胃と腸 13巻6号 (1978年6月)

今月の主題 胃・十二指腸潰瘍の治療の検討

序説

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 消化器疾患の治療法は,何も消化性潰瘍に限らず,明らかな感染症以外は原因療法ともいうべきものがない.とくに消化性潰瘍は胃・十二指腸潰瘍ともに強い自然治癒力をもっているということで,そのような疾患に応用する治療法の効果判定は実際上大変困難である.本誌の主題は“胃・十二指腸潰瘍の治療の検討”ということであるが,数多い治療法の何をどのような方法ないし規準で検討評価するのか,胃・十二指腸潰瘍を同一に論じていいのか等と考えてくると,この古くして新しい問題は今なお決して簡単ではない.

 元来,胃・十二指腸潰瘍は一般にきわめて治癒しやすいが,また再発しやすいことは既によく知られている.したがって潰瘍の再発を防止する治療法ができれば,潰瘍の問題は片づくわけである.しかし現状は,依然として胃潰瘍と十二指腸潰瘍の比率こそ国により民族により違いがあるが,洋の東西を問わず,この消化性潰瘍は消化器疾患の中でもっとも多い器質疾患であり,現在用いられている治療法は如何なるものでも,まだこの大勢を変えることはできないといって過言ではない.

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潰瘍症について

 胃・十二指腸潰瘍が,しばしば治癒,再発を繰返すことは,患者の臨床経過から容易に観察されるところである.このような潰瘍の発生が,単なる偶然の反復ではなく,理由があって起こることだとするのも当然な発想であって,その理由となる身体的背景を含めて,潰瘍症という概念がうまれ,潰瘍発生―治癒―再発生という一連の経過を,潰瘍のnatural historyという言葉で呼んできた.そして,潰瘍症という概念は従来,胃・十二指腸潰瘍という疾患についての考え方とか仮説としての次元で採りあげられてきたという感が深いが,しかし,潰瘍についてさまざまの解明が進められてきた現在では,すでに,日常の臨床において現実のものとして当面している問題だという実感となってきた.

 たとえば,問題を疫学的に考えてみると,現在,日本人の胃潰瘍有病率は2.03%ほどであり,治癒する潰瘍の数だけ新しい潰瘍が発生するとして計算してみると,潰瘍の発生率は,全人口に対して年間およそ2.07%程度であると推定される1).もし潰瘍症という概念が架空のものであり,胃潰瘍が不特定多数の日本人に平均的に発生するものとすれば,平均年齢を70年として,すべての日本人は生涯の間に平均1.5回の潰瘍発生を経験することになる.また,1人の患者が,数年の期間に,数回もの潰瘍発生をみるような経過はしばしば経験されるところであるが,それは1億回に1回ほどの確率の事態を観察していることになる.

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 今日,消化性潰瘍は胃・十二指腸の疾患の中でも,もっともpopularな疾患であるが,最近は,難治性の腓抵性潰瘍や著明な胃変形を伴う典型的な線状潰瘍に遭遇することが著しく少なくなっている.そして,消化性潰瘍はむしろ自然治癒傾向が強く,容易に療痕治癒しやすい一方,きわめて再発しやすく,周期的に新たな潰瘍の発生を繰り返すことこそ,この疾病の特徴であり,個々の潰瘍は治癒しても,潰瘍症は治らないといわれる所以である.

 近年のわが国における消化器病学の進歩がもたらした特記すべき大きな変化の一つは,早期胃癌診断学の進歩により,胃の潰瘍性病変の良性悪性の鑑別が著しく確実性を増し,かつてのように,悪性変化が疑わしいとの理由で,良性の消化性潰瘍が手術されることは著しく少なくなり,消化性潰瘍の手術適応の幅がかなり狭められたことであろう.保存的治療が困難な合併症を伴わぬ限り,消化性潰瘍は原則として内科的治療の対象となることは,多くの臨床家が承認していることと思われる.

