胃と腸 48巻11号 (2013年10月)

今月の主題 組織混在型粘膜内胃癌の診断

序説

組織混在型早期胃癌 九嶋 亮治
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はじめに

 胃癌は,腺管形成傾向が明瞭な分化型癌と腫瘍細胞がバラバラに増殖する未分化型癌に大別される.基本的には,管状腺癌(tub)と乳頭腺癌(pap)が分化型癌,低分化腺癌(por)と印環細胞癌(sig)が未分化型癌に対応するが(「胃癌治療ガイドライン」では粘液癌も未分化型に含められている)1)2),胃癌の多くはこれらが複雑に混在している.分化型癌でも,tubとpapで特性が異なることが指摘されている.ガイドラインのエビデンスを示した論文3)で言う“分化型癌”とは,“純粋な分化型”を指すのか,あるいは“分化型が優位なもの”を指すのか理解されていないことが多く,また“分化型と未分化型に再現性をもって線を引くことができるのか?”“同じ領域で混じり合っていたらどうするのか?”“何をもってpapとするのか?”“小さな生検で腫瘍の全体の組織像がわかるのか?”などのいまさら聞けないような疑問が残されたまま,早期胃癌の内視鏡治療が進められている状況である.

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要旨 分化型・未分化型の組織型混在のみならず,粘膜内の腫瘍で規約上の組織型が混在する組織混在型早期胃癌の病理学的特徴について検討した.主組織型が分化型癌である組織混在型癌は,単一組織型から成る純粋型癌と比較して,副組織型が分化型,未分化型に限らず,深達度などが進行した症例が多く,リンパ節転移率が高かった.今回の組織型基準を用いて導かれたリンパ節転移のない粘膜内癌の条件は,大きさおよび潰瘍の有無を限定しない分化型純粋型と潰瘍のない未分化型純粋型癌症例であった.組織混在型は副組織型の種類に限らず,ガイドライン上の内視鏡切除基準よりも厳しい条件でもリンパ節転移を有する症例を認め,組織混在型を含めた内視鏡治療適応基準を作成する必要があると考えられた.

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要旨 早期胃癌1,318病変中,混在型癌は404病変(30.7%)であった.癌が進行するに従い,混在型癌の頻度は増加する傾向が認められた.混在型癌はM領域,前後壁に位置する頻度が高く,肉眼型は陥凹型が大多数を占めた.混在型癌は分化型癌および未分化型癌に比して,癌巣内潰瘍の合併率,早期胃癌におけるSM癌の割合,随伴IIb型癌合併頻度のいずれもが有意に高頻度であった(p<0.05).SM癌においては,混在型癌のリンパ節転移率は分化型癌および未分化型癌に比して有意に高かった(p<0.05).混在型癌は,非分離型(86.4%)と分離型(13.6%)に分類可能で,非分離型混在型癌はtub2とporにより構成されている頻度が高かった.非分離型混在型癌のマクロ的特徴は,褪色と胃小区不明瞭化・消失であった.分離型混在型癌は辺縁部に分化型癌,中央部に未分化型癌が配置する場合が多かった.

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要旨 外科切除された胃粘膜内癌604例を分化型腺癌と未分化型腺癌の組織混在パターンにより4つに分類し,その病理組織学的特徴について検討した.純分化型に比べて分化型優位混在型,純未分化型に比べて未分化型優位混在型は,それぞれリンパ節転移頻度が有意に高率であった.また,現行のガイドラインから非治癒切除として取り扱うこととなった“30mm以下のUL(+)の分化型pT1a(M)で未分化型成分を有するもの”に関しては,多施設調査にて後向き研究であるが,リンパ節転移リスクが限りなく低く(0/370),治癒切除として経過観察してもよい可能性が示唆された.

