胃と腸 32巻5号 (1997年4月)

今月の主題 粘膜下腫瘍様の食道表在癌

序説

粘膜下腫瘍様の食道表在癌 西沢 護
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 亡くなられた白壁彦夫先生が,消化管の比較診断学に目を向けられたのが,今から12年前(「胃と腸」20巻3号,1985年)である.その主旨は,消化管のX線診断の共通点を求めたものであるが,その意義を拡大して類似点だけでなく相違点を比較検討することも有意義と思われる.そのような目でみると,本号の“粘膜下腫瘍様の食道表在癌”も比較診断をするのに興味ある主題である.と言うのは,病変が粘膜面に現れている部分よりも粘膜下以深に浸潤している部分のほうが大きいということは,深達度診断だけでなく,拾い上げ診断,発育・進展などの自然史にも絡んだ共通性の問題点があるからである.

 粘膜下以深に発育・進展する代表的なものは,胃のlinitis plastica型癌である.しかし,この病変は発見時にはほとんどseに達しており,粘膜面からみてもあまり凹凸の目立たないのが特徴である.それに,その前段階とされるlatentあるいはpre-linitis plasticaと言われる早い時期のものでも,sm癌で発見することは容易ではなく,ほとんどmpあるいはmp以深に深達しているものが多い.組織学的には未分化型で浸潤性に発育し,発育・進展様式が急速でかなり特徴的である.それだけに予後も非常に悪い.

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要旨 食道の粘膜下腫瘍様(SMT様)の定義,頻度,形態形成経路を主体に検討した.対象は,全割された食道癌447病変(表在癌257病変,進行癌190病変)である.肉眼的にSMT様癌を,腫瘍が広範にわたって非腫瘍性上皮で覆われ,しかも癌の粘膜面露呈部分が円弧状のものと定義した.この定義に沿って,全面積に対する癌露呈部面積の比率をみると,SMT様癌は両面積比が50%未満(平均20.8±13.8%)で,癌の露呈部が円弧状の隆起病変となった.SMT様癌は4.2%(19/447)みられ,表在癌で2.7%(7/257),進行癌で6.3%(12/190)であった.19病変のうち,扁平上皮癌(scc)は7病変(36.8%),類基底細胞癌3病変(15.8%),腺癌3病変(15.8%),腺扁平上皮癌3病変(15.8%),粘表皮癌2病変(10.5%),内分泌細胞癌1病変(5.3%)であった.しかし,組織型別にみると,扁平上皮癌がSMT様形態をとる頻度は1.7%(7/407)と低かった.これに対し,特殊型癌は,食道癌全体からみると出現頻度が低いにもかかわらず,SMT様形態をとる頻度が高かった(p<0.01).SMT様癌の深達度は,sm2が3病変,sm3が4病変,mp癌2病変,a1以深が10病変で,m癌,およびsm1癌がSMT様に見えたものはなかった.SMT様癌19病変の形態形成経路は,大きく4つに分類された.すなわち,(a)表層上皮内の癌細胞が主に上皮下へ進展したもの,(b)食道腺(導管を含む)に由来のもの,(c)食道内の異所性胃粘膜(通常,下部食道や上部食道にみられることが多い)に由来するもの,(d)脈管浸潤の顕著なもの,である.(a)の経路と判定した症例は低分化scc(3病変),類基底細胞癌(3病変)が主で,他に内分泌細胞癌が1例あった.(b)の経路と推定される中分化sccが4病変みられた.更に,食道腺・導管に由来する微小中分化sccが5病変みられた.腺癌成分を有する癌は全例で胃腺窩上皮型粘液が陽性であり(食道腺やその導管は陰性),これらの癌は異所性胃粘膜に由来,すなわち(c)の経路に由来すると判定された.(d)の脈管浸潤のみでSMT様癌になったものはなかった.食道SMT様癌はsccの特殊型癌,食道腺由来の癌,更に異所性胃粘膜由来の癌が主で,SCCの中でも特殊な発育様式をする癌,ないし上皮下の組織に由来する癌であると言えよう.

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要旨 粘膜下腫瘍様所見を示した食道癌8例〔粘膜下層(以下sm)癌5例,進行癌3例〕について検討した.組織型をみると,中分化型扁平上皮癌2例,低分化型扁平上皮癌3例,類基底細胞癌1例,粘表皮癌1例,腺様囊胞癌1例であった.組織型と隆起の性状をみると,類基底細胞癌は多結節の隆起としてみられた.隆起の表面に陥凹がみられるものは低分化扁平上皮癌でlymphoid stromaを伴う場合と腺様囊胞癌などの場合があった.X線検査による存在診断はsm以深の隆起型癌なのであまり問題はなかった.