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 従来,わが国では胃潰瘍も十二指腸潰瘍も同一の術式,すなわち広範囲胃切除術が行われてきた.この術式は1919年Finstererによって発表されたが,それまでの再発の多い小範囲胃切除術や胃空腸吻合術に代って広く世界に普及した.わが国でも宮城(1921),青山(1923)によって紹介され,大井1)によって理論的に裏付けられ,潰瘍再発の少ない術式として高く評価された.しかし術後の長期追跡例が多くなるにつれて,消化吸収障害,胃切除貧血,骨軟化症などの代謝異常例や小胃症状,ダンピング症候群などの術後愁訴が問題となってきた.このため充分な減酸効果が得られ,しかも胃が大きく残る小範囲胃切除術に対する関心が高まってきた.

 Edkins(1905)2),Ivy & Grossman(1950)3),Dragstedt(1951~4)4)~6),Gregory(1961)7),Mc Guigan(1968)8)らの努力により胃液分泌の生理機構が解明されるにつれて,手術術式は大きな影響をうけた.すなわち胃液分泌は頭相,胃相,腸相によってコントロールされており3),頭相の除去がDragstedt9)によって広められた迷切術であり,冑相の除去ないし減弱が各々幽門洞切除術(以下幽切術),幽門成形術(以下幽成術)である.このような頭相あるいは胃相を除去する術式は,その組み合わせにより胃が大きく残りかつ減酸効果も大きく,壁細胞領域も一部切除する広範囲胃切除術に代る術式として普及しつつある.しかし幽切術のみや迷切兼幽成術のように壁細胞領域やガストリン産生の場である幽門腺領域が完全に残った場合,術後十分な減酸が得られるだろうかという疑問が残る.

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 胃潰瘍の治療とは活動性潰瘍を治癒させるとともに,患者を潰瘍より離脱させること,すなわち永久に治癒せしめることを目的としている.今日まで行われてきた治療法でこれを満足するものは,いわば手術療法のみであった.しかし本来良性疾患であるべき消化性潰瘍の治療法として,これはあまりに犠牲が大きく,なるべく保存的に治療したいと願うのが内科医としての立場である.今日までの内科療法をふり返るとともに,複雑な胃潰瘍の経過を述べ,内科療法がこれにどのようにかかわってきたかを明らかにするのが本稿の目的である.

胃潰瘍の治療法の評価

 胃潰瘍の治療の目的は,①疹痛など自覚症状の消失,②潰瘍の治癒促進,③再発の予防と潰瘍の永久治癒の3つにあることはすでに述べた.今日の治療法により,①はほぼ満足すべき結果が得られているが,③についてはまだほとんど手つかずの状態といってよい.今日まで発表されてきた数多くの報告は,主として②に関してである.従来より有効とされてきた潰瘍の治療法は次のように要約できる.

 (1)精神的および肉体的安静(入院)

 (2)食餌療法

 (3)タバコ,コーヒーなど嗜好品の禁止

 (4)薬物療法

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 冒頭の序説で岡部教授により述べられているように,胃または十二指腸潰瘍に対する薬物,安静,食事療法などによる治療効果として,①上腹部疹痛をはじめとする自覚症状の消失,②潰瘍治癒の促進,③再発防止による潰瘍歴の離脱の3つの問題点のうち,①と②についてはかなりの報告がみられるが,①を除いては明確な薬剤の効果の証明はされていない.ことに③については,ほとんど仕事らしい仕事がみられない.この再発防止による潰瘍歴の離脱については,どのようなアプローチをしてよいかすらわからないが,薬物を主として安静,食事,生活指導などが,どの位十二指腸潰瘍の再発防止に役立っているかの手がかりをつかむため,著者らが1963年から1976年までに,同一集団の健康人の胃集団検診から発見された十二指腸潰瘍の逐年検診から得た治療成績について,形態学的立場から一考察を加えてみた.

