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あとがき
涌井 昌俊
pp.820
発行日 2025年7月15日
Published Date 2025/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.048514200690070820
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免疫は,個体が敵から自分を守るための細胞社会における営みであり,敵であるウイルス・微生物や腫瘍を駆逐して正常な細胞・組織を救うのが本来の目的です.対象が自己ではないことを認識して攻撃するという免疫応答だけではなく,自己であることを認識してあえて攻撃しないという免疫寛容も併せもつことで,適正に免疫は機能します.NK細胞やT細胞の仕事は,ウイルスに感染した細胞や腫瘍細胞を破壊することです.これらの細胞はもともと自己の細胞であることを踏まえると,敵と自己の違いは紙一重だとしても不思議はありません.また,B細胞は免疫グロブリン遺伝子,T細胞はT細胞受容体遺伝子の後天的かつ偶発的な組換えによってそれぞれ発生するため,常に自己反応性のB細胞やT細胞が出現するリスクがあります.自己攻撃を回避するべく,骨髄,胸腺,末梢リンパ組織にはそれらを除去するシステムが存在します.加えて,自己由来の物質や日常的に曝露される外来物質に対する不都合な反応を抑制するべく,免疫寛容に関わる細胞も存在し,制御性T細胞はその代表例です.
そのような絶妙な免疫の仕組みのおかげで,発熱や倦怠感といった症状による一時的な負担や制約が個体に生じても,敵を駆逐できれば最終的には身体の平和が戻ります.なんらかの原因で免疫寛容が破綻した結果として発症する自己免疫疾患は,敵から自己を救うという本来の目的から逸脱した免疫事象です.自己と敵の間の“紙一重”をシステムが誤ることで細胞社会に不利益をもたらした疾患であるとも換言できます.

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