胃と腸 51巻3号 (2016年3月)

今月の主題 知っておきたいまれな大腸悪性腫瘍

序説

まれな大腸悪性腫瘍とは 二村 聡
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 日本人の大腸悪性腫瘍の大部分は,癌腫(carcinoma)である.そして,その組織型のほとんどが,腺癌(adenocarcinoma)である.これらの肉眼型は,進行癌ならば,潰瘍限局型(2型)が圧倒的に多い.これが,“ありふれた(common type)”大腸悪性腫瘍と考えることに疑問の余地はない.

 一方,実臨床では,まれに前述のありふれた群とは異なる肉眼型や組織型を示す癌腫や非上皮性悪性腫瘍に遭遇することがある.これらは,“特殊な(special type)”,もしくは,“まれな(uncommon type)”大腸悪性腫瘍と表現されるべきものであろう.なお,本特集のタイトル「知っておきたいまれな大腸悪性腫瘍」における,“まれ”には,“これまで本誌では特集が組まれなかった”あるいは,“今後,特集が組まれる可能性が極めて低い”という意味を持たせている.したがって,最近特集が組まれた,悪性リンパ腫(2014年増刊号),虫垂腫瘍(2014年4月号),低分化腺癌(2010年10月号)は,本特集の主題項目からあえて除いた.もちろん,鑑別対象として極めて重要であるから,必要に応じて解説されるであろう.この点を了承願いたい.

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要旨●まれな大腸癌として,びまん浸潤型大腸癌のうち,診断を行ううえで注意が必要な管腔狭小化を伴う5症例と粘膜内癌の範囲が狭い2症例を提示した.これら7例を発育浸潤様式の相違などから分類すると,lymphangiosis(LA)型,muconodular(MN)型,scirrhous(SC)型,inflammatory(IF)型,MN型+LA型の混合型,perineural invasion(PN)型とendocrine cell carcinomaであった.内視鏡検査で管腔狭窄を認めた場合,肛門側に上皮性腫瘍性の周堤がなければ,腫瘍性か炎症性かを総合的に診断する必要があるが,注腸X線造影検査を行えば,狭窄部のX線所見から鑑別診断と,びまん浸潤型における発育浸潤様式を診断することが可能であった.

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要旨●肛門管悪性腫瘍の臨床的特徴と治療方針について述べる.本邦では最も多いのは腺癌,粘液癌であり,続いて扁平上皮癌,痔瘻癌の順であった.腺癌の治療は下部直腸癌の治療方針に則って,リンパ節郭清を含めた手術が行われ,術前に化学放射線療法が選択されることもある.扁平上皮癌は通常の鉗子生検で診断され,治療は化学放射線療法が増えている.痔瘻癌は痔瘻からコロイド状の流出がみられた場合は要注意であり,積極的に麻酔下に瘻孔部の掻爬を行い,病理検査に提出する.悪性黒色腫は進展が早く,手術をしても予後不良である.乳房外Paget病とpagetoid spreadは治療と予後が異なる.

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要旨●びまん浸潤型(いわゆる4型)大腸癌と肛門管に発生した悪性腫瘍,大腸内分泌細胞癌の肉眼所見ならびに病理所見について,当院で診断した症例を提示しながら解説した.4型大腸癌は組織学的に癌性リンパ管症が目立つlymphangiosis(LA)型と,高度な線維性間質反応を伴うscirrhous(SC)型,粘液結節の豊富な粘液癌が腸管壁全層に浸潤増殖するmuconodular(MN)型,腫瘍先進部やその近傍に著明な慢性炎症細胞浸潤や小膿瘍を形成するinflammatory(IF)型の4型に分けて,それぞれの組織型に近いと考えられる症例を提示した.肛門管に発生した悪性腫瘍については,直腸型腺癌,pagetoid spreadした腺癌,Crohn病に合併した痔瘻癌,扁平上皮癌,悪性黒色腫の組織像を提示した.大腸内分泌細胞癌については自験例10例の臨床病理学的事項をまとめ,その組織像ならびに肉眼像を提示した.

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要旨●本邦におけるまれな大腸悪性腫瘍の現状を把握することを目的として,大腸癌研究会が実施している大腸癌全国登録に登録された症例の組織型と臨床病理学的因子および予後を調査した.1995〜2004年に登録された組織型が判明している全悪性腫瘍51,575例のうち非上皮性腫瘍は0.2%(117例)のみであり,上皮性腫瘍の中では高分化腺癌(45.7%)と中分化腺癌(45.3%)を併せたいわゆる分化型腺癌が大部分を占め,腺癌以外の悪性上皮性腫瘍は0.5%未満(246例)の頻度であった.これら登録件数が少ない腫瘍のうち,カルチノイドを含む内分泌腫瘍と類基底細胞癌を除く上皮性悪性腫瘍を対象として臨床病理学的特徴と予後を概観した.

