胃と腸 56巻6号 (2021年5月)

今月の主題 上部消化管非腫瘍性ポリープの内視鏡所見と病理所見

序説

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 上部消化管に発生する非腫瘍性ポリープを確実に診断するための方法を習得したい.しっかりとした根拠をもってポリープを鑑別したい.おそらく多くの読者諸氏がそうした思いをもって,本特集号を手に取ってくださったと想像している.確かに,ありとあらゆる種類・組織型のポリープをこの目で見つけ,摘除し,その病理組織像を強く記憶にとどめておけば,ポリープの鑑別診断は容易となるかもしれない.しかし,日常診療の中で遭遇するポリープの種類は限られている.つまり,自ら経験できるポリープの種類は限られている.例えば,炎症性線維性ポリープ(inflammatory fibroid polyp ; IFP)や化膿性肉芽腫(pyogenic granuloma)は“遭遇頻度の低い(あまり見かけない)ポリープ”と認識しているだろう.一方,胃底腺ポリープや過形成性ポリープは“遭遇頻度の高い(ありふれた)ポリープ”として認識しているはずである.すなわち,われわれは自身の経験に照らして,“common”か“unusual”か“uncommon”か“rare”かを判断している.その名称は知っているが,遭遇したことがないポリープは1つや2つではなかろう.

 そこで,今回は上部消化管に発生する非腫瘍性ポリープに特化して,好発部位や病態・組織発生はもちろんのこと,その内視鏡所見と病理組織学的所見の要点を俯瞰できるように企画した.言うまでもなく,非腫瘍性病変と判断する行為は,腫瘍性病変を除外する行為にほかならない.この鑑別診断には判断材料と判断基準が必要である.すなわち,適切な判断根拠が必要なのである.診療の現場では,腫瘍か非腫瘍かの鑑別が常に要求され,その判断を大きく誤ると,過剰治療や医療過誤につながることもある.したがって,正しい診断を導くために必要な所見(判断材料)と,信頼に足る客観的な基準(判断基準)を深く理解しておくことは極めて重要である.そして,当該ポリープの臨床的特徴,例えばIFPは胃では幽門腺領域(前庭部)に好発することなどを熟知しておく必要がある.

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要旨●食道の非腫瘍性ポリープに関して文献的考察を含めて解説を行った.化膿性肉芽腫(PG)は発赤調の隆起性病変で白苔を伴うことが多く,時に潰瘍を併発する.炎症がその成因と考えられ,短期間に増大したり縮小したりする.血管線維性肉芽腫(FVP)は下咽頭〜頸部食道に基部を有するソーセージ様の大型の有茎性ポリープである.支持組織の乏しい粘膜が蠕動などにより牽引されることで徐々に増大すると考えられ,表面は正常の扁平上皮で覆われ,時に潰瘍を併発する.炎症性線維性ポリープ(IFP)は食道胃接合部が好発部位で,正常の粘膜に覆われたSMTの様相を呈し,増大するに従い有茎性やびらん,潰瘍などの所見が加わる.炎症性食道胃接合部ポリープ(IEGP)は食道胃接合部にみられる炎症を背景に持つ過形成性ポリープである.表面は比較的整った絨毛構造で,部位によっては扁平上皮に覆われている.PPIを投与することで縮小や消退する場合がある.

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要旨●食道隆起性病変として,非腫瘍性ポリープは鑑別すべき疾患の一つである.これらのポリープは良性疾患であるため,治療前に適切に診断し,過剰な治療を避けなければならない.本稿ではpyogenic granuloma,fibrovascular polyp,inflammatory fibroid polyp,esophagogastric polypを代表的疾患として取り上げ,その病理学的特徴を提示するとともに最近の知見について解説した.esophagogastric polypを除き,これらは発生頻度の高い疾患ではないが,食道疾患の診療において常に鑑別疾患として認識すべきである.また,一部の疾患は病理組織学的に異型細胞が出現するため,悪性腫瘍が疑われる場合がある.誤診を避ける意味でもこれらの病理組織像を理解しておくことは臨床的にも重要である.

