巻頭言
食道は鍛えることができるか?
國枝 顕二郎
1,2
1岐阜大学医学部附属病院脳神経内科
2浜松市リハビリテーション病院リハビリテーション科
pp.239
発行日 2025年3月10日
Published Date 2025/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.038698220530030239
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「ヒトは,逆立ちしても飲めるのはなぜか?」.筆者は子供の頃に,逆立ちしても飲めた経験があり,ずっと不思議に思っていました.摂食嚥下リハビリテーションの第一人者である藤島一郎先生と,居酒屋でそのメカニズムについて大真面目に議論したことがあります.10年以上も前のことですが,この「居酒屋での議論」が食道を鍛えるリハビリテーションの着想に重要だったかもしれません.「まずはやってみよう!」と,自身が逆立ちして嚥下造影を行うと,(頭に血が上って大変でしたが)食塊を送り込むため食道は繰り返し強く収縮しました.「食道は鍛えられるのでは?!」という考えが私たちの頭をよぎり,取り組みはじめたのが腰上げ空嚥下(ブリッジ空嚥下)訓練です.食道が抗重力位となる腰上げ(ブリッジ)姿勢で一定期間空嚥下を行うと,逆流性食道炎や食道内残留が改善し得ることがわかりました.食道は不随意で平滑筋に置き換わり,四肢の筋である横紋筋を鍛えるのとはいろいろな意味で異なります.どんな病態に有効か? メカニズムは? 宇宙での嚥下はどうなっているか? など,興味は尽きません.
筆者は,他にもバキューム嚥下(嚥下時に食道内に陰圧を形成する嚥下法)など新しい嚥下法に取り組んでいますが,浜松市リハビリテーション病院での検討がもとになっています.「新しい嚥下法を思いつくのには何が大切ですか?」という質問に「お酒の席」と答えることもありますが(笑),自由な意見交換ができる仲間と環境,行動力,そして論文化しておくことは大切かなと思いました.
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