胃と腸 50巻8号 (2015年7月)

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はじめに

 刺激的なタイトルに誘われて,本誌を手にとった読者もおられることと思う.胃がん検診はわが国のがん検診の先駆けとして1960年代に開始された.この時期,国際的にみても他臓器を含めてがん検診は実施されておらず,“世界初”というパイオニア的な意味合いを有していた.二重造影という優れた技術が開発され,早期胃癌分類が提唱され,それらが普及し始めていたことにより胃がん検診は全国に拡大することに成功した.しかし,わが国と同程度かそれ以上に胃癌有病率が高い中南米や東アジア諸国にX線造影検査を用いた胃がん検診が広まることはなく,いわゆる「ガラパゴス化」はここでも起こっている.乳癌,大腸癌,子宮頸癌などのように死亡率減少のエビデンスを有するがん検診においては欧米諸国の受診率はわが国よりはるかに高く,がん検診すべてが後塵を拝している状況であり,発展途上国並みと蔑まれても仕方がない.ここにきて,胃がん検診が将来的に継続するか否かに関して疑問が投げかけられている.第一にはX線造影検査というスクリーニング手法に関する問題であり,今ひとつは若年者におけるHelicobacter pylori(H. pylori)感染率の低下である.

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要旨●診療ガイドラインは“推奨”を含み,“系統的レビュー”による“利益と不利益の評価”に基づいて決定されなければならない.この際,対象とする検診が普及しているか否かは,判断基準には入らない.わが国では,厚生労働省研究班による検診有効性ガイドラインにより,予防指針につながる仕組みが構築されている.ただし,複数の機関が同一の課題についてガイドラインを作成し,推奨の結果が各ガイドラインで食い違う場合もあるため,作成されたガイドラインの質を一定の基準で吟味したうえで,比較検討する必要がある.

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要旨●胃癌罹患率が減少することが予想されるなか,胃がん検診の必要性を利益・不利益の比較衡量という点から検討した.「有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン2014年度版」に基づき,利益にはNNS(number needed to screen)<1,000人,不利益にはNNR(number needed to recall)>100人を用いた.NNS,NNRの将来試算には,性・年齢階級別の胃癌死亡率の将来推計値および,シナリオとしていくつかの胃がん検診の死亡率減少効果,要精検率を用いた.結果として,本稿で用いた基準からみれば,2025年あたりまでは,死亡率減少効果が高い(相対リスク<0.6〜0.7)の検診であれば,広い年齢層に対して有効という結果であり,死亡率の減少はあまり影響しないということがわかった.

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要旨●対策型検診とは,死亡率低下効果が科学的に証明されたスクリーニング方法で,対象集団全体の胃癌による死亡を減少させることを目的に実施される公的がん対策である.これまで対策型としては胃X線検診が推奨されてきた.しかし,受診率の低迷,読影医不足,受診者志向の変化など,現行の対策型胃X線検診がさまざまな問題を抱え,機能不全に陥っていることは否めない.これからの胃がん対策には胃癌リスク評価や除菌治療による予防ならびに除菌後の胃がん対策など,H. pylori感染を基軸とした新たな視点が必要である.こうした時代のニーズに合わせて,胃X線造影像の読影にH. pylori感染診断を取り入れたり,H. pylori除菌治療に関する情報提供を行ったりするなどして,胃X線検診もそのあり方を再構築すべきと考える.

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要旨●胃X線検診の画像精度と検診受診歴の検討結果をもとに,その現状と展望を考察した.当院の胃X線検診から発見された81病変について,検診X線像での描出率と臨床病理学的所見を遡及的に検討すると,良好に描出される胃癌は最大腫瘍径が2cm以上,もしくは,深達度では粘膜下層より深部の病変であることが明らかになった.また発見胃癌を過去の受診歴から逐年検診群と初回検診群に二分すると,逐年検診群での早期癌率が比較的高い傾向がみられた.これらの結果から胃X線検診は救命可能な粘膜下層癌の拾い上げができる画像精度を有している点と,逐年検診が初回X線検査で見逃した癌に対するセーフティーネットの役目と同時に,早期癌発見率の向上に寄与することが推測された.一方で,胃癌罹患率の低下が進む若年者に対してこれまで通りの検診プログラムではその有効性を保つことが難しくなってきている.若年者の胃がん検診には,胃癌発生のkey factorであるHelicobacter pyloriの感染状況を踏まえて胃癌の高リスク群を設定し,そのうえで画像診断法を組み合わせることが必要と考えられた.

