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はじめに
腰椎症性神経根症は,椎間板膨隆,椎体変形などによる脊柱管や椎間孔の狭窄によって神経根が圧迫され,神経根支配領域の疼痛,感覚障害,筋力低下,筋萎縮などを引き起こす疾患である.特にS1神経根が障害されると,下腿筋の筋力低下や萎縮をきたすことが知られているが,通常は下腿の筋腫大や高クレアチンキナーゼ(CK)血症は起こらない.
しかし,腰椎症性神経根症ではまれに筋腫脹を伴う高CK血症をきたすことが知られている.既報告ではS1神経根症により筋腫脹を伴う腓腹筋変性と高CK血症をきたした症例や,病理学的に罹患筋に炎症性細胞浸潤を伴い,血清CK上昇を伴った腓腹筋変性例が報告されている1,3).炎症性細胞浸潤を伴う例ではステロイド治療が有効な場合がある3).
一方で,腰椎症性神経根症に伴う筋萎縮においては,通常は顕著な血清CK値の上昇は認めないとされてきた.しかし近年,腰椎症性神経根症,特にS1神経根の絞扼性障害を背景として,持続的な高CK血症と,下腿筋(特に腓腹筋)の変性・萎縮を特徴とする症例が報告されるようになった4).われわれの施設では,このような特徴を有する症例群を多数例で検討し,新たな疾患概念として「絞扼性腰仙骨神経根症による高CK血症を伴う神経原性下腿筋変性症〔Neurogenic Calf Amyotrophy with CK Elevation by Entrapment Radiculopathy:NCACKEER(エヌカッカー)〕」と定義することを提唱した5).
本稿では,NCACKEERの臨床的,検査的,画像的特徴,ならびに診断基準,そして考えられる病態に関する知見を概説する.臨床現場では,中高年の高CK血症を伴う下腿筋萎縮症に遭遇することがあり,脳神経内科領域では遺伝性の遠位型ミオパチーなどが鑑別になるが,確定診断に苦慮することも多い.本疾患の理解を深めることは,原因不明の下腿筋萎縮・筋力低下,高CK血症を呈する患者の適切な診断と治療方針決定に寄与するものと考えられる.

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