胃と腸 4巻8号 (1969年8月)

今月の主題 X線・内視鏡で良性様所見を呈した生検陽性例

綜説

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 内視鏡的に良性と考えられていながら生検で癌と判明した例を中心に,やや自由な検討を試みてみた.

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Ⅰ.はじめに

 癌を疑いさえすれば今日ファイバースコープによる直視下生検あるいは直視下細胞診によってその確定診断を得ることはそれ程困難ではない1).しかし内視鏡的に癌を疑わなかった病変に癌がひそんでいることは,早期胃癌で少数ながら認められる内視鏡偽陰性例の経験や2)胃癌のretrospective studyの成績3)から想像することができる.そこで内視鏡で良性様にみえるものにどの程度癌がひそんでいるかということが問題となる.このことは誤診を防ぐために,また胃癌をより早期に発見するために是非解決しなければならない問題である.

 胃癌の早期診断の具体的な手順として著者らはレ線癌疑いや,内視鏡で少しでも悪性を疑わしめる所見のある場合に,従来は一般洗滌細胞診,2~3年来は直視下洗滌細胞診を原則として行ない,これらが陰性でなおかつ癌が疑わしい場合直視下生検を行なう方式をとってきた.ところが昨年11月著者らの開発による生検用ファイバースコープのカラーテレビが実用化し(第1図,第2図),生検手技の確実化と生検能率が大幅に向上したため最近は癌・非癌の鑑別診断だけでなく癌化の問題の研究資料となることを期待して明らかに良性と思われる限局性良性疾患にも積極的に直視下生検を行なっている,この様にして行なった生検症例を検討し,どの様な病型では胃癌を見落しやすいか,それらはどれ位あるか,誤診を除ぐためにはどうすればよいか,また従来良性として生検,細胞診を行なわなかった病変にどの程度癌がひそんでいるかなどについて,著者らが得た成績を報告する.

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Ⅰ.はじめに

 X線および内視鏡検査の発達と共に,早期胃癌の診断は,最近ますます微細病変や非定型的な病変を対象とするようになっている.定型的なⅠ,Ⅱa,Ⅱc, Ⅱc+Ⅲ型などの病変の診断は問題でないが,良性ポーリプと鑑別困難なⅠ型,いわゆる異型上皮の増殖によるⅡa subtypeとⅡa型早期胃癌との鑑別,潰瘍周辺の浅い境界不明瞭なⅡc,さらにはⅡbないしⅢ型病変の確定診断に当っては,FGS生検の果す役割は極めて大きい.

 X線および内視鏡による早期胃癌の診断は,病変の形態学的パターンから,probabilityによる良性悪性の鑑別を行なうものである.したがって,一方において早期胃癌と紛らわしい所見を呈する良性病変があり,他方において良性様所見を呈する早期胃癌がある.その鑑別の困難の度合は症例によりまちまちであり,それぞれの病変の肉眼的形態が,良性および悪性病変において占めるprobabilityの差によって異なってくる.

 さらに,実地診療上の立場から諸検査を進める過程と,病変そのものの推移という,時間的要因を無視することはできない.臨床的に早期胃癌を診断する場合,第1次X線検査に始まり,一連の検査の手順をふむものであり,その各段階で診断の内容は変ってくる,当初潰瘍周辺の浅いⅡcを確認できず良性と診断したが,生検により癌と診断された後に再検査を行ない,病変部を詳細に観察した結果,初めて早期胃癌としての肉眼的所見が把えられる場合も当然生じてくる.このような例は,結果的には見落しには違いないが,なお生検施行前の段階で,早期胃癌と確診することは,むしろ困難といわざるを得ない例も少なくない.他方早期胃癌,殊に陥凹型の病変では,比較的短期間にその肉眼的形態が変化する揚合がある.このような例では,経過を観察することにより,初めて早期胃癌を疑うべき所見が明らかになることも稀ではない.

