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ÖdmanがSeldinger(1953年)の経皮的選択動脈撮影法によって,腹腔動脈,上腸間動脈を造影し膵臓への動脈分枝の変化から膵臓の慢性疾患(とくに脾臓癌)を診断する試みを発表したのは1958年であった.その後,この新らしいX線診断法が膵臓癌診断の有力な補助手段として脚光をあび,1963年頃から世界各国で臨床成績が続々と報告された.このX線診断法はかなりの進行癌も含まれる膵臓癌の診断確定には大いに役だつものであることは多くの報告によって明らかではある.たとえばスエーデンのBoijsenによると膵臓癌の約90%で異常所見がとらえられるという.もっともBoijsenは腹腔動脈と上腸間動脈にカテーテルを挿入して同時に造影する方法によっているが,このような同時造影では両方の分枝が重なり読影がむずかしいので必ずしも診断精度がよくはならないとの意見も少くないようである.
一般にはこのX線診断法による膵臓癌の診断的中率は70%前後との報告が多いが,Eatonら(ハーバード大学)が45例の膵臓癌で検討した成績では,診断的中率は55%偽陽性率7%,偽陰性率38%とあまり芳しくない.田坂(東大)によると腫瘍の大きさが径5cm以上の膵臓癌では全例で異常所見がえられるが,小さい癌になるとそれを検出できる率は急速に低下するという.動脈撮影により腫瘍血管像がみられるのは一部のラ氏島腫瘍,乳頭腺癌のみで,膵臓癌のほとんどは腫瘍血管にとぼしいので,異常所見は血管壁の異常,動脈分枝の圧排や変位,狭窄などの血管自体の変化としてのみとらえられることから考えても,比較的小さな膵臓癌をこの方法で診断することは無理なようである.我々の経験でも動脈撮影で異常を認めた患者の大部分は試験開腹に終っている.
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