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新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は,コロナウイルス科に属するプラス鎖一本鎖RNAウイルスである.ヒトに感染するコロナウイルスには,重篤な肺炎を引き起こすSARSコロナウイルス(SARS-CoV)とMERSコロナウイルス(MERS-CoV),感冒様症状を引き起こすヒトコロナウイルス229E(HCoV-229),HCoV-OC43,HCoV-NL63ならびにHCoV-HKU1の計7種が知られている.SARS-CoV-2によって引き起こされる感染症をCOVID-19(coronavirus disease-2019)といい,感染症法では新型コロナウイルス感染症と呼ぶ.2020年6月10日時点で,COVID-19の感染者数はこれまでに世界で約731万人,世界全体の死者数が約41万3,000人と報告されており,WHOがパンデミック相当との見解を示すなど,世界的に公衆衛生上の非常に大きな問題として早急な対策が求められている1).また,6月9日時点で,本邦における感染者数も17,000例を超え,死者数919人と報告されている.COVID-19の主要な感染経路は,飛沫感染と接触感染であると考えられているが,閉鎖空間において近距離で会話するなどの環境下で,咳やくしゃみなどの症状がなくても感染拡大を引き起こすリスクがあるとされている2).新型コロナウイルス感染症の治療薬としては,ウイルスの複製過程を阻害するレムデシビルが2020年6月現在保険適応されており,それ以外にも多数の薬が臨床治験されている3).ワクチンについては,世界各国で研究・開発が進められているものの,まだ実用化されたものは存在しない.そのため,COVID-19の感染拡大を防止して収束させるためには,適切な検査法により感染者を早期に発見・特定して隔離,治療するとともに,感染拡大防止策を講じることがきわめて重要となる.新型コロナウイルス感染症の検査診断には,①遺伝子検査法,②抗原検査法,③抗体検査法の主に3つの方法が用いられている4).このうち,①および②はウイルスの核酸または抗原タンパク質を直接検出する手法である.①の遺伝子検査法は,比較的少量のウイルスであっても検出できるため,主に発症の初期から中期に用いられる(図1)5).また,SARS-CoV-2に対して特異的な領域に設計したプライマーを用いることで,手法としての特異性は高い6).ただし,遺伝子検査法で陽性を示す場合,ウイルスゲノムが検出されたということであり,感染性のあるウイルスの有無を確認する方法ではない点に注意が必要である.②の抗原検査法は,ウイルス抗原を検知し,診断に導く検査であり,遺伝子検査とともに確定診断として用いることが可能であろう.しかし,①と比べて感度が低いため,ウイルス量が多い発症の初期のスーパースプレッダーのスクリーニングなどに用いられる7).新型コロナウイルスに対して特異的な抗体を用いている場合,特異性は高いと考えられる.③の抗体検査法は,SARS-CoV-2に対して産生される抗体(IgMあるいはIgG)を検出するものである.COVID-19感染症において,発症後7~10日程度から抗体が産生されることが報告されており,発症2週間以降の感度は非常に高い5).一方で,抗体検査には新型コロナウイルスの抗原タンパク質を用いることから,上述した感冒様疾患を引き起こすヒトコロナウイルス抗原との交差反応性に由来する偽陽性が問題となる場合がある.本稿においては,これらの検査法の概要について述べる.
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