胃と腸 51巻2号 (2016年2月)

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要旨●食道腫瘍の大半は扁平上皮癌であり,その他の組織型の腫瘍/腫瘍様病変の頻度は総じて低い.本稿では,隆起を主体とするまれな上皮性病変として,verrucous carcinoma,腺癌,癌肉腫,神経内分泌腫瘍,神経内分泌細胞癌,腺様囊胞癌,悪性黒色腫,転移性腫瘍,食道腺腫,扁平上皮乳頭腫および炎症性ポリープを取り上げ,それぞれの特徴と鑑別すべき疾患を概説する.日常臨床で遭遇する機会は少ないが,報告例の特徴を記憶し,鑑別すべき疾患として念頭に置くことが,診断の一助になると思われる.

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症例の特徴

 頸部食道の異所性胃粘膜から発生した腺癌に対して,ESD(endoscopic submucosal dissection)を施行しえた症例である.

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症例の特徴

 数年来の嚥下困難感を主訴に,上部消化管内視鏡検査にて下部食道に長径15mm大の粘膜下腫瘍(submucosal tumor ; SMT)が認められ,頂部の窪みより粘液の流出がみられた.診断目的と本人の強い希望から内視鏡的粘膜下層剝離術(endoscopic submucosal dissection ; ESD)が施行され,病理組織学的には食道腺の過形成と考えられた.

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要旨●隆起を主体とする非上皮性病変の多くは良性疾患である.2009〜2015年の7年間に,EUSあるいは組織学的に診断しえた自験非上皮性病変は39例であり,内訳は,平滑筋腫25例〔64.1%(含,扁平上皮癌合併3例,異型上皮合併1例)〕,顆粒細胞腫6例(15.4%),GISTと神経鞘腫,脂肪腫が各2例(5.1%),リンパ管腫と血管腫が各1例(2.6%)であった.非上皮性腫瘍発見時は,存在部位,大きさ,形状,色調,硬さ,表面性状,陥凹や潰瘍形成の有無,可動性などを観察し,隆起の形状,硬さ,色調,存在部位などを参考に鑑別診断を行う.しかし,GIST,平滑筋腫,神経鞘腫の鑑別には,免疫組織化学的検査が必要であり,KIT陽性ならGIST,KIT陰性でデスミン陽性なら平滑筋腫,KIT陰性でS-100蛋白陽性なら神経鞘腫である.大きさ,表面性状,陥凹や潰瘍形成の有無は,悪性疾患との鑑別に重要な要素であり,大きさ3cm以上,表面不整で陥凹や潰瘍を有する,あるいは,急速に増大してくるものは,悪性の可能性が高いため,速やかに質的診断を行い,治療戦略を立てる.

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症例の特徴

 胸部中部食道に粘膜のひきつれや結節集簇様変化を伴う粘膜下腫瘍(submucosal tumor ; SMT)様隆起を認めた.悪性病変を疑い複数回の生検を行った結果,平滑筋肉腫を疑う所見が得られ外科的切除を施行した.病理学的所見はleiomyosarcoma,low grade malignancyの診断であった.本症例は病理組織学的にも良悪性の鑑別に難渋した低悪性度の平滑筋肉腫であった.平滑筋腫と平滑筋肉腫には臨床的,病理組織学的にも良悪性の鑑別が困難である症例が存在し,転移の出現にて初めて肉腫の診断に至る場合もあるため,注意を要する2)

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症例の特徴

 60歳代,男性.嚥下時のつかえ感を自覚したため,EGD(esophagogastroduodenoscopy)を施行したところ,上部食道に,表面平滑な隆起性病変を長軸方向に数条認め,巨木様隆起を呈していた.下部食道に進むにつれ,さらに内腔を占居していたが,スコープは通過可能であった.反転観察像にて,病変は噴門部にまで進展していた.ヨード染色にて隆起部は染まっており,表層は非腫瘍で覆われていた.超音波内視鏡検査(endoscopic ultrasonography ; EUS)にて,高エコーと低エコーが混在した腫瘤を2/5〜3/5層に認めた.ボーリング生検にて,小型〜中型で核異型の乏しいリンパ球類似細胞の集簇を認めた.免疫組織化学染色像では,CD3陰性,CD5陰性,CD20陽性,Bcl-2陽性,cyclin D1陰性,Ki-67 label index 16%であり,MALT(mucosa-associated lymphoid tissue)リンパ腫と診断した1)

