臨床整形外科 52巻7号 (2017年7月)

誌上シンポジウム 認知症の痛み

緒言 菊地 臣一
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 超高齢社会の到来とともに,整形外科を巡る診療現場が大きく変化してきている.従来の骨折の治療に代表されるcureの世界から,変形性関節症,腰痛,そして骨粗鬆症に代表されるcareへの転換である.careの時代が到来するとともに,われわれ整形外科医は今まで考えもしなかった局面に直面している.それは,認知症,パーキンソン病,脳梗塞など,高齢者特有の病態を合併している患者の受診である.

 われわれ整形外科医は,これら高齢者特有の病態に対する知識やknow-howをほとんど持っていない.しかし,第一線の診療や介護の現場は,われわれのそのような現状を待ってはくれない.医療機関の外来,そして在宅医療や介護の現場では,今日も,これらの病態を合併した患者の痛みに向き合っているのである.

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 認知症とはいったん正常に発達した知的な機能が何らかの要因で持続的に低下した状態を表す.その原因は多種多様だが,頻度としてはアルツハイマー型認知症が最も高く,近年の報告ではレビー小体型認知症がそれに次いで多い.認知症の薬物療法では,新たな薬剤も含め4種類の薬剤を選択することができるが,円滑に治療を進めていくにはケアの方法も重要となる.痛みを執拗に訴える認知症患者に対して傾聴,受容しながら不安を解消するような対処法が望まれている.最近ではユマニチュードなどの患者の視点に立ったケアも注目されている.

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 認知症高齢者は認知症ではない高齢者と同様に痛みを感じているが,言語的に表現することができない.2002年,米国老年医学会は認知機能障害のある高齢者の痛みを顔の表情,発語・発声などから評価する必要性を示した.筆者らのアビー痛みスケールを用いた認知症高齢者の痛みの研究では,痛みはBPSDに影響を与えていた.同様に,言語的な訴えのできない認知症高齢者の疼痛を十分アセスメントしていない可能性や認知症高齢者の疼痛がBPSDを促進していることが示唆された.

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 本稿では,グループホームの制度的発展過程を振り返るとともに,近年,筆者が実施したグループホームにおける痛みに関する調査を検討した.その結果,特に老年後期の入居者が圧倒的多数を占めるグループホームにおける整形外科系の疾患に伴う痛みへの対応と,がん併存認知症高齢者など看取りケアを希望する入居者に対する緩和ケア機能のさらなる充実の必要性が示唆された.

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 高齢者の多くが何らかの痛みを訴えていると言われ,介護施設入所者ではさらに高い.とくに認知症を有する高齢者のケアにあたり自立生活障害度が高い人に痛みの訴えの頻度がより高く,対応が難しい問題となっている.一方,認知症を持つ高齢者の疼痛の把握と評価が難しいという問題もある.把握・評価が難しいことに加えて脳病理変化により認知症高齢者は痛み知覚に対して鈍感になっているようにみえるとの意見もある.ここでは高齢者とくに認知症を持つ高齢者の痛みの訴えに関して,認知症による訴えの変化,認知症脳病理が痛み知覚に与える影響,認知症高齢者の痛みの医学的管理について述べた.合理的な薬物療法を進める際のAmerican Society for Pain Management NursingおよびAmerican Geriatric Societyにより提唱されている鎮痛薬などの使用ガイドラインを紹介した.また,痛みへの対処が認知症の問題行動(BPSD)を軽減する可能性についても言及した.

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背景:腰部脊柱管狭窄(LSS)による健康関連QOLの低下を,日本整形外科学会腰痛疾患質問票(Japanese Orthopaedic Association Back Pain Evaluation Questionnaire:JOABPEQ)を用いて性別と年齢階層別に評価した.

対象と方法:多施設共同横断研究で,腰痛を主訴に外来を受診した20歳以上の患者8,338名のうち,LSS診断サポートツール7点以上の患者をLSSと定義し,JOABPEQを用いて評価した.

結果:ドメインのうち,疼痛関連障害,腰椎機能障害,歩行機能障害,および社会生活障害は,年齢層が高齢になるに従って障害が強くなる傾向が認められた.

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背景:橈骨遠位端骨折に対して単軸性ロッキング,多軸性ロッキング機構を有するdouble-tiered subchondral support(DSS)法の可能なハイブリッド型掌側ロッキングプレート,HYBRIX®の成績を報告する.

対象と方法:橈骨遠位端骨折に対して本プレートを用いて治療した50例に対して,X線計測,可動域などを検討した.

結果:男性12例,女性38例,平均年齢66.3歳,術後経過観察期間は平均9.8カ月,遠位列のみの固定32例,ハイブリッド固定は18例で,そのうちDSS法は9例であったX線計測値は整復位が骨癒合時まで維持された.

まとめ:HYBRIX®による固定は,本骨折の新たな治療戦略として期待できる.

