症例ライブラリー 術中,突然の低酸素
巻頭言
長坂 安子
1
1東京女子医科大学 麻酔科学分野
pp.285
発行日 2023年3月1日
Published Date 2023/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3101202476
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- 文献概要
この世に生を受けてからわれわれは,これまでひとときも休まず酸素を体に取り入れ,それを利用し続けてきた。日本の大気に21%・160mmHgの酸素が存在するならば,肺胞内では水蒸気圧と二酸化炭素分圧を除く100〜110mmHgが肺胞の薄い隔壁を越える。そうして酸素は赤血球中のヘモグロビンにある4つのヘム部位に次々と結合し,血流に乗って運搬され,末梢組織では酸素解離曲線に秘められたメカニズムに従い離されて,細胞内のミトコンドリアで利用される。この精巧な経路のどこか1点でも曇りがあれば,人体は予備力を使い果たし低酸素に喘ぎ苦しむことになる。
麻酔の導入時から覚醒そして術後までの一連の流れのなかで,足のすくむような低酸素の恐怖を経験したことがある人は多いだろう。医療者としての真価が問われるその瞬間に,麻酔科の医師ならではの鑑別診断を挙げ,同時に治療をしなやかに選択できる達人たちが身近にいる。さあ今こそ,彼らの知恵を譲り受け,来るべき決戦に向けてアタマを磨き,動くカラダを整えておきたい。
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