胃と腸 53巻9号 (2018年8月)

今月の主題 消化管画像の成り立ちを知る

序説

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 私たちが,子どものころから普通にある風景を見上げると,白い雲や青い空が広がっている.みなさんは,雲はなぜ白いのか,空はなぜ青いのかを考えたことがあるでしょうか? 私は,最近まで,あらためて考えたことがありませんでした.

 X線・内視鏡・超音波などの機器を用いた診断学を生業とするにあたって,どのようにしてこれらの画像が成り立っているのか,考える機会に巡り会えました.

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要旨●肉眼的(あるいは内視鏡的)に病変の質的診断あるいは病変の範囲を同定する場合には,その病変がどのような組織構築により成り立っているかを知っておくことが必須である.隆起性病変のマクロ画像の成り立ちを考えるうえでは,まずは各病変が消化管の壁(①粘膜,②粘膜下層,③固有筋層,④漿膜の4層構造)のどの部位にどのような成分が増生しているかを推察することが基本である.種々の病変は組織構築から,いくつかの発育パターンに分類可能であり,肉眼像から組織構築を推察するためには,各病変に当てはまる発育パターンとそのバリエーションを把握する必要がある.ただし,同じ組織型で同様な発育パターンであっても症例ごとに異なる肉眼像を呈するため,肉眼的診断の精度を高めるためには,症例ごとの形態と組織の一対一対応を継続して行うことによる知識の集積が必要である.

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要旨●消化管の陥凹を来す疾患について,マクロ画像の成り立ちを概説した.消化管の陥凹病変には,粘膜欠損(潰瘍)によるものと粘膜の菲薄化によるものがある.陥凹病変の成り立ちを理解するには,陥凹・潰瘍面の表面構造,陥凹境界,辺縁粘膜像の所見を把握することが重要である.マクロ画像に反映する病理組織学的所見は,病変の発育様式,発育速度,硬さ,時相,背景組織との関係性などの組み合わせにより成り立っている.陥凹病変は隆起性病変とは異なり,病変の厚みにより所見が隠されることは少ないため,病変および背景の成り立ちがマクロ所見に明確に再現される.

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要旨●X線造影像の成り立ちを胃X線二重造影像を中心に概説した.X線造影像は粘膜の凹凸を①はじき像,②たまり像,③接線像の3種の基本成分で表していくが,この基本成分は食道,胃,大腸のX線造影像に共通する像であり,その組み合わせによりさまざまな所見が得られ診断が行われる.画像による黒化度はバリウムの付着層の厚みによりコントラストの差として示現される.隆起型でははじき像,接線像,陥凹型ではたまり像,接線像を基本成分として,臨床的によく使用される透亮像,バリウム斑,結節状・顆粒状陰影,辺縁不整,二重線などの所見が示現される.辺縁像はバリウムの付着する内腔側の線であり,側面変形は粘膜下層以深の癌細胞量とそれに伴う線維化,反応性のリンパ球増生などによる器質的変化による病変部と周囲の非癌部の消化管短軸方向への伸展性の差で現れると考えられており,その変形の程度は深達度と密接な相関が認められる.さまざまなX線造影所見の成り立ちを基本成分から理解することで,X線診断学が理解しやすく,正確な診断が可能となる.

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要旨●X線造影検査で描出可能な所見は極めて単純であり,基本的にバリウムのはじきとして表現される隆起とバリウムの溜まりとして表現される陥凹の2種類のみである.これら2種類の所見が,単発または多発隆起/陥凹病変,隆起と陥凹の混在する病変,さらにはこれらの所見の正面像(透亮像とバリウム斑)と側面像(陰影欠損/壁変形とニッシェ)とが混在して表現される.さらに消化管自体のねじれも加わるため,いっそう複雑な線分から構成されるため,時に診断は困難となる.また,もともと3次元構造の消化管が2次元として表現されるため,これらの2次元の所見を分析し,3次元である病変の肉眼像を頭の中で再構築する作業が必要となる.すなわち,X線造影画像を読影する際には,腸管辺縁と粘膜面を詳細に読影し,前述した所見の線分がどのように組み合わさっているかを読み解くことで,病変の内視鏡像や肉眼像の推定が可能となり,正しい診断が可能となる.

