胃と腸 23巻12号 (1988年12月)

今月の主題 腸管の悪性リンパ腫(1)

序説

腸管の悪性リンパ腫 丸山 雅一
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 本号の特集「腸管の悪性リンパ腫(1)」は,2号にわたって企画されたものの前半である.後半は24巻5号に予定されており,主として鑑別診断,治療と予後の問題が論じられることになっている.

 本誌「胃と腸」のバックナンバーを調べてみると,悪性リンパ腫が主題として取り上げられているのは「消化管の悪性リンパ腫」(8巻2号),「胃リンパ腫(1)-悪性リンパ腫」(15巻9号),「胃リンパ腫(2)-良性リンパ腫」(16巻2号),「胃リンパ腫(3)-鑑別」(16巻4号),「胃リンパ腫(4)-治療と経過」(16巻5号),の計5回にすぎない.消化管の悪性腫瘍のなかでは悪性リンパ腫は癌に次ぐ頻度で存在するとはいえ,この悪性リンパ腫は,「胃と腸」23巻までの歴史のなかでは,話題性に乏しい企画と判断されたためであろうか.また胃の悪性リンパ腫に偏っていることも否めない.今回「腸管の悪性リンパ腫(1)」として,胃以外の悪性リンパ腫に焦点を当てることを意図した理由もこのあたりにある.

主題

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要旨 腸管にみられるリンパ装置は,リンパ小節の形態をとり,小腸あるいは大腸の粘膜内,および粘膜から粘膜下組織にかけて存在する.1個のリンパ小節から成るものを孤立リンパ小節と呼び,肉眼的にも,粘膜表面から小さな粒子として腸絨毛の間に,また,大腸では粘膜の凹みとして認められる.リンパ小節が多数集まったものを集合リンパ小節またはパイエル板と呼ぶ.大腸ではほとんど存在せず,小腸に分布し,特に終末回腸部に多い.パイエル板の大きさ,分布数などは一定しないが,パイエル板の存在する所では,輪状ひだが消失している.リンパ小節は,思春期まで増加し,以後加齢と共に減少する.肉眼的に認めにくい小節もかなり存在する.

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要旨 外科的に切除された腸管原発悪性リンパ腫24例について,臨床病理学的検討を行った.早期リンパ腫と進行リンパ腫に分けられ,前者の肉眼型は,早期胃癌の肉眼型分類に準じて分類することが可能であった.後者のそれは,(1)polypoid type,(2)diffusely infiltrating type,(3)ulcerative type,(4)early lymphoma-like typeの4型に分類できた.polypoid typeは大腸に好発し,組織学的には小細胞型および中細胞型が多く(6/11例),悪性度が低い傾向があり,ulcerative typeは小腸に好発し,多発傾向があり,組織学的には大細胞型が多く,多形型もみられ(4/8例),悪性度が高い傾向があることが特徴的であった.

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要旨 悪性リンパ腫は節性と節外性とに分けられ,胃・腸管発生のものは節外性リンパ腫に属する.筆者らが免疫組織学的に検討した消化管原発の悪性リンパ腫は31例で,Bリンパ腫30例とTリンパ腫1例から成っている.組織学的に濾胞性リンパ腫は2例のみで,他の29例はびまん性リンパ腫である.細胞型では節性リンパ腫と同様,大細胞型が最も多く,約65%を占めている.パラフィン切片(LN1,LN2……)や,凍結切片(B1,B4……)による免疫染色によって腫瘍細胞のphenotypeを決定しうるが,特にパラフィン切片では数種の抗体を併用する必要がある.免疫染色では各細胞型に応じて特異な陽性所見を認めた.今後,腫瘍細胞の増殖能についても免疫染色によって明らかにする必要がある.

