胃と腸 6巻7号 (1971年6月)

今月の主題 腸上皮化生

主題

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 筆者らは“胃癌の組織発生”について病理組織学的に解析を行ない,一つの概念を得ることができました6)9)10).その概念とは次のような2つの点に要約することができます.すなわち,

 胃癌組織発生の概念*

 1.未分化型癌は胃の固有粘膜を,一方,分化型癌は胃の腸上皮化生粘膜を母地として発生する.

 2.癌発生後は,正常分化の過程を多少とも模倣することがある4)

腸上皮化生のレ線診断 青山 大三
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 腸上皮化生は古くから組織学的にみとめられている.また,この診断は組織学的につけられるべきであって,レ線,内視鏡,摘出胃肉眼所見でつけられるべきでないことは当然である.しかし,早期胃癌の肉眼的単位での診断は,一応重要であり,肉眼的単位の診断をまったく無視するわけにはいかない.一方,近年胃生検による診断が普及してきて,両方が相俟ってより精密になってきた.したがって,より微細な肉眼的単位の各所見の読みが要求されてくるようになってきた.

 これらの意味で胃炎を読むときに,「レリーフ」単位から「胃小区」単位へと読みを深めてゆかなくてはならない.反面,胃小区を読んだとしても,細胞単位の診断がすべてわかるとはおもわない.このあたりの的中率が今後の問題になってくるようにおもわれる.

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 慢性胃炎の歴史をふり返えると新しい有力な検査法が出現するたびに,その臨床的意義づけに大きな振幅や動揺をくり返しながら今日に至っているといえよう.胃炎の臨床診断学にもっとも大きく貢献したのはSchindlerの胃鏡検査法であったことはあまりによく知られたことであるが,内視鏡および生検法に一段と飛躍的な進歩がみられた現在の時点からふり返ってみると,旧い検査法は当時はかなり完全なものとみなされても,大きな方法論的制約をもったものだということが検査法の進歩とともに曝露されている.その点では現在の内視鏡,生検法でも同様で,只今不備な点として改良に努力が続けられている諸問題がいっきょに解決するような新しい診断武器が完成してみれば,同様なことがいわれるであろう.

 従来,腸上皮化生の研究は主に切除胃組織の検索にゆだねられていたが,かつて胃カメラの発展期において,1959年崎田ら1)は粘膜の変色,粘膜の緑,黄灰白色などの変色は腸上皮化生を有する萎縮性胃炎にしばしばみられる特徴的所見であるとのべ,Schindler2)の三型分類を改めた独自の分類を提唱し,胃炎の内視鏡診断学に新しい息吹を導入した.しかしその後多くの研究者が検討した結果,腸上皮化生に起因すると考えられた胃カメラ所見と腸上皮化生の有無,程度とが必ずしも一致しないことがわかり,腸上皮化生を内視鏡的に診断することに対して多くのものは否定的な見解をもち,いつのまにか胃カメラ分類はSchindler分類に逆行した.しかし,最近では竹添3)は主として胃カメラを用い灰白色調の目立つものの87%に腸上皮化生を認めるとのべており,以前の批判的見解が再検討されつつあり,また腸上皮化生のある種のタイプが内視鏡で診断できるようになってきた現在,崎田らが当時粘膜の色調の変化と腸上皮化生との関係に着目し,大胆に新しい分類法を提唱したことにあらためて敬意を表するものである.

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 最近,慢性胃炎が新しい角度から見直されようとしているが,その組織病変のなかで腸上皮化生のもつ意義は大きい.細胞遊離縁に刷子縁をもち盃細胞が出現して小腸と変らない組織学的性格を有するこの組織は,酵素組織化学の分野においても注目され,その酵素活性は小腸上皮と同じパターンを呈するということで,ほとんど意見の一致をみている1)2)3).しかし,たとえ腸型上皮であっても,腸とは異った環境に発育しまた胃炎粘膜を母地として出現するため,化生腸上皮のもつ性格は従来指摘されていたよりも複雑であることをわれわれは観察している4)5).よって,われわれが現在までに得た腸上皮化生の酵素パターンを中心として述べ,従来知られていなかった化生組織の多様性の一面について触れてみたい.

