胃と腸 14巻5号 (1979年5月)

今月の主題 消化管と血管病変

主題

  • 文献概要を表示

 消化管は生体の中で最も可動性に富む長い管腔臓器であり,解剖学的には食道から直腸にいたる各部位に分けられている.それぞれの部に固有の機能があり,それゆえに機能変調の場合には,部位によってそれぞれに特徴ある病態を呈してくる.病気は消化管に限らず臓器の機能変調の現れであると同時に,形態変化の現れでもあり,それは正常の臓器構築の改変をも意味している.病態の追求はこれらの機能と構造との関連解明に始まり,またこのことは最終的な目標でもある.

 消化管の機能を規制する構造要素の1つに血管構築がある.血管構築の立揚から臓器特性を明確にしつつ消化管病変の解明を意図せんとした.こういった観点から消化管病変を論じてみた.

虚血性大腸炎の臨床 三島 好雄
  • 文献概要を表示

 従来,消化管の虚血性病変は腸間膜動脈閉塞のように主幹動脈の閉塞による腸管壊死,壊死性病変,ないしは腸間膜血行不全のように広汎な腸管の出血性壊死を示す病変が注目されていた.しかし,1950年代から1960年代にかけて,直腸癌手術時の下腸間膜動脈の高位結紮や腹部大動脈瘤切除の合併症として,主に下腸間膜動脈領域の虚血性病変が注日されるようになり,Boleyら1)による可逆性あるいは一過性の腸管虚血,Marstonら2)による虚血性大腸炎の報告以来,主幹血管の閉塞を伴わない大腸の虚血性疾患の病像が次第に明らかにされてきた.診断や検査の面からも小腸に比して大腸では内視鏡や生検による検索が容易なこともあって報告例も増加し,最近になって直腸の虚血性病変も記載されるようになってきた.

  • 文献概要を表示

 腸疾患のうちでも非腫瘍性疾患,特に血流障害に基づく病変は急性腹症として取り扱われていること,症例報告が少ないこと,更にその概念が報告者によって異なっていることなどにより,臨床的にも病理組織学的にも不明瞭な点が少なくない.1966年,Marston1)らは16例の虚血性腸炎を提示し,gangrenous form,stricturing form,transient formの3型に分類できるとした.しかし最近では,彼自身terminologyとしての虚血性腸炎という疾患名をtransient formに限定して用いるようになっている2)

 一方,病因論的には血流障害が主因となって惹起されると推察される腸病変が,実際には種々に呼称され混乱を招いている.血流障害による腸病変に関する報告は本邦では少なく,他の腸疾患の研究に比して遅れていると思われる.われわれは名古屋市厚生院という特殊老人医療施設における連続剖検1,041例(男性546例,女性495例,平均年齢78歳)より,このような血行障害に基づく腸病変をとりあげ,臨床的,病理組織学的に検討を加えたので報告する.

  • 文献概要を表示

 われわれはこれまで消化管,特に胃および腸管の虚血性病変について,いろいろな実験的研究を行ってきた.胃については,既に本誌1)にも発表しているので,今回は大腸の虚血性病変の成因に関する実験的研究を中心に述べる.

 大腸の虚血性病変としては,虚血性大腸炎がよく知られており,欧米ではその実験的研究の発表も多い2)~8).一方,わが国でも最近注目されるようになり,臨床例の報告も増加してきた.そこでわれわれは,大腸の虚血性病変の病態および成因を追究するため,次の3つの実験モデル,すなわち①結腸動脈結紮による虚血性病変,②Gelfoam注入による虚血性病変,③血管内血栓形成による虚血性病変につき検討してみた.以下,それらについて具体的に述べる.

  • 文献概要を表示

 Systemic Lupus Erythematosus(SLE)は多彩な臨床症状を示す白己免疫疾患である1).系統的な全身の結合組織の炎症疾患であり,当然血管病変と極めて緊密な関係にあり,さまざまな消化管病変についても,血管病変との関連において検討されていることが多い.ここではSLEの経過中に,いわゆるischemic colitisを起こし,大量の下血をきたし,右半結腸切除術を行った症例の切除漂本を病理組織学的に詳細に検討し,血管病変,なかんずく血管炎との関連について文献的な考察を加えた.

  • 文献概要を表示

 近年,虚血性大腸炎の概念の定着に伴い,本邦報告例は漸増している.しかし,本症のなかで,最も頻度が高いといわれる一過性の病変は,発病初期だけにしか所見が現れないため,検査の時期を失してしまうと診断が困難になる.このため病因不明の病変として片付けられている症例もかなりあると思われる.

 われわれは最近,X線・内視鏡的に経過を観察できた一過性虚血性大腸炎を経験したので報告する.