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要旨 原発性空回腸悪性リンパ腫26例32病変の小腸二重造影像と内視鏡所見を検討し,切除例20例23病変についてはX線所見と切除標本病理所見とを比較検討した.32病変の二重造影像は,①Ⅰ型:病変部と非病変部の腸管幅が不変で,扁平な隆起(Ⅰa)あるいは半球状の隆起(Ⅰb)を認めるもの(7病変),②Ⅱ型:高度の狭窄を示すもの,③Ⅲ型:中等度の管状狭窄を示すもの(5病変),④Ⅳ型:病変部腸管幅が非病変部に比しわずかに小さい(Ⅳa)か,ほぼ同等(Ⅳb)か,わずかに大きい(Ⅳc)が,病変部の粘膜面は無構造であるもの(2病変),⑤Ⅴ型:病変部腸管幅が非病変部に比し両側性(Ⅴa)あるいは偏側性(Ⅴb)に明らかに大きいもの(4病変),⑥Ⅵ型:びまん性に皺襞腫大を認め,散在性に狭窄像を伴うもの(2病変),⑦Ⅶ型:びまん性に皺襞腫大と微細顆粒状隆起を認めるもの(2病変),⑧Ⅷ型:腸重積像(5病変),⑨混合型(5病変),に分類できた.これらX線パターンと割面像を含む切除標本肉眼所見とはよく合致した.内視鏡検査は10例で施行されていたが,特にⅦ型病変に対するプッシュ式小腸ファイバースコープ検査は有用であった.以上の成績より,本症の診断上小腸二重造影法と内視鏡検査が極めて重要であると考えられた.

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要旨 大腸の悪性リンパ腫11例と悪性リンパ腫と鑑別が困難であった直腸病変1例を経験したので報告した.大腸の悪性リンパ腫は回盲部に多く,一部で直腸にもみられた.悪性リンパ腫のX線所見として,隆起と陥凹の所見に分けることができた.隆起の所見をみると,小さな病変ではポリープ様,中等度の病変では粘膜下腫瘤様,大きな病変では粗大結節状であった.陥凹の所見はゆるやかな陥凹面をみたものが多かった.陥凹部で腸壁の変形は比較的軽度であった.化学療法の効果と共に悪性リンパ腫のX線所見は改善した.サルコイドーシスに併発した直腸病変は悪性リンパ腫と臨床的に鑑別が難しかった.

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要旨 患者は61歳,男性で下痢,粘血便を主訴に来院した.大腸内視鏡検査で直腸に広範に及ぶ脳回様の腫大した粘膜ひだとその間に多発の小潰瘍やアフタ様びらんを認めた.鉗子生検で病変の確診が得られず,経肛門的直腸粘膜部分切除の生検で悪性リンパ腫と診断され,直腸切断術を施行した.肉眼形態はびまん浸潤型を呈し,深達度は主としてsmを広範に浸潤していたが,一部でpmに小浸潤していた.直腸原発性悪性リンパ腫は比較的まれで1987年までに60数例の報告をみるが,そのほとんどが腫瘤,潰瘍を形成する限局型である.本症例は胃悪性リンパ腫における巨大皺襞型に当たるびまん型直腸悪性リンパ腫と考えられ,特にまれと考え報告した.

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要旨 患者は,65歳,男性.健診の目的で上部消化管内視鏡検査を行ったところ,十二指腸球部にびらん性病変が認められ,鉗子生検で悪性リンパ腫の疑いと診断された.半年後の第2回目鉗子生検で悪性リンパ腫と診断された.切除標本では,襞集中を伴う浅い陥凹性病変とその周辺に黄白色の腫大粘膜が認められた.組織像では,生検によるUl-Ⅱの小潰瘍瘢痕を認めたが,肉眼的陥凹部や粘膜腫大部には非腫瘍性リンパ濾胞の増生があり,その周辺(marginal zone)から腫瘍が発生していた.腫瘍は中細胞から成るB細胞型悪性リンパ腫で,深達度smまでの早期悪性リンパ腫であった.本例は,ごく早期の十二指腸marginal zone lymphomaとして世界でも最初の報告と思われる.

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要旨 患者は55歳,男性.主訴は繰り返す下血と腹痛.小腸X線検査で空腸に単発性の狭窄像を認めた.狭窄部の中央には腸管の短軸方向に伸びる潰瘍と変形がみられ,その周囲には粗大な顆粒像が平板状に拡がっていた.個々の顆粒像の立ち上がりはなだらかで,表面は平滑であり,粘膜下腫瘍様の所見を呈していた.肉眼所見および術後X線所見でも潰瘍とその周囲に拡がる顆粒像が確認され,組織学的検索で病変部に一致して悪性リンパ腫の像が認められた.本症例は腸管の横軸方向に伸びる潰瘍のX線所見のため,小腸の潰瘍形成を示す炎症性疾患,特に腸結核との鑑別が必要であったが,潰瘍周囲にみられた粗大顆粒像が粘膜下腫瘍様所見を示すことから,術前に悪性リンパ腫の診断を得ることが可能であった.

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 〔患者〕A.M,63歳,男性.Ⅱc型早期食道癌,深達度mm,リンパ節転移(-).主訴:なし.胃集団検診のため間接X線を受け要精検となり,当センターで精密検査のためpanendoscopyを施行し発見された.