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要旨 粘膜下腫瘍様の食道表在癌として,未分化癌,腺様囊胞癌,類基底細胞癌,腺扁平上皮癌,が挙げられ,腺癌,扁平上皮癌の中にも同様の形態をとるものがある.ごくまれなものとしてはカルチノイド,平滑筋肉腫,転移性腫瘍もある.これらの内視鏡診断を行うには,ヨード染色,トルイジンブルー染色を併用して,①上皮内伸展の有無,②腫瘍の立ち上がり,③表面の凹凸,④被覆粘膜上皮の厚さ,⑤中央陥凹の性状,をみる必要がある.粘膜下腫瘍様の形態をとる食道表在癌の内視鏡による鑑別診断について詳細に述べた.

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要旨 当科の食道表在癌切除例132例中,粘膜下腫瘍様の形態を呈した食道表在癌9例の内視鏡下超音波画像の特徴について検討した.組織型は扁平上皮癌と特殊型の食道癌で,全例sm癌であった.表面性状から診断する内視鏡に対して,高周波数細径超音波プローブは食道壁表層の描出に優れ,病変の詳細な断層像を見ることができる.腫瘍は第2~4層に連続する不整形で境界不鮮明な充実性の低エコー腫瘤として描出された.mmを表す第3層は腫瘍辺縁部で中断していた.分葉した形態を示すことが多く,1つ1つの塊の大きさは不揃いなのが特徴であった.第4層深部と第5層はいずれの症例でも保たれsm癌と正診できていた.鑑別すべき疾患には良性のSMTのほかに,癌周囲に生じる細胞浸潤やリンパ濾胞過形成,血管,食道腺などがある.層構造の連続性,腫瘍のエコーレベル,形態と大きさに着目して検索することが重要と考えられた.

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要旨 患者は71歳,女性.心窩部の不快感を主訴に近医を受診,食道に異常を指摘され当科に紹介された.X線検査ではImに多結節性で表面に陥凹を有する隆起性病変を認めた.内視鏡では,この隆起はほぼ正常血管透見像を示す粘膜に覆われ一見大臼歯状であったが,詳細に観察すると隆起はゴツゴツとしており,隆起の一部と肛門側にヨード不染となる褪色調の粘膜が認められた(0-Ⅰ型).隆起部の2回目の生検で中~低分化扁平上皮癌と診断されたため右開胸食道亜全摘術を行った.摘出腫瘍は25×12mmで,粘膜固有層から粘膜下層深層に位置し,食道上皮の基底細胞に類似した小型細胞の充実胞巣状増殖から成り,胞巣内外に硝子化を伴っていた.腫瘍の一部表面および辺縁の上皮内にはm1の扁平上皮癌の像もみられた.以上から深達度sm3の類基底細胞(扁平上皮)癌と診断された.リンパ節転移はなく早期癌であった.

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要旨 患者は85歳,男性.早期胃癌手術後の定期的上部消化管内視鏡検査で食道胃接合部に粘膜下腫瘍様の隆起性病変を認めた.隆起のほぼ中央に小びらんを認め,生検で類基底細胞癌と診断された.X線検査では食道胃接合部に側面像で半球状の陰影欠損として描出された.切除標本では2.1×1.6cm,0-Ⅰsep型の腫瘍であった.組織学的には粘膜下層を中心に基底細胞に類似した腫瘍細胞が充実性癌胞巣を形成し,表層は大部分が正常上皮で覆われていた.食道類基底細胞癌は比較的早期の段階では上皮下発育を主体とし,肉眼的に粘膜下腫瘍様形態をとるものが多く,本症例はその典型例を示すと思われた.

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要旨 様々な組織型を示す粘膜下腫瘍様の食道表在癌は個々の症例に適した治療が必要でその診断は重要である.〔症例1〕はなだらかな小隆起性病変(0-Ⅰ)とその肛門側に陥凹性病変(0-Ⅱc)があり,0-Ⅰ病変は生検で未分化癌の診断を受け,内視鏡的粘膜切除(EMR)を施行し切除した.化学療法を施行したが0-Ⅱc病変は不変なため食道切除手術を施行し,再発なく長期生存中である.〔症例2〕は早期胃癌で胃全摘術後に,経過観察の内視鏡検査で食道病変を指摘された.病変は後壁中心に約1/3周を占める凹凸を示す隆起性病変である.組織は多形性を示す未分化な部分を有する低分化型扁平上皮癌であった.食道亜全摘術および化学療法を施行したが,3年半後再発,死亡した.