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 腸上皮化生は慢性胃炎に随伴し,年齢的には30歳頃から段々と現われ,40歳台に入って急激に増強する.昔は先天的発生異常として胃粘膜内に異所的に生じた腸粘膜の島と考えた学者もあったが,これは明らかに再生上皮の分化の方向の変化として現われる間接的化生である.幽門腺領域は年齢と共に拡大してゆくが,腸上皮化生もこれに伴って拡大してゆく.化生上皮は時に過形成を示し,あるいは異形化する.したがって胃癌の前段階的変化と見なすものもあるが,一方では発癌とは無関係で,正常胃粘膜上皮より安定性の高い丈夫な細胞で,再生時に現われる合目的性化生と見る者もある.化生がおこると,時に,かなり特有な胃小区の変化,色調の変化を示すことがあり,粘膜の所見を多彩にする.かつては腸上皮化生は単に病理学者の興味の対象にすぎなかったが,近年は胃粘膜のX線,内視鏡的観察がますますこまかくなり,腸上皮化生の質的量的診断にまで努力が払われるようになってきた.しかし現在,X線的および内視鏡的に診断し得るのは,ごく限られた型の腸上皮化生のみである.ここに筆者が今まで観察しえた腸上皮化生の種々相を分類し,その概略を説明し,いかなる型のものが診断可能で,いかなる型のものが診断不可能かを述べ,将来,いかなる手段を構ずれば診断不可能であった型も診断可能になるかの予想に言及したい.

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 胃粘膜腸上皮化生は,胃潰瘍,ポリープと共に,胃癌の背景病変として注目されているが,近年組織化学,電子顕微鏡の導入,さらに早期胃癌,微小胃癌などを対象とし,この方面の研究1)~10)が多角的に行なわれている.しかし一方,腸上皮化生はその分布状態が複雑なため,組織切片の再構築,あるいはtissue roll法によっても正確な分布を認識し難い.かかる理由から筆者は酵素組織化学的に正常胃粘膜上皮細胞に陰性で,腸上皮に陽性を示すAlkaline phoshatase(Al-Pase)を指標とし,摘出胃標本を組織標本作成前に同酵素染色を行ない,腸上皮化生の状態を巨視的に観察した.これにより腸上皮化生を数種のpatternに分類し,その成り立ちと主な胃疾患と腸上皮化生との関連について検討した.

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 膵臓病診断のための比較的新らしい検査法には,いままで述べたもののほかにもいろいろな方法がある(表1).低緊張十二指腸造影は膵頭部周辺の変化を,わりあい簡単に観察できるという点での長所がある.腹部回転横断・腹部正面・腹部側面断層撮影は腫瘍陰影をとらえることができると診断上での意義は大きい.経皮経肝胆管造影,腹腔鏡下胆嚢造影は総胆管閉塞部位の診断にたいへん有用である.最近さかんになりつつある十二指腸ファイバースコープによる乳頭部の内視鏡的観察,ファイバースコープを利用する逆行性膵管,胆管造影さらには膵液の直接採取,生検などは現状では安全性,確実性で完全に確立した方式には到っていないと思うが,いままで直接的に検査をできなかった膵臓の小さな病変の診断を可能にしてくれそうな希望を与えてくれた.

 とり残されてきた感のある膵臓病の診断法も,最近10年間にようやく緒についてきたといえるだろう.だが膵臓病の検査法はいずれもたいへん高価な機械を必要としたり,手数と時間がかかったりするために綜合病院では実施可能であっても,実地医家にとっては検査ができにくい.また1つ1つの検査法にしてもそれだけのデータから確実に膵臓の病変を診断できにくいことが多いために,実際にはいくつかの検査を行ない綜合的に判断する必要があるので,今後の焦点はより簡単に,より確実により患者に苦痛を与えない検査法の開発になるであろう.

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症例

 患者:56歳,男

 主訴:食後1~2時間しての上腹部痛

 家族歴:特記すべきことがない.

 既往歴:43歳,肺結核,酒,餅が好き.

 現病歴:昭和43年2月,食後上腹部痛を認め,某医で胃潰瘍の診断を受け,1カ月位で軽快した.その後も時々服薬していた.昭和44年2月再び上腹部痛を認めるようになり,黒色の排便もあった.今度は胃角部潰瘍の診断で手術をすすめられ,昭和44年2月17日入院した.

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 Ⅱc型早期胃癌の陥凹の内部に隆起性病変を認めた場合,その診断に困難を感ずることがある.われわれは,広範なⅡcの中心に良性ポリープの併存していた1例を経験したので報告する.

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 胃癌診断法の進歩は著しいものがあるが,粘膜面に凹凸の変化を示さないⅡb病変の診断はいまだ極めて困難である.しかし,他病変に合併したⅡb病変の診断は可能な場合がある.筆者らは胃集検にて陥凹性病変が発見され,最終的にⅡc+Ⅱb型早期胃癌と診断した症例を経験したので報告する.

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 近年,サルコイドージスは全身性疾患として注目され,肺門リンパ節,肺,眼,皮膚,表在リンパ節,骨,神経,唾液腺などに好発すると言われている1).消化管,とくに胃のサルコイドージス(または胃の限局性サルコイド)についての報告は少なく,欧米ではSchaumann(1936)2)の報告以来34例をWadina(1966)3)が,本邦では長村(1960)4)に始まってわずか7例5)~9)を集めるにすぎない.最近われわれは良性胃潰瘍の診断で手術した胃を精査した結果,病理組織学的に胃癌に胃サルコイドと思われる病変が共存していたので報告し,併せて文献的考察を行なってみる.

