胃と腸 6巻5号 (1971年5月)

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 胃の扁平上皮癌は非常にめずらしいものの1つである.世界の文献上,まだ30数例しかないとされているが,しかし胃の原発性扁平上皮癌として報告されているものの中に,食道の小さな癌病巣から,胃へ転移してきたものが含まれていることが指摘されている1)

 ここに報告する例は,食道の癌そのものは粘膜のごく軽度の肥厚を示すのみであったが,胃では腫瘍の転移浸潤のため胃壁全体が非常に厚くなりBorrmann Ⅳ型のかたちできていた症例である.

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 近年,食道疾患にたいする関心が高まるにつれ早期食道癌が報告されるようになり,鍋谷の全国集計によると,28例を数える.

 しかしながら,これは早期胃癌の数に比較すると著しく少ない.

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 最近食道癌においても胃癌と同様に,癌浸潤が粘膜上皮ないし粘膜下層にまでしか及んでいないいわゆる早期食道癌の報告が増加しつつある.1970年2月現在,鍋谷は本邦早期食道癌28例を集計し,詳細に分析している1),筆者らも最近その1例を経験したので報告する.

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 経過を追った早期癌の報告は,近年数多く報告されている.しかしその多くは発育のきわめて緩徐な陥凹性早期癌についてであり,Ⅱa+Ⅱc型早期癌,とくに粘膜集中をともなわない小Borrmann Ⅱ型に類似したⅡa+Ⅱc型早期癌の経過追求例の報告はきわめてまれである1)2)

 筆者らは1年6カ月の問に比較的急速に発育したⅡa+Ⅱc型早期癌の1例を経験したので報告する.

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 胃集検によって発見,治療した,幽門洞に広範囲に存したⅡa+Ⅱb型粘膜内癌の1例を報告する.

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 Addison-Biermer悪性貧血(以下悪貧と略)は欧米人に比較し,東洋人にはまれといわれる.入院患者総数に対する悪貧比率をHeilmeyer 0.46%,Friedlander 0.61%というのに対し,本邦では河北0.174~0.02%,美甘0.126%,沖中内科0.06%ときわめて少ない.しかし,悪貧に胃癌がしばしば合併することは定説になっていて,文献上では,動揺はあるにしても,多いもので悪貧例数の約6~15%に胃癌合併を認めているが,日本では,症例報告が散見するに過ぎず,胃癌の多いわが国において,悪貧と胃癌との関連がどうなっているのかは不明といわざるをえない.筆者らは過去15年間に悪貧10例を観察した.そのうち生存を確かめている7例についてみると,悪貧推定発症より1970年1月末までの期間は4年8カ月を最短とし,15年7カ月におよんでいる.これらの症例群のうち,発症より7年6カ月後に早期胃癌を認めた1例を経験したので報告し,あわせて本邦悪貧,胃癌合併例について考察したい.

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 胃集団検診および胃内視鏡の発達によって,小さな胃ポリープも発見されるようになり,最近はその悪性化および外科的治療なども色々と検討されているが,筆者らは貧血症状を主訴とした患者の胃透視所見で十二指腸球部の陰影欠損をみとめた巨大胃ポリープの十二指腸脱出例を経験したので報告する.

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 Konjetzny(1938)1)は臨床的に胃癌と鑑別が困難で,組織学的にリンパ系の増殖を主とする症例を,慢性胃炎の1特殊型“Lymphatisch-hyperplastischer Gastritis”として報告した.その後,Smith&Helwig2)がReactive lymphoid hyperplasiaとして42例を,Faris&Saltzstein3)がLymphoid hyperplasiaとして21例を,また中村ら4)5)がReactive lymphoreticular hyperplasia(以下RLHと略す)として6例を総説し,以来散発的ながらかかる症例の報告がみられている.

 最近,筆者らは胃体部小彎付近の限局性小病変で,レ線的・内視鏡的にⅡa+Ⅱc型早期胃癌を疑い,生検によりRLHを考え,胃切除により確認した1例を経験したので報告する.

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 胃ポリープについては多くの研究がなされており,その分類についても,有茎性,広基性の分類のほか,組織学的所見を主とした真性腫瘍,線維腺腫,粘膜過形成に分けるBorrmann1)の分類,最近では形態学的所見を主とした山田6)の分類,教室の進藤5)による上皮別分類,また中村2)3)の分類などが試みられているが,特別な性質をもつ多発性ポリープの一群を見い出し,これに一つのentityを与えたのは中村が最初であろう.この中村分類によるⅡ型のポリポージスに属し,また進藤分類によれば胃上皮型に属すると思われる2症例を経験したので報告する.