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疫学

 一般的に大腸癌の多くは高分化・中分化腺癌で,限局性の発育形態を呈している.これに対して,その他の組織型の占める割合は本邦では1.9〜7.0%1)と少なく,なかでも大腸印環細胞癌は,0.2%〜1.2%2)とさらに低率である.男女比に有意差はなく,占居部位に関して右側結腸に多いとする報告もあるが,統一した見解は得られていない.また,他の組織型に比べて若年発症であることが特徴的とされている.

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疾患の概念

 大腸粘液癌は「大腸癌取扱い規約第7版補訂版」では,主として細胞外に多量の粘液を産生し,粘液の結節を形成する癌と定義され,高分化型と低分化型に大別されている1).明確な規定はないが,粘液結節が病変最大割面の半分以上を占めるものを粘液癌と呼ぶことが多い.

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疫学

 大腸内分泌細胞癌(endocrine cell carcinoma ; ECC)は原発性大腸癌の0.2〜1.1%とされており,まれな疾患である1).50〜70歳で好発し,男性に多い.特に発症のリスクファクターは知られていない.

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疫学

 大腸癌はその多くが腺癌であり,扁平上皮を有する腫瘍〔扁平上皮癌(squamous cell carcinoma ; SCC),腺扁平上皮癌(adenosquamous carcinoma ; ASC)〕は非常にまれとされ大腸悪性腫瘍全体の0.2%程度とされている1).扁平上皮癌は部位的には直腸・肛門管に発生することが多いが,結腸に発生する症例もある.肛門管は,恥骨直腸筋付近部上縁より肛門縁までの管状部であり(『大腸癌取扱い規約 第8版』2)),Herrmann lineより肛門側とされる(Fig.1).肛門管癌は大腸悪性腫瘍における頻度は0.7〜1.8%であり,組織学的には腺癌が70%程度,扁平上皮癌が18%程度であり,扁平上皮癌の頻度は結腸や直腸に比して極めて高い3)

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疾患の概念

 「大腸癌取扱い規約第7版補訂版」では大腸原発の腺扁平上皮癌について,同一の癌に腺癌と扁平上皮癌とが混在するもので,両者が領域を持って存在する場合と,混在する場合があると記載されている1).両者の比率については特に言及されていないが,WHO分類では扁平上皮癌成分が小胞巣の大きさ以上であるものとなっているが,山際ら2)は癌全体に占める扁平上皮癌の割合が40%以上のものを腺扁平上皮癌としている.組織発生については諸説あるが,腺癌の扁平上皮化生説が最も有力である.扁平上皮癌の腺癌と比べて増殖が速く,腺癌から扁平上皮癌が発生すると後者が急速に増大し病変の大部分を占めるようになると考えられている3)

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疫学

 全大腸癌研究会施設会員548施設による第59回大腸癌研究会アンケート調査報告1)によると,肛門部悪性腫瘍1,540例のうち痔瘻癌は106例(6.9%)であった.これらも含めて報告された痔瘻癌164例においては,男女比5.1:1,平均年齢は男性58.3歳,女性63.5歳であった.平均痔瘻罹患年数は18.8年であった(痔瘻罹患年数10年以下のものが60例にみられた).

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疫学

 高齢者の外陰部,肛囲,腋窩などに生じ,特に外陰部に好発する.欧米では女性に多いとされるが,本邦では男性に多い1).ただし,羞恥心から医療機関を受診しない女性が相当数いる可能性があり,正確な性差は不明である.原発性外陰部腫瘍に占める割合は約2%以下とまれで,それ以外の部位での頻度はさらに低い.

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疫学

 再発乳癌の剖検例では30%程度で消化管・腹膜播種が認められるが,生存中に症状が出て顕在化し,それらの転移が把握される頻度は数%程度と考えられる.2006〜2014年までの間に,当科で経験した術後再発乳癌のうち,臨床情報を検索しえた154例について初再発部位に注目すると,頻度の高い臓器は順に,骨46%(71例),肺および胸膜38%(58例),肝28%(43例)であり,消化管転移と判断された例は4%(6例)であった.全体の無病生存期間(disease-free survival ; DFS)が中央値29か月,全生存期間(overall survival ; OS)が中央値55か月であったのに対して,消化管初発転移の症例はDFS中央値53か月,OS中央値70か月と再発までの期間が長い傾向が認められた.

 乳癌の組織型は約90%を占める乳管癌と,小葉癌をはじめとするその他の10%に分けられるが,この小葉癌はE-カドヘリンが欠失し細胞間接着が特に弱いことを特徴としており,比較的消化管に転移しやすいことが知られている.しかし,再発のリスクが小葉癌で特に高いわけではなく,また小葉癌の転移先はあくまで乳管癌と同様に骨などの主要臓器が主体であり,消化管に必ず転移するわけではない.したがって,乳房原発巣手術時に将来の消化管転移を予測することは極めて困難である.一般的に年齢や閉経の有無などを含めたその他の臨床病理学的因子と消化管転移の関連は明らかではない.