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要旨●胃の非腫瘍性病変のうち,(亜)有茎性のポリープの形態を呈した,胃底腺ポリープ(FGP),過形成性ポリープ(HP),若年性ポリープ(JP),炎症性線維性ポリープ(IFP),異所性膵(EP),異所性胃腺(HGM)を,H. pylori感染の有無やA型胃炎などの背景粘膜別に症例を中心に解説した.H. pylori感染率が高かった時代はHPが最も多かったが,感染率の低下に伴いFGPの発見頻度が高くなっている.さらにH. pylori未感染胃に発赤調ポリープを認めた場合,腺窩上皮型HPなどの非腫瘍性ポリープとラズベリー型胃癌や胃底腺型腺癌を鑑別する必要がある.またHPとその他のポリープとの鑑別診断が難しい症例もあるが,HPは隆起全体に背景粘膜の表面構造に類似した腺窩上皮や窩間部の開大などの過形成性変化を認め,JPは分葉傾向が乏しく棍棒状で表面平滑,IFPはSMT様隆起で頂部に炎症性びらんを伴うことがある.EPは,前庭部ではdelleを伴うSMTの典型的な形態を呈しているが,胃体部では丈の高いSMT様隆起や平板状隆起を呈するためGISTなどとの鑑別診断が難しく,EUSでは固有筋層の肥厚所見を呈することが多い.HGMは,H. pylori感染胃では胃体部に多発するびまん型,未感染胃では穹窿部に有茎性の孤発型を認める.

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要旨●胃に散発性・孤発性に生じる非腫瘍性ポリープ病変(近年,遺伝子変異を伴うことから腫瘍性病変に位置付けられつつある良性病変も含む)は,上皮性変化を主体とした粘膜組織由来の病変と,粘膜下を主座とする腫瘤性病変に起因するものとに分けられる.前者には胃ポリープ病変として最も頻度の高い胃底腺ポリープと過形成性ポリープが含まれる.まれな病変ではあるが,Peutz-Jeghers(型)ポリープは,過形成性ポリープとの鑑別を要する可能性がある.後者はhamartomatous inverted polyp,異所性膵,炎症性線維性ポリープが主な病変であるが,粘膜下病変と被覆粘膜組織との関係はそれぞれ異なる.これらの病変を正しく診断するためには,背景粘膜を含めた病変の病理組織学的成り立ちが病変全体の形態にどのように反映するのかを理解しておくことが重要と考えられる.

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要旨●十二指腸に生じる非腫瘍性隆起性病変は比較的多彩な形態を呈するため,通常の内視鏡観察のみによる質的診断は容易ではない.また,限局性の非腫瘍性隆起性病変のうち,特徴的な病理組織像を有するものは腫瘍様病変と呼ばれ,腺癌の前駆病変ないし胃型腫瘍の発生母地である可能性が指摘されている.今回は,頻度の高い異所性胃粘膜やBrunner腺過形成に加え,胃上皮化生,胃腺窩上皮型過形成性ポリープ,muco-submucosal elongated polyp,リンパ管腫,Peutz-Jeghers型ポリープや異所性膵についてNBI併用拡大観察所見も含め内視鏡像を中心に概説する.十二指腸上皮性腫瘍との鑑別診断を考えるうえで,それらの病態や特徴を理解することは重要である.

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要旨●十二指腸における非腫瘍性(腫瘍様)病変とされるポリープの病理学的特徴を概説する.腫瘍様病変には病理総論的に過誤腫あるいは分離腫とされる病変と,炎症性,再生性・過形成性に生じる病変がある.十二指腸は,空腸以下の小腸と異なり,特に近位側には粘膜下組織〜粘膜固有層内に胃幽門腺に似たBrunner腺と言われる粘液腺が発達し,胃型の細胞(腺窩上皮や胃底腺)が高頻度に出現する.十二指腸非腫瘍性ポリープを,胃型・Brunner腺型病変,小腸型病変,異所性膵(adenomyoma/myoepithelial hamartoma)と間葉系病変に分類して紹介したい.

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要旨●患者は60歳代,男性.直腸癌の術後定期検査目的に行った造影CTで,十二指腸に腫瘤を指摘された.EGDで十二指腸下行部に基部を持つ20mm大の有茎性病変を認め,発赤調で分葉多結節状,表面には撒布性の白点を認めた.NBI併用拡大観察ではやや腫大した絨毛構造を認め,絨毛内のloop状の微小血管は口径不同,形状不均一などの異型に乏しく,また白色物質の局在が絨毛間質内に限局しており,リンパ流のうっ滞による所見と診断した.以上より,過誤腫性ポリープと診断し,内視鏡的ポリペクトミーを施行した.病理組織学的診断では上皮の過形成性変化と粘膜筋板由来の平滑筋の樹枝状増生を認めた.消化管ポリポーシスや皮膚所見,家族歴を認めないため,孤在性Peutz-Jeghers型ポリープと診断した.まれな十二指腸の孤在性Peutz-Jeghers型ポリープにおいて,NBI併用拡大観察が上皮性腫瘍との鑑別診断に有用であり,また病理組織学的所見との対比をし得た症例を報告する.