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 胃静脈瘤は決してまれなものではなく,出血の部位として重要であることが指摘されている1)2).Samuel3)は胃静脈瘤が食道静脈瘤に先行すると結論している.しかも静脈瘤が噴門部のみに発生し食道にない場合には,噴門部腫瘍との鑑別が困難であると,一般にいわれている.

 筆者らは著明な噴門部陰影欠損を示した胃静脈瘤を伴うバンチ症候群の1例を経験したので,報告し,参考に供したい.

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 十二指腸潰瘍はX線診断上その95%が球部に発生するといわれ,病理学的にも幽門輪に近いほど発生頻度が高い.球部以外に発生する十二指腸潰瘍はまれなものと考えられる.球部より肛側の十二指腸潰瘍は球部潰瘍とやや病像を異にするので一括して十二指腸球後部潰瘍Postbulbar duodenal ulcerの呼称で検討されている.Meshanは十二指腸潰瘍を発生部位によりbulbar,postbulbar,distalの三者に分類し,その頻度はbulbar95%,postbulbar 4% distal 1%で,遠位の十二指腸潰瘍が非常にすくないことを示している.

 筆者らは上腹部痛を主訴として来院した26歳の男性にみられた十二指腸乳頭下部潰瘍の比較的まれな症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

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 腹腔リンパ節結核症は現在臨床的にはまれな疾患であり診断もまた容易ではない.筆者らは最近十二指腸下行脚の狭窄像を呈し,膵癌の疑いを捨て切れず診断未確定のまま開腹手術を行なった結果,腹腔リンパ節結核症と判明した症例を経験したので報告する.

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 胃石症の報告は,本邦では1912年,永富の65歳男子に発生した報告を初めとして,数多く報告されている.しかし,胃切除後の残胃に胃石が発生したという報告は少ない2)4).その理由として,切除胃では胃幽門輪が食物の通過に関係せず,胃石の生成要因の1つである食物の停滞が起こらないことがあげられている7).しかし,欧米では胃切除後の残胃に胃石が発生し,しかもそれが腸に下降し,腸閉塞の原因となることがあり,胃切除の1つの合併症として注目されている3).わが国では,文献を散見したところでは胃石が胃切除後の合併症としての腸閉塞を惹起したという報告はきわめてすくない6).胃切除後の合併症として,このような胃石による腸閉塞も起り得るということは認識されなければならないと考えられる.以下筆者らの経験した症例のX線診断を中心に述べ,腸閉塞がビルロートⅡ法による切除胃の場合に多い点についてとくに考察してみたいと思う.

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 吐血・下血などの消化管出血の原因には,全身的出血性素因による出血と局所的組織破綻による出血とがあり,ことに黄疸が持続したものでは,大量出血をきたした場合,出血性素因によるものとして取扱われる傾向が強い.また,組織破綻性出血の場合においては,その出血部位が確認し得ず手術に踏切ることにちゅうちょし,また術中に困惑する場合が多い.

 この度,筆者らは出血部位不明の術後消化管出血症例に対して積極的に選択的動脈撮影を行なって出血部位を確認し,直ちに救急手術を行ない救命することが出きたが,選択的動脈撮影がショック状態にある重症出血症例に対しても迅速,安全かつ的確に出血部位を証明しうる一手段であることを体験したので,本検査法が今後臨床上大いに利用されることを願い,ここに報告する.

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 蛋白喪失性胃腸症には各種疾患があげられているが,Cronkheite-Canada症候群,すなわち非遺伝性に,中年以後に発症し,脱毛,爪甲脱落,びまん性皮膚色素沈着などの特異的所見を伴う広汎な消化管ポリポージスも,低蛋白血と蛋白喪失所見を示し,いわゆる蛋白喪失性胃腸症に属するものと考える.本症候群はきわめてまれで1955年Cronkheite and Canada1)の報告以来,外国で10例2)~9),本邦で4例10)~13),合計14例記載されているに過ぎない.しかもポリープの悪性化を認めた症例は筆者らの例がはじめてであり,これまでは本症候群のポリープは悪性化しないといわれてきた.以下,15例目の自験例を報告するとともに本症候群の文献的考察をのべる.

