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編集後記
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pp.1126
発行日 2024年10月10日
Published Date 2024/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552203252
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人気作家・平野啓一郎氏が2010年に上梓した長編に,義足をテーマにした「かたちだけの愛」(中央公論新社刊)という作品があることをご存じでしょうか.「美脚の女王」と称される若き女優が左脚を大きく損傷する交通事故にあったところを,プロダクトデザイナーの主人公が偶然助けたことから始まる恋愛小説です.スリリングで劇的な展開をもちつつ,平野氏の深い思索や教養,さらには文豪・谷崎潤一郎へのオマージュ(「陰翳礼讃」,「刺青」の他,谷崎作品に通底する母子愛)が融合した読み応えのある作品です.
ひょんな縁から主人公はヒロインの義足のデザインをも手掛けることになり,制作の過程で魅力的な義肢装具士やリハビリテーション科医師,“やり手”の病院経営者らが登場します.ヒロインが「南千住の義肢装具サポートセンター」に通うシーンもあり,本誌担当者としては思わずニンマリとしてしまいました.小説執筆にあたって毎回緻密な取材をする平野氏のことですから,作品にユーモアとリアリティを添えるカリスマ義肢装具士—その名も淡谷大三治氏にもモデルがおられるのではないか…と,にらんでおります.
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