胃と腸 40巻5号 (2005年4月)

今月の主題 切開・剥離法(ESD)時代の胃癌術前診断

序説

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胃癌治療ガイドラインにて転移の危険が極めて少ない胃癌の特徴が明らかにされた.粘膜内に限局し潰瘍の合併しない分化型癌は大きさにかかわらず,潰瘍合併例でも長径3cmまで,sm1浸潤癌でも長径3cmまでは転移の危険性が極めて少ない.一方,分割切除では局所再発が多く,十分な病理学的検索が難しいことからEMR(endoscopic mucosal resection)の適応は長径2cmまでと定められた.しかし,正確な一括切除を可能としたendoscopic submucosal dissection(ESD)の開発により内視鏡切除術の適応は拡大されつつある.

 ESDでは任意の切開線を設定しえるため,病変の形や大きさに応じた一括切除が可能である.しかし,一括切除を施行したにもかかわらず切除断端が陽性になる場合も少なからずあり,その原因は術前診断の誤りである.また深達度診断が難しい症例もあり,ESD時代を迎えた今,胃癌の術前診断はさらに重要になってきた.本主題では最新のモダリティを用いた胃癌の術前診断限界を側方進展範囲診断と深達度診断の両面から追及し,現時点での術前診断の限界を論じるとともに今後の課題を明らかにしたい.

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要旨 切開・剥離法(ESD)に必要な胃癌術前X線診断につき概説した.ESD施行の可否にかかわらず病変および周辺粘膜が胃小区レベルまで描出された良質なX線画像が必要であり,また病変の平面的,立体的な所見を忠実に表したX線画像が必要である.深達度診断に関しては病変の特徴を十分に把握した上で癌のsm以深浸潤によって生じた所見(因果関係に基づく所見)と,それ自体は癌の深部浸潤を表してはいないが,過去の臨床病理学的な検討をもとに統計的にsmあるいはそれ以深への癌浸潤と相関する所見(相関関係に基づく所見)に分けて診断を行う必要がある.粘膜内浸潤範囲の診断においては胃癌治療ガイドライン内の病変についてはほぼ問題ないものの,適応拡大する上では未分化型におけるIIb進展,胃型の分化型のX線所見を十分に理解したうえで診断することが必要となる.

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要旨 切開・剥離法では従来の適応を超える大きさの胃粘膜内癌(m癌)を十分な断端距離を有して切除することができ,粘膜下層要素(sm要素)が存在する場合も粘膜領域の切除は可能となる.本法を導入することにより,分化型早期胃癌でどの程度に適応拡大が図れるかを,5cm以下の外科的切除早期胃癌材料1,407例を用いて検討した.従来からの適応と合致する症例は32.9%であり,sm要素を持たない5cm以下の癌巣に適応拡大すると11.5%(隆起型m癌2.1~5cm:6.9%,混合型m癌2.1~5cm:1.3%,陥凹型m癌Ul(-)2.1~5cm:3.3%)の増加に結びつくと予想された.さらに,sm要素があるが固有筋層に及んでいないm癌(陥凹型m癌Ul-II,3cm以下)を加えた場合は一挙に13.2%の適応拡大が見込まれることとなる.切開・剥離法におけるX線診断の役割としては,浸潤範囲診断においては表層拡大型病巣を除外することであり,深達度診断では従来のEMR適応・非適応の診断に加えて,癌巣内潰瘍を伴う陥凹型胃癌の深達度および潰瘍瘢痕の深さの診断に重要な役割を果たすことが示唆された.

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要旨 近年ESDの開発・導入により,表層進展発育型の大きな病変であっても一括切除可能となり,そのような病変の境界診断を正確に行うことがますます重要となってきている.これまでの通常・色素内視鏡観察を併用し行ってきた病変境界診断の有用性をESDの対象となる適応拡大病変2例について検討した.大きな表層進展発育型病変の範囲診断を行うにあたり,範囲診断の誤差はほとんどみられず,通常・色素内視鏡診断はESD治療現場においても十分実際的な境界診断技術と位置づけられると考えた.また,ESD切除標本は病変の大きさにかかわらず平均して約20mmの安全域が確保されており,ESDの手技そのものが,今回症例に呈示したような明瞭な境界を示す病変以外においても十分以上の安全域を確保できる治療手段であるとの査証になると考えられた.未分化型癌においては必ずしも病変境界が線で追えるとは限らないが,この点においてもESDが一括切除しつつ十分な安全域を確保できる唯一の治療手段となっていくと考えられた.

