CLINICAL CALCIUM 23巻1号 (2012年12月)

特集 老化と生体運動機能

Preface

Review

骨の老化 池田恭治
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 骨の老化は,石灰化した骨基質の老化である。石灰化は骨の形成と強度維持に必須であるが,カルシウムバランスが負に傾くと,カルシウムの恒常性のため貯蔵したカルシウムが放出される結果,骨硬度は低下する。骨基質の質と量の維持は,リモデリングによって保証されており,破骨細胞,骨芽細胞,骨細胞間のネットワーク制御が破綻すると,リモデリング機構が破綻し骨強度が損なわれる結果となる。生体内エネルギー代謝や循環機能も骨代謝と密接な関係にある。

関節の老化 松井康素 , 原田敦
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 関節疾患は要介護の主原因の一つで,変形性関節症(OA)への対処は,老齢期の身体的自立維持に大変重要な課題である。OAで最も高頻度の膝関節にてX線変化(関節軟骨病変の存在を意味する)と痛みの関連は薄く,MRIで骨,軟骨,半月板等の病態把握が診断上有用である。OA軟骨では II 型コラーゲン,アグリカンを主とする基質の分解亢進と産生低下,細胞の肥大化やアポトーシスが起きるが,オートファジーやエネルギー代謝の変化など一般的な老化関連の変化も報告されつつある。OAの治療法は,現状は非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDS)や人工関節置換という対症療法である。骨や筋肉の老化,メタボリックシンドロームとの関連も含め,病態解明に基づく治療法の進歩が期待される。

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 筋肉の老化,すなわちサルコペニアについて最近注目されている。臨床や基礎の様々な研究分野で,その診断・予防法やメカニズムの研究がなされている。筆者は,サルコペニアに伴う関連組織(運動神経細胞,シナプス,筋線維,サテライト細胞)の特徴的な病理組織像は,サルコペニア研究を展開する上で重要な指標となると考えており,最近の知見を踏まえて本稿で概説する。

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 近年,老化・寿命制御のメカニズムに関する研究が長足の進歩を遂げつつある。その中でも,サーチュインと総称されるSIR2(silent information regulator 2)ファミリーが,代謝・老化・寿命の制御を結びつける重要な因子として大きな注目を集めている。サーチュインの機能の一般的な特徴は,内外からの撹乱因子に対抗して,生体のシステムの維持にあたる,あるいはその破綻を防ぐ,という点である。この機能がサーチュインに対して,老化・寿命制御も含めた様々な生物学的局面における重要性を与えている。  本稿では,激しく進歩を遂げていくサーチュイン生物学の最近の成果を概括し,老化・寿命制御における重要性を考察する。

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 オートファジーは酵母から哺乳動物まで保存された主要な細胞内分解系であり,細胞内浄化と恒常性の維持に必要不可欠である。老化に伴うオートファジーの活性低下は以前から示唆されており,組織特異的オートファジー欠損マウスでは老化との関連性が高い退行性変化と疾患を呈する。一方,様々なモデル動物において,老化を遅延させ寿命を延長させる数多くの介入方法はしばしばオートファジーの活性化を誘導する。更に,オートファジーの活性自体がそれらの老化防止効果に必須であることも示唆されている。  本稿では,オートファジーと老化に関する近年の知見を概説する。

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 健康長寿の達成には,動脈硬化など加齢に伴う慢性疾患の予防のみならず,虚弱やサルコペニアなど老化に伴う機能低下を予防することが重要である。健康長寿モデルである百寿者では糖尿病の罹患率は低いものの,高血圧(63.3%),心疾患(28.8%),脳血管障害(15.9%),脆弱性骨折(46.4%)などの慢性疾患の罹患率は高く,全く疾患のない百寿者は稀であった。日常生活活動度(ADL)は女性に比べ男性で高く,病歴では脳血管障害と脆弱性骨折がADL低下の要因であった。百歳以降の生命予後との関連を検討した研究では,病歴や疾患危険因子は予後とは全く関連がなく,身体機能,認知機能,栄養状態,インスリン様成長因子-1など虚弱に関する因子が予後と有意な関連を示した。  以上の検討から,健康長寿の達成者である百寿者は,慢性疾患を持ちつつも身体機能を高く保っており,この特質の背景にはエネルギー恒常性の維持が関与していることが示唆された。

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 個体老化とは「加齢に伴い死亡率が増加する原因となる様々な臓器の機能低下」を指す生命現象である。古くから老化が起こるメカニズムに関して様々な研究が行われ,多くの「老化の理論」が提唱されてきたが,老化を規定する分子機構は未だ明らかになっていない。加齢に伴い,健常者においても自己抗体の保有率と血中炎症性サイトカイン濃度が上昇し,加齢に伴い発症率が増加する「老化関連疾患」の発症機序に慢性炎症が関与することが知られている。これらの知見は慢性炎症が老化の原因の一つであることを示唆しており,加齢に伴う慢性炎症を調節することで加齢に伴う個体老化を調節し,老化関連疾患発症を予防できる可能性がある。