 〔精密X線検査〕Fig. 1aは半立位第1斜位二重造影像で,中等度空気量の二重造影像である.矢印の部分に明らかな伸展不良が両側性にみられることから,病変が全周性であることがわかる.病変の境界は明瞭であり辺縁像の異常もあるが,軽度の粘膜粗糙しかみられないことからmm癌程度と推定される.Fig. 1bは半立位第1斜位二重造影像で,Fig. 1aと同じ体位の二重造影像であるが,空気量を少なめにすると,収縮時の像で周囲の健常部分に比べ病変部は収縮がやや悪い.口側および肛門側からのひだの中断像からも病変の範囲がよくわかる.

学会印象記

第30回日本消化器病学会大会 西元寺 克禮
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 第30回日本消化器病学会大会は10月20日,21日,22日の3日間,鹿児島市において,鹿児島大学第2内科橋本修治会長のもとに開かれた.主会場である鹿児島市民文化ホールは素晴らしい設備と環境にあり,特に桜島の眺めは,疲れた目を休めるためには絶好のものであった.大会の演題数も厖大であり,4つのシンポジウム,パネル,3つのワークショップ,2つのラウンドテーブル以外にも728題の一般演題,152題のポスター展示があった.会場数もこのために10の口演会場,3つのポスター展示場が用意されていた.学会印象記を書くよう岡部教授に指示され,可能な限り聴いてみたが,1人では限界があるのは当然で,筆者が聴いたものならびに教室員にまとめてもらったものを包括して述べることでその責を果たしたい.

 20日の午前中はシンポジウム“胃酸分泌・胃粘膜防御の調節”を聴いた.H2ブロッカー,プロトンポンプインヒビターの導入により消化性潰瘍の薬物療法が大きな変革期を迎えているのは周知であるが,これらの開発は酸分泌ならびにその調節機構の解明に少なからぬ影響を与えた.また粘膜防御機構の研究も近年飛躍的に進歩してきた.本シンポジウムを聴いて,群盲象を撫でるというありさまであった胃粘膜防御機構を構成する諸因子の研究ならびにその意義が,ようやく整理され,1つの体系として万人が認めうるものとなりつつあるという感想を持った.従来のSun & Shayのbalance theoryで説明するのは限界であると言われてきたが,酸分泌,胃粘膜防御機構がお互いに連携をもってコントロールされているなどの斬新な報告もあった.プロスタグランディンの真の意味など残された問題も多いことも実感させられるシンポであった.

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要旨 76歳女性の胃前庭部全周にⅡa集簇型を呈した表層拡大隆起型粘膜内癌の1例について,胃X線像,内視鏡像,病理組織学的所見を報告した.大小不同の類円形結節状の粘膜隆起が,胃前庭部から胃角へかけて全周に密集し,その幽門側境界は比較的明瞭であったが,噴門側では隆起が次第に小さく低くなり正常粘膜へ移行し,境界は不明瞭であった.なお,隆起の表面は平滑でびらんや潰瘍はみられなかった.組織学的には胃粘膜の表層上皮,腺窩上皮を置換したかのように,主として胃小窩上皮型の腺癌細胞から成る胃型の高分化型乳頭状腺癌が存在し,その噴門側境界は肉眼的境界よりもやや広く(11.0×12.2cm)不明瞭であった.当施設での過去15年間の早期胃癌は587例で,Ⅱa集簇型は5例,本例のような広範なⅡa集簇型早期胃癌は1例で,その頻度は早期胃癌症例の中の0.2%であった.

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要旨 患者は47歳,男性.1974年に皮疹出現し皮膚科でSweet病として経過観察されていたが,1985年腹痛,下血にて発症.X線検査および内視鏡検査にて腸間膜対側に不整地図状の多発潰瘍と粘膜集中像,著明な炎症性ポリープがみられた.切除標本では,回盲弁を含む回腸末端部に,4.0×2.5cm大のUl-Ⅳの潰瘍および潰瘍瘢痕と,更に口側には,Ul-Ⅱの浅い潰瘍瘢痕を2個認めた.組織学的には非特異性潰瘍であり,潰瘍の分布や形態は腸型Behcet病,単純性潰瘍に類似するものと考えられたが,著明な炎症性ポリープの合併があり興味がある1例と思われ報告した.