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 終末回腸は胃腸管のなかでも咽頭部,虫垂とならんでリンパ組織の豊富なところである.Minnesota大学の内科教授であったAlvarezの有名なIntroduction to Gastroenterology1)で終末回腸のリンパ組織について述べている所に,「このリンパ組織はおそらく便が液状であり良好な培養基となる終末回腸において,微生物の侵入から人体を護るためにここ(終末回腸)に配置されているのだろう」と書いたように多分生体防禦機構としての意味がおおきいと思う.また終末回腸は孤立リンパ濾胞と並んで,リンパ濾胞が癒合したパイエル板が分在することは周知のところである.

 最近,結腸のファイバースコープの進歩,挿入技術の向上によって終末回腸の内視鏡検査が次第に盛んに行なわれるようになりつつある.ファイバー結腸鏡では,約5割位の率で終末回腸にスコープを挿入できるようになっているし,腸ヒモ誘導式(平塚法)によれば9割以上ということである.しかし,患者にあたえる苦痛は他の消化管ファイバースコープに比べるとまだまだ一桁も二桁も上のように思われ,この点さらに努力を要するところである.

胃癌100年の歩み 高木 国夫
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 昭和43年(1968年)は,明治元年(1868年)から丁度100年にあたりこの間の政治,経済,文化の面での発展が回顧された.医学の面でも同様でとくにわが国における癌死亡の半数をしめる胃癌に関して,昭和41年12月の第25回日本癌学会の特別展示に大阪厚生年金病院村上栄一郎先生らの努力によつて「日本における胃癌研究のあゆみ」がまとめられた(日本臨牀25:1513-1550, 1967).ことに最近の世界の尖端を行くに至った早期胃癌の研究をふくめた成果がまとめられている.日本における胃癌研究を,欧米の研究と共にながめてみると,明治元年(1868年)はドイツのKussmahlの硬式胃鏡が行なわれた年で,明治元年から100年間の胃癌研究を胃癌100年の歩みとして,病理,診断,治療の3本柱を1つの表にまとめてみた.

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 胃の隆起性病変の診断は,いうまでもなく組織あるいは細胞レベルでの診断によらなければなりません.とくに良性か悪性かの鑑別には,生検は必須な検査法であります.

 しかしながら,臨床的立場から,この良,悪性の区別を知るために,いろいろの特徴が検討されています.すなわち,隆起の立ち上り,全体の型,隆起表面の性状,大きさ,単発か多発か,周囲粘膜の性状など…….

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 本邦における悪性新生物による死因の中で,胃癌は他を遠く引離して首位を占め,この意味から胃癌の発生機序の解明は,特にわが国において大きな意味をもつものと考えられる.

 胃癌の発生機序に関する研究は,既に19世紀にはじまり,その発生母地として,胃潰瘍6)22)26)27)胃炎5)7)10)20),胃ポリープ15)18)19)が重要視されて来た.他方Järvi8)らをはじめとする化生性腸上皮由来の胃癌の提唱は,Mulligan17),Morson16)らによる同様の学説と共に,今日の中村,菅野らによる胃型,腸型2分類論21)32)のさきがけを成したとも考えられる.

技術解説

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 あたえられた主題は「腸上皮化生を胃生検でもっとも効率よく追求するための方法」である.たいへんむずかしい問題である.

 生検用ファイバースコープは現在相当な価格であるし,生検標本の作製診断のための設備,人件費等をふくめると,現在の保険点数はあまりにも不合理である.生検診断は胃疾患の診断上非常に重要な役割を演じているにもかかわらず,現点数は生検法をもっとも割の合わない検査法の一つにしている.

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欧文目次

編集後記 望月 孝規
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 いわゆる慢性胃炎といわれる胃粘膜の変化の中で,粘膜の萎縮と共に,本来の胃粘膜には所在しない腸上皮が次第に出現して来ることが,古くから知られていた.腸の上皮は,発生学的には胃の上皮より早く出現し,より低分化なものと考えられており,一方,胃癌のある型の細胞がこの化生性の腸上皮と形態学的に類似しているので,この化生性腸上皮と胃癌との因果関係についても,議論されて来ている.今回は,胃癌との関係のみに止まらず,さらに腸上皮の分布,酵素組織学的特性,臨床的診断上の問題点について,執筆していただいた.問題の本質上,組織学的立場にかたより過ぎたが,わが国のこの方面における研究水準の高さを示すものである.

基本情報

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胃と腸
6巻7号 (1971年6月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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