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はじめに
胃癌は「早く発見し,早い時期に切除すれば治る」ということは,すでに40年も前から言われてきたことである.しかし,どの段階で見つければ完治させ得るか,すなわち早期と言えるかを知るには,長い研究期間が必要であった.最近になってようやく「粘膜層および粘膜下層の中に存在するうちに発見すれば,100%近く治せる」ということが判ったし,またその発見が実際に可能になった.この観念を広めることは,最初は目本の中でさえも容易ではなかった.地味ではあるが,度かさなる熱心な学会や講習会が日本の各地で開かれ,それが実を結んで,最近ようやく全国的に広く行きわたるようになった.
1昨々年の1966年「第3回世界消化器病学会」が日本で開かれたが,それを境にして,この方面の日本の業績が世界に紹介され,大いに認識されるようになった.フランスを始めとして他の2,3の国の人々からは「なぜこの立派な知識を世界に広めようとしないのか?」という注意を受けたほどである.そこで私どもはこの知識を今*こそ世界的に拡げるべきだと感ずるようになった.たまたまこの考えを外務省や厚生省に図ったところ大いに共鳴して貰え,その結果海外技術協力事業団(OTCA)のコロンボプランの一環として,計画を推進して貰えることになった.このようにして,今年の3月から,「第1回海外医師早期胃癌診断講習会」を開くことができたのである.
統計的にみると,胃癌で死ぬ人は日本についでは,チリーや北欧で最も多い.しかし日本と食習慣が似,ことに米を主食とする東南アジアにもある程度多いのではないかと推測される.もともと一挙に世界にこの診断技術を広めることは無理であるから,そこで今回はその手はじめとして,東南アジアを主にした国の医師にこの知識を理解してもらうことにした.
最初10人の講習生を予定したが,いろいろの理由で結局8人,フィリピン,インドネシア,タイ,台湾,韓国の東南アジア勢を主とし,1人は遠く南米チリーから来てもらった.4月の「日本消化器病学会」や「内視鏡学会」をはさみ,その見学を兼ねて,僅か2カ月という短い期間ではあったが計画が実施され,講習会を無事終らせることができた.
この講習会の主催は上述のOTCAであるが,実務は八重洲口の早期胃癌検診協会(近藤台五郎教授)が担当した.受講者たちは最初同検診協会における1週間の集中講義を受けたのち,同協会八重洲診療所,国立がんセンター,癌研病院,東大分院,東京医大,東京女子医大,日本医大,順天堂大学,愛知がんセンターなどの諸施設に分かれて実習を行なった.講習会の最終日にあたる本日(4月25目)受講者達に集まって貰って,私ども講師団が皆さんの印象を聞く機会をもつことができた.感じたところを自由に述べてもらって,今後の運営の参考にすることができれば幸いと思う.
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