胃と腸 51巻4号 (2016年4月)

今月の主題 薬剤関連消化管病変

序説

  • 文献概要を表示

はじめに

 高齢化社会の進行と新規薬剤の臨床導入を背景に薬剤関連消化管病変に遭遇する機会が増加しつつある.本号は薬剤関連消化管病変の特集号として,薬剤に関連する消化管病変を広く取り上げ,画像所見に基づいた臨床診断と病態解析に関する最新情報を提供するものである.

 本稿では,臨床上,最も頻用される薬剤である非ステロイド性抗炎症薬(non steroidal anti-inflammatory drugs ; NSAIDs)と抗菌薬による消化管病変を中心に,薬剤関連消化管病変の歴史的変遷を概説する.

  • 文献概要を表示

要旨●代表的な薬剤関連消化管病変(NSAIDs起因性消化管病変,抗癌剤性胃腸炎,薬剤関連食道炎,抗生物質起因性出血性大腸炎,抗生物質起因性偽膜性大腸炎,collagenous colitis,特発性腸間膜静脈硬化症,塩化カリウム,ケイキサレート/ソルビトール,PPI,大腸メラノーシス,炭酸ランタン)の病理組織学的特徴と鑑別の要点について言及した.薬剤による消化管病変は非特異的組織像を示すものが多く,病理学的所見のみで確定診断に至る疾患は多くはない.したがって詳細な服薬歴の聴取などの十分な臨床情報の把握が必要であり,他疾患の鑑別を十分に行ったうえで総合的な診断を行うことが肝要である.

  • 文献概要を表示

要旨●ダビガトラン起因性食道炎(DIE)の頻度および特徴を明らかにすることを目的とし,ダビガトラン内服患者の臨床および内視鏡所見を遡及的に検討した.対象110例中21例(19.1%)にDIEを認めた.DIE群の病変部位はすべて中下部食道であり,20例(95.2%)で白色膜様物の付着を認めた.これらはDIEに特徴的な内視鏡所見と考えられた.DIE群は非DIE群(n=89)に比べて,有症状の例が多い傾向がみられたが(61.9% vs. 40.4%),DIE群の8例(38.1%)は無症状であった.他の臨床所見は2群間で差を認めなかった.治療法としては,原因薬剤の中止と酸分泌抑制剤の投与に加え,薬剤停滞を予防するための服薬指導が重要と考えられた.

  • 文献概要を表示

要旨●H. pylori感染率の低下に伴い,上部消化管粘膜傷害の病態や治療のパラダイムは急速に変遷した.今日では低用量アスピリン(LDA)を含むNSAIDsがその主因となり,それらを的確に診断し可能な限り予防することが肝要である.内視鏡像は,幽門部に好発する比較的浅い病変であるが多発傾向を有し,形態は地図状多形性や類楕円形など多彩である.また出血のリスクが高い点に特徴がある.予防に関しては処方開始前に高危険群を拾い上げ,プロトンポンプ阻害薬やPG製剤を併用することで消化管粘膜傷害の発症回避が可能となる.筆者らのデータでもびらん性胃炎の検出率は,抑制されつつある傾向が示された.今後もさらなるエビデンスの蓄積が望まれる.

  • 文献概要を表示

要旨●非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)起因性下部消化管粘膜傷害の機序として,内因性プロスタグランジンの低下と薬剤の直接作用による粘膜防御機能の減弱,それに引き続く細菌,食物,胆汁酸などの管腔内因子の粘膜内侵入による炎症の惹起が想定されている.なかでも,酸分泌抑制剤の併用により小腸病変が増悪することから,腸内細菌叢の関与が注目されている.一方,本症の内視鏡所見として,小腸ではアフタやびらんが高頻度にみられるが,潰瘍や狭窄を来すこともある.大腸病変は潰瘍型と腸炎型に分類されるが,薬剤併用例ではmicroscopic colitisや抗菌薬関連大腸炎との異同を明らかにする必要があると思われる.

  • 文献概要を表示

要旨●collagenous colitis(CC)の自験例95例を対象とし,臨床像・薬剤歴・内視鏡像を検討した.95例中75例(78.9%)がプロトンポンプ阻害薬(PPI)服用症例であった.ランソプラゾール(LPZ)起因性CC症例70例中47例(67.1%)はCYP3A4で代謝される薬剤を併用していた.PPI非服用患者は95例中20例(21.1%)で6例は薬剤との関連は不明であった.LPZ起因性CC症例に特徴的とされる縦走潰瘍は,PPI起因性CC症例75例中20例(26.7%)に認められ,全症例がLPZに起因する症例であったが,PPI非服用患者でも20例中4例(20.0%)に認められた.PPI服用群・PPI非服用群間で内視鏡所見の特徴に統計学的差異は認められなかった.下痢症状を呈さず縦走潰瘍所見を契機に病理組織学的にCCと診断された症例を6例認め,2例は急性腹症を呈し4例は無症状であった.慢性下痢症状のみならず,急性腹症を呈する疾患の鑑別のひとつとしてCCを挙げる必要があり,臨床症状に関する診断基準については今後検討を要する.

