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はじめに
気道系は管腔構造の周囲を気管支平滑筋層が螺旋状に取り巻いており,平滑筋が収縮することによって可逆性の気流制限を来す.収縮を引き起こす生理活性物質は様々であるが,アセチルコリンやヒスタミンは健常者においてもある程度の用量を吸入すると収縮を引き起こす.気管支喘息患者の多くや一部のCOPDの患者においては,健常者では気道収縮を引き起こさない低用量のアセチルコリンやヒスタミンでも収縮を生じることが知られており,この特性を気道過敏性と称する.
気道過敏性は特に喘息における中心的な病態生理学的特徴といえる.何故ならば,呼吸困難と喘鳴という典型的な喘息症状は気道平滑筋の収縮なしには起こりえず,その収縮のしやすさが気道過敏性に表現されているからである.例えば,気道過敏性の程度と喘息の重症度は相関しており,適切な治療によって喘息症状が改善するとともに気道過敏性も低下する1,2).実際,GINAなどのガイドラインに加えて,定期的な気道過敏性検査のデータを参考にして治療内容を決定することによって,より良好な喘息のコントロールが得られるという報告もみられる3).最近話題となっている,喘息患者を対象とした気道焼灼術(bronchial thermoplasty)の試みも,気道平滑筋を物理的に除去して気道過敏性が生じないようにすればよいという発想に基づいている4).
気道過敏性に関する研究の歴史で,特に重要な知見と位置づけられるのは,その病態の成立における炎症の関与である.喘息における気道炎症が,IL-4,IL-5,IL-13などのTh2サイトカイン優位のプロフィールを示し,気道粘膜における好酸球や肥満細胞の活性化が生じていることが明らかになった.これら炎症細胞の活性化によって産生・放出されるペプチドやサイトカイン,酵素,脂質メディエーターのなかには,気道平滑筋を収縮させたり,他の物質に対する平滑筋の収縮能を高めたりする活性を有するものが数多く存在する.そして,これら生理活性物質の作用を阻害する薬剤を喘息患者に投与すると,気道過敏性が減弱することが明らかにされ,気道炎症が気道過敏性を引き起こすという考えは広く受け入れられるようになった.
しかしながら,喘息における気道炎症と気道過敏性は必ずしも相関せず5),喘息患者に高用量吸入ステロイドによる強力な抗炎症療法を施しても,健常者に比べるとかなりの気道過敏性が認められる.また,ヒトやラット,マウスの気道過敏性には遺伝的素因も存在することから,気道過敏性が気道炎症のみで成立しうるものではないことも明らかになってきた.そのような炎症によらない気道過敏性の機序として,気道平滑筋の収縮特性の違いや,気道の自律神経異常,気道上皮の機能的異常,あるいは気道リモデリングの関与などが検討されてきた.
本稿では,気道過敏性の成立に関わるとされる様々な因子について,われわれの研究も含めて解説・検証し,今後の研究の方向性について展望したい.なお,気道過敏性検査法の実際は,既に多くの手引き書があるため,ここではあらためて言及しないこととする.
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