Lecture

関節軟骨の修復再生 佐藤 正人
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はじめに

 関節軟骨欠損の治療は多種多様である.従来実施されてきた方法はマイクロフラクチャー法などによる骨髄刺激法,モザイクプラスティ法,そして自家軟骨細胞移植(autologous chondrocyte implantation:ACI)である.しかしながら,これらの方法は変形性膝関節症(膝OA)の患者には本来適応外であり,外傷性の軟骨欠損や離断性骨軟骨炎が主な適応となる.例えば,高位脛骨骨切り術の際に合併する関節軟骨欠損に対してこれらの方法を同時に適応すると,多くは医療保険上減額査定されるといった状況であり,患者さんのために行った治療がすべて病院負担で実施されているという現状は異常であり,膝OAの軟骨欠損に対する標準治療の確立が急務と考える.

 本稿では,関節軟骨欠損の治療に関する従来の軟骨修復法としてマイクロフラクチャー法とモザイクプラスティ法を概説するが,実はこれらの手法は,内在性の間葉系幹細胞を導入または併用する先駆的な治療である.また,本学で現在実施している細胞シートを用いた膝OAの軟骨欠損を適応とした臨床研究の概要も紹介する.

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はじめに

 変形性関節症(OA)は軟骨の変性や摩耗に伴って進行していく疾患であるが,いまだ,OA進行を抑制する薬剤や治療は確立されていない.OAの発症や病態にはさまざまな因子が関わっていることが示唆されており,その病態に介入する研究が行われている.また,その一方で近年では細胞治療も報告されており,さまざまな方面から治療のアプローチがなされてきている.本章では,OAの病態や新規OA治療薬の開発に向けた臨床的な研究の一部を紹介する.

境界領域/知っておきたい

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症例

 図1は70代の女性で,関節リウマチでメトトレキサート(MTX)を内服している患者である.左肩の腫瘤の訴えがあり,前医でCTを撮影したところ,棘下筋から三角筋内に辺縁中心に造影される5cm大の腫瘤と,多発する肺結節が指摘された.胸部単純X線写真でも結節影は確認された.FDG-PETでも肩の腫瘤にSUVmax 12.9の集積を認めたが,CTの造影所見同様,内部の集積は極度に低下しており,壊死傾向の強い腫瘍病変などが考えられた(図2).肺の病変や腋窩リンパ節などにも集積を認めた.悪性腫瘍で増大傾向が早いものでは内部壊死が強く出ることがあり,高悪性度軟部肉腫と多発転移に矛盾しない印象であった.

 確定診断のために当院に紹介され,針生検を施行したが,採取された検体からは壊死組織のみとの結果であったため,全身麻酔下の切開生検を追加した.術中迅速病理診断でも,壊死組織のみとの結果であり,3回目の採取で最終的に細胞成分が得られた.低分化の腫瘍細胞が認められ,免疫組織化学染色などの結果を総合し未分化肉腫と診断した.肩原発の悪性軟部腫瘍と多発肺転移と考えられ,治療方針を検討したが,高齢であり積極的な化学療法は懸念され,原発巣の広範切除術も機能障害が大きく,患者と話し合いのうえ,経過観察の方針とした.

整形外科/知ってるつもり

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はじめに

 「発育性股関節形成不全」という用語が数年前から誌上に現れていることに気づかれている先生は多いと思う.初見された時には「どういう疾患?」というのが正直な感想であったに違いない.実は小児を専門とする整形外科医にとってもまだ違和感の残る用語で,ましてや他分野を専門とされている先生方にはなおさらのことであろうと思う.本稿の前半では,この用語の変遷について解説する.また後半では最近増加傾向にある遅診断例と,それを防ぐ取り組みについて紹介することとする.

連載 慢性疼痛の治療戦略 治療法確立を目指して・10

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はじめに

 疼痛は,本来身体に警告を与え,身を守ろうとする役目がある一過性の体験であるが,時に怪我や病気で身体の炎症反応によって起こる一般的な反応より長く持続し,心理的・情緒的な苦痛を引き起こし,医療の利用機会を増加させることがある.疼痛は,「不快な感覚であり,実際の組織の損傷または潜在的な組織の損傷と関連した,またはそのような損傷によって特徴づけられる情緒的な体験」と定義されている(IASP,1994)1).疼痛には多面性があり,1つは“痛い”という感覚的側面,すなわち身体における痛みの部位,強度,持続性などを識別した痛み感覚の面,もう1つは過去に経験した痛みの記憶,注意,予測などに関連して身体にとっての痛みの意義を分析する認知の面,そしてそれを不快に感じる情動・感情の面である.