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要旨 粘膜下腫瘍に類似した発育形態を呈した食道表在癌を2例紹介する.〔症例1〕は57歳,女性.軽い嚥下障害を主訴として発見されたEiの0-Ⅰsep+0-Ⅱc型食道癌.Basaloid- (squamous) carcinoma,長径3.5×3.5cm,深達度sm3,ly2,v2,n(-).根治切除術後33か月で再発,死亡した.〔症例2〕は63歳,男性.多発食道癌の副病巣として発見されたIuの0-Ⅰsep+0-Ⅱc型食道癌.Basaloid- (squamous) carcinoma,長径1.6×2.5cm,深達度sm3,ly0,v0.この病変からのリンパ節転移はなかった.根治切除術後37か月で再発,死亡した.これらは食道癌の発生母地と発育様式を考えるうえで興味ある症例と思われる.

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要旨 粘膜下腫瘍様の食道表在癌3例を経験した.〔症例1〕は,内視鏡およびX線所見上,中心に比較的平滑な陥凹を有し,立ち上がりは健常粘膜で覆われた隆起性病変で,組織診断は低分化型扁平上皮癌,深達度sm3であった.〔症例2〕は,粘膜下からの立ち上がりを有し,くびれを伴う隆起性病変で,頂部は粗糙なびらん面を呈していた.組織診断は中分化型扁平上皮癌,sm3であった.〔症例3〕は,大部分が健常粘膜で覆われ,中心に深い陥凹を有する隆起性病変で,組織診断は中分化型扁平上皮癌,sm3であった.〔症例1,2〕では癌先進部を取り巻く線維化が認められ,〔症例3〕では著明なリンパ球浸潤が認められた.これらの間質反応が粘膜下腫瘍様の形態を示した一因と考えられた.

症例からみた読影と診断の基礎

【Case 1】 大山 隆 , 馬場 保昌
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〔患者〕 61歳,男性.主訴は上腹部痛.

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〔患者〕 65歳,男性.便潜血反応陽性.血液生化学検査ではCEA:7.0ng/dlと高値を認めた.病変は右側横行結腸である.

リフレッシュ講座 食道検査・治療の基本・4

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 はじめに

 食道の外科的根治手術は開胸開腹のうえ,頸部腹部3領域リンパ節郭清を要する極めて侵襲の大きなものであり,術後のQOLに及ぼす影響も少なくない.①高齢者に多い食道癌で,更に高齢化社会に向かいつつあること,②診断技術の進歩により適応となる早期食道癌が数多く発見されるようになったこと,③早期表在食道癌の病態がかなり明らかとなってきたこと,④簡便容易な内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection; EMR)が開発されたこと,⑤その手技が普及してきたこと,などにより,less invasive surgeryとしてEMRの,特に食道において果たす役割は大きいと言ってよいと思われる.

早期胃癌研究会

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 1996年12月の早期胃癌研究会は12月18日(水),望月福治(JR仙台病院消化器内視鏡センター)と吉田操(東京都立駒込病院外科)の司会で行われた.

1997年1月の例会から 多田 正大
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 1997年最初の早期胃癌研究会は寒波にみまわれた1月22日(水)に,岡崎幸紀(周東総合病院)の司会で開催された.今回の出題は3症例であり,2時間をかけてゆっくりと討論でき,臨床と病理との間に活発な議論が交わされ好評であった.

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要旨 患者は33歳,女性で,タール便で来院し正球性貧血を呈した.消化管の検索で空腸に有茎性の表面平滑で頂部がやや崩れた形の隆起性病変を認めた(15×8mm).他の消化管に病変を認めず,この病変が出血の原因と考え,内視鏡的切除を行った.病理組織学的には,異型のない腺窩上皮が隆起の頂部で反転し,隆起内部へもぐり込んで腺管の過形成と囊胞状拡張を来していた.粘膜筋板は保たれており,上記変化は粘膜固有層のレベルで起こっていた.その形態学的特徴から本症の名称をhamartomatous inverted polypとした.本症は極めてまれな貴重な症例であり,文献的考察を加え報告する.

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欧文目次

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 レントゲンがX線を発見して100年余り.昔は画像診断と言えば,胸部,腹部,骨などの単純X線が主であった.近年,X線,CT,磁気共鳴画像(MRI),超音波画像(US),核医学(RI)など,多くの画像診断機器が開発された.これらの機器の内部はコンピュータそのものなので,コンピュータ技術の発達に伴って,画像診断の進歩もとどまるところを知らない.まさに画像診断花盛りなのである.

