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編集後記
51
pp.332
発行日 2025年3月10日
Published Date 2025/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.038698220530030332
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先日,本誌53巻2号の「映画に見るリハビリテーション」でご紹介いただいたドキュメンタリー作品「どうすればよかったか?」を映画館で観てきました.まさに「統合失調症の姉を軸にせめぎ合う家族の肖像」.登場人物は両親,姉,弟(撮影者・監督である藤野知明氏)のほか,叔母が少しだけ登場するのみの“密室劇”であり,家族の病や死によってのみ新たなフェイズが開ける……という息が詰まるような101分でした.統合失調症を発症した娘を25年もの間,両親が事実上の軟禁状態に置いたこと—それ自体は取り返しようもなく悲しいことであるものの,そのうえで不器用な家族愛も感じられ,そうしたアンビバレンツも含めてこの家族のありようが決して遠い世界ではなく,身近なものに思えたのは新鮮な驚きでした.
作中,監督ご本人のモノローグにおいて,自身が通う大学の相談室に姉の状況につき打ち明けたところ,「それなら君も精神障害か」とネガティブな返答をされたことが語られます.1980年代半ばのエピソードかと思いますが,世間からのスティグマの大きさに改めて衝撃を受けます.今後もっと当事者,家族,支援者を取り巻く状況が好転することを願いつつ,出版の立場からも「生きやすい社会」をつくる一助になれれば……と強く思わせられた次第です.

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