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はじめに
疼痛は,本来身体に警告を与え,身を守ろうとする役目がある一過性の体験であるが,時に怪我や病気で身体の炎症反応によって起こる一般的な反応より長く持続し,心理的・情緒的な苦痛を引き起こし,医療の利用機会を増加させることがある.疼痛は,「不快な感覚であり,実際の組織の損傷または潜在的な組織の損傷と関連した,またはそのような損傷によって特徴づけられる情緒的な体験」と定義されている(IASP,1994)1).疼痛には多面性があり,1つは“痛い”という感覚的側面,すなわち身体における痛みの部位,強度,持続性などを識別した痛み感覚の面,もう1つは過去に経験した痛みの記憶,注意,予測などに関連して身体にとっての痛みの意義を分析する認知の面,そしてそれを不快に感じる情動・感情の面である.
疼痛体験は,疼痛の持続時間に関連して分類される.ある期間内に治癒するような疼痛は“急性痛”とされる.一方で,治癒すると予想される期間を超えて長期間持続する疼痛や,疾患の進行に伴う疼痛,または長期間改善しない身体的障害に関連する疼痛は“慢性痛”とされる.慢性の運動器痛(筋・骨格系の痛み)のメカニズムを理解するには,運動器の器質的異常(生物学的因子)とともに,年齢や環境および社会的立場まで考慮したストレス環境(心理社会的因子)を含まなければならないとする概念的なモデルとして,“生物心理社会モデル”が提唱された2)(図1).薬物療法や手術だけでは取りきれない慢性の運動器痛に対しては,運動療法や心理社会的アプローチが重要であると考えられている.慢性痛患者に対する心理社会的アプローチの1つに,積極的な問題解決法を取り入れて,慢性痛の体験に関連した多くの難題に取り組む認知行動療法によるアプローチがある.認知行動療法的介入は,慢性痛を改善するのに効果的であることが証明されており3),疼痛管理と機能回復において重要な集中的リハビリテーション・モデルの中で考える必要がある4).この章では,運動療法と認知行動療法について解説する.
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