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疫学

 転移性大腸腫瘍は全大腸腫瘍の0.1〜1%と報告されており1),その原発臓器に関して原岡ら2)は剖検資料による検討では,胃が19.90%と最も多く,次いで膵が11.23%,肺が7.52%,大腸が7.41%,卵巣が5.97%と続き,以下,肝・肝内胆管,胆囊,子宮頸部,膀胱,前立腺,子宮体部,食道,乳房,肝外胆管と報告している.また,二宮ら3)は転移率が高い悪性腫瘍の原発部位は,卵巣が30.5%,腹膜・腸間膜が25%,子宮体部が21.5%,虫垂が21%,子宮頸部が21%であり,大腸における転移先は横行結腸,S状結腸,直腸で80%と報告している.

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疫学

 悪性黒色腫(malignant melanoma)は,神経堤起源細胞でメラニン産生細胞であるメラノサイト(melanocyte)に由来する悪性腫瘍である.そのほとんどは皮膚に発生するが,その他メラノサイトが存在する口腔,鼻腔,食道,胃や大腸・肛門などの消化管の粘膜や目の脈絡膜,脳軟膜,脊髄膜にも発生する.本邦における悪性黒色腫の罹病率は1.12人/10万人とされており,欧米での発生頻度は本邦に比べて高く,さらに増加する傾向にあるとされている.

 原発部位別頻度をみると,消化管原発悪性黒色腫は,全悪性黒色腫の0.1〜2.5%と極めて少ない.本邦における消化管原発の悪性黒色腫は,1999年の嶋田ら1)による集計では,直腸肛門部300例,食道143例,小腸9例,結腸5例,胃2例で,海外の報告でも結腸原発悪性黒色腫は,全悪性黒色腫の0.4〜5.6%と極めて少ない.また,大腸悪性黒色腫の中では,歯状線を中心とした直腸肛門部に発生するものが最も多く(直腸肛門部は基底層にメラニン色素細胞を含む重層扁平上皮を持ち,悪性黒色腫の発生母地になると考えられている),結腸原発悪性黒色腫の約75%を占めると言われている.直腸肛門部原発悪性黒色腫は全肛門部悪性腫瘍の0.25〜3.9%である.直腸肛門部の悪性黒色腫は早期にリンパ行性,血行性転移を来しやすく,診断時既に70%の症例で転移を認めると言われている2)

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疫学

 悪性黒色腫の多くは皮膚に発生するが,消化管の中では食道と肛門直腸部が好発部位である.直腸肛門部に発生する頻度は全悪性黒色腫の0.4〜5.6%で,全肛門部悪性腫瘍の0.25〜1.25%と報告されている.発症年齢は50〜70歳代と中高年者に好発し,男女比は1:2で女性が多い.

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要旨●患者は60歳代,男性.心窩部不快感で施行した上部消化管内視鏡検査で,十二指腸球部前壁を中心に,上面から下面にわたる半周性で約30mm大の隆起性病変を認めた.病変は大小不同の顆粒が集簇した形態で,その周囲にはNBI観察で胃底腺に類似した表面構造を有する2〜3mm大の小隆起が散在し,これらは異所性胃粘膜と考えられた.幽門側胃切除術,十二指腸球部切除術が施行され,切除標本病理では,病変は一部粘膜下層に浸潤する胃型形質を有した低異型度高分化型腺癌で,周囲および,腫瘍内には非腫瘍性の異所性胃底腺粘膜が残存しており,さらに癌の一部では胃底腺への分化を認めた.以上より,本症例は,異所性胃粘膜由来の早期十二指腸癌と考えられた.

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欧文目次

「今月の症例」症例募集

第22回「白壁賞」論文募集

早期胃癌研究会 症例募集

学会・研究会ご案内

次号予告

編集後記 清水 誠治
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 今回,松田圭二先生,二村聡先生とともに企画を担当した.意図は序説に尽くされているが,網羅的というよりは従来本誌で扱われてきた疾患の間隙を埋めることを主眼にしている.「まれな」という言葉の意味は曖昧であるが,大腸悪性腫瘍では概ね肉眼型がまれな場合と組織型がまれな場合に分けられる.

 主題はいずれも読み応えがある.入口論文ではまれな肉眼型である4型大腸癌の美麗な画像提示とともに特徴的所見が解説されている.松田論文では肛門管悪性腫瘍の重点疾患を列挙し,それらの診断における陥穽とともに具体的な肛門診察法が述べられている.また,平橋論文では肉眼型,組織型がまれな疾患の病理診断について,まさに網羅的に解説されている.

基本情報

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胃と腸
51巻3号 (2016年3月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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