  • 文献概要を表示

要旨●最近の13年間に便毒素検査や便培養により,Clostridium difficile感染症(CDI)と診断され,大腸内視鏡検査を施行した39例について後方視的に内視鏡像,臨床像,診断方法,治療などについて検討した.CDIは内視鏡像から偽膜型,アフタ型,非特異型,正常型に分類することが可能であり,それぞれの割合は,36%,28%,15%,20%であった.臨床像と炎症反応の検討により,偽膜型はCDIの重症型であり,他の3型は軽症型であると考えられた.内視鏡像の検討より,アフタは偽膜の初期像の可能性が高いと推察された.また,非偽膜型の内視鏡像からもCDIを疑うことはある程度可能であると考えられた.CDIの診断はまずCD抗原とCD毒素の検査を行うことで迅速に判定を行う.それにCD培養,内視鏡検査などを組み合わせることで効率的で確実な診断が可能となる.偽膜型では薬物投与が必須であるが,それ以外では抗菌薬の中止のみで軽快する症例がみられる.

  • 文献概要を表示

要旨●抗菌薬関連出血性大腸炎(AAHC)症例の臨床的特徴を明らかにするために,AAHC自験例を対象として抽出し,Klebsiella oxytoca(K. oxytoca)陽性例の臨床的特徴を,非陽性例との比較を含め,遡及的に検討した.最近10年間に計18例(平均年齢は63.7歳,男性7例,女性11例)がAAHCと診断されていた.18例全例で培養検査が施行され,K. oxytoca陽性例は18例中14例(77.8%)を占めていた.K. oxytoca陽性14例の平均年齢は65.8歳で,男性7例,女性7例であった.投与されていた抗菌薬は8例がペニシリン系薬剤で半数を占め,陽性14例中3例で低用量アスピリンを含む非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の併用内服を認めた.便培養検査では14例中5例でペニシリン系耐性腸内細菌が同時に検出された.大腸内視鏡検査では9例で右半結腸中心に区域性出血性大腸炎を認めた.14例全例で抗菌薬の中止ないし変更で臨床症状が改善した.陽性14例と非陽性4例の臨床像と内視鏡像を比較したが,大差なかった.

  • 文献概要を表示

要旨●腸間膜静脈硬化症の原因として漢方薬(山梔子を含む処方)長期服用が注目されている.本症の長期経過例の一部は増悪し,手術を要する場合もある.しかし,漢方薬中止後の本症の長期経過に関する報告はほとんどみられない.今回,自験例5例における漢方薬中止後の病像の変化を検討した.観察期間は1年11か月〜5年4か月(平均3年10か月)であった.有症状の2例では症状が消失した.内視鏡検査でみられる特徴的な色調変化,皺襞腫大および生検所見は全例で改善がみられた.CT検査でみられる石灰化も3例(60%)でやや軽減していた.これらの知見からも,本症と診断され漢方薬の服用が判明した場合は,服用中止が対処法としての第一選択と考えられる.

  • 文献概要を表示

要旨●本邦においてプロトンポンプ阻害薬(PPI)使用量は確実に増加しており,特に高齢者においてその傾向は顕著である.近年,胃炎の内視鏡診断の重要性が周知されるようになり,PPI使用に付随する内視鏡所見を認識することも臨床的に重要になっている.PPI投与により壁細胞は変性し,組織学的にPCP(parietal cell protrusion)と呼ばれる形態を示す.H. pylori未感染者において,胃底腺ポリープはPPI服用で増加することが報告されており,特に水腫様の内視鏡像が特徴的とされる.一方,過形成性ポリープはH. pylori陽性者にみられるが,PPIによる二次的高ガストリン血症によりポリープが増大する.体部にみられる多発白色扁平隆起もPPI投与例で多くみられ,組織学的には腺窩上皮の過形成性変化が認められる.

  • 文献概要を表示

要旨●患者は60歳代,女性.長期持続する下痢があり,当院に紹介され,受診となった.上部消化管内視鏡検査で十二指腸に粘膜萎縮,顆粒状隆起を認めた.カプセル内視鏡検査,ダブルバルーン内視鏡検査では小腸全域に絨毛萎縮,顆粒状隆起など多彩な所見を認めた.病理組織学的所見では絨毛萎縮と炎症細胞浸潤を認めた.以上よりセリアック病を疑ったが,関連する抗体は陰性であった.オルメサルタンを長期内服しており,中止後下痢は改善した.通常食摂取でも下痢は認めず,オルメサルタン関連スプルー様腸疾患と診断した.オルメサルタン関連スプルー様腸疾患は,新しい疾患概念であり強い吸収不良を呈する.本邦ではまれと思われるが,強い吸収不良を認めた際,鑑別として考える必要がある.

