言語聴覚研究 9巻3号 (2012年11月発行)

選択した文献の文献概要を表示する書誌情報をダウンロードする

すべて選択

言語聴覚研究優秀論文賞

第2回言語聴覚研究優秀論文賞を受賞して荒木　謙太郎 9巻3号 , 2012年11月 , pp.113-114

PDF(467KB)

有料閲覧

文献概要を表示

　論文「脳損傷急性期における言語障害スクリーニングテストの開発」が受理されるまでに，いったいどれほどの時間とエネルギーを費やしたことでしょうか．特に本論文は私にとって初めての執筆でしたので，執筆の過程に要する努力は途方もなく感じ，その結果として本当にこの研究は前に進んでいるだろうか，そもそもこのテーマは研究として成立するだろうか，とわからなくなり不安になりました．多くの先生方に助けられ，この検討を何とか諦めることなく続けてこられました．それだけに，ようやく『言語聴覚研究』に論文が掲載されたときには，それまでの苦労が吹き飛ぶような，今までには感じたことのない達成感に包まれたことを思い出します．そして，このたびこのように名誉ある賞を受賞できたことを，大変嬉しく思っております．

　本論文は，脳損傷後の言語障害スクリーニングテスト(Screening Test for Aphasia and Dysarthria：以下，STAD)について検討したものです．検討を始めた切っ掛けは，私がかつて新人の頃，脳卒中患者に対するスクリーニングとして，何をどのようにするのかわからずに悩んでいたという経験からです．当時の職場の上司である国立国際医療センター，藤谷順子先生から「スクリーニングをテーマにして検討してみてはどうか？」と背中を押していただき，2003年の音声言語医学会(茨城)において本研究を初めて報告しました．書籍を参考に，急性期から用いられる試案Ⅰを作成した，という内容のものでした．当時は研究のイロハもわからず，発表は惨憺たるもので，フロアからは厳しい指摘を受けました．緊張のあまり，そのときどんな指摘をされたのか覚えていませんし，まったくつじつまの合わない返答をしたのではないかと思います．発表後に藤谷先生からは，発表の制限時間内に収まったことだけは褒められました．2004年第5回言語聴覚学会(神奈川)にて，試案Ⅱの評価者間信頼性と看護師へのアンケート結果を発表しました．かせだクリニックで勤務する経験を得て，同クリニックの上司，宇野園子先生にご協力いただきながら，2005年北里大学同窓会にて，改訂版Ⅲを報告しました．

特別講演

言葉を操る脳の仕組み岩田　誠 9巻3号 , 2012年11月 , pp.115-121

PDF(2717KB)

有料閲覧

文献概要を表示

　現存の動物の中では，ヒトのみが話し言葉の能力を有している．話し言葉は，咽頭の形成によって可能となった．現存の高等霊長類の中で，咽頭を有するのはヒトだけであるが，化石人類であるネアンデルタール人にも咽頭が存在していたことが判明している．話し言葉を操作するうえで重要なのは，左大脳半球に存在する中心言語領域，すなわちBroca領域とWernicke領域であるが，これらを取り囲む周辺領域も，話し言葉によるコミュニケーションを営むうえにおいて重要である．周辺言語領域としては，語彙の座である左側頭葉下部と，統語の座である左下前頭回の，Broca領域を囲む前上部領域が特に重要な領域である．これに加え，左中後頭回の19野と，左下側頭回の37野が文字の操作に関係する皮質領域として重要な役割を演じている．

原著

脳外傷後に認知コミュニケーション障害を呈した症例への支援江玉　育恵 , 栗原　恵理子 , 平山　麻貴 , 鈴木　智子 , 飯田　真衣 9巻3号 , 2012年11月 , pp.122-130

PDF(4710KB)

有料閲覧

文献概要を表示

　脳外傷後に認知コミュニケーション障害をはじめ，多彩な高次脳機能障害を呈した症例を経験した．自宅退院後，社会的認知の問題による認知コミュニケーション障害の影響が強く，社会生活上の問題が明らかとなった．認知リハビリテーションと並行して，症例の生活場面を想定したロールプレイなどのコミュニケーション訓練を実施し，認知コミュニケーション障害は改善した．リハビリテーション全体を通して，段階的に訓練を進めること，日常生活への般化を意識し，またキーパーソンである母親との情報交換を重点的に行った．そして受傷後14か月目には復職を果たした．

