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編集後記
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pp.656
発行日 2025年6月10日
Published Date 2025/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.038698220530060656
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「アルビノーニのアダージョ」という“バロック曲”をギターで弾いていた際,師匠から「この曲にはバロックにはあり得ない和音が入っている」と指摘されたことがありました.実際,「大戦中の砲撃で灰燼に帰した古都ドレスデンにて発見された17世紀の作曲家アルビノーニの遺稿」という触れ込みで有名になったものの,この人気のアダージョは現代の作曲家ジャゾットの創作だったそうです.バロック風の美しい旋律をつくり出せる作曲家の才能もおそるべしですが,ギターの本場スペインにてルネサンスから現代までの音楽を深く学んだ師匠の耳はわずかな違和感も聞き逃さなかった,という事実に羨望を抱いたものです.
生成AIがよりいっそう発展し,さまざまな分野で人々の大きな助けとなることを確信すると同時に,“ハルシネーション”の発生に対峙できるリテラシーを自分はもち合わせているだろうか……と若干の戸惑いも覚えます.そして価値観が多様化する時代においては,それぞれの判断基準も異なるはずで,その絶対的な何かをそれぞれが追い求める(一種バロック的ともいえる)潮流も同時に来ているのかもしれない——との思索に浸っております.

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