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筆者が麻酔科医になった頃,吸入麻酔薬として使用されていたのはハロタン,エンフルレン,亜酸化窒素であり,麻薬はフェンタニル,筋弛緩薬はパンクロニウム,拮抗薬はネオスチグミンだった。どの薬物にもさまざまな制約があり,特に麻酔からの覚醒は難しいものだった。例えば,ハロタンは覚醒が遅いため,術中から投与を停止しなければ,術後すみやかに覚醒させることができなかった。
そんなときに出会ったのが,諏訪 邦夫 先生の『吸入麻酔のファーマコキネティクス』だった。この本を読んだことで筆者の中にあった数々の疑問が氷解し,大きな感動を覚えた。この書籍は今から40年前に,当時まだ普及していなかったコンピュータを用いてシミュレーションを行い,一つの実験もせずに臨床上の疑問を理路整然と可視化し,明確な答えを導き出していた。筆者もいつかこんな本を書いてみたいと思いながら,時は流れていった。2000年代になり留学先から帰国して,本稿で使っているPhysio-Simを作り始めた。当時,日本麻酔科学会にはソフトウェアコンテストがあり,(大賞は取れなかったけど)審査員長だった諏訪先生に褒めていただいたのを誇りに思っている。
時代とともに吸入麻酔薬は進化し,現在ではデスフルランやセボフルランが主流となり,呼気ガスモニターや脳波モニターも実用化された。麻酔管理は当時と比べると格段に安全かつ容易になり,術後に患者の覚醒を待つことも少なくなった。しかし,現代においても覚醒遅延や術中覚醒のリスクは依然として存在しており,これらを防ぐために学ぶべき理論は数多い。さらに,今だにもやもやしている吸入麻酔薬の作用機序と,吸入麻酔薬の歴史について解説していただいた。これらを総合することで,吸入麻酔法を支える理論が完結する。40年前に筆者が受けた感動を今の時代に伝えることができれば,これほど嬉しいことはない。
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