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急速な少子高齢化,公衆衛生と生活パターンの変化,更に疾病構造の変化とともに,医療の重点とあり方は変わった.更に輪をかけて経済成長の低迷は,1965年に導入されて以来,経済成長とともに機能してきた国民皆医療保険制度のあり方にも大きな課題を投げかけている.更にヒトゲノムの解析に代表されるような生命科学の急速な進歩は,医学と医療の見方,方向,あり方に大きな方向性を示唆していると言えよう.医療は“cure”から“care”へ,そして生活の習慣への対策導入による疾病の予防対策が医療費削減への重点課題の1つになってくる.交通と情報手段の急速な発展は,グローバル,ボーダーレスの情報公開の流れをもたらし,杜会の医療に対する期待と医療人の倫理の社会的価値判断が国際化してくることが予測される.このような多次元にわたる変化の時代背景から,医学教育の現場での医療科学の重要性が増している.
江川寛・監修,鈴木信,信川益明・編集になる「医療科学」第2版が初版以来5年ぶりに出版された.上に述べたような医療の変革期を迎えて,“医療を科学する”タイムリーな企画と言える.社会構造と医療の需要,医療関係法規,医療と行政,社会保障,医療資源と供給体制,ヒューマンリレイション,医療情報,医療管理,医療における意思決定,医療評価などの広い範囲にわたる解説と話題が丁寧にされていて,事典のような使いやすさがありそうである.更に医療関連の行政と法規の記載は,年々変化していき,更に複雑になりがちな医療の現状の理解の手助けになると思われる.また,いくつかの外国での制度の解説,また日本の医療の歴史の解説も,普段は考えないかもしれないが現在の日本の医療制度のあり方への背景を理解させよう.
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