 臨床的に良性様所見を示す症例といっても,一連の検査の過程および病変の推移の過程の種々の段階で異なってくる.しかし生検の実際的役割という観点からみると,生検を必要とし実際にそれを行なった段階において,肉眼的診断がどの程度可能であったか,生検がどの程度有効であったか,またその後の再検査により肉眼的診断がどの程度補正されうるかということを明らかにする必要がある.以下このような観点から,X線および内視鏡で良性様所見を呈し,生検で癌と診断された早期胃癌の症例について検討したい.

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Ⅰ.まえがき

 胃癌は,通常胃粘膜固有層に原発し,胃表面より胃壁深部へ浸潤増殖するものである.

 一方,良性の上皮性elementが異所性に粘膜下層,時には筋層,漿膜下層に認められることがあるが,これが迷入膵組織であると確認できる場合も少なくない.かかる異所性の上皮を母地とする癌を想定する1)2)3)ならば,胃粘膜固有層に癌組織の見られない胃癌もあり得るものと思われる.最近,私達は2個所の胃粘膜下層に,癌胞巣,をもった興味ある胃癌症例を経験したので報告する.

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Ⅰ.緒言

 早期胃癌,特にⅢ型では,比較的大きい潰瘍の辺縁に小範囲の癌があっても,X線的に癌と診断することはかなり困難である.したがって術前に癌と診断するためには内視鏡的に経過を追うか,細胞診に成功した場合であろう.われわれは胃潰瘍と診断されて4年後に,Ⅲ+Ⅱc型早期胃癌として手術した症例を経験したので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 近年胃隆起性病変に対する関心が高まり,多くの研究ならびに症例が報告されている.最近当教室においても,いわゆる胃ポリポージスに早期胃癌を合併した症例を経験したので,病理組織学的検討を加えて,その大要を報告する.

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Ⅰ.緒言

 成人にみられる肥厚性幽門狭窄症はきわめて稀な疾患とされ,レ線および内視鏡技術の発達にもかかわらず術前の確定診断はなお困難である.最近われわれはレ線透視および内視鏡所見より幽門部胃polyposisを疑い,術後切除胃標本の組織学的検査により肥厚性幽門狭窄症と診断された1例を経験したので報告する.

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苦心したこと

 村上(司会) ここは学会ではありませんから,どうか好きなことをおっしゃって下さい.

 ではまず今度の内視鏡学会発表に関してでいちばん困ったというか,苦心されたところはどんなことだったでしょうか,まず福地さん,皮切りに.

技術解説

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Ⅰ.はじめに

 各種X線検査法のうち圧迫法が使われるのはつぎの揚合です.①病変が透視下にみえた場合,②透視で病変の存在が疑われた場合,③透視ではみえなかったが,撮影した写真にあやしい所見がみられたので精査しようという場合です.

 ところで,私たちの胃X線検査はルーチン検査と精密検査の二段がまえでやっています.ルーチン検査の方法と順序は,透視下圧迫→充盈像撮影→二重造影像撮影です.ここでいう透視下圧迫とは,透視下に圧迫して病変をみつけだすことと,前述の①と②との場合の圧迫撮影のことです.

 本文では,このルーチンの病変みつけだしの圧迫と①と②との具体的なことについてのべてみます.

診断の手ほどき

Ⅱc型の症例 白壁 彦夫
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第1図 充満像:右図の矢印部にはごく軽度の陥凹がある.矢印の指す部に直線を引くと,矢印間はごく軽度の陥凹を示していることがわかる.これは伸展不良があるからである.健部はバリウムでよく膨らむのに,Ⅱc病変の部は壁の伸展がわるい.さらに,矢印間は壁不整を示す.健部の平滑な辺縁像と対比されたい.左図にも同様な所見がでている.

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はじめに

 胃癌は「早く発見し,早い時期に切除すれば治る」ということは,すでに40年も前から言われてきたことである.しかし,どの段階で見つければ完治させ得るか,すなわち早期と言えるかを知るには,長い研究期間が必要であった.最近になってようやく「粘膜層および粘膜下層の中に存在するうちに発見すれば,100%近く治せる」ということが判ったし,またその発見が実際に可能になった.この観念を広めることは,最初は目本の中でさえも容易ではなかった.地味ではあるが,度かさなる熱心な学会や講習会が日本の各地で開かれ,それが実を結んで,最近ようやく全国的に広く行きわたるようになった.

