胸部外科 76巻7号 (2023年7月発行)

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特集　縦隔・胸壁腫瘍に対する低侵襲手術

特集「縦隔・胸壁腫瘍に対する低侵襲手術」によせて千田　雅之 76巻7号 , 2023年7月 , pp.499

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1990年代に呼吸器外科領域に胸腔鏡下手術（VATS）が導入されて以来，大半の肺癌手術はVATSで行われるようになっている．近年はロボット支援下手術（RATS）が保険適用となり手術数が急増しており，肺癌手術の3割に及ぼうという状況となってきている．肺癌手術に対する低侵襲手術はこれまで多くの媒体で取り上げられてきたが，縦隔・胸壁腫瘍への低侵襲手術という切り口は少なかったように思う．

1. ロボット支援下手術

ロボット支援下縦隔腫瘍手術の試み―術式の変遷岡部　直行 , 鈴木　弘行 76巻7号 , 2023年7月 , pp.500-505

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本邦では2018年4月から縦隔腫瘍に対するロボット支援下手術が保険診療として承認され，さらに2020年4月には拡大胸腺摘出術が追加され，ロボット支援下縦隔腫瘍手術は増加傾向である．

手術支援ロボットを用いた縦隔腫瘍に対する低侵襲手術―ポート配置の工夫と適応の変遷槙　龍之輔 , 鶴田　航大 , 千葉　慶宜 , 石井　大智 , 大湯　岳 , 佐藤　大軌 , 宮島　正博 , 渡辺　敦 76巻7号 , 2023年7月 , pp.506-509

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縦隔腫瘍，特に前縦隔に発生した腫瘍を切除するためのアプローチとして，胸骨縦切開が行われてきた．胸骨縦切開では骨接合不全や縦隔炎などの合併症が一定頻度で発生するとされている．また，胸骨が癒合するまで運動制限が必要となる．一方で，1990年代から行われるようになった胸腔鏡下手術（VATS）では胸壁に対して低侵襲な手術が可能となった．しかし，VATSでは狭い縦隔での操作に難渋することがあり，両側胸腔アプローチ，剣状突起下アプローチ，胸骨吊り上げ，人工気胸などさまざまな工夫が各施設で実践されてきた．また，いずれの方法でも，特に胸腺上極を含めた胸腺摘除は鉗子類の干渉により操作性がわるい．

ロボット支援下縦隔腫瘍手術に対する取り組み―側胸部アプローチ越智　敬大 , 鈴木　秀海 , 平井　有紀 , 山中　崇寛 , 松本　寛樹 , 海寳　大輔 , 稲毛　輝長 , 伊藤　貴正 , 田中　教久 , 坂入　祐一 , 吉野　一郎 76巻7号 , 2023年7月 , pp.512-517

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胸部外科領域におけるロボット支援下手術（RATS）の導入は，世界に先駆けてYoshinoらが2001年に縦隔腫瘍に対して実施したが1），本邦におけるRATSの普及は薬事承認，保険収載をまたねばならなかった．当施設では2014年に3例の縦隔腫瘍に対するRATSを施行したが，2018年の保険収載以降に本格的に再始動した．本稿では，これまでの当施設での縦隔腫瘍に対するRATSへの取り組みの推移，切除例における臨床病理学的特徴と周術期成績を報告する．

縦隔腫瘍に対するロボット支援下低侵襲手術―剣状突起下アプローチ井上　尚 , 千田　雅之 , 梅田　翔太 , 有賀　健仁 , 中島　崇裕 , 前田　寿美子 , 箕輪　宗生 76巻7号 , 2023年7月 , pp.518-522

