胃と腸 14巻4号 (1979年4月)

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症 例

 患 者:63歳の男子

 主 訴:上腹部不快感

 家族歴:特記することはない

 既往歴:58歳時,虫垂切除術施行

 現病歴:18年前より上腹部の不快感を自覚.4年前よりつよくなったが,食欲は旺盛で腹痛もなかったので,放置し検査も受けなかった.1977年5月,主訴に加えて過酸症状も自覚したため,近医を受診しX線検査で胃潰瘍と診断された.薬物療法で症状はすぐよくなった.しかし,9月に症状が再発したので当科で精査した.3カ所に潰瘍性病変があり,おのおの早期癌,早期癌の疑い,および良性潰瘍と診断した.

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 胃角から噴門までの広い中間帯に限局して58コのpolypoid lesionがみられたlocalized polyposis1)の1例を報告する.個々の隆起は無茎または有茎性で,その基本構造は好酸性の強い腺窩上皮類似の上皮からなる腺管増生による隆起であるが,平坦な粘膜内でも腺窩上皮様腺管の増生,延長と粘膜深部での囊胞状拡張やexpansiveな結節状の増殖巣を認めることから腫瘍性性格を持つと考えざるをえない.そこで個々の隆起をadenomaと診断し,本症例はpolypoid adenomatosisと呼ぶのがもっとも適当であると考えた.

 胃の腺腫あるいは腺腫性ポリープに関しては実だ明確な定義はなく,病理学者によってその意義が異なり,さらに同一病理学者でも発表年次によって用語が変っていることはWelch2)の指摘の通りで混乱を招いている.本症例はMingのregenerative polyp3),Tomasuloのhyperplastic polyp4),佐野5),武藤6)の腺腫性ポリープ,あるいは中村のⅡ型7)などいわゆる過形成胃ポリープの範疇に属さず,また一方では,Ming,長与8)のadenomatous polyp,福地,望月9)のⅡa-subtype,中村Ⅲ型などいわゆる異型上皮の集簇とも明らかに異なるpolyposisで,5コのポリープに癌化が認められたことから癌化のpotentialが高い特殊なタイプの胃のpolypoid adenomatosisと考えられる.胃にこのようなadenomatosisが存在するのは驚きであり,また同時に本症例は大腸と同様に胃においてもadcnoma-cancer transitionを示唆する点で極めて興味深く,調査しえた内外の文献にはこのタイブの胃のpolyposisの報告を見ない.

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 従来胃囊腫は胃良性腫瘍の中でも稀な疾患とされ,文献上の報告も少なく,X線学,内視鏡学など進歩した昨今でも,その診断が必ずしも容易でない.最近われわれは興味ある臨床的および組織学的所見を示した多発性びまん性胃粘膜下囊腫を経験したので報告する.

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 胃結核はきわめて稀な疾患で,最近の胃透視,内視鏡の進歩にもかかわらず確実な診断をつけることは困難とされている.また,その低い発生頻度,感染経路,悪性腫瘍との合併など様々な疑問もいまだ未解決のまま残されている.

 最近,われわれは難治性潰瘍の疑診のもとに手術を行い,術後の病理組織学的検討により胃結核と診断した1例を経験したので,若干の考察を加えて報告する.

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 骨および骨髄以外の軟部組織に原発する形質細胞腫は髄外性形質細胞腫と呼ばれ,大部分は上気道,口腔,結膜にみられ,消化管原発はまれで約10%といわれている.胃形質細胞腫はVasiliu1)が1928年第1例を報告して以来今日まで欧米では50例を越え,本邦でも12例の報告2~12)がみられる.われわれは術前に進行癌を疑い,病理組織学的検索にて,胃形質細胞腫と診断した本邦第13例目の症例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

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 最近われわれは,多発性mucosal bridgeおよびmucosal tagを形成した,きわめて稀有と考えられる胃病変の1例を経験したので報告する.

症例

 患 者:62歳 家婦

 主 訴:全身倦怠

 既往歴:28歳の時(1941年),妊娠7カ月目に腹痛著しく,腹部膨満も著明となり,急性腹膜炎として,約2カ月間余り,自宅で加療を受け,ほとんど毎日多量の皮下・筋肉注射と散剤・水剤の投与を受けた.治療薬剤の詳細は不明.また,当時自宅で寝たきりのため,頭髪などに無数のシラミが寄生し,多種多様の殺虫剤を頻回に撒布された.しかし妊娠10カ月目に男児を無事出産.

