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編集後記
香山 明美
pp.1508
発行日 2025年12月15日
Published Date 2025/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.091513540590131508
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暑い夏が過ぎ,あっという間にコートが欲しい季節になってしまった.私は,秋桜が好きだが,秋の花を楽しむ間もなく,澄んだ空気に冬を感じるこのごろである.
私は刑務所でコミュニケーションを考える会を担当している.秋といえば,「遠足,運動会,栗,柿,ぶどう……」と参加者全員で秋に楽しかった思い出を語ってもらった後に,怒りを感じたときのことを話してもらった.参加者の一人が「何かに怒りを表すのは独り善がりな気がする.自分の気持ちをそのときの思いに任せて言うのは簡単で,自分もそうしてしまったが,相手や周囲の人のことを考えないといけないと思う」と語り,自分がどれだけ,周囲の人に迷惑をかけてきたかを自ら振り返った.その後,その話を聞いた別の参加者が「自分だって親に迷惑をかけた.もう親はいない.ここを出たら一番に親のお墓参りをしたいと思っている」という話をした.コミュニケーションを考える会は,自分の行動を振り返ることを目的としているわけではなく,むしろこれから,人とうまく付き合っていくために自他の感情に気づき,うまく表現することを考えたり,実践していくことを目指している.この会は,たまたま,自らのこれまでの行動を振り返る機会になってしまったが,そのときに,振り返りの時間はこれからの希望を考える意味でとても重要な時間であるとあらためて気づき,受刑者は受刑生活の中で,自分のこれまでをどのように振り返ってきたのだろうか,と思った.受刑者一人ひとりの振り返りとこれからの希望を語る時間を,どのように設定できるかも大きな課題である.

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