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要旨●2005年度版の有効性評価に基づく胃がん検診ガイドラインでは,内視鏡による胃がん検診は対策型として推奨されなかった.しかしながら,新潟市ではエビデンスを出すべく,2003年から胃癌の個別検診において内視鏡検診を実施し,症例の集積ならびにそれらの解析を行ってきた.新潟県地域がん登録データとの照合による解析で,内視鏡検診でも死亡率減少効果のエビデンスが得られた.他のエビデンスも加味し,改訂された2014年度版のガイドラインでは,内視鏡検診が対策型として新たに推奨された.この改訂を契機に,今後多くの自治体で対策型の胃がん内視鏡検診が始まると思われるが,その成否を決めるものは精度管理に尽きると言っても過言ではない.

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要旨●胃がん内視鏡検診において,経鼻内視鏡検査は良好な受容性により任意型検診,対策型検診とも増加傾向にある.ただし検診として多数例を検査するためには,効率のよい前処置の工夫など検査までの時間短縮が必要である.近年,経鼻内視鏡の仕様は経口内視鏡と同等に近づきつつあり,胃がん検診成績も経口内視鏡同様良好であるが,経鼻内視鏡検診における偽陰性を減らすためには,経鼻内視鏡の特性を考慮した丁寧な近接観察や連続性のある記録,ダブルチェック,画像カンファレンスなどの精度管理が必要である.今後は,胃がん検診受診率向上のためにも内視鏡検診に積極的に経鼻内視鏡を導入すべきと考えられる.

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要旨●長期観察研究の結果,個人の胃癌リスクが血清ペプシノゲンおよびH. pylori 抗体価を組み合わせることで非侵襲的に診断可能であることが示されている.検診受診率および精度向上,そして効率化を目的に,本リスク診断のがん検診への導入が検討されている.いわゆる“ABC検診”であるが,理論的には,高リスク群のスクリーニング対象への選別,低リスク群の除外を目指す画期的な方式とされている.しかし,基盤となる科学的データは十分ではなく,診断システムではH. pylori感染診断,PG値による胃炎診断に問題があり,未分化癌に対する把握にも課題を抱えている.検診現場への導入以前に慎重かつ十分な検討が求められる.

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要旨●“画質の三角”に基づく胃X線撮影法の習得方法を提案する.標的部位を考慮した画像精度指標として(1)造影効果,(2)描出範囲,(3)ポジショニングを設定した.これらを“画質の三角”とし,すべて適切な状態で撮影することを到達目標とした.(1)まず,造影効果良好な画像を得ることを基本とし,基準撮影法を習得する.(2)基準撮影法に習熟した段階で,描出範囲をできるだけ広くする撮影を心がけ,応用手技の十二指腸流出防止法を習得する.(3)さらに,標的部位を最適に現すポジショニングを行い,特に撮影の難しい前壁撮影ではバスタオルのり巻き法を習得する.習得に当たっては,難易度を考慮しながら基本から応用へと段階的に行うことが推奨される.

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要旨●当院では2008年より世界初の経鼻内視鏡専用検診車を利用して,さまざまな事業所への出張内視鏡検診を行っている.楽で安全,受けやすく,かつ精度の高い経鼻内視鏡検診にて早期癌が発見され,低侵襲な内視鏡治療にて根治せしめる時代の到来である.