  • 文献概要を表示

要旨●患者は80歳代後半,女性.バルサルタン内服後より水様性下痢と両下肢浮腫が出現した.大腸内視鏡検査では粘膜血管網の不規則な増生と走行の乱れを認め,生検で上皮直下の肥厚した膠原線維束と粘膜固有層の慢性炎症細胞浸潤を認めた.上部消化管内視鏡検査では前庭部の顆粒状粘膜と胃体部・胃穹窿部に横走する短い溝状陥凹を認め,小腸内視鏡検査では空腸・回腸にびらんが多発していた.胃,十二指腸,空腸,および回腸から採取した生検組織でも膠原線維束を認めた.蛋白漏出シンチグラフィーとα1-アンチトリプシンクリアランス試験では蛋白漏出性胃腸症が確認された.以上より,本症例は蛋白漏出性胃腸症を伴うcollagenous gastroenterocolitisであり,発症にバルサルタン内服が関与した可能性が考えられた.

  • 文献概要を表示

患者

 70歳代,男性.

主訴

 便潜血陽性.

家族歴

 特記事項なし.

既往歴

 脂質異常症,高血圧症,高尿酸血症.

現病歴

 検診で便潜血陽性を指摘されたため,近医で大腸内視鏡検査を施行したところ,上行結腸に病変を指摘され当科へ紹介され受診となった.

  • 文献概要を表示

要旨●患者は70歳代,女性.Mycobacterium aviumによる肺非結核性抗酸菌症で5年前から治療中も難治であった.腹痛,下痢を主訴に入院し,大腸内視鏡検査を施行した.終末回腸に輪状傾向の浅い潰瘍が多発し,同部には微細顆粒状粘膜がみられた.一方,大腸では直腸粘膜はほぼ正常であるが,上行結腸から下行結腸には顆粒状粘膜がみられた.生検組織にて,回腸では粘膜固有層深層を中心に多量に,大腸では主に粘膜上皮直下にアミロイドA蛋白質が沈着していた.部位による内視鏡像の差は組織学的なアミロイドの沈着形式と沈着量の差によるものと考えられた.なお本邦での非結核性抗酸菌症に続発するAAアミロイドーシスは,自験例を含め6例の報告しかみられなかった.6例の平均生存期間が3.6か月と短く予後不良であり,早期発見,早期治療の重要性が示唆された.

--------------------

欧文目次

「今月の症例」症例募集

早期胃癌研究会 症例募集

学会・研究会ご案内

次号予告

編集後記 松本 主之
  • 文献概要を表示

 本号は,薬剤に関連する消化管病変の特集号として企画された.20世紀まではNSAIDs起因性胃・十二指腸潰瘍,および抗菌薬関連大腸炎がこの領域の代表的疾患であったが,その後薬剤起因性の消化管病変は多岐に及ぶことが明らかとなっている.各論文では,多彩な薬剤関連消化管疾患が美麗な画像とともに示されており,消化管疾患を診療する医師にとって大変貴重な情報を提供している.

 ダビガトランによる食道炎とプロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor ; PPI)による胃粘膜病変は,最近注目されている疾患と言える.鳥谷論文では前者の臨床像が示されており,本症の頻度が高いこと,症状はGERDと同様であること,中・下部食道の白色膜様物が特徴的であることが読み取れる.治癒過程の内視鏡所見の提示が望まれるところである.一方,伊藤論文では,PPIがparietal cell protrusionの現象を介して種々の胃病変を発揮することが示されている.他の胃病変にもPPIが関与する可能性が示唆される.池澤論文では,NSAIDsの上部消化管粘膜病変の特徴が概説されており,加えてその頻度が減少しつつあることや危険因子として新たな要因が解説されている.また鳥巣論文では,NSAIDsとLDAの小腸・大腸病変について微小病変を中心に分析されている.同論文ではNSAIDs起因性大腸病変の分析に際して他の薬剤の影響を考慮すべきことも示されている.山崎論文ではcollagenous colitisの集積例が詳細に分析されている.2009年の本誌の特集(44巻13号)以来,本症の最大症例数が解析され,PPI非内服例が少なくないこと,急性腹症を呈する症例があることが示されている.同じく本誌で特集(44巻2号)が組まれた疾患である腸間膜静脈硬化症は,近年漢方薬との関係が明らかとなった疾患である.清水論文では本症が漢方薬中止後に改善することが示されており,本症がまさに薬剤関連消化管疾患であることを証明する論文と言えよう.一方,従来からの抗菌薬関連消化管疾患のうち,原田論文において出血性大腸炎の遡及的検討結果が示されている.本症18例中14例でKlebsiella oxytocaが陽性であり,それらのうち5例ではペニシリン耐性菌も検出されている.Klebsiella oxytocaと抗菌薬関連出血性大腸炎の関係を支持する貴重なデータであるが,培養陽性例の診断に寄与する内視鏡所見がなかったことは残念である.最後に,主題症例としてアンジオテンシンII受容体拮抗薬による消化管病変が2例提示されている.大変貴重な症例報告であり,ぜひ一読いただきたい.

基本情報

05362180.51.4.jpg
胃と腸
51巻4号 (2016年4月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

文献閲覧数ランキング(
9月9日~9月15日
)