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要旨 2008年4月~2013年3月までの5年間に,当センターで経験した早期胃癌617例683病変を組織型別に分類すると,分化型 : 354,組織混在型 : 186(分化型>未分化型 : 130,未分化型>分化型 : 56),未分化型 : 143であった.腫瘍径が21mm以上で組織混在率は高率となり,組織混在型の肉眼型は,陥凹型が92%を占めていたことから,陥凹型のX線造影像について,陥凹内部と辺縁境界の所見を組織像と対比して検討した.X線像の特徴は,優勢な組織像の肉眼型を示すことが多く,混在する組織の量や発育進展の相違によっても異なっていたが,純粋な分化型に比較して,分化型>未分化型では,辺縁隆起が目立たず,陥凹辺縁の形態は棘状を呈する病変は少なく,境界不明瞭であった.未分化型>分化型では,純粋な未分化型と比較して,陥凹面のバリウム斑は淡く,陥凹境界は不明瞭であった.分化型>未分化型,未分化型>分化型ともに,陥凹辺縁でtub2,por,sigが粘膜内を進展した場合,境界が不明瞭となることから,特に範囲診断に注意が必要であった.組織混在型胃癌に対して,X線検査では,組織型診断だけではなく範囲診断を正確に行うためには,空気量とバリウム量を変えて,二重造影法を駆使して撮影することが重要である.

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要旨 当センターの組織混在型早期胃癌と純粋型の分化型・未分化型早期胃癌の通常内視鏡像を比較し,組織混在型早期胃癌の通常内視鏡観察における特徴を検討した.872症例,1,047病変を検討した結果,純粋分化型と比較し,混在型は“M領域に位置する”,“萎縮境界もしくは非萎縮領域に位置する”,“0-IIc型である”,“20mm以上である”,“潰瘍瘢痕を伴う”,“SMに浸潤している”傾向を示した.また,純粋未分化型と比較して,混在型は,“萎縮領域に位置する”,“発赤調である”,“SMに浸潤している”傾向にあった.術前に分化型癌と診断しても,萎縮境界付近に位置する褪色調の陥凹性病変で,20mmを超える病変や,潰瘍瘢痕を有する病変は,未分化型成分が混在している組織混在型早期胃癌の可能性があり,SM浸潤の可能性も含め十分な注意が必要である.

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要旨 管状腺癌(tub),乳頭腺癌(pap),未分化型癌(por)をそれぞれ独立した組織型とし,2つ以上の組織型が混在した早期胃癌を組織混在型早期胃癌としてその拡大内視鏡像を検討した.pap成分は球状粘膜模様の中にloop状血管が観察される拡大像が典型であった.しかし,その拡大像と乳頭状構造を呈するtubとの鑑別が困難でpap+tub混在癌の診断は難しい病変が多かった.por成分が混在する病変では,por成分が表層上皮直下に存在する場合はporに特徴的な血管像が観察できたが,粘膜中層以深でtubからporに移行する病変ではpor成分を診断することは困難であった.組織混在型早期胃癌は組織単独型に比し,組織構造が複雑で拡大内視鏡による組織診断が困難な傾向を認めた.

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要旨 2012年1月~2月までの間に,ESDを施行した胃癌172例182病変を対象とし,肉眼系別に組織型と内視鏡所見の相関を検討した.主肉眼型は0-I型 : 9,0-IIa型 : 67,0-IIb型 : 7,0-IIc型 : 99病変であった.組織型はtub1,tub2,papを分化型,por,sig,mucを未分化型とし,純粋分化型,純粋未分化型,混在型の3群に分けた.また,混在型を分化混在型と未分化混在型に二分した.0-I型癌9病変中,2病変に未分化型癌の混在を認めた.2病変ともpap成分を有する0-I型癌であり,pap成分を有する0-I型癌は未分化混在を念頭に置く必要があると推察された.0-IIa型癌67病変中,18病変が混在型であり,このうち4病変が未分化混在型であった.腫瘍径が30mmを超えると,分化混在型や未分化混在型の頻度が増加していた.0-IIb型癌7病変中,1病変が分化混在型であったが,未分化型混在型は認められなかった.0-IIc型癌99病変中,42病変に混在型が認められ,17病変が未分化混在型であった.腫瘍径とともに分化混在型や未分化混在型の頻度が増加し,特に30mmを超えると,50%が未分化混在型であった.また,大きさにかかわらず,未分化混在型はすべてtub2成分を有していた.拡大内視鏡観察にて,表面構造の不明瞭化や,non-network血管が観察された場合は,未分化混在型の術前診断が可能であった.しかし,大きな病変全体を拡大観察することは困難であり,拡大内視鏡による組織混在型癌の診断には課題が残された.

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はじめに

小山 皆さま,お忙しい中お集まりいただきまして,ありがとうございます.

