疫学
再発乳癌の剖検例では30%程度で消化管・腹膜播種が認められるが,生存中に症状が出て顕在化し,それらの転移が把握される頻度は数%程度と考えられる.2006〜2014年までの間に,当科で経験した術後再発乳癌のうち,臨床情報を検索しえた154例について初再発部位に注目すると,頻度の高い臓器は順に,骨46%(71例),肺および胸膜38%(58例),肝28%(43例)であり,消化管転移と判断された例は4%(6例)であった.全体の無病生存期間(disease-free survival ; DFS)が中央値29か月,全生存期間(overall survival ; OS)が中央値55か月であったのに対して,消化管初発転移の症例はDFS中央値53か月,OS中央値70か月と再発までの期間が長い傾向が認められた.
乳癌の組織型は約90%を占める乳管癌と,小葉癌をはじめとするその他の10%に分けられるが,この小葉癌はE-カドヘリンが欠失し細胞間接着が特に弱いことを特徴としており,比較的消化管に転移しやすいことが知られている.しかし,再発のリスクが小葉癌で特に高いわけではなく,また小葉癌の転移先はあくまで乳管癌と同様に骨などの主要臓器が主体であり,消化管に必ず転移するわけではない.したがって,乳房原発巣手術時に将来の消化管転移を予測することは極めて困難である.一般的に年齢や閉経の有無などを含めたその他の臨床病理学的因子と消化管転移の関連は明らかではない.