 1昨々年の1966年「第3回世界消化器病学会」が日本で開かれたが,それを境にして,この方面の日本の業績が世界に紹介され,大いに認識されるようになった.フランスを始めとして他の2,3の国の人々からは「なぜこの立派な知識を世界に広めようとしないのか?」という注意を受けたほどである.そこで私どもはこの知識を今*こそ世界的に拡げるべきだと感ずるようになった.たまたまこの考えを外務省や厚生省に図ったところ大いに共鳴して貰え,その結果海外技術協力事業団(OTCA)のコロンボプランの一環として,計画を推進して貰えることになった.このようにして,今年の3月から,「第1回海外医師早期胃癌診断講習会」を開くことができたのである.

 統計的にみると,胃癌で死ぬ人は日本についでは,チリーや北欧で最も多い.しかし日本と食習慣が似,ことに米を主食とする東南アジアにもある程度多いのではないかと推測される.もともと一挙に世界にこの診断技術を広めることは無理であるから,そこで今回はその手はじめとして,東南アジアを主にした国の医師にこの知識を理解してもらうことにした.

 最初10人の講習生を予定したが,いろいろの理由で結局8人,フィリピン,インドネシア,タイ,台湾,韓国の東南アジア勢を主とし,1人は遠く南米チリーから来てもらった.4月の「日本消化器病学会」や「内視鏡学会」をはさみ,その見学を兼ねて,僅か2カ月という短い期間ではあったが計画が実施され,講習会を無事終らせることができた.

 この講習会の主催は上述のOTCAであるが,実務は八重洲口の早期胃癌検診協会(近藤台五郎教授)が担当した.受講者たちは最初同検診協会における1週間の集中講義を受けたのち,同協会八重洲診療所,国立がんセンター,癌研病院,東大分院,東京医大,東京女子医大,日本医大,順天堂大学,愛知がんセンターなどの諸施設に分かれて実習を行なった.講習会の最終日にあたる本日(4月25目)受講者達に集まって貰って,私ども講師団が皆さんの印象を聞く機会をもつことができた.感じたところを自由に述べてもらって,今後の運営の参考にすることができれば幸いと思う.

研究会紹介

阪神消化器研究会 三浦 洋
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 当地区は大阪には,阪大,大阪市立医大,大阪医大,関西医大,神戸には,神戸医大の各大学があり,また大阪府立成人病センター,神戸癌センター等癌を専門とする特殊機関もありまた各種官公立の大病院も多く,それ等の機関のうちのあるものでは,消化器病の研究グループにより,それぞれ別個に研究会をもち,盛んに研究討議が行なわれているようであるが,これ等の研究会は一般開業医に対して広く門戸を開いているというわけではなく,したがって開業医に対しては大阪府または兵庫県医師会が時々その医学講座で,消化器疾患の問題をとりあげることがある程度で,興味を有する開業医はそれで僅かに渇を癒すという程度にすぎない.

 私立では大阪地区には古くから湯川胃腸病院,西下胃腸病院が,また神戸には宮地胃腸病院があり,また一方胃腸科を専門としたり,また消化器疾患に興味を有する開業医も次第に増加の傾向にあり,これ等一般開業医の間において消化器疾患に関する組織的な研究会を希望する声が漸次高まってきた折柄,川島前理事長のおすすめと御後援もあり,当地区でも以下に述べるような研究会がもたれるはこびとなった.上述のごときこの地区の動向から,この研究会は,この地区におけるトップレベルが集る,いわゆる早期癌研究会形式ではなく,一般開業医を主体とし,一般開業医に対して,日進月歩の消化器疾患に関する専門知識の向上,殊に最近急速に進歩した臨床諸検査に関する理解を深めることを当面の目的とし,会員間の向上と相まって漸次いわゆる早期癌形式の研究会に発展してゆくようにとの願いをもって始めた.

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 長崎県の胃疾患検討会の発展経過については本誌3巻11号(1968年)にのべていますが,今回はその後の検討会の発展と長崎県各地区で行なわれている検討会の内容と活躍していられる先生達の紹介を中心にのべてみたいと思います.