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要旨●通常内視鏡観察から知りうる情報は色調,凹凸の変化,粘膜性状などである.物体を構成する物質には特定の波長の光を吸収する性質があり,“色”は吸収されずに反射した光が脳で認識されるものである.食道壁内にある色素のほとんどはヘモグロビン(Hb)であるため,その吸収特性により食道粘膜は赤みを帯びている.Hbの量により赤みの度合いが変わってくる.凹凸の変化は光の当たる角度により光量に差が生じ,その差(光と影)を脳が認識することで立体感を認識している.滑らかな食道粘膜は光が鏡面反射をしやすいため光沢が強く観察されるが,癌部など表面に微細な凹凸があると光沢が消失する.本稿では,このような食道の内視鏡観察に必要な光の特性を解説する.

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要旨●通常内視鏡像で早期胃癌に認められる伸展不良所見の成り立ちについて概説した.T1a〜T1b1は胃壁強伸展下では非腫瘍粘膜と同様に伸展性が保たれた(伸展良好)癌である.早期胃癌で伸展不良所見を認める代表的な病態は,粘膜下層(SM)深部に大量に浸潤した癌(T1b2)と潰瘍(瘢痕)を合併した癌〔T1a,UL2,T1b,UL2〕,の2つである.T1b2は,癌細胞塊,炎症細胞浸潤,癌性線維症が原因となり,領域性のある塊状の肥厚と硬化を来す.内視鏡で送気し胃壁を強く伸展させると,SM浸潤部の伸展不良が原因となり,非浸潤部との伸展性の差により台状挙上所見が出現する.一方,T1a〜T1b1においても潰瘍(瘢痕)を合併すると,粘膜下層の線維化が主な原因となり肥厚と硬化を来し,ひだ集中像を代表する伸展不良所見が出現する.しかし,線維化の形状は明瞭な領域性に乏しいため,胃壁強伸展下では集中ひだは瘢痕中心部一点に集中し,走行は直線的で挙上を伴わない,すなわち台状挙上所見は陰性である.

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要旨●腸の疾患の内視鏡所見は極めて多彩であるが,基本要素は病変の色調と形態である.腫瘍性疾患の所見は腫瘍細胞の量と分布によって所見が決定されるのに対し,炎症性疾患は生体反応の結果であり,組織の変性・脱落を伴うことが多い.しかし,結果的に腫瘍性疾患と炎症性疾患で類似の所見を呈することがある.本稿ではびらん・潰瘍および隆起を形成する機序,色調変化を来す原理について概説するとともに,粘膜下腫瘤と敷石像を取り挙げて,それらの成り立ちを解説した.病変の成り立ちを理解することは,診断能の向上に寄与すると考えられる.

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要旨●食道上皮血管の基本単位は上皮下乳頭内血管(IPCLと同義)である.炎症ではIPCLの数が増加し,拡張,丈の伸長,先端の分岐・腫大が生じる.炎症細胞浸潤や浮腫で上皮が肥厚し,IPCLの先端しか見えなくなるため,線状につながったり,癒合して柵状になったりすることがある.日本食道学会分類Type B1は,“ループ様の血管”と定義されているが,癌組織で置換されると血管の先端しか見えず,ドット状や線状に観察される.また病巣内にびらんを伴うとType B1の配列が変化し,網目状・バラン状(弁当に使う緑色の仕切り)を示すことがある.これらは内腔に向かって垂直もしくは斜め方向に真っすぐ伸びるのが特徴である.初期浸潤のレベルでも,細かい癌胞巣に分かれて浸潤する病変では,非常に細く,口径不同で不整分岐するType B2が出現する.真のType B2の出現は真の浸潤を示唆する重要なサインと考えられる.