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要旨●患者は80歳代,男性.検診の上部消化管X線造影検査で異常を指摘され近医を受診し,上部消化管内視鏡検査を施行された.胃前庭部に腫瘍性病変を指摘され,生検で中分化型腺癌が検出されたため,精査目的で当院へ紹介となった.上部消化管内視鏡検査では,胃前庭部小彎に,健常粘膜に覆われた立ち上がりがなだらかな粘膜下腫瘍様の周囲隆起を伴う,不整な陥凹性病変を認めた.超音波内視鏡検査では,第2層は比較的低エコーで,下方に凸の形態を示し,第3層には境界明瞭な低エコー腫瘤を認め,第2層との境界は不明瞭だった.診断的治療を目的として,内視鏡的粘膜下層剝離術を施行した.病理組織学的には,0-IIc型,carcinoma with lymphoid stroma,pT1b2(SM2),ly(+),v(−)であり,追加治療として腹腔鏡下幽門側胃切除術が行われた.局所遺残はなかったが,リンパ節転移を認めた.EBV(Epstein-Barr virus)の関連は認められなかった.

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はじめに

 1990年に渡辺ら1)は炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease ; IBD)の肉眼的鑑別方法について,まず6群の基本肉眼型((1)縦走潰瘍型,(2)輪状潰瘍型,(3)円・卵円潰瘍型,(4)玉石状所見・炎症性ポリープ型,(5)浮腫・充血・出血・びらん型,(6)腫瘍様多発隆起型)のどれに属するかを分類するとした(Table 1).次いで基本病変の肉眼的特徴,すなわち基本病変の辺縁の性状と深さ,周囲粘膜の発赤や浮腫の有無や炎症性ポリープの有無,などで鑑別するとしている.最終的に,この2つに組織学的所見を加えることでIBDの鑑別診断は確実になると述べている.基本肉眼型を6つに分類したが,これらの肉眼型が重複する場合は,原則として上の順位の肉眼型に含めるとしている.

 今回,渡辺の基本肉眼型において上位に位置する重要な肉眼型である縦走潰瘍と輪状潰瘍の内視鏡的鑑別診断について,頻度別に分類して述べる.本稿では感染性腸炎などの手術されない症例を多く含んでいることや,最近の25年間に認知された新しい疾患を含めていることが,渡辺論文との相違点である.また,内視鏡観察は手術標本の肉眼観察に比べて詳細な観察が可能であるため,渡辺論文と若干異なる点もみられる.

早期胃癌研究会

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 2015年3月の早期胃癌研究会は2015年3月18日(水)に笹川記念会館2F国際会議場で開催された.司会は長浜(千葉徳洲会病院消化器内科内視鏡センター)と松本(岩手医科大学医学部内科学講座消化器内科消化管分野),病理は菅井(岩手医科大学医学部病理診断学講座)が担当した.また,「早期胃癌研究会2014年最優秀症例賞」の表彰式が行われ,受賞者の南風病院消化器内科・松田彰郎氏による症例解説が行われた.

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欧文目次

「今月の症例」症例募集

早期胃癌研究会 症例募集

学会・研究会ご案内

次号予告

編集後記 長浜 隆司
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 今回「胃がん検診に未来はあるのか」との少々過激なテーマでの特集を細川治,小野裕之,長浜隆司の3人で企画した.

 2015年3月に「有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン2014年度版」が発行されたが当初のドラフト案では内視鏡による胃がん検診は対策型として推奨されなかった.その後,内視鏡検診でも死亡率減少効果のエビデンスが得られてきたことから最終版では内視鏡検診が対策型として新たに推奨された.企画当初はガイドラインで内視鏡検診が対策型,任意型ともに推奨されなかったため,臨床の先生方からは“地域によっては内視鏡検診にほぼ移行し発見率が高く早期胃癌比率の高い内視鏡検診がなぜ推奨されないのか”といった疑問が寄せられたが,そのあたりの疑問を払拭すべくガイドライン作成委員会委員長でもある祖父江はガイドラインの考え方について概説した.ガイドラインでは系統的レビューによる利益と不利益に基づいて決定されるもので,この際対象とする検診が普及しているか否か,また感度の高い検診方法が必ずしも選ばれるわけではなく,推奨の内容が普及の程度と大きく乖離し,受け入れがたい場合もありえ,そのような場合にこそガイドラインが本来果たすべき役割があると考えられると述べた.

基本情報

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胃と腸
50巻8号 (2015年7月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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