骨免疫から見た老化制御 松尾光一
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 骨は,骨髄に造血幹細胞ニッシェを持ち,免疫細胞を産生する。骨の老化は骨量の低下や免疫細胞の異常に現れる。破骨細胞分化抑制因子OPG(osteoprotegerin)の血中濃度は,加齢で増加するものの,高齢者の骨量低下や骨折を防ぐには不十分であり,抗RANKL抗体の投与が有効である。老化や関節炎モデル動物で,破骨細胞が増加しリンパ球が低下するのは,骨髄の前駆細胞がリンパ球系からミエロイド系に偏るからである。ニッシェ細胞や骨芽細胞の老化を抑制し,ミエロイド系への偏りを是正すれば,獲得免疫の低下や過剰な破骨細胞分化を抑制し,骨形成を維持できるかもしれない。

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 成体幹細胞は多くの組織に存在しており,正常組織の恒常性維持と修復に必須である。個体の老化に伴って,幹細胞の数の減少と機能低下が見られる。これは,個体老化が幹細胞の機能低下を引き起こしているのか,幹細胞の機能低下が個体老化の原因なのかははっきりしていない。  本稿では,幹細胞自身に由来する老化変化のみならず,幹細胞を取り囲み,その機能を制御する微小環境と全身性因子からの幹細胞老化誘導モデルについて概説する。また,幹細胞移植により老化組織の機能改善を試みる際には,移植する幹細胞の種類により注意点が異なること,さらにレシピエントの老化組織からも移植後の幹細胞が影響を受ける可能性があることを述べる。

Therapy

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 骨粗鬆症の予防と治療の目的は脆弱性骨折の予防である。骨粗鬆症の予防と治療ガイドラインの改訂作業や原発性骨粗鬆症診断基準の見直し作業において,既存脆弱性骨折が有する骨折リスクとして意義が再考されている。ガイドラインにおいては,それに基づいて薬物治療の開始基準が再構築された。骨粗鬆症治療薬の進歩には目覚ましいものがあり,その使い分けや使用期間に関するエビデンスの構築が望まれる。また,生活習慣の是正は本症の予防のみならず,薬物治療の有効性にも影響を与える重要なポイントである。

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 ロコモティブシンドロームは,運動器障害により要介護になるリスクが高い状態をさす概念である。運動器は主に骨,関節,筋肉,神経により構成されており,それらの構造と機能の脆弱化が,運動器障害および要介護のリスクを高めるので,ロコモティブシンドロームを予防するための有用なエビデンスを構築するためには,要介護移行をアウトカムとする運動器コホート研究などにより,それらの知見を集積していく必要がある。  一方,運動介入は以前より高齢者の身体・生活機能を向上させることが知られており,高齢者の膝や腰をいためないよう配慮された訓練法(ロコトレ)が日本整形外科学会などにより推奨されている。ロコモティブシンドロームをできるだけ多くの国民に理解してもらい,運動器障害の予防についての知識を深め,運動器の健康を維持できるよう取り組んでいくことが求められている。

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 高齢者の虚弱は加齢に伴う要因によって生じる老年症候群の一つであり,生命予後やADLに及ぼす影響が大きく,その予防対策はわが国において重要な課題となっている。虚弱の重要な要素としてサルコペニアが知られているが,加齢に伴う性ホルモン等の液性因子の変化や栄養障害が,サルコペニアの発症,進展に関与していることが次第に明らかになってきている。また,サルコペニア予防・治療に向けて,栄養,運動,薬剤等の効果的介入による効果も期待される。

● 理解を助けるトレーニング問題

オートファジーについて 水島昇
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(2013年1月号特集:「老化と生体運動機能」に関連した設問です。知識・情報の整理にお役立て下さい) ※PDFでは,本企画(理解を助けるトレーニング問題)の本号分すべてをご覧になれます。

学会レポートASBMR 2012 REPORT

基礎研究トピックス 今井祐記
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 米国・ミネソタ州ミネアポリスで開催されたASBMR2012において発表された多くの演題の中から,主に基礎研究領域に着目して,筆者が聴講した演題のうち一部をピックアップして,簡単な紹介とともに報告する。

新旧骨粗鬆症薬の争い 小池達也
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 2012年の米国骨ミネラル代謝学会が10月12日から15日にかけて,ミネソタ州ミネアポリスで開催された。新規薬剤の効果が発表されると共に,従来薬の併用に関する効果も発表され,新たな疑問も提出された。

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 2012年10月ミネアポリスで開催されたASBMRでの印象を,学会企画を中心に,記した。

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Lineup 1.骨粗鬆症治療はFRAX®による骨折予知力に影響するか? 2.骨折予防のために必要なビタミンD摂取量の統合解析 3.マウスにおける腸内細菌叢による骨量制御

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Lineup 1.B細胞に発現されるRANKL は,卵巣摘出誘導性の骨量低下の一因になる 2.Wnt/β-カテニンシグナルの欠損は骨芽細胞前駆細胞の細胞運命を骨芽細胞から脂肪細胞へシフトさせる 3.骨芽細胞系細胞と破骨前駆細胞間のWnt5a-Ror2シグナルは破骨細胞分化を促進する

バックナンバー

特集予告(2月号,3月号)

基本情報

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CLINICAL CALCIUM
23巻1号 (2012年12月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0917-5857 医薬ジャーナル社

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