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編集後記
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pp.238
発行日 2025年2月10日
Published Date 2025/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.038698220530020238
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つい先日,国内に1つだけ流通していたらしいオットー・クレンペラー(1885〜1973年)指揮「マタイ受難曲」の中古LP 5枚組を入手しました.1962年にリリースされたもののようですが,盤の状態もよく,歌詞カードまで綺麗に残っていて感激しきりです.
ドイツ出身のクレンペラーは20世紀を代表する指揮者で,ヨーロッパの石畳や堅牢な大伽藍を思わせる重厚かつ繊細,冷静かつ荘厳な表現に大きな魅力があります.キャリアの途中での病(脳腫瘍,双極性障害,脳卒中)や複数回の大怪我からの復活,またこちらには書きにくいのですが「モラルに反する」エピソードの数々も印象的です.特に私が興味深く思うのは,ブダペストの劇場でのリハーサル中に激怒したクレンペラーが「タクシーを呼べ!」と叫び劇場を出て行ってしまったところ,劇場支配人が心得た人物だったようで,運転手にこっそり「劇場の周りを一周したら玄関まで戻ってきてください」と依頼した逸話です.しばらくして戻ってきたクレンペラーは何事もなくリハーサルを再開したそうです.大指揮者の激しやすい性格にうまく対応した支配人氏.名演奏の陰にあったであろう,こうした方々の機転や工夫に思いを馳せずにはいられません.
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