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ÖdmanがSeldinger(1953年)の経皮的選択動脈撮影法によって,腹腔動脈,上腸間動脈を造影し膵臓への動脈分枝の変化から膵臓の慢性疾患(とくに脾臓癌)を診断する試みを発表したのは1958年であった.その後,この新らしいX線診断法が膵臓癌診断の有力な補助手段として脚光をあび,1963年頃から世界各国で臨床成績が続々と報告された.このX線診断法はかなりの進行癌も含まれる膵臓癌の診断確定には大いに役だつものであることは多くの報告によって明らかではある.たとえばスエーデンのBoijsenによると膵臓癌の約90%で異常所見がとらえられるという.もっともBoijsenは腹腔動脈と上腸間動脈にカテーテルを挿入して同時に造影する方法によっているが,このような同時造影では両方の分枝が重なり読影がむずかしいので必ずしも診断精度がよくはならないとの意見も少くないようである.

 一般にはこのX線診断法による膵臓癌の診断的中率は70%前後との報告が多いが,Eatonら(ハーバード大学)が45例の膵臓癌で検討した成績では,診断的中率は55%偽陽性率7%,偽陰性率38%とあまり芳しくない.田坂(東大)によると腫瘍の大きさが径5cm以上の膵臓癌では全例で異常所見がえられるが,小さい癌になるとそれを検出できる率は急速に低下するという.動脈撮影により腫瘍血管像がみられるのは一部のラ氏島腫瘍,乳頭腺癌のみで,膵臓癌のほとんどは腫瘍血管にとぼしいので,異常所見は血管壁の異常,動脈分枝の圧排や変位,狭窄などの血管自体の変化としてのみとらえられることから考えても,比較的小さな膵臓癌をこの方法で診断することは無理なようである.我々の経験でも動脈撮影で異常を認めた患者の大部分は試験開腹に終っている.

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 現在,消化管のX線診断用造影剤として,硫酸バリウムがもっとも広く使用されている.この硫酸バリウムは相当多量に服用しなければならないため,しばしば嘔吐や高度の便秘をもたらし,そのため高齢者や衰弱した患者に使用することは好ましくない.そのうえ硫酸バリウムは,服用後,消化管の蠕動運動によって,食道から胃腸へと時間につれて降下して行くため,一定箇所を時間をかけて検査するのに適していない.

 最近,理化学研究所において硫酸バリウムに匹敵する造影能をもち,また生体外から磁界を印加することにより,その位置を自由にコントロールできる新しいX線診断用フェライト造影剤の試作に成功した.

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 大腸癌の頻度の高い欧米では,大腸の細胞診はかなり早い時期より研究が重ねられて来ているが,わが国ではこれまで湯川,山形,渡辺らの業績がみられるのみで,われわれもこの分野ではまだ経験が浅い.しかし今後大腸早期癌の診断のために,かなり進歩すべき分野として,とりあげられるべき領域の一つであろう.

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 Mallory-Weiss症候群(以下M-W症候群)とは,食道胃接合部の粘膜あるいは粘膜下におこった線状の裂目から大量の消化管出血をきたすもので,1929年にボストンの病理学者Malloryと内科医のWeissが連名で11症例(うち4例剖検)を報告したのが最初である.その後,1932年に彼らが6症例(うち2例剖検)を追加した.したがって,彼らの21例で確実に裂目が確認できたものは6例だけということになり,それらの死因は1例が食道破裂,5例が大出血によるものであった.確認された症例が少ないからといっても彼らの功績はたいへん大きい.

 しかしこの症候群も最初の論文発表から約25年間も報告例がなく,1940年代に発表された消化管出血の統計的研究の数々をみてもまったく言及されていない.1952年頃からM-W症候群の報告が次第に増しているが,M-W病変の確認は剖検と手術によるものが多く,それも最近では,手術で確認した例が増している.本症候群の存在が広く認識されだしたためであろう.

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欧文目次

編集後記 熊倉 賢二
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 今回も全国各地から貴重な症例が多数集まった.早期食道癌の症例や,Ⅱa+Ⅱbの症例,Ⅱa+Ⅱcの経過観察例など,写真をながめているだけで楽しい.RLHやポリープにしても,わかりきったようでありながら,いまだにひっかかる.教えられることが多い.その他,Varix,腹腔リンパ節結核,胃石,それに十二指腸乳頭部潰瘍などの症例は,写真はきれいだし,論旨も明快である.

 ところで,私自身,悪性貧血の胃癌合併例を読んで,ふだんあまり気にしていなかったことが急に意識されだした.それは,次のようなことである.

基本情報

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胃と腸
6巻5号 (1971年5月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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