 昭和39年10月以前には現在の検討会はなく,大学では第Ⅱ内科などでカメラの検討会を同好の志が集って行なっていました.もちろん他の病院にても,山根先生(現開業)を初めとして開かれていたようでしたが,横のつながりはなく,ばらばらに行なわれていた状態でした.昭和39年10月日本消化器病学会,日本内視鏡学会の各九州地方会が箴島教授を会長として長崎で行なわれ,教室諸先輩の御努力により,初めて胃疾患検討会を開いたのが正式の始まりでした.これを契機として各地方にも検討会が開かれるようになり,その内容も九大岡部,井上各先生を初めとする胃疾患のエキスパートの御指導により漸次充実して来ております.長崎県全体の検討会は各地方のそれとは別に年に1~2回開かれており,中央から講師をお招きして,教育講演をお願いすることにしており,すでに村上,白壁両先生を,今年は国立ガンセンターより市川先生に御足労をお願いし,それぞれの立場から,貴重な御講演を頂き,会員一同深く感謝いたしております.一方先述したように長崎県全体の検討会とは別に,各地方では次の4カ所にわかれて検討会がこの2~3年の間に開かれるようになり,今回はそれらの地方の動きを中心としてお知らせしたいと思います.

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欧文目次

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 実地医家のための会の藤沢正輝氏をはじめとする方がたの書かれた「臨床検査」は,小冊子ではあるが,実地医家の行なう臨床検査のあらゆる問題が盛られている点で貴重な本である.大病院において,臨床検査は情報蒐集という点を残してますます臨床の医師の手から専門の技師の手に移りつつあり,その隔絶から一面に多くのひずみを生みつつある.なぜなら臨床検査はいわゆるベットサイドの医師を離れては不完全なものであるからである.実地医家がある意味では最も生きた臨床検査を行ないうる立場にあることを本書は感じさせてくれる.そして現在ではまだ狭いこの範囲を着実に極めてゆく道も示している.したがって臨床検査に対する認識不足から宝の山に入るのをためらっている実地医家の人にとっては啓蒙の書でもある.

 現在の臨床検査を学門的にいかに考えるかということはむずかしい問題であるが,藤沢氏の言葉を借りれば,take off(離陸)の時代としてうけとめられている.この実地医家の会の方がたは臨床検査を早くも日常診療に十二分に活用されているが,それに至るまでの開拓者の苦労も行間に滲んでいる.この点で病院の検査室で臨床検査の発展に努力している私どものような医師にとっても共感を覚えるところが少なくない.私たちの仲間も苦労を共にてしいる親愛感と,いわゆるミサイル検査といわれる未来学に対する喜びを常々持ち合わせているが,本書の著者らも同じようなものを抱き,これを実地医家の人々にあますところなく分かちたい熱意と親切心が十分に窺える.

編集後記 田中 弘道
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 読者の諸先生方と一丸となって取り組んできた早期胃癌診断学への努力が海外医師団への診断講習会という形にまで結実してきたことは,本号の村上忠重教授の印象記にみられる通りであり,診断の実際にたずさわっているわれわれ1人1人が一層の充実感と使命感を憶えずにはいられまい.

 さて,本号では「良性様所見を呈した生検陽性例」が特集され,同じ主題の座談会を取り上げました.いくつかの検査法を組合せることにより,総合診断率がどれ程たかめられるかという論議から脱脚して,内視鏡およびX線という肉眼単位での診断法の極限にまでいどみ,その結果,真に肉眼形態的に良性としかみえない早期胃癌がどれ位あるのか?それはどんな型のものか?どんな時期のものか?という単に診断上の観点のみではなく,早期胃癌の病態に関する本質的な問題が論議されており,いよいよ臨床診断学と病理発生論との連結部分へと発展しそうな感じである.ここまで掘り下げられると,観察下における正確な狙撃生検が要求されるのは勿論であるが,このためにも生検部位の客観的立証が不可欠であるように思われる.

基本情報

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胃と腸
4巻8号 (1969年8月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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