  • 文献概要を表示

 Amyloidosisは比較的稀な疾患であるとされていたが,近年増加の傾向にあり,5年間でその頻度が3倍になったという報告もある1).最近われわれは,特異な小腸X線像を呈し,それが診断の手がかりとなり,かつ中心静脈栄養(以下IVH)によって症状の寛解をみた原発性全身性amyloidosisの1例を経験したので報告する.

  • 文献概要を表示

 近年,部分的な血流障害によって生ずる虚血性腸炎が,予後不良な急性腸間膜血管閉塞症とは異なる1つのclinical entityとして注目されている.

 われわれは回盲部に潰瘍病変を認めたベーチェット病患者において,それがいわゆる腸型ベーチェットとしての潰瘍性変化とは異なり,結局は虚血性腸炎であった1例を経験したので,考察を加え報告する.

  • 文献概要を表示

 虚血性大腸炎は血管造影で異常を示すことは少ない.われわれは血管造影で診断された上腸間膜動脈病変,動脈瘤,腸間膜血腫を伴う特異な1例を報告する.

症 例

 患 者:52歳 男

 主 訴:下腹部仙痛

 家族歴,既往歴に特記すべきことはない.

 現病歴:1977年12月9日午後7時頃,自宅で,突然下腹部に仙痛を覚えた.安静臥床によっても軽減せず,同日午後10時にいわき市立常盤病院を受診した.

 初診時,血圧,脈拍,呼吸は正常であったが,顔貌は苦悶状であった.黄疸,貧血の微候もなく,胸部,肺野に所見なく,心雑音も聴取されず,腹部では肝・脾・腎も触れなかった.嘔吐,下痢,血便などはなかったが,胸部から下腹部にかけてかなり激しい疼痛を訴えたので急性腹症として即日入院した.

  • 文献概要を表示

症 例

 患 者:45歳 男性

 主 訴:悪心,嘔吐,腹部膨満

 家族歴・既往歴:特記すべきものなし

 現病歴:1967年頃より胸やけ出現.1974年より上肢,顔面の浮腫,レイノー現象,手指のこわばりがみられるようになった.1976年8月頃より嚥下障害,上腹部痛あり.同年12月,胃潰瘍(胃角部)の診断のもとに胃切除術(B-Ⅰ法)を施行される.その後,舌の運動制限と顔面のこわばりを強く感じるようになったため,1977年2月より2カ月間,皮膚科に入院する,諸検査の結果から進行性全身性硬化症(PSS)と診断され,副腎皮質ステロイド剤の投与を受ける.同年6月より悪心,嘔吐,腹部膨満感の出現と,顔面のこわばりが増強してきたため,7月に消化器内科に入院した.

  • 文献概要を表示

 消化管病変の診断における血管造影法の評価はバリウム検査や内視鏡検査に比し低いが,バリウム検査や内視鏡検査では消化管の内腔面の観察が主体となり,粘膜下より深部の病変の把握には限界がある.一方,血管造影法では管腔外の状態が観察でき,病変の拡がり,浸潤の程度,周囲臓器や遠隔臓器への病変の影響が診断できる.したがって消化管病変においても血管造影法は重要な検査法といえ,特に今回のテーマである血管病変に基づく消化管病変では,血管造影法がその診断において第一義的な意味をもつ.本稿では超選択的血管造影法,薬理学的血管造影法や治療的血管造影法など血管造影法の最近の進歩につき,主に血管性病変の診断と治療面に焦点をあわせて述べた.血管造影法の基本的事項1),血管解剖2)については誌面の都合で省略した.

  • 文献概要を表示

 従来より小腸癌の実験的研究に関する報告は少なく,その確立された実験モデルはない.3-di(hydroxymethyl)amino-6-(5-nitro-2-furylethenyl)-1,2,4-triazine(DHNT)は,抗菌薬剤であったPanfuran Sに含まれていたニトロフラン誘導体であり,その突然変異性の有することは示された1).著者らは,ラットにおけるDHNTの発癌性を検索した結果,小腸,特に十二指腸および空腸に選択的に癌の発生することを見出した2)3)

 本論文は,DHNTによるラット小腸癌の実験モデルとしての意義と有用性について病理学的見地より検討した.

  • 文献概要を表示

 管腔臓器が隣接する血管によって圧迫され,生理的あるいは病的狭窄をきたすことは,大動脈やaberrant subclavian arteryによる食道狭窄1),上腸間膜動脈による十二指腸閉塞2)3),腎動静脈による腎孟,尿管の圧迫4)などが従来よりよく知られているが,胆道系に対する血管系の圧迫症例の報告は比較的少ない13).著者らは胆囊結石症の1例に術前にERCPを施行し,総肝管に限局性の陰影欠損を認め,肝動脈造影および手術によりそれが右肝動脈による圧迫であることを確認しえたので報告し,若干の文献的考察を加えた.