　コミュニケーション障害が改善した要因として，①認知機能が改善したこと，②症状や時期に合わせた段階的なコミュニケーション訓練を行ったこと，③母親や周囲の人々との連携，日常や社会生活への般化を意識して訓練を行ったことが考えられた．そして，病院・家庭・職場を含む社会へと連続した支援を行うことができ，社会的交流の拡大・復職につながったと考えられた．

聞き取り困難を主訴とする成人例の背景要因別の聴覚情報処理特性の検討小渕　千絵 , 原島　恒夫 , 大賀　健太郎 9巻3号 , 2012年11月 , pp.131-139

PDF(3007KB)

有料閲覧

文献概要を表示

　聴力が正常にもかかわらず聞き取り困難があり，聴覚情報処理障害(auditory processing disorder：APD)に関する評価を目的に来院した18歳以上の成人例について，背景要因別の聴覚情報処理特性について検討した．対象者を発達や精神面での診断名に基づき，注意欠陥障害(attention deficit disorder：ADD)，広汎性発達障害(pervasive developmental disorder：PDD)，精神障害，睡眠障害，発達性ディスレキシア，問題なしの6群に分類し，聞き取り困難の主訴と聴覚情報処理検査結果について分析した．この結果，主訴においてはADD群で聴覚的注意，PDD群で聴覚過敏の訴えが多かった．一方，聴覚情報処理検査においては，個人差が大きく，背景要因別の聴覚情報処理特性には大差がみられなかった．以上のことから，APDが疑われた症例に対する診断過程においては対象者の主訴を丁寧に分析したうえで，他覚的な手法を併用し，様々な可能性を視野に入れた鑑別を行うことが，本来の問題点を見出し，支援を行ううえで重要と考えられた．

Pediatric Voice Handicap Index(pVHI)に基づく小児用音声障害の自覚的評価尺度の作成千田　裕子 , 城本　修 9巻3号 , 2012年11月 , pp.140-149

PDF(3399KB)

有料閲覧

文献概要を表示

　目的：小児用音声障害自覚的評価尺度(Pediatric Voice Handicap Index：pVHI)をもとに学童用と保護者用の日本語版評価尺度試案を作成し，その有用性について検討を行った．研究協力者：国内5都市の総合病院耳鼻咽喉科外来に通院中の音声障害学童21名と非音声障害で中国地方の小学校3年生以上の学童106名，計127名の学童と保護者に実施した．両群間の学童の年齢や性別人数に有意な差は認められなかった．分析方法：信頼性については，内的整合性を示すCronbachのα係数を用いた．有用性は，音声障害群と非音声障害群で得点間の有意差検定を行った．結果：学童用のCronbachのα係数は0.92，保護者用のCronbachのα係数は0.93であった．また，学童用，保護者用で音声障害群と非音声障害群間で得点に有意差が認められた．結論：pVHIの学童用も保護者用日本語版も有用性が認められた．

流暢性の向上を目指した発達性dyslexia児一例のひらがな書字指導経過水野　奈緒美 , 川崎　聡大 , 後藤　多可志 , 荻布　優子 , 和泉　慶子 , 伊藤　和子 9巻3号 , 2012年11月 , pp.150-158

PDF(3161KB)

有料閲覧

文献概要を表示

　ひらがな書字の正確性に比し，流暢性に著しい低下を示した発達性dyslexia児に対して認知神経心理学的検討を加え，書字困難の背景を考慮したひらがな書字指導を実施した．その結果，ひらがな書字の流暢性が改善したので報告する．対象は通常学級在籍の小学校1年女児である．本症例は，小学校入学後にひらがな書字の正確性については自己克服に至ったが流暢性の低下は著しく，学習場面での書字困難を訴えていた．認知神経心理学的評価の結果，視覚情報処理過程の障害と自動化能力の低下が書字困難に影響を与えていると考えられた．書字困難の背景に応じて指導を行った結果，ひらがな清音46文字すべての書字流暢性が改善した．発達性dyslexiaの書字指導において，正確性に比し流暢性に低下を示した場合においても，その背景に応じた指導を行うことが重要であると考えられた．

調査報告

医療施設における言語聴覚士の業務実態について―全国調査協力拠点施設の調査結果より髙野　麻美 , 高山　優子 , 石原　徳子 , 古賀　昭貴 , 森田　秋子 9巻3号 , 2012年11月 , pp.159-166

PDF(3545KB)