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縦隔腫瘍は，胸腺腫瘍や悪性リンパ腫，神経原性腫瘍，胚細胞性腫瘍などのさまざまな腫瘍が発生する可能性がある疾患群である．本邦では成人の場合は胸腺上皮性腫瘍が最多を占めるとされ，胸腺上皮性腫瘍治療の標準治療は外科的切除であるとされている．胸腺上皮性腫瘍の外科的治療では，周辺の臓器に浸潤している場合は腫瘍と一塊にして胸腺腫瘍摘出術を行うことが重要であるとされる1）．胸腺腫瘍が胸骨裏面および心臓・大血管の間の前縦隔に発生することが多いことから，古くから胸骨正中切開による胸腺腫瘍摘出術が行われてきた．一方，15年ほど前から胸骨正中切開による創の大きさを短縮するための低侵襲アプローチとして低侵襲縦隔腫瘍手術が行われており，その短期・中期成績は胸骨正中切開アプローチと比較して遜色ないと報告されている2～6）．

重症筋無力症に対する両側アプローチによるロボット支援下拡大胸腺全摘の術後成績中村　彰太 , 仲西　慶太 , 門松　由佳 , 上野　陽史 , 加藤　毅人 , 芳川　豊史 76巻7号 , 2023年7月 , pp.523-527

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拡大胸腺全摘術は重症筋無力症（MG）患者を対象に広く行われており，両側の胸腺周囲の脂肪組織と胸腺を切除する術式で，従来は胸骨正中切開による手術アプローチが主流であった1，2）．近年，胸腔鏡補助下手術（VATS）やロボット支援下手術（RATS）といったアプローチによって，本術式を低侵襲に施行しうることが報告されている3～8）．拡大胸腺全摘術をRATSで施行する場合，これまでの報告からは側方や剣状突起下，そして両側からのアプローチが選択されているが，いずれがより有効であるかは議論の余地がある3，5，9，10）．

縦隔・胸壁腫瘍に対するロボット支援下手術―非定型アプローチ方法内田　真介 , 鈴木　健司 76巻7号 , 2023年7月 , pp.528-532

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縦隔腫瘍ならびに胸壁腫瘍に対する手術では，腫瘍の発生部位や大きさ，周囲臓器への浸潤の有無などにより，さまざまなアプローチ方法が要求される1～5）．昨今低侵襲手術が普及しているが，手術支援ロボットを用いた手術に関してはポート配置や手術手順について施設間の差異も多く，いまだ発展途上といえる．本稿では，当施設で縦隔腫瘍ならびに胸壁腫瘍に対しロボット支援下での非定型的なアプローチ方法を要した症例に関して，文献的考察を加えて報告する．

2. 胸腔鏡下手術

縦隔腫瘍に対する低侵襲手術―術式の変遷石橋　洋則 , 大久保　憲一 76巻7号 , 2023年7月 , pp.534-539

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呼吸器外科手術は年々増加しており，日本胸部外科学会の年次報告で，2012年では全72,899件中，縦隔腫瘍4,671件（6.4％），胸壁腫瘍752件（1.0％）であったが1），2017年には全85,307件中，縦隔腫瘍8,950件（10.5％），胸壁腫瘍691件（0.8％）と縦隔腫瘍・胸壁腫瘍も増加傾向である2）．一方で，呼吸器外科領域においても低侵襲手術という言葉が一般化して久しい．当科は講座開設の2010年当初より胸腔鏡を使用した低侵襲手術を基本に行ってきたが，その間にも内視鏡システムは進化し，画質はハイビジョン，フルハイビジョン，4K，8Kと高画質になり，モニターも大型化・高精細化している．さらにはロボット支援下手術（RATS）も導入され，アプローチの多様化がすすんでいる．

前縦隔疾患に対する胸腔鏡下手術の工夫と成績―胸骨吊り上げ法鈴木　潤 , 塩野　知志 , 渡辺　光 , 捧　貴幸 , 佐藤　開仁 , 松井　雄介 , 内田　徹郎 76巻7号 , 2023年7月 , pp.540-545