 本号の特集は,小野先生,九嶋先生と私とで企画させていただきました.組織混在型早期胃癌は,その定義・診断法・治療の適応など,十分な知見に乏しく,臨床家はさまざまな対応を取らざるを得ない現状があります.そこで,各施設の現状,考え方について十分に議論していただきたく,“組織混在型早期胃癌の取り扱い”をテーマに座談会を企画しました.

 まず,お伺いしたいことは,“組織混在型は悪性度が高いのか?”について,次に,X線・内視鏡の立場から“組織混在型胃癌の術前診断のコツ”について,そして最後に,ESD(endoscopic submucosal dissection)の結果,組織混在型だとわかったときに,“追加治療をどうすべきか”について討論したいと思います.

 病理に関しては,九嶋先生からお願いします.

九嶋 病理学的な観点から組織混在型胃癌について述べますと,ご存じのように,胃癌は分化型と未分化型に大別されます.組織学的に多様性が強いのが特徴であり,同じ分化型でも管状腺癌(tub)とか,未分化型でもきれいな層構造があるような印環細胞癌(sig)と,そうではない低分化腺癌(por)で特性が異なるとされます.さらに,一般的に分化型のまま経過していく場合もあれば,時間経過とともに未分化型へ変化していく場合もあります.

 このような観点から,組織混在型胃癌というのは,後者の分化型が時間経過とともに未分化型へ変化していくものと,同じ分化型でもtubと乳頭腺癌(pap)が混じっているものが,内視鏡切除時にどのようになっているか,またどのように取り扱われるべきか,ということを討論していただければと思います.

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要旨 本邦14例目となる,極めてまれな食道リンパ管腫の1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.患者は43歳,男性.下部食道に,周囲と同色調で,全体に透亮感があり軟らかい,縦走する2条の隆起性病変を認めた.NBI併用拡大内視鏡も含めた詳細観察により,表面粘膜の透明化領域の散在,その部分でのヨード不染化,透明化した粘膜領域の表層およびその深部の血管所見など,既報告にはない興味深い所見がみられ,病理組織所見との対比を含めて提示した.

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要旨 患者は30歳代,女性.主訴は粘血便.直腸に多発する半球状小隆起があり,生検にてリンパ濾胞の過形成を認めた.クラミジア直腸炎などを疑い精査を行うも,確定診断に至らず経過観察となった.2年8か月後の生検にて濾胞周囲に小~中型B細胞の著明な増生がみられ,リンパ上皮病変(LEL)を伴うMALTリンパ腫と考えられる組織が確認された.有症状なるも各種治療に抵抗性のため,リツキシマブの投与を行ったところ,症状,内視鏡所見とも改善を認めた.類似の病変に対する診断として,古い疾患概念である“リンパ濾胞性直腸炎(LFP)”が用いられることがあるが,本症例の経過は示唆に富むと考えられ報告した.

Coffee Break

見る 10.見て見ぬふり 長廻 紘
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 教会の聖職者が殺人を犯したのをたまたま少女が見たが,彼女の記憶から完全に消えてしまっていた.そんなことがあるはずない,という思いが事実を消してしまったのだ.何年も経って,犯人逮捕後に彼女のその件に関する記憶はよみがえった.19世紀ドイツでの話である.人は見たものをそのまま覚えていないどころか,記憶から抹殺してしまうことすらある.それとは別に,見たことを意識的に抹殺することもある.駅や列車内で,いや,それどころか至るところで暴力事件が多発している.周りにいる人は知らんふり,見て見ぬふりのことが少なくない.明瞭に見たのであるが,脳に伝わらなかったことにしてしまう.しっかり目を見開いて,脳で心でよく見よ,という教えがある.他方にはあまり見ない方が身のため,知りすぎることは不幸につながるという,見ざる聞かざる言わざる(三猿主義)の教えがある.

 ある人には見えるのに,別の人には見えないものがある.見てはいけないにはいろいろな意味がある.医者は自分とその家族を診ない方がよい.自分の,あるいは愛する者の医者になってはならない.愛はすべてを隠してしまい,見なければならないものが見えず,見逃しは誤診,誤療などの大事に至る.愛する人の欠点は大目に見られる.思い込みも多くのことを隠す.一部しか見ない,見ようとしないから誤る.見たいところだけを見,見たくないところに目を閉じるから悲劇は起こる.外部のものが眼を通して網膜に映る,すなわち見る.網膜に結ばれた像を脳が処理する,視る.そして心が真実に迫る,観る.どの段階ででも情報をシャットアウトできる.「過去に目を閉ざす者は,現在に対しても目を閉ざす(元ドイツ大統領ワイツゼッカー)」.