  • 文献概要を表示

 最近の抗生物質の開発は目覚ましく,各種感染症に対してその利するところ大なるものがあるが,一方では当初予想されなかった種々の副作用が報告されつつある.消化管に対する副作用として良く知られているものにリンコマイシン,クリンダマイシンなどによる偽膜性大腸炎があるが,最近アンピシリンおよびその誘導体に起因すると考えられる血便が散見される1).われわれも同様の症例を4例経験したので報告する.

入門講座 胃癌診断の考え方・進め方・5

  • 文献概要を表示

●見逃しはどういう場合に起こるか

 市川 X線の弱点,内視鏡の弱点までは終わリましたし,利点も一応終わりましたね.そこで,弱点とか利点とかに関係なく,見逃しはどういう場合に起こるかということに移りましょう.

 城所 見逃しは,私は自信過剰の場合に起こると思います.だから,虚心坦懐になれということですね.

--------------------

欧文目次

  • 文献概要を表示

 日本医学放射線学会は専門医制度を発足させて10年になる.医療制度が欧米のように確立されておらず,分担も定かでない状況のもとで,専門医を学会が認定したところで何のメリットもないではないかという批判は,放射線学会会員の中にすら根強く残っている.しかし,各分野に力のある専門医がいて,お互が力を合わせてこそ最も患者の利益になる診療ができるということは間違いない事実である.最近の放射線診断の進歩はめまぐるしい,すばらしい速度である.多岐にわたるのみでなく,各々の深さを増してきた.ぼんやりしていると,いつの間にかとり残されてしまう.何時でも最高のレベルの診断ができるようにするためには,絶えず補習をしてゆかねばならない.放射線学会には教育委員会があって注意を喚起してはいるが,実際にはなかなかうまくゆかないのである.大変なご苦労であるが,世話人となる良い人がいなくては続かない.この点,中部地方会は幸いだな,と思う.世話人であった松田忠義博士もそうであったが,木戸長一郎博士がまた良い.企画も宜しかったと思うが,このように1冊の本にまとめあげてくれている.日常の超多忙な臨床の中にあって,企画から本にするまでそのご苦労は大変であったと推察する.

 内容は診断法の進歩と病変の鑑別診断に分かれている.診断法の進歩では,CTを含めての画像診断という立場より,各種検査法の意義について再検討を試みているように思われる.病変の鑑別診断の項では,胸部,消化管,肝,腎,胆道と各組織器管別に新しいX線診断の意義を癌との鑑別という観点より述べている.そして,最後に症例討議という項を設け,不足部分を補っているかにみえる.

  • 文献概要を表示

 Prof.KrentsはDemling教授を中心としたErlangenグループとは違うために,日本で知られることが比較的少ないと思われる.もう十数年前になろうが,以前Hamburg大学で内撹鏡検査にタッチされておりその後Aachenに移られたのだが,日本で育名なAachen大学のProf.Frikとは施設が異なり,多分市立病院の内科部長をしておられて余り仕事の上での交流はないように思われる.

 しかし「Leitfaden für Gastroskopie」を書いて,古典的な内視鏡医には有名なDr.Brühlと一緒に仕事をした方で,その意味では古い伝統を受け継ぐ内視鏡診断医の一人であるといえる.以前から学会でよくお逢いしていたが,この数年余りお逢いすることもない.

編集後記 岡部 治弥
  • 文献概要を表示

 本号では『胃と腸』14巻を通じて初めての主題である血管病変をとりあげ,本誌愛読者の皆さんにお届けすることができるようになった.この主題を漸やくとりあげた経緯を少しく説明したい.消化管の機能と形態の変化の原因として血管病変が極めて重要であろうことは誰もが認識し,強い関心を抱くところであるが,この主題をとりあげるには如何にも大きすぎるテーマということで,なかなか実現に至らなかったものである,たまたま,昨秋岐阜の消化器三学会において,この主題がシンポジウムにとりあげられ,川井教授と小生がその司会をつとめた.多数の応募者により,すぐれた発表とディスカッションが行われたが,これは『胃と腸』の主題としてもとりあげるべき一時期ではないかということになり,本号が完成するに至った次第である.

 今,各論文を読んでみると,主題の4論文はすべて中味の濃い,教示に富み,かつ今後の問題点を明瞭にくみとらせる,すぐれた論文である.さらに主題に関連した6本の症例報告は大変バラエティに富み,いずれも貴重な教示に富む好論文である.欲をいえば機能面に関しての論文がほしいということであろうか.臨床面ではこれは極めて困難な分野である.血管病変の診断に大変重要な診断分野である血管造影手技についても,精細な御執筆を一本いただいた.

基本情報

05362180.14.5.jpg
胃と腸
14巻5号 (1979年5月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

文献閲覧数ランキング(
11月12日~11月18日
)