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従来，前縦隔疾患に対する手術は胸骨正中切開，後側方切開，hemi-clamshell，clamshell切開など大きな切開のもとに遂行されていた．1990年代初頭より多くの外科領域で内視鏡下手術が開始され，技術の進歩，低侵襲手術への関心が高まった．呼吸器外科領域でも多くの施設で胸腔鏡下手術が行われている．当科でも1997年より胸腔鏡下縦隔腫瘍切除を開始し，2021年にロボット支援下縦隔腫瘍切除術を開始した．

縦隔腫瘍・胸壁腫瘍に対する3D，4K-3D単孔式胸腔鏡下手術大田　守雄 , 嘉数　修 , 當山　鉄男 76巻7号 , 2023年7月 , pp.546-551

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当科では良性の縦隔腫瘍および胸壁腫瘍に対しては多孔式胸腔鏡下手術（ハイビジョン2D）が主流であったが，2010年には3D内視鏡システムを採用した．2012年に3D単孔式手術，2018年にはロボット支援下手術（RATS）を導入し（図1），さらに2021年から4K-3D単孔式手術へと変遷している（図2）．

3ポート胸腔鏡下による周囲臓器合併切除を含めた胸腺全摘術の手術手技と周術期成績大塚　礼央 , 藤森　賢 , 鈴木　聡一郎 , 土屋　武弘 , 菊永　晋一郎 , 新妻　徹 , 濱田　洋輔 , 三原　秀誠 76巻7号 , 2023年7月 , pp.552-555

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肺疾患と同様，縦隔腫瘍である胸腺腫に対しても積極的に胸腔鏡下手術（VATS）を施行する施設は増加傾向にある．2018年日本胸部外科学会の学術調査では，胸腺腫手術例のうち65.7％がVATSによるものであった1）．

前縦隔腫瘍に対する胸腔鏡下手術の標準アプローチと若手教育三浦　隼 , 伊藤　宏之 , 足立　広幸 , 伊坂　哲哉 , 村上　浩太郎 , 菊西　啓雄 , 繁田　奈央子 76巻7号 , 2023年7月 , pp.556-559

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前縦隔腫瘍に対する手術には胸骨正中切開や肋間からの多孔式・単孔式胸腔鏡下手術（VATS），剣状突起からの多孔式・単孔式VATS，ロボット支援下手術（RATS）などさまざまなアプローチがある．2017年の日本胸部外科学会の年次報告1）によると縦隔腫瘍切除は5,197件であり，肺切除の55,710件と比較して約1/10と少ない．そのため，安定した低侵襲手術手技の習熟には，縦隔の解剖学的理解に加え，各施設における手技の定型化が重要と考える．

縦隔・胸壁に対する胸腔鏡下手術におけるバーチャルリアリティを用いたポート位置のシミュレーション塩野　裕之 , 櫻井　禎子 , 楠本　英則 , 米倉　竹夫 , 乾谷　徹 , 長坂　学 76巻7号 , 2023年7月 , pp.561-566

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定型的な胸腔鏡下肺切除術では，体位やポート位置はある程度標準化されている．しかし，縦隔や胸壁疾患では個々の患者で対象の位置が異なるため，それらに応じた適切なポート位置が要求される．

胸腔鏡下縦隔腫瘍手術後の胸腔ドレーンは不要である堀内　翔 , 河野　匡 , 油原　信二 76巻7号 , 2023年7月 , pp.567-569

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胸腔鏡下縦隔腫瘍手術では開胸手術と比較して疼痛や在院日数が少ないと報告されている1）．しかしながら，胸腔ドレーンを留置すると術後疼痛が増悪して早期離床を妨げられ，生活の質（QOL）は低下するうえ，創部感染のリスクが上がり，管理面でも医療コストや手間が増加する2～5）．

胸腺腫に対する低侵襲手術の妥当性坂井　貴志 , 草野　萌 , 肥塚　智 , 加藤　俊平 , 東　陽子 , 伊豫田　明 76巻7号 , 2023年7月 , pp.571-575