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要旨●患者は70歳代,男性.喉のつかえ感を主訴にEGDを施行し,食道胃接合部に10mm大の頂部に白苔を有する発赤調の隆起性病変を認め,診断的治療目的にESDにて一括切除した.病理組織学的には表層上皮は剝離し,びらんを形成する部分や,菲薄化した扁平上皮が被覆する部分を認め,粘膜固有層には毛細血管の著明な増生,リンパ球や形質細胞などの炎症細胞浸潤,浮腫がみられ,一部線維化も伴っており,最終病理診断はpyogenic granulomaであった.内視鏡所見では,白苔を有する部分,白濁した領域に血管拡張が散見される部分,強発赤領域に拡張した血管が目立つ部分を認め,これらは時相の異なる病理組織学的所見を反映していたものと考えられた.

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要旨●患者は70歳代,女性.検診の上部消化管X線造影検査で胃に異常所見を指摘され,EGDを施行した.胃前庭部大彎に15mm大の急峻な立ち上がりのくびれを有するSMT様隆起を認めた.隆起の頂部に発赤陥凹を有しており,同部位から生検を施行したが診断には至らなかった.3年後のEGDで増大傾向であったため,診断的治療としてESDを施行し,胃IFPと診断した.IFPは生検により確定診断が得られることは少なく,増大傾向を示すなど悪性腫瘍の可能性が否定できない場合には,診断的治療として内視鏡治療あるいは外科治療を考慮する必要がある.

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要旨●患者は60歳代,女性.10年前から胃体下部大彎にポリープを指摘され,過形成性ポリープの診断で経過観察中であった.3年前にH. pylori除菌治療が行われたのち,ポリープの肛門側に不整な陥凹を伴う平坦隆起が出現し,生検にて高分化腺癌と診断され当科受診となった.ESDを施行し,過形成性ポリープの組織構築に類似する超高分化腺癌とそれに連続する中〜低分化腺癌を肛門側に認めた.いずれも免疫組織化学染色でMUC5AC陽性であり,過形成性ポリープの癌化が示唆された.粘膜下層浸潤とリンパ管侵襲を伴っていたため追加手術を行ったが,局所遺残やリンパ節転移は認めなかった.内視鏡所見を遡及的に検討すると,直近の1年間で過形成性ポリープが縮小し,癌の領域が増大していた.

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目次

欧文目次

Information

書評

次号予告

編集後記 小林 広幸
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 消化管各所(食道〜肛門管)にはさまざまなタイプの非腫瘍性ポリープが発生する.一つの臓器に限局して発生するもの(食道fibrovascular polyp,十二指腸Brunner腺過形成など)もあれば,複数の臓器にまたがって発生するもの〔IFP(inflammatory fibroid polyp),PJP(Peutz-Jeghers型ポリープ)など〕もある.ここ数年,本誌では臓器ごとに,“知っておきたい○○○病変(疾患)”あるいは“まれな○○○病変(疾患)”というテーマでかなりの特集号を組んできたが,そのほとんどは腫瘍性疾患を主体として取り上げており,今回のテーマに属する疾患はほとんど掲載されていない.本誌で非腫瘍性ポリープをテーマとした特集は,近年では2012年の「胃ポリープの意義と鑑別」(47巻8号),2013年の「非腫瘍性大腸ポリープのすべて」(48巻8号)であり,腫瘍性疾患(腺腫に代表される良性病変や腺癌などの悪性病変)に比べると,生検で腫瘍性が否定されれば経過観察可能な病変も少なくないため,臨床医には無症候性な病変は軽視されているものも多いと実感している.このため,本号ではこれまでほとんど取り上げられることのなかった食道や十二指腸のまれな疾患も含めて,上部消化管の非腫瘍性ポリープについて,執筆者におのおのの疾患における内視鏡所見(特徴)とそれに対応する病理組織像(非腫瘍性と判断する組織学的根拠も含む)を提示・解説していただき,読者に腫瘍性ポリープとの鑑別診断に有用な内視鏡所見の理解を深めてもらうことを目指した.

 まず食道では,新井論文に示されているように,隆起(ポリープ)を呈する非腫瘍性疾患そのものが少なく,かつ,病理学的にもfibrovascular polypなど極めてまれな病変もあり,その好発部位や特徴的内視鏡形態を脳裏に刻めば,類似の形態・病理組織像を呈する腫瘍性ポリープも少ないため鑑別が容易となる.新井論文で示されたものは貴重な症例と言える.また,胃食道逆流症に伴い食道胃接合部領域に発生する非腫瘍性(炎症性)ポリープでは,生検病理組織では少なからず反応性の核異型がみられ非上皮性腫瘍,悪性腫瘍などとの鑑別が困難なことも少なくない.PG(pyogenic granuloma)のように(主題症例 ; 竹内論文),NBI拡大観察所見における腫瘍との鑑別に有用となる指標の集積が必要であろう.

基本情報

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胃と腸
56巻6号 (2021年5月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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