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 大腸に発生する非特異性炎症の発生機序の1つとして,虚血性因子が注目されている.すなわち,欧米では支配血管の血流障害によって生じる大腸のsegmental colitisに対してはischemic colitis(虚血性大腸炎)の名称が与えられ,独立したclinical entityとして広く認められている.しかし,わが国での本症に対する認識はいまだ充分とはいえず,報告例も少ない1)~3)

 われわれは切除後の病理検索で,“横行結腸非特異性潰瘍”の診断を得た症例について,その臨床経過や,注腸造影所見,内視鏡所見をretrospectiveに検討した結果,本症と診断したので若干の考察を加えて報告する.

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 メッケル憩室は最もよく知られた臍腸管奇形であり,人口の1~3%にみられるという1).これらの多くは無症状に経過するが,15~30%が憩室に起因する症状を呈し2)3),最も多い合併症は出血である3).しかし,本症の頻度に対して術前に診断された例は極めて少ない.これは憩室が小腸下部に存在することが最大の障害になっており,最近ではその局在性にとらわれない検査法,すなわち,血管造影やシンチグラフィーによる診断例が増加しつつある.

 われわれは,この数年間,小腸疾患に注目し,小腸二重造影法をはじめとして,積極的に小腸の検索を行ってきたが,今回,下血を主訴とし,各種のX線検査で典型的な所見を呈し,術前に診断しえたメッケル憩室の1例を経験したので報告する.

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 消化管に発生する良性腫瘍の中で,リンパ管腫はnon-epithelialのうちのvascularの項目に分類されている1)が,非常に稀なもので,ことに大腸における発生はきわめて低率とされている.最近われわれは,下行結腸粘膜下腫瘍の診断で手術し,病理組織学的に本症の診断を得た1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

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 腸管内異物に関する報告は従来より数多くなされているが,胆汁酸腸石に関する報告は少ない.Mörner KAHの報告以来,欧米で34例が報告されているが1)~4),本邦にて胆汁酸腸石と確認されているものは伊藤の報告にみられる一次胆汁酸腸石の1例のみである6).文献上分析はされていないが胆汁酸腸石と推測される腸石を含めても計5例にすぎない6)8)9).われわれは,空腸狭窄症に二次胆汁酸腸石の生じた症例を経験したので報告する.

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 海産魚に寄生するアニサキス幼虫の摂取によるアニサキス症の臨床例は近年さらに増加の傾向がみられる折柄,今回アニサキス幼虫が腸壁を穿通し腹腔内に逸脱して大網および腸間膜に穿入し,ここに好酸球肉芽腫を形成した稀な2例を経験した.本症例はわが国におけるこれまで報告された類似の3症例に追加されるものである.

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 化学療法の進歩した今日では,腸の結核性病変に遭遇する機会も少なくなってきた.なかでも十二指腸に限局した結核性病変はきわめて稀であり,その診断も困難な場合が少なくない.十二指腸の結核は狭窄症状を呈する場合がほとんどであるが,われわれは最近,大量吐下血をきたした十二指腸第Ⅲ部の結核性潰瘍を経験し治癒できたので若干の考察を加え報告する.

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 近年早期大腸癌症例が多く報告されているがそのほとんどが隆起性である.大腸早期癌の組織発生については腺腫adenomaが注目されているがde novo cancerについても完全に否定されていない.

 われわれは下行結腸およびS状結腸の多発ポリープとして診断し結腸切除術を行った切除標本にきわめてまれなde novo cancerと思われるⅡc様病変(m癌)を2カ所に認めたので報告する.

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 大腸癌の発見は近年増加の傾向にある.その理由はX線検査および内視鏡検査,特に内視鏡的ポリペクトミーの進歩により,10mm前後の隆起性病変の発見と切除が容易になされるようになったためと考えられる1)2).このように小さな隆起性病変の発見とその組織学的検索の増加に伴い,最近では有茎性の隆起性病変と無茎性の隆起性病変との質的な相違性,腺腫と癌との関係などのいわば大腸癌の生物学的特性についての研究発表が次第に増してきている.しかし,どのような病変から大腸癌になるのか,どのような病変を経て進行癌になるのかといった研究は,いまだ不十分でかつ不明の点が多い.

 われわれは国立がんセンターにて手術された大腸癌の患者について,過去の注腸検査歴を詳細に聴取し,X線学的に病変を逆追跡する方法すなわち遡及的検討を行っている.その結果現在までに6例の大腸癌につき,検討に値する過去のX線写真を入手しえた.そして病変を遡及的に検討した結果,大腸癌の経過について興味深い新知見を得たので報告する.

入門講座 胃癌診断の考え方・進め方・4

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●内視鏡スクリーニング

 市川 今度は,スクリーニングの立場の内視鏡ということでお願いします.

 多賀須 胃角小彎体中部後壁,体下部後壁などと,それぞれの場所を確かめながら見ていくように話しています.それから,連続的に見るようにしています.胃体上部を見て幽門を見てというようにすると抜けるところが出てくる.さらに1つの場所を2つ以上の方向から観察するような方法をとるように心がけています.

