベントの源となる冠動脈プラーク(冠動脈粥腫)を評価することが重要である.この冠動脈プラークを侵襲的に評価する手法としては,冠動脈内視鏡検査,冠動脈内超音波検査(IVUS),OCT検査の3種類に代表される.冠動脈内視鏡検査では,心血管イベントを発症した患者においては,冠動脈内全体が黄色に変色し,冠動脈プラークが進展していることが明らかにされている2).また,これらの冠動脈プラークには血栓が付着している像も多く観察され,心血管イベント発症に冠動脈内プラークが強く関わっていることが示唆され,その基礎となる血管内皮機能障害が重要であることが推察される.最近,非侵襲的指標として,CTの性能が格段に向上し,プラーク診断に極めて有用になってきていることが明らかとなってきた.また,頸動脈エコーによる頸動脈プラークの評価も血管機能評価としては有用である.
これらの血管機能を改善することが,心血管イベントや脳血管イベント発症を抑制するうえで重要であると思われる.これらの血管機能指標を改善する手法として,運動,食事などの生活習慣の改善が重要であることが示されている.さらに,本稿のテーマである薬剤や食品などにおいても,血管機能を改善することが期待できるものが報告されている.
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