有料閲覧

文献概要を表示

Ⅰ．はじめに

　最近の医療情勢の変化は著しく，言語聴覚障害(児)者に対して一定のサービスを保障するためには，言語聴覚士の勤務する医療施設の概要やリハビリテーション(以下，リハ)提供体制を把握したうえで，診療報酬改定に向けた活動を展開していくことが必要である．

　医療保険部では，調査結果の信頼性を高め，現場の正確な実態把握を行うために，平成22年度から各都道府県士会の協力を得て「調査協力拠点施設網」の構築を進めてきた．

　今回，調査協力拠点施設網の構築に協力可能と回答のあった33都道府県士会より推薦された施設を対象として，以下の調査を行ったので報告する．

--------------------

「言語聴覚研究」購読会員のご案内日本言語聴覚士協会 9巻3号 , 2012年11月 , pp.167

PDF(343KB)

フリーアクセス

文献概要を表示

　本協会は平成16年11月に言語聴覚障害学領域およびその近接領域に関する学術専門誌「言語聴覚研究」を創刊しました．本誌は各種言語聴覚障害の基礎と臨床に関する学術論文を掲載することになります．

　購読会員を募集していますので，下記のとおりご案内いたします．

投稿規定 9巻3号 , 2012年11月 , pp.168

PDF(329KB)

フリーアクセス

執筆要綱 9巻3号 , 2012年11月 , pp.169

PDF(333KB)

フリーアクセス

投稿誓約書 9巻3号 , 2012年11月 , pp.170

PDF(299KB)

フリーアクセス

編集後記藤田　郁代 9巻3号 , 2012年11月 , pp.171

PDF(231KB)

フリーアクセス

文献概要を表示

　本年は酷暑の夏が続きましたが，ようやく秋が巡ってきて神宮外苑の木々もわずかに紅葉を始めています．

基本情報

言語聴覚研究
9巻3号
(2012年11月発行)

電子版ISSN：印刷版ISSN：1349-5828 日本言語聴覚士協会

お気に入り登録(雑誌)
お気に入り登録(号)
最新号をみる

バックナンバー ( 閲覧可 )

文献閲覧数ランキング(
1月20日～1月26日
)

第1位第25回日本言語聴覚学会講演抄録一般演題言語聴覚研究 21巻 3号 pp. 281-432 (2024年9月15日) 日本言語聴覚士協会
第2位注意欠如多動症（ADHD）の幼児期における言語発達阻害を予測する因子松尾基史,中村光言語聴覚研究 21巻 4号 pp. 498-505 (2024年12月15日) 日本言語聴覚士協会
第3位 Correct Information Unit（CIU）による失語症談話検査の開発—信頼性と妥当性の検討川上勝也,吉畑博代,進藤美津子,道又爾言語聴覚研究 21巻 1号 pp. 32-44 (2024年3月15日) 日本言語聴覚士協会
第4位超音波検査による嚥下関連筋の量的・質的評価の信頼性平江満充帆,松原慶吾,古賀和美,水本豪言語聴覚研究 21巻 4号 pp. 480-488 (2024年12月15日) 日本言語聴覚士協会
第5位成人補聴器臨床における言語聴覚士の役割の検討—耳鼻咽喉科クリニックの補聴器外来における役割分担の違いから岡野由実,富澤晃文,坂崎弘幸,池田泰子,角田玲子言語聴覚研究 21巻 4号 pp. 489-497 (2024年12月15日) 日本言語聴覚士協会
第6位 semantic aphasia（Luria）の1症例坂部泰治,中村光言語聴覚研究 21巻 4号 pp. 463-471 (2024年12月15日) 日本言語聴覚士協会
第7位聴覚の加齢変化と補聴による言語聴覚リハビリテーションの取り組み三瀬和代言語聴覚研究 21巻 2号 pp. 133-140 (2024年6月15日) 日本言語聴覚士協会
第8位発語失行/失構音の多様性とその診かた高倉祐樹,大槻美佳言語聴覚研究 20巻 2号 pp. 74-84 (2023年6月15日) 日本言語聴覚士協会
第9位幼児吃音の実行機能に関する研究の文献レビュー角田航平,川﨑聡大言語聴覚研究 21巻 1号 pp. 22-31 (2024年3月15日) 日本言語聴覚士協会
第10位投稿規定言語聴覚研究 20巻 2号 pp. 124-125 (2023年6月15日) 日本言語聴覚士協会