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要旨 患者は71歳,男性.胸やけを主訴として他院で胸部中上部(ImIu)の食道粘膜下腫瘍の診断を受けた.約5年半の経過観察の後,同部に表在癌が発見され,手術を目的として当科入院.胸部食道全摘+胸骨後経路頸部食道・胃管吻合を施行した.切除標本では,食道の平滑筋腫上からその口側にかけて表在陥凹型,深達度mmの早期食道癌が認められた.また,下部食道には逆流性食道炎の所見が存在した.食道における平滑筋腫に併存した早期癌は極めてまれで,本邦では本症例を含め6例が報告されている.これらの症例における癌腫の多くは,平滑筋腫の直上から口側にかけて存在しており,食物の停滞などによる機械的,化学的刺激による発癌の可能性が示唆された.

初心者講座 座談会

消化器疾患とUS・CT・4

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 有山 今日はお忙しいところをお集まりいただきありがとうございます.初心者講座ということですが,肝胆膵のUS・CTの本はたくさん出ているので,実際のやり方とか,見落とさないためにはこうしたほうがいいとかを具体的にお話しいただきたいと思います.

肝のUS・CT検査

初心者講座 食道検査法・12

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はじめに

 最近,食道表在癌の症例数は急速に増加してきているが,これら症例の大部分が,食道症状もなく,またX線検査による食道病変の指摘がないまま,スクリーニングや胃の精査を目的として施行された内視鏡検査(パンエンドスコープ)によって初めて食道癌と診断されており,このことは,パンエンドスコープの普及と検査医の診断能の向上によるものと考えられる.しかし,わが国においては胃癌が高頻度(食道癌の相対的低頻度)であるため,食道表在癌の発見に欠くことのできない内視鏡検査においてさえ,今日なお,胃の観察にのみ主眼が置かれ食道の観察がなおざりにされがちなのも否めない事実であろう.

 本稿では,食道表在癌の内視鏡診断の実際について,症例を中心に述べてみたい.

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欧文目次

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 Prophylactic sclerotherapy of large esophageal varices: Santangelo WC, Dueno MI, Estes BL, et al (N Engl J Med 318: 814-818, 1988)

 食道静脈瘤出血の治療における長期硬化療法は,再出血を減らすだけでなく,長期予後の改善に役立つことが報告されている.そこで,この硬化療法を,未出血例に対して出血予防の目的で用いようとの考えが登場しても不思議はない.ドイッからの早期のレポートによれば,出血回数の減少と生存期間の延長に関して著しい好成績を示し,死亡率が2年間で50%減少したという.米国からのその後の報告では,決して期待通りとはいかず,予防的硬化療法を受けた患者で,むしろ死亡率の上昇を認めている.

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 Is resection appropriate for adenocarcinoma of the pancreas? A cost-benefit analysis: Lee MS, Stahlgren LH (Am J Surg 154: 651-654, 1987)

 従来より,膵癌の治療としては,切除術も消化管吻合あるいは減黄術などの姑息的手術も,その予後に関しては差はないとする報告が多かった.本論文では更に入院期間,治療費の面も加えて切除術と吻合術との差を検討した.

 対象は膵癌患者116例で,切除10例(8.6%),吻合68例,開腹のみ9例,非手術29例よりなった。それぞれの入院期間,生存期間,手術死,合併症,治療費などを検討した.

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 Stomach cancer after partial gastrectomy for benign ulcer disease: Lundegardh G, et al (N Engl J Med 319: 195-200, 1988)

 良性潰瘍性病変で胃部分切除を受けた患者を25~33年間follow-upし,術後の胃癌発生について検討した.対象はウプサラ健管地区の7,138名のうち経過観察可能であった6,459名で,対照として性・年齢をマッチしたスウェーデン癌登録を用いた.対象の男女比は5:1で,半数は手術時50歳以上であった.

編集後記 八尾 恒良
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 胃や大腸では診断が進歩するにつれて境界腺や胃底腺・幽門腺の診断,あるいは無名溝を描出する必要性が生まれた.小腸のX線・内視鏡診断の進歩のためにはKerckring皺襞の正確な描出や読影が不可欠である.そしてそのためには,正常腸管のリンパ装置のマクロ解剖学的知識が必要不可欠と考えられる.

 このような意図から,悪性リンパ腫の特集を機に山元寅男教授にリンパ装置の論文をお願いした.ところが本号の臨床と病理からの論文は7~8年以前と同様の,旧態依然としたもので,集合リンパ節のマクロ解剖学とは何の関係もないもののようである.華麗な形態診断が売りものの本誌としては残念でならない.

基本情報

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胃と腸
23巻12号 (1988年12月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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