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胸腺腫に対する胸腔鏡補助下手術は，その低侵襲性の観点からすでに多くの施設で普及している．しかし，報告が小病変に対する後方視研究にとどまること，長期成績が明らかでないことから，ガイドライン上，その適応は弱い推奨でエビデンスの強さもCにとどまっている1）．また，重症筋無力症合併胸腺腫に対する拡大胸腺摘出術について，胸腔鏡補助下手術による症状改善率の報告がみられるが2），そのエビデンスは十分とされていない1）．

胸腔鏡下縦隔・胸壁腫瘍手術髙橋　典之 76巻7号 , 2023年7月 , pp.576-581

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縦隔腫瘍はCTの高性能化により10 mm以下の腫瘍も画像上で指摘されるようになっている．さらに縦隔腫瘍は術前診断が困難であり，基本的には切除となる．また，胸腺腫は2015年の世界保健機関（WHO）分類の改定作業1）を受けてInternational Classification of Diseases for Oncology（ICD-O）における胸腺腫コードの5桁目が1から3へ変更され，悪性腫瘍として位置づけられている．しかし成人の前縦隔は胸腺の脂肪化した組織に埋め尽くされ，10 mm程度の腫瘍を胸腔鏡下で確認する作業は困難であることが多い．さらに，胸腺静脈が比較的太く短いという解剖学的特徴も存在する．

まい・てくにっく

食道癌胸腔鏡下手術時の反回神経温存のコツと注意点白川　靖博 , 中野　徹 76巻7号 , 2023年7月 , pp.510-511

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上縦隔リンパ節郭清は食道癌の手術においてもっとも重要かつ難易度の高い手技である．われわれは，en bloc感のある郭清を行うため，食道間膜コンセプトを提唱している．

１枚のシェーマ

Good old days 師田　哲郎 76巻7号 , 2023年7月 , pp.560

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2005年の症例である（図1）．Marfan症候群で3回の大動脈手術後に，右鎖骨下～腋窩動脈瘤を生じた．部位は鎖骨の裏側であり，体表からも胸腔からもアプローチが困難と考えられ，鎖骨を離断するか，trap door openingで末梢側は別切開とするか悩んだ．結局は，中枢側は鎖骨上窩から，末梢側は鎖骨下からアプローチし，分枝のない瘤は空置とした．

連載　未来の専門医を育てる！

大阪大学心臓血管外科の教育―かわりゆく環境に沿った教育方法前田　孝一 , 宮川　繁 76巻7号 , 2023年7月 , pp.582-585

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本学医学部は，緒方洪庵先生によって1838年に大阪の地に開かれた適塾にその流れを汲む．特に当科の前身である本学第一外科は，Fritz Hertel先生を初代教授とし，常に進取の気性に富んだ新しい心臓外科治療に挑戦してきた．その結果，1956年日本で最初に人工心肺を用いた開心術を成功させるなど，これまで日本の第一線で心臓血管外科領域の発展に貢献してきた．現在も先天性心疾患，心臓弁膜症，冠状動脈，大動脈・末梢血管疾患に対するより低侵襲な手術方法の開発・導入や，重症心不全に対する種々の外科的治療，そしてハートチームによる総合的・最先端の医療を提供するなど，優れた水準の開心手術成績を保っている．

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Contents 76巻7号 , 2023年7月 , pp.497

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編集メモ 76巻7号 , 2023年7月 , pp.586

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目次 76巻7号 , 2023年7月

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胸部外科医の散歩道

恐らくですが，20年後に思うこと高橋　幸宏 76巻7号 , 2023年7月 , pp.570

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東京在住も早60年，それでも行動範囲は狭いものです．山手線の新宿-上野間の駅に降り立ったことは殆どありません．それにしても東京の桜は変わりませんね．白すぎます．それだけに，こぬか雨の七分咲きは実に寂しく映るのです．

基本情報

胸部外科
76巻7号
(2023年7月発行)

電子版ISSN：2432-9436 印刷版ISSN：0021-5252 南江堂

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