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この特集号が出版されたのは,その数年前から工藤進英先生(当時 秋田赤十字病院外科,現 昭和大学横浜市北部病院教授)が胃癌同様の微小な平坦陥凹型大腸腫瘍を単施設から次々と報告され,微小な大腸腫瘍や早期大腸癌が注目を集め,学会でも頻繁にシンポジウムのテーマに取り上げられていた時であった.私は消化器医4年目で,松山赤十字病院胃腸センターにて工藤先生と交流の深い渕上忠彦部長(後年,同院院長)のご指導の下,大腸癌の診断に携わっていた.今日では大腸SM癌の深達度診断と言えば,まずは内視鏡検査,特にクリスタルバイオレット染色やNBI観察による拡大内視鏡検査>超音波内視鏡検査(EUS)≫注腸X線造影検査という施設が大半であろうが,当時の大腸内視鏡検査は操作性や画質の悪いファイバースコープから視認性の高い電子内視鏡への過渡期という時代で,当然ながら拡大内視鏡は市販されておらず,工藤先生の偉大な拡大内視鏡pit pattern診断学も切除標本で観察した実体顕微鏡での分類にすぎなかった.また,EUSも7.5MHzの専用機がやっと登場したころで,操作性も悪く深部大腸への挿入も困難で,一部の専門施設にしかなく一般臨床には普及していなかった.このような背景から,当時の大腸癌の診断はまずは注腸X線造影検査でスクリーニングし,病変があれば大腸内視鏡検査(注腸X線造影≧大腸内視鏡)という構図であり,X線造影検査と内視鏡検査(非拡大観察)は診断に不可欠な検査の両輪であった.このため,当時は実際の診療で早期大腸癌に遭遇するたびに,本号に掲載されている深達度診断を何度も読み直していた.なかでも,今は廃れつつある注腸X線診断に関しては,本号以前から確立されていた牛尾・丸山の側面像の変形所見に関する主題論文(坂谷論文)と,正面像の表面性状からみた深達度診断(渕上論文)について詳細に記載されている.思えば,わが師の渕上先生が本号論文執筆に際し,私に大腸癌のX線画像収集を依頼され,直にその読影に立ち会わせていただいたことが,その後の私の大腸X線診断学の基本となっている.今読み返してみても,X線深達度診断の王道としてなんら色褪せない内容であり,ぜひとも消化器内科に携わる若き医師には読んでいただきたい一冊である.また,今や拡大内視鏡全盛の時代となったが,“木を見て森を見ず”とならないように,拡大内視鏡も基本は通常内視鏡観察であることを忘れないでほしい.
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