 画像診断の対象は文字通り“頭のてっぺんから足の先まで”.しかも単純X線,CT,MRI,US,RIなどの画像診断機器を駆使しなければならない.画像診断に携わる医師も勉強が大変なのである.

書評「胃外科」 小川 道雄
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 私の駆け出し時代には,幽門側胃切除術は切除と再建を伴うmajor手術のうち,若い医師が最初に執刀させてもらう手術であった.現在とは違って,執刀の機会はなかなか頂けなかった.鉤を引きながら,いつかこの手術を,と思っていた.手術の1つ1つの操作を暗記していた.そらで全操作を言えるようになっていた.

 頭の中では完全に胃切除術を行えるまでになっていたのだが,最初の胃切除術では頭に血が昇り,ただ前立ちの先生の指示どおりに,何が何だかわからないうちに手術を終わっていた.今もそれだけは覚えているが,手術所見も満足に書けないくらいだった.

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 本書は現代の胆石学の最高峰である.手にしたとき,ついに上梓されたかと心中,快哉を叫んだ.この道一筋に歩まれた中山文夫名誉教授の30年以上に及ぶライフワークの待望の集大成である.本書には胆石症の様々なトピックスが自前の成績をもとに,詳しく解説されている.そして研究者のニーズに応え,臨床家の治療計画を助けることが意図されているが,見事なまでにその目的は達成されている.一語一語,読み進みながらその内容の深さに圧倒された.この分野では,わが国から初めて世界に向けて発信される記念碑的大作である.単独の著者によってこのような膨大な領域をまとめられた類書を知らない.快挙である.

 胆石保有者は全世界で膨大な数にのぼり,加齢とともに頻度が増すので,その対策は高齢社会において重要な意義を持つ.胆石症はエジプトのミイラ以来の人類のありふれた病気だったので関心は高く,その研究は消化器病学の桧舞台の1つであった.明治以来,九州大学第1外科教室はわが国の胆石研究の指導的役割を果たしてきた輝かしい伝統を持っている.著者の中山文夫名誉教授は三宅速教授,その令息の三宅博教授の後を継がれて16年間,教室を主宰された.学問的伝統を背負い,外科医として,更にまた薬学科において化学者としての素養を加えたのち,米国のJohnston教授のもとに学んだ著者は,1957年,既に胆汁酸とレシチンによる非手術的胆石溶解の試みを発表されている.このことはRainsの胆石の著書にも先駆的業績として紹介されたが,その後も国際的研究者として華々しい活躍をされ,多数の論文を世に問われた.本書はその長い研究成果の精髄である.

書評「今日の疫学」 古市 圭治
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 疫学は,公衆衛生の基礎を形成する学問領域であると考えられてきた.しかし近年は,それにとどまらず,臨床医学の中心である診断や治療についての臨床判断を論理づける領域として,またテクノロジー・アセスメントなど科学的な医療政策を基礎づける領域とも考えられており,まさに“医療政策を含めた医学医療の基礎理論”となっている.

 こういった保健活動の方法論といった新しい考え方と旧来の疫学の捉えかたとは若干異質な面がある.今までわが国では,このような新しい側面については,本書の分担執筆者である久道氏や久繁氏によりやや高度,専門領域の部分が紹介されているにすぎず,世界的に進行している保健医療の改革(Health Reform)の理論としての新しい疫学については,バランスの取れた形で提供されてきたとは言い難い.

編集後記 神津 照雄
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 本特集号を企画した意図は腫瘍の表面がヨード染色で染色されるか,あるいはわずかに一部分不染帯を呈する食道癌にはどのようなものがあり,その発育進展過程,診断,予後はどうかを読者に理解してもらうことであった.ごく頻度の少ないこの型の食道癌を取り上げたのは,食道粘膜切除術の局所再燃の原因解明への糸口へとの配慮もあった.主題症例を含め1例ずつ丁寧に見ていただければわかるように,特徴的な形態を呈することは明瞭である.

 病理面からは期待した以上の解析がなされ,客観的な定義および発生過程推察まで迫ってくれた.X線診断,内視鏡診断の面からはその形態から組織診断まで可能との報告がなされた.超音波内視鏡では周囲の層構造からの連続性の分析と内部エコーのモザイクパターンの認識が大切であることが強調された.組織の断層像を描出できる特徴点が,現在の機種・画像からでも,粘膜下腫瘍様表在癌の特徴的な組織診断までは迫れないことには隔靴搔痒の感もある.しかし本邦でしか成しえないこれだけの精度の高い診断は,この分野の専門家たちの日々の真剣勝負の結果から生まれたものである.

基本情報

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胃と腸
32巻5号 (1997年4月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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