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要旨 ESDにて一括切除したにもかかわらず側方断端が陽性になる原因は側方進展範囲診断の誤り,または同時多発癌の見落としである.これらを予防するには術前の内視鏡診断が極めて重要となる.ESDの適応となる分化型粘膜内癌は腸上皮化生内に発生することが多く,周囲粘膜の萎縮が強い場合は癌の境界が極めて不明瞭となる.従来の内視鏡診断学では色調変化,表面性状,段差に注目して診断を進めてきたが,色調や表面構造の変化が少ない癌ではその進展範囲診断は困難であった.これらに対して近年では拡大内視鏡による血管構造の解析や1.5%酢酸撒布による色調の変化,また酢酸撒布後の拡大観察にてpit patternを解析する新たな内視鏡診断学が構築されつつある.本稿ではこれらの新たな内視鏡診断法が有用であった症例を呈示した.

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要旨 EMRを念頭に置いて,肉眼型別に内視鏡による早期胃癌の深達度診断について述べた.①隆起型早期胃癌では隆起頂上の深い陥凹,周囲からの粘膜ひだの引き込み,粘膜下腫瘍様の立ち上がりなどがSM浸潤の指標として重要である.②UL(-)平坦・陥凹型早期胃癌では健常粘膜に覆われた周囲隆起がSM浸潤の指標として重要である.③UL(+)陥凹型早期胃癌では集中する粘膜ひだ先端の肥大・融合,病巣の周囲隆起・台状挙上,面の硬化像がSM浸潤の指標として重要である.

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要旨 内視鏡切除を実施した胃癌症例のEUSの深達度診断能は86%(31/36)であり,外科切除を合わせた胃癌症例275例ではm77%,sm60%,mp以深85%,全体で73%であった.内視鏡切除の適応拡大病変に対するEUSの意義は,2cmを超えるUL(-)の分化型M癌や2cm以下のUL(-)未分化型M癌ではtype I(第3層に変化のないtype)の病変であることの診断に,3cm以下のUL(+)分化型M癌では潰瘍の深さの評価にある.type UL(UL-III,UL-IVの潰瘍を表すtype)の病変に対するESDは穿孔のリスクを考慮すべきである.sm1のEUS所見は,第3層の上層にbudding様に浸潤しているものである.胃癌に対するEUSのリンパ節転移診断能は感度54%・特異度93%・正診率81%と,感度が低いことが問題である.EUSの診断能の特徴を知った上で,内視鏡切除の適応拡大病変の術前評価にEUSを利用すべきと考える.

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要旨 拡大内視鏡を用いて胃癌の範囲診断を検討した.非癌部の胃炎拡大像は毛細血管が上皮の淵に沿って観察できたが,癌部では不規則な微細血管像として観察でき,その境界は明瞭であった.また酢酸撒布により粘膜模様がエンハンスされ,癌部は大小不同の微細な顆粒状変化を呈するなど形態的な情報も得ることが可能となった.さらに酢酸によるエンハンスは組織像によりその態度が異なり,特に分化型粘膜内癌では周囲の非癌粘膜より癌部のエンハンスが早期に消失し,癌部と非癌部のコントラストが明瞭となった.経時的に変化していくエンハンス像を観察することも可能であり,この拡大内視鏡観察をダイナミック・エンハンス拡大内視鏡と命名した.

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要旨 酢酸法とは酢酸を撒布しより鮮明な画像を得る内視鏡検査法である.1.5%酢酸撒布により粘膜が数秒で白色化し,さらに数分後には元の色に復する反応を利用している.光は酢酸により白色化した粘膜表面のみで反射するため,表面凹凸の詳細な観察が容易になる.酢酸法を用いた拡大内視鏡観察にて,IIc型早期胃癌は不整なパターン(type Ci)や表面模様の消失(type Cn)を呈する.特に分化型癌は特徴的な不整な細かいパターンを呈するため切開・剥離法前の範囲診断に極めて有用である.さらに通常観察においても,分化型IIc型早期胃癌は白色化した背景粘膜の中の発赤域として観察されることが多く,範囲診断困難例への有用性が期待される.

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要旨 当院では,2000年4月より切開・剥離法(endoscopic submucosal dissection;ESD)を導入し,さらに,2003年4月からは術前検査として全症例に対し狭帯域フィルター内視鏡(narrow band imaging;NBI)システムを併用した拡大内視鏡観察を施行している.その結果,通常観察で進展範囲診断が困難な粘膜表層を進展する病変であっても,拡大観察とNBIシステムを併用し粘膜微細構造の変化や異常毛細血管の増生を観察することで正確な切除範囲決定を行える可能性が示唆された.今回は,当院におけるNBIシステム導入前後のESDの治療成績を検討するとともに,特に本システムが有用と考えられた2症例を提示する.