消化管組織病理入門講座・6

【食道】Barrett食道と腺癌 新井 冨生
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はじめに

 食道胃逆流症(gastroesophageal reflux disease ; GERD*1)は,生活習慣の欧米化,生活環境の向上などによるHelicobacter pylori感染率の低下,肥満,高齢人口の増加などにより,日常診療で経験する機会が増えてきた1~3).このGERDの中には,内視鏡的にびらんなどの粘膜障害が認められる逆流性食道炎*1,内視鏡像で食道炎が認められないのに症状がある非びらん性胃食道逆流症(non-erosive gastroesophageal reflux disease ; NERD*1),食道の円柱上皮化生を来したBarrett食道*2の3つのタイプが含まれる.本稿では,その3つの病態のうち,Barrett食道とそれを背景に発生する腺癌の病理組織について解説する.

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 本論文に関して,二つの点(予後と生検組織診断)についてのご検討をお願いしたい.

 (1) 本例の予後に関して,本論文ならびに「早期胃癌研究会─2011年11月の例会から」(「胃と腸」47 : 1312-1313,2012)においても,何ら記載が認められない.この症例に関して,要旨の最後に,ly2,v2,pN1と予後の記載をすべきであり,この記載をしなかったことは怠慢であろう.

早期胃癌研究会

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 2013年6月の早期胃癌研究会は2013年6月19日(水)に笹川記念会館国際会議場で開催された.司会は丸山保彦(藤枝市立総合病院消化器内科),松田圭二(帝京大学外科),病理は鬼島宏(弘前大学大学院医学研究科病理生命科学講座)が担当した.また,画像診断教育レクチャーは入口陽介(東京都がん検診センター消化器内科)が「大腸隆起性病変の診断と鑑別」と題して行った.

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欧文目次

第20回「白壁賞」論文募集
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 「胃と腸」編集委員会では,故白壁彦夫先生の偉業を讃え,「白壁賞」を設け,優秀な研究・論文を顕彰しております.今回は「白壁賞」の論文を下記の要領で公募いたしますので,奮ってご応募ください.英文誌に発表された消化管の形態・診断学に関する論文が応募の対象となります.

「今月の症例」症例募集
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 「今月の症例」欄はX線,内視鏡写真など形態学的所見が読めるようにきちんと撮影されている症例の掲載を目的としています.珍しい症例はもちろん,ありふれた疾患でも結構ですから,見ただけで日常診療の糧となるような症例をご投稿ください.

早期胃癌研究会 症例募集
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早期胃癌研究会では検討症例を募集しています.

画像のきれいな症例で,

・比較的まれな症例,鑑別が困難な症例.

・典型例だが読影の勉強になる症例.

・診断がよくわからない症例.

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 これまで,胸部や骨軟部の単純X線写真の本は多数刊行されてきたが,全身の単純X線写真をカバーする本は刊行されて久しい.

 現在でも優れた基本的診断法である単純X線検査では,1枚のフィルム上で全体像を概観でき最初に行われる検査の1つであり,経過観察においてもその簡便性・再現性などの点で優れている.さらに,1枚のフィルムから得られる全体的な情報量の多さから診療の現場で最も多く施行されている.医療経済および患者への負担という観点からも,このような検査を最大限に活用することは大切なことである.しかし,CT・MRI検査の普及により,やや影が薄くなっているのも否めない.単純X線写真の所見を十分に評価しないで安易にCT検査が行われている現状もある.初心に返って単純X線検査の役割と限界を再認識する必要がある.そのような背景のもと,本書は刊行されたと思われる.

学会・研究会ご案内

投稿規定

編集後記 小野 裕之
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 胃癌は,組織学的に分化型(tub,pap),未分化型(sig,por)に大別されるが,実際にはtub+pap,tub+porといったように,分化型,未分化型同士や分化型と未分化型組織が混在する場合が数多くみられる.一般に組織混在型の胃癌は悪性度が高いと考えられているが,その認識や検討は十分ではない.

 一方,早期胃癌に対するESD(endoscopic submucosal dissection)は,ガイドラインの適応に基づき,広く行われるようになっているが,組織混在型については十分なデータがないこともあってガイドラインに詳細には触れられていない.

次号予告

基本情報

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胃と腸
48巻11号 (2013年10月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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