はじめに
慢性炎症性腸病変の臨床像は多彩である.病変は腸管に広く分布し,自然経過,あるいは治療修飾により短期間に肉眼所見や病理組織学的所見が変化する.また,病態として(1)狭義の炎症性腸疾患,(2)感染性疾患,(3)薬剤関連腸病変,(4)膠原病,アレルギー性疾患,血管炎症候群,免疫異常,代謝性疾患などを背景とした病変などが含まれている.従って,これらを鑑別するためには,腸病変の特徴のみならず臨床経過,種々の臨床検査成績などを総合的に判断する必要がある.一方,近年では小腸内視鏡検査により,小腸炎症性疾患の内視鏡観察や病理組織学的検討が容易となり,小腸病変が臨床診断に大きく寄与しているのも事実である.
“診断困難な炎症性腸疾患”は2種類に大別できる.ひとつは,狭義の炎症性腸疾患であるCrohn病(Crohn's disease;CD),潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis;UC)および腸管Behçet病(intestinal Behçet's disease;IBD)の鑑別に難渋する場合(indeterminate colitis:IC)であり,もう一方は診断名を想起しなければ診断できないような希少な炎症性腸病変である.