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要旨●画像強調観察を併用した胃拡大内視鏡所見の成り立ちを生体光学の理論を用いて概説した.粘膜においては,主に,光の反射,散乱,伝播・拡散,吸収という現象が重要である.腺窩辺縁上皮については,光を上皮に投射したときに細胞内小器官や核で起こされた後方散乱が垂直方向に集積すると白色半透明の帯状の上皮構造として視覚化される.粘膜上皮下微小血管については,光の吸収という現象から成り立っている,白色不透明物質については,微小な脂肪滴が①高い屈折率を有するため投射した光が反射されること,②微小な脂肪滴が強いMie散乱粒子であるので,細胞内で多重散乱を引き起こすこと,の2つのメカニズムにより,血管を不透明にする白色の物質として人間の目は認識している.このような,拡大内視鏡画像の物理化学的成り立ちを理解すれば,画像診断に加え今後の病態解明にも応用できる可能性が期待される.

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要旨●大腸の色素併用拡大内視鏡所見の基礎と要点を中心に概説した.pit pattern診断を学ぶうえではpitや被覆上皮細胞の成り立ちを解剖学的知見から理解することが重要である.コントラスト法では粘膜表層部における無名溝の存在を理解し,pit所見と混同しないことが求められる.クリスタルバイオレット染色法では,われわれがしばしば遭遇する染色不良所見が,①粘膜下層癌や間質反応の露出,②粘液の被覆,③粘膜上皮の物理的な障害のうち,どのメカニズムで生じているのかを鑑別することが求められる.そのためには拡大内視鏡観察において,①周囲不整pitの存在,②連続性の有無の認識が重要であり,これらの基本認識によりその後のパターン分類の理解をよりいっそう深めることが可能となる.

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要旨●消化管病変の超音波内視鏡画像の成り立ちを超音波学の理論に基づき概説した.超音波内視鏡画像はプローブで電気的に短時間の超音波を発生させ,これを生体内に入射し,生体内の多数の境界面で反射,散乱,屈折なども含むすべての反射現象を経て戻ってきた超音波を受信し,再び電気信号に変換して作成されている.したがって超音波内視鏡画像はさまざまな反射現象によって生じるアーチファクトが多く含まれている.臨床現場において超音波内視鏡検査の診断能を高めるためには,観察される超音波画像が消化管壁内に入射された超音波のどのような現象を反映しているのかを超音波学的に正しく解釈することが重要である.

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目次

欧文目次

「今月の症例」症例募集

早期胃癌研究会 症例募集

学会・研究会ご案内

次号予告

編集後記 清水 誠治
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 今回の企画は,私たちが日常的に実践している画像診断の根本的な部分を問い直すもので,これまでに類を見ない.画像の成り立ちをどのような切り口で攻略するかは,モダリティによって異なる.切除標本の肉眼像は人間の眼による直接的な観察であり,病変の所見と組織学的な対応が論点となる.通常内視鏡も肉眼観察とほとんど同様であるが,生体内の観察であるため血流の影響で色調が重要性を帯びる.一方,X線,超音波,画像強調を用いたモダリティでは,通常の視覚と原理の異なる可視化プロセスが介在する.

 X線では透過経路でのX線の吸収量の違いを平面に投影するのに対して,超音波では反射した超音波を捉えることで伝播経路の性質や距離の違いを反映した断層像を構成する.画像強調は色調のバランスを人為的にデフォルメすることで強調したい構造を抽出する.マクロ的な観察法では,あるパターンと原因の対応が分散することは避けられないが,ミクロ的な観察ではピンポイントで組織像との対比が可能であり,原因と所見の対応が集束する.

基本情報

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胃と腸
53巻9号 (2018年8月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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