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人は生命をあたえられ,生まれてくるときに息を吸い人生のはじまりを謳歌する。そしていつしか,死ぬるときには深く息を吐き,静かに世を去る。命を看取る医療の現場において,生命の灯が消えるときはおごそかで,静寂である。
すべての人にとって同じように迎えるはずの生と死は,実際には国ごとに大きく異なる。われわれの住む先進国日本は,世界のなかで唯一の成功例と称される国民皆保険制度に支えられ,世界一の長寿国であり続けている。最先端の医療が欧米と比較して極めて低い患者負担で万人に施される反面,「治療」という名の延命が公的な医療費を用いて,いつまでも行うことができる側面もまた,日本の医療なのである。物的に最先端の医療を享受しながら死ぬることが,最も幸福な最期といえるのか,さらにはわれわれ麻酔や集中治療に携わる医師が最先端の医療を提供することが,患者の幸せな死につながっているのかについては,いまだ明白な答えが見えてこない。
「人間が生きものの生き死にを自由にしようなんて,おこがましいとは思わんかね」と述べたのは,『ブラック・ジャック』に登場する,本間丈太郎医師だ。われわれの周辺にも該当する症例はいくつかみられる。例えば,認知症のある90代の重症心不全の患者に,TAVIを行うかどうかについては議論が分かれるところだが,先端医療の結果,長期人工呼吸管理となって管につながれたままに還らぬ人となる事例は,時に経験する。
そこで今月号の徹底分析シリーズでは,患者ひとりひとりの有意義な生の先にある死に真摯に向き合ってこられた医療者に,日本でもさまざまな終末期の迎え方が許されるということについて,つぶさに現状をご執筆いただいた。綴られた言葉を余すことなく味読し,命のあり方をみつめなおすことにつながれば幸いである。
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