 疼痛体験は,疼痛の持続時間に関連して分類される.ある期間内に治癒するような疼痛は“急性痛”とされる.一方で,治癒すると予想される期間を超えて長期間持続する疼痛や,疾患の進行に伴う疼痛,または長期間改善しない身体的障害に関連する疼痛は“慢性痛”とされる.慢性の運動器痛(筋・骨格系の痛み)のメカニズムを理解するには,運動器の器質的異常(生物学的因子)とともに,年齢や環境および社会的立場まで考慮したストレス環境(心理社会的因子)を含まなければならないとする概念的なモデルとして,“生物心理社会モデル”が提唱された2)(図1).薬物療法や手術だけでは取りきれない慢性の運動器痛に対しては,運動療法や心理社会的アプローチが重要であると考えられている.慢性痛患者に対する心理社会的アプローチの1つに,積極的な問題解決法を取り入れて,慢性痛の体験に関連した多くの難題に取り組む認知行動療法によるアプローチがある.認知行動療法的介入は,慢性痛を改善するのに効果的であることが証明されており3),疼痛管理と機能回復において重要な集中的リハビリテーション・モデルの中で考える必要がある4).この章では,運動療法と認知行動療法について解説する.

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 Femoroacetabular impingement(FAI)は,股関節の病態でありながら,腰椎疾患に似た症状を呈することが知られている.明確な画像診断基準が存在するものの,詳細な評価が必要なこともあり診断が容易とは言えない.

 また,FAIを発症しうる潜在的形態異常を有する割合も高く,脊椎手術後の早期にFAIが発症した場合には,遺残性疼痛と診断され,治療に難渋する可能性があり,術前に本病態の有無を確認しておくことが必要である.

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背景:多椎間固定のケージ沈み込みについては,臨床的意義や危険因子につき不明な点が多い.

目的と方法:2椎間(L3/4,L4/5)の後方経路腰椎椎体間固定術後の23症例において,ケージ沈み込みの危険因子を検討した.

結果:術後にケージ沈み込みを認めたS群は16例(69.6%)で,認めなかったNS群は7例(30.4%)であった.S群の日本整形外科学会腰痛治療成績判定基準(JOAスコア)平均改善率は73.3%で,NS群の89.2%より有意に低値であった.術前の平均sagittal vertical axis(SVA)はS群55mmで,NS群0mmより有意に高値であった.

まとめ:術前SVAの増加は,ケージ沈み込みの危険因子であることが示唆された.

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背景:疼痛を伴う著しい巻き爪,陥入爪を切除せずに1日〜数日で治療する報告はない.

対象と方法:変形の著しい有痛性の巻き爪16例,肉芽と疼痛の著しい陥入爪16例(陥入爪分類Ⅱ〜Ⅲ型),合計32例に爪軟化剤を用い,前者には開孔法,後者には有鉤ワイヤー法の治療を行った.

結果:巻き爪では81%は1日で,19%は2日で整復を得た.陥入爪では全例1日で整復し最短4日,中央値13日,最長17日で炎症の消退と治癒を得た.

まとめ:従来の治療法に比べて爪を切除せず温存し,低侵襲と短い日数で良好な整復と炎症の消退を得た.

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 血腫形成そのものを契機とした播種性血管内凝固(DIC)が原因で大腿部筋肉内血腫が難治性となった症例を経験したので報告する.症例は69歳男性,駅のホームから転落受傷し,左大腿部筋肉内血腫を形成した.血腫によるコンパートメント症候群のため減張切開を行った.閉創術後に血腫形成を繰り返し原因検索を行ったところ,血腫形成そのものによる慢性DICという診断となり,血腫の除去およびDICに対する治療を行い治癒した.血腫を繰り返す場合にはDICといった血液学的異常も念頭に置く必要がある.

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 症例は23歳女性,高速道路上で発生した交通事故でThompson & Epstein分類TypeⅤ,Pipkin分類TypeⅣの両側大腿骨骨頭骨折を受傷した.右側はsurgical dislocation法を用い,左側は前方アプローチで進入し骨片の内固定を施行した.術後2年経過時,関節症性変化や骨頭壊死などは認めていない.大腿骨骨頭骨折は,可能な限り骨頭の骨片は内固定を行い,臼蓋の骨片が大きい場合には,積極的に観血的に骨折部の観察を行うことが望ましい.

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欧文目次

INFORMATION 第5回SKJRC SEMINAR

次号予告

あとがき 山本 卓明
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 「こんなに海に近い地区なのに,あの地震の後,津波の心配をした人がほとんどいなかったんです…」東日本大震災による津波被害を受けた閖上地区を訪問した際に,語り部の方が無念そうに話されました.

 今年5月に仙台で開催された第90回日本整形外科学会学術総会において,閖上地区の被災地視察があり,参加させていただきました.テレビや新聞などを通してみていた風景とは,全く別のものでした.「皆で当たり前のように生活していた街が,一瞬で押し流されてしまい,跡形もなくなってしまいました…」という話をお聞きしながら,配布された資料写真の津波襲来前の街並と,建物が全くなくなってしまった今の現実の風景を見比べて,改めて自然災害の猛威と恐ろしさを実感しました.土曜日の午前中に参加しましたが,学会場を出発するバスは補助席を使用するなど満席で,多くの先生方が,実際に被災地を訪問され,そして,言葉を失っておられました.自然の猛威に対して,人智の及ぶ限りの「想定」と「準備」をしておく必要性を痛感させられました.

基本情報

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臨床整形外科
52巻7号 (2017年7月)
電子版ISSN:1882-1286 印刷版ISSN:0557-0433 医学書院

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