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要旨 今回われわれは早期癌病型の陥凹型胃癌25例を対象に,2波長赤外線電子内視鏡システムの有用性を検討した.2波長赤外線内視鏡観察下にて癌部に一致して“不染所見”,“淡染所見”が得られた17例全例がmもしくは1,000μmより浅いsm癌で,“pooling所見”,“濃染所見”が得られた8例中6例がsm1,000μmより深い癌であり,その正診率は92%であった.特に通常内視鏡検査やEUSでの診断が困難とされているUl(+)の病巣でも94%(15/16例)の病巣で深達度を正診できた.生体組織の深部透過性に優れた赤外線を用いた電子内視鏡検査は,存在部位やUlの有無にかかわらず,通常内視鏡では困難な早期胃癌の深達度診断に有用であった.

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要旨 胃癌の術前精密X線検査における平面検出器(FPD)の有用性について,当院でESDを施行した早期胃癌症例を対象に,従来のフィルム-増感紙による撮影系(CFSS)あるいはFPDで撮影された画像を用い,見直し診断による浸潤範囲の描出能とその画質を比較検討した.二重造影像においては病理組織再構築像と対比した浸潤範囲の描出能に両者間で差はなかった(p>0.05).しかし,①病変の輪郭や病巣内の微細な陰影,②非癌部の胃小区像の輪郭は画像処理を加えたFPD画像のほうが鮮鋭で読影しやすい画質が得られる頻度が高かった(p=0.044,p=0.047).またCアームを用いた斜入撮影法を使用することで,病変を正面像としてとらえることが可能であった.ESDの適応拡大により多彩な病変をより厳密に診断する必要性があり,FPDは今後浸潤範囲診断に寄与するものと考えられる.

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〔患 者〕 35歳,男性.2002年5月の検診で便潜血反応陽性にて受診する.血便・下痢・腹痛などの自覚症状なく,身体所見・血液検査所見も異常を認めなかった.既往歴に特記事項なし,海外渡航歴なし,同性愛歴なし,HIV抗体陰性であった.

 〔大腸内視鏡検査所見〕 盲腸の虫垂開口部周囲にわずかな隆起の上に汚い白苔に被われた,浅い不整形潰瘍が散在していた(Fig.1a~c).しかし,介在粘膜の血管透見像は保たれて,また他の部位(直腸,S状結腸)には潰瘍・びらんは認めなかった.このような特徴的な所見と部位よりアメーバ性大腸炎が強く疑われ,確定診断を得るために,壊死物質と組織を生検鉗子で採取した.

早期胃癌研究会

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2004年11月の早期胃癌研究会は11月17日(水)に東商ホールで開催された.司会は長浜隆司(早期胃癌検診協会)と斉藤裕輔(市立旭川病院消化器内科)が担当した.ミニレクチャーは松田彰郎(南風病院消化器内科)が第29回村上記念「胃と腸」賞受賞論文「胃型分化型早期胃癌の画像診断―X線所見を中心に」の解説を行った.

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要旨 患者は43歳男性で,17歳時虫垂切除術の既往がある.2003年5月から発熱,右下腹部痛を繰り返して抗生剤を服用していたが,2003年11月7日,症状が再燃し当科を受診した.回盲弁を取り巻くように径7cmの発赤を伴う多結節状充実性粘膜下腫瘍様隆起を認め,回盲部切除術を行った.組織学的には回腸憩室周囲に線維化と形質細胞を主体とした慢性炎症細胞に好中球浸潤を伴う膿瘍形成を認め,慢性再発性に経過した憩室炎と診断した.周囲リンパ節や憩室周囲粘膜内には多数の類上皮細胞肉芽腫を認めた.全消化管の検索を行ったが他に異常はなく,術後炎症反応は消失した.現在までCrohn病などの肉芽腫性腸炎の所見はない.

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欧文目次

編集後記 芳野 純治
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 胃癌の内視鏡的切除法には粘膜病変を挙上して鋼線のスネアをかけ,高周波により焼灼切除する EMR 従来法と,病巣周囲の粘膜を切開し,粘膜下層にて剝離切除する切開・剝離法がある.より大きな病変の一括切除を求めて,後者を用いた治療が注目されている.EMR 従来法に対して,本邦が新たに発信する切開・剝離法に該当する英語表記が求められてきた.endoscopic submucosal dissection(ESD)が適切であるのか,定着するであろうかについては本号を企画する時点において明確ではなかった.また,“切開・剝離法(ESD)時代"という主題名については,EMR 従来法を用いて治療している施設も多いことも考慮して検討が行われた.しかし,ESD は技術的な改善が進められながら,今後さらに広く用いられていくと期待されている.

 一方,ESD を行うにあたり術前診断の重要性は言うまでもない.広く切除できるために,かえって安易な診断がなされる可能性があるのではないかと危惧される.治療が長時間に及ぶことがあることや,偶発症が EMR より多いことのほかに,基本的な問題をまずクリアする必要があろう.術前診断には従来の X 線・内視鏡診断に加え,拡大内視鏡を含めた新しい方法があり,臨床の場において本号を参考にしていただければと願っている.

基本情報

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胃と腸
40巻5号 (2005年4月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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