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要旨●びらん・潰瘍・陥凹を呈するまれな食道病変のうち代表的な疾患について概説した.比較的大きな病変を呈するサイトメガロウイルス(CMV)感染症と腸管Behçet病では,辺縁隆起を伴う打ち抜き潰瘍を示し,食道結核では粘膜下腫瘍様の周堤を伴うことが特徴であった.Crohn病は多発するアフタないし小型の潰瘍性病変が多いが,縦列傾向などの配列に留意する必要がある.ヘルペス(HSV)食道炎は多発病変で多くは数mmから2cm以内の浅い潰瘍であるが,小潰瘍から癒合傾向のあるものまでさまざまな形態を呈する.食道壁内偽憩室症は粘膜に多発する円形から類円形の小孔を呈するが,カンジダ症に合併することが多く,白苔に覆われた粘膜面の十分な洗浄が観察には必要である.

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症例の特徴

 口腔・咽頭・食道の粘膜病変を主とする症例が存在し,食道における特徴は,潰瘍・びらん・瘢痕・狭窄,擦過による上皮剝離(Nikolsky現象)である1).本症例は経口摂取困難にて内視鏡精査を施行された.

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症例の特徴

 既往歴:アルコール性肝硬変,心筋症,食道癌.

 現病歴:2004年に食道癌に対して前医にて内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection ; EMR)を施行していた.以後,年1回程度の内視鏡による経過観察を行っていた.2013年の内視鏡検査で中部食道に上皮内癌が指摘されたため,当科へ紹介され受診となり,アルゴンプラズマ凝固法を行った.治療後は約半年ごとに内視鏡検査による経過観察を行っていたが,2015年6月の内視鏡検査で下部食道の憩室内に病変が指摘された.

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要旨●食道狭窄は種々の要因により発症し,通常は“悪性狭窄と良性狭窄”または“機能的狭窄と器質的狭窄”に分類されることが多い.悪性狭窄では食道癌によることが最も多いが,肺癌や乳癌の食道転移や縦隔リンパ節転移また食道浸潤による狭窄例もある.良性狭窄には逆流性食道炎,腐食性食道炎,内視鏡治療後の狭窄などの器質的狭窄と,食道アカラシアを代表とする各種の食道運動機能障害による機能的狭窄が挙げられる.その他,食道webや先天性食道狭窄症もある.これら食道狭窄に対しては,まず内視鏡検査,X線造影検査が先に行われるが,確定診断には総合的なアプローチが要求される.

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症例の特徴

 蠕動低下による食道拡張を認めた.また,下部食道括約筋圧の低下と長軸方向の相対的短縮により食道裂孔ヘルニアを伴っていた.このため重度の逆流性食道炎を合併し,食道胃接合部(esophagogastric junction ; EGJ)のすぐ口側に潰瘍形成による管腔狭小化を認めた.

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症例の特徴

 臨床症状(主に座位になると出現するつかえ感,胸部から頸部に放散するような絞扼感),内視鏡所見から,食道運動機能障害を疑い,食道内圧検査で,びまん性食道痙攣症と診断基準1)に基づき確定診断した.内服治療で症状の改善が得られなかったため,経口内視鏡的筋層切開術(peroral endoscopic myotomy ; POEM)を行った2)3).治療後は術前の症状が消失し,QOL(quality of life)の改善が得られた.

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要旨●さまざまな色調を示す病変が食道には存在する.verrucous carcinomaと錯角化の強い扁平上皮癌(squamous cell carcinoma ; SCC)は白色調を呈するが,前者はカリフラワー状の外観を呈することが鑑別に重要である.食道皮脂腺と食道黄色腫は黄色調を呈する.拡大観察を行うと前者では頂部に白色の小突起が,後者では上皮乳頭の配列に沿って微細な黄白色顆粒の集簇が観察され鑑別可能となる.食道メラノーシスと悪性黒色腫は黒色調を呈するが,初期の悪性黒色腫の場合には両者を内視鏡所見で鑑別するのは困難である.前者の経過観察中に隆起してきた場合には後者を疑う必要がある.化膿性肉芽腫は赤色調を呈する.表面に特徴的な白苔を伴っていれば診断は容易である.

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症例の特徴

 verrucous carcinomaは1948年にAckerman1)によって報告された白色調隆起性病変を形態学的特徴とする,予後のよい角化の強い高分化型扁平上皮癌である.発生部位は頭頸部,口腔,皮膚,生殖器,子宮などにみられるが,食道はまれである2)

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症例の特徴

 歯茎に白色調の扁平隆起が多発していた1).通常光観察(white light imaging)にて食道全体に白色調で境界明瞭な扁平隆起を無数に認めた.表面平滑で大小不同があり,サイズは数mm程度であった.ヨード染色にて病変は濃染した.NBI(narrow band imaging)観察では境界明瞭な白色調の隆起であった.

