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麻薬を違法に使用して逮捕された,あるいは命を落とした麻酔科医の事件が何度も報道されてきました。そのようなことをする麻酔科医には「意志が弱く」「反社会的で」「プロフェッショナルの風上にも置けない」落伍者とのレッテルが貼られ,麻酔科医界から排除されてきました。そして,「ダメなものはダメ」という警告が声高に叫ばれてきたのです。
われわれ麻酔科医は,薬物依存のハイリスクグループです。完璧さが要求される終わりの見えない長時間勤務と過剰なストレスに曝され,目の前には薬物があるのです。「ダメなものはダメ」であることは大前提ですし,麻酔科医が薬物を一人で簡単に取り扱えるような労働環境を改善することも不可欠です。しかし,それだけでは薬物依存に陥ってしまう者をなくすことができません。なぜなら,薬物依存は「孤立の病」だからです。
薬物依存の始まりの多くは,心身の痛みに苦しみ,しかし他者に助けを求めることができず,薬物で苦痛を紛らわせようとすることです。そして,現在の医療を取り巻く厳しい環境の中で医師としての責務を果たそうと真摯に向き合う人ほど,孤立に陥りやすいのです。すなわち,薬物依存からの回復,薬物依存の予防に必要なものは,厳罰主義や排除ではなく,他者とのつながりの回復です。
薬物依存に陥るリスクは,あなたにも,あなたの隣人にもあります。麻酔科医の仲間からこれ以上の犠牲者を出さないために,まずこの問題から目をそらさないことが必要と考えて,今回の徹底分析を企画しました。今回の特集だけでこの困難な問題に対するベストの対応策が見いだせるわけではありません。なぜなら,多くの麻酔科医が我が事としてとらえなければならないからです。まずは読者が,当事者意識をもってこの問題を考える契機となることを願っています。
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