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欧文目次

書評「治療総論」 吉利 和
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 医学の究極の目標手段は,患者の治療にある.ところが治療とは一体どういうことなのかについて,多くの医家は十分に考えた上で,実際の治療を行っているであろうか.多くの人は,まず正しい診断をつけることに全力をそそぐ.診断がきまれば,ひとりでに治療方針がきまってくるので,その通り実行すればよいと考えるのが普通である.

 しかし診断がきまったら,治療がひとりでに方向づけされて,その通り実行すれば,よき治療につながるであろうか.どうもそうはいえないようである.治療も科学的に行なわれなければいけないというが,科学的とは,教科書的に,AならBという対応ということではないはずである.治療こそ,1人1人の患者をみながら,個人としての特性をみながら行うべきものである.

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Diffuse varioliform gastritis: R.Lambert, C.Andre, B.Moulinier&B.Bugnon (Digestion 17: 159~167, 1978)

 LyonのEndoscopy Centerで,8年間に90例(0.3%)のDiffuse Varioliform Gastritis(D.V.G.)を経験した.胃体部に大きなひだがあり,胃体部と幽門部に粘膜のびらん性隆起がみられる亜急性胃疾患である.幽門部のみに病巣が限局しているAntral V.G.はD.V.G.より頻度は高い(16例)が,特徴的な症状を示さない.

 D.V.G.の症状には2種類あり,定期的な心窩部痛があり食事で軽快する偽潰瘍型(70%)と,悪心嘔吐,食思不振,体重減少があるが痛みは少ない偽新生物型である.症状がしばしば突然出現して,1~3カ月続き突然治るが再発することも多い.浮腫と低蛋白血症は2例に,消化管出血は3例にみられた.

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 膵臓病学の最近の進歩にはめざましいものがある.これは次々に開発された膵臓病の診断技術が臨床的に応用されるようになり,慢性膵炎,膵癌の診断が可能になってきたことと蓄積された症例によって臨床像の把握ができるようになってきたことによるものであろう.膵臓病学が一つの体系として成立するようにようやくなってきたことをしめすように,近年わが国でも膵臓病についての単行本の出版もいくつか行われている.

 しかし筆者自身も感じていることであるが,膵臓病学に関する単行本でもっとも重点がおかれているのは検査法による診断であり,膵臓の生理機能については日進月歩の勢いで知識が増しつつある消化管ホルモンに焦点があてられているように思われる.これらの問題はもちろん最近の大きな進歩の結果であり,将来への飛躍の基底となる重要な課題であることは疑う余地はないが,このような重点的な内容をもつ単行本は医学生,研修医,専門外の医師にとって読みにくいものであろうことは想像にかたくない.

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 2年前,本書が発行された当時,臨床実習にくる学生で本書を携えているのは少数であったと記憶している.しかし本書に目を通した時「この本は学生に人気がでるだろう」と感じたが,案の定,最近ではほとんどの学生が本書を片手にわれわれのところにやってくるようになった.

 よい教科書には詳細な内容と簡潔で記憶し易い表現という相反する条件が要求される.したがって1冊の本にこれを求めるのは無理であり,それぞれの条件に適した本を揃えねばならないと考えていた.しかし,本書を読んでみてこの矛盾する条件を十分に満たしている貴重な教科書であると感心した.机上に常置してよく,あるいは持ち歩きつつ,一読して知識を整理するためにも本書は正に適役のものといえよう.

編集後記 高田 洋
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 本号は恒例の主題をもうけない症例・研究特集号である.7編の早期胃癌研究会提出症例,6編の投稿症例と1編の研究論文より成っている.それぞれの症例は研究会或いは編集会議で厳しいディスカッションや討議を経たものだけに貴重なものばかりである.従来の特集号に比べ本号の症例論文は全く多種・多様で玩具箱をひっくり返したような感じさえ与える.子供がその中から宝物や気に入った品を一心に探そうとする時の目の輝きとわくわくするような期待感をもって全編を通読した.

 掲載された症例のあるものはわれわれが日常遭遇する病変であり,またあるものは一医師としての生涯に一例経験するかしないかといった稀な疾病もある.前者の場合は読者にとっては直接明日の診療の資となり,また診断に対する厳しい姿勢の必要性を再認識させ,後者の場合は末経験の疾病をも我々により身近なものとして認識させてくれる.こうした意味あいから症例の一例一例が味わい深いものである.一例の経験を大切にして,それを積み重ね,そこから問題点を探り或いは概念の確立を求めるのが臨床医の真の姿であろう.そのために個々の症例について出来得る限り厳格な検討を加え,或いは反省する地道な努力を私は大切にしたい.

基本情報

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胃と腸
14巻4号 (1979年4月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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