 白色扁平隆起の生検にて,扁平上皮の過形成であった.

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症例の特徴

 基礎疾患はなく,Helicobacter pylori感染症は認められなかった.飲酒した翌朝より突然の胸痛を主訴に来院し,上部消化管内視鏡検査を施行した.絶食,補液,PPI(proton pump inhibitor)で加療した.3週間後には一部を除いて上皮化した.

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症例の特徴

 内視鏡所見と生検病理所見では悪性黒色腫の確定診断が困難で,診断目的に内視鏡的粘膜下層剝離術(endoscopic submucosal dissection ; ESD)を施行し,悪性黒色腫と確定診断され,追加外科切除を施行した.

序説

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はじめに

 「まれな食道疾患の鑑別診断」が本誌の特集に取り上げられた.長年食道学に従事している者として,大変喜ばしく思っている.本特集が,臨床の場で珍しい病変に遭遇したときに“そういえば「胃と腸」にまれな食道疾患の特集があったな”と本棚から引き出していただけるものとなれば幸いである.

 “まれな食道疾患”について,本誌で取り上げられたのは第43巻第3号(2008年3月)の特集「まれな食道良性腫瘍および腫瘍様病変」1)である.第52回日本食道疾患研究会当番世話人の小泉博義による「食道疾患レアケース・アトラス」2)や,「胃と腸アトラスI上部消化管第1版,第2版」3)4)にもまれな食道疾患が収載されている.本誌第50巻第2号(2015年2月)の特集「食道のびらん・潰瘍性病変」5),あるいは「消化器内視鏡」第26巻第10号(2014年10月)6)も参考となる.

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要旨●患者は60歳代,男性.スクリーニング目的に施行された上部消化管内視鏡検査にて,胃体上部小彎後壁に7mm大の隆起性病変を認めた.拡大内視鏡では高分化管状腺癌に矛盾しない所見であったため,内視鏡的粘膜下層剝離術を施行した.病理組織学的所見では,隆起の主体は胃底腺の過形成から成っていたが,その表層上皮の一部は核腫大を認め,高分化管状腺癌であった.同部は免疫染色では胃型の粘液形質で,β-catenin染色では核内発現細胞が散見された.通常のHelicobacter pylori感染に関連した発癌とは異なり,胃底腺の過形成を背景に癌が発生した可能性が示唆された.

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要旨●患者は60歳代,女性.虫垂炎症状の既往があり,便潜血陽性にて大腸内視鏡検査を施行したところ,虫垂開口部に短い茎を有する2cm大の軟らかな隆起性病変を認めた.腫瘤の表面には,分葉の間の溝に厚い粘液が貯留しており,梅干し状と形容される特異な肉眼形態を示していた.拡大観察では,類円形,楕円形,星芒状の多彩なpitが観察され,腫瘍・非腫瘍の鑑別が困難な病変であった.組織学的には,樹枝状に分岐した粘膜筋板を軸に均一な分葉構造を示し,非腫瘍性の過形成性大腸腺管の増殖を認め,Peutz-Jeghers型ポリープの像であった.

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欧文目次

「今月の症例」症例募集

早期胃癌研究会 症例募集

第22回「白壁賞」論文募集

学会・研究会ご案内

次号予告

編集後記 八尾 隆史
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 日常の診療において遭遇した病変を鑑別していく際には,それらのすべての特徴を熟知しておくのが理想的であるが,まれな疾患に関しては各人が直接経験する数は特に少ないため,教科書や文献などで学んだ知識を生かして対応していくしかない.

 実際の鑑別診断のプロセスとしては,発見された病変のそれぞれの形態別に部位や頻度に加え,患者の年齢・性,基礎疾患など臨床的背景を考慮しながら鑑別すべき疾患を想定して,内視鏡による細かい形態や表面構造などの観察,そして鑑別診断に有用となる種々の検査の施行,さらには生検による病理組織診断を総合して行うことになる.これまで「胃と腸」誌において,ほとんどの食道疾患はなんらかの形で掲載されてきたが,このような日常の診断プロセスに基づいて編集した特集号はなかったと思われる.

基本情報

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胃と腸
51巻2号 (2016年2月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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