研究対象

 潰瘍治療の研究には,その対象のとり方が非常にむずかしい.治療開始時の性,年齢,診断方法(X線診断によるか内視鏡診断によるか),治癒判定の基準などだけでも一定にすることは容易でないが,それに潰瘍が初発か再発か,また再発ならばどの位の長さの潰瘍歴をもっているものかなどを一定にすることは,まず不可能に近い.いわんや,大学のような終末医療機関,それも内科受診患者と,外科受診患者はもちろんのこと第一線の医療機関を訪れる患者を対象とするのとでも,集められた潰瘍の種類,時期がかなり異なるのは当然である.すなわち,各自の対象としている患者は,いろいろな大きさの網目の酷(フルイ)にかけられたものであるから,それらのデータは同一レベルで比較できるものではない.しかし,それと同時に,数多くの対象を扱う時には,対象の検査の程度がどれ位正確なものであるかがデータに信用がおけるかどうかの因子の一つと考えている.

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 胃・十二指腸潰瘍の病因論については,古くから論じられているが,その原因は多元的であり,発生機序も複雑で,今日なお未解決のところがある.しかし,近年では本症は心身症の代表的な疾患であることを,誰もが認めてきている.

 これは,本症の心身医学的病因論が説く,Fig.1のような発生機序が,塩酸,ペプシンなどの攻撃因子と,粘液の分泌量,胃壁血流量などの防禦因子との間にアンバランスが生じた時に潰瘍が発生するという,現在誰もが認めている本症の終極的な発生機序のバックグランドとして,もっとも妥当性の高いものであると考えられるからである1)~3)

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 最近は診断技術の向上により胃潰瘍と胃癌の確実な鑑別が容易となり,胃潰瘍に対する内科的治療法が積極的に行われている.たしかに20年前に比較すれば胃潰瘍の手術症例数はやや少なくなっているが,大変少なくなったというほどでもない.五ノ井1)によれば胃潰瘍の平均治癒率は29%と1/3を越えていない.しかも原2)によれば内科的治療により治癒した潰瘍も11~12年を経過するうち71%に再発がみられるという.この原の報告から累積再発率を推定すると,もし20年の経過を観察しえたとしたらその再発率は90%に達するという1).このような報告からみると胃潰瘍は治りにくいものが多く,いったん治癒しても長い経過の中にはほとんど再発するということになる.この辺が今日なお胃潰瘍手術症例数に極端な減少のみられない理由であろう.

 ところで手術する側からみて胃潰瘍と十二指腸潰瘍の手術例数に変わりはないだろうか.Table 1は教室における手術症例数であるが,胃潰瘍に対し十二指腸潰瘍に共存潰瘍を加えたものの症例数の比は1961~65年では2:1であるのに対し1971~77年では1:1となっている.これは著者らの施設だけではなく本邦における最近の一般的傾向のようである.

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 胃・十二指腸潰瘍が全身性疾患としてとらえられ,局所の組織欠損としての潰瘍が治癒消失しても,それは単に病徴としての局所所見が一時隠れたにすぎず,「潰瘍症」自体は治癒したことにはならない,とする考え方は必ずしもそれほど新しく珍しいものではない1).しかし,最近特に長期にわたるnatural historyの研究,Cimetidineのような強力な制酸剤による治療成績などが検討された結果,さらに一層,潰瘍症よりの離脱の困難さ,易再発性が強調されるようになった.世界中の潰瘍学者が注目しているH2受容体拮抗剤であるCimetidineは潰瘍の保存的治療に革命的ともいえる治療成績をあげた.しかし,その減酸効果は服薬中だけのものであり,もちろん永続的なものではない.

 他方,手術的治療による成績はelectiveなcaseに対しては術式による差異も微々たるもので,全体としては満足すべき良好な結果が得られている2).手術適応のとり方は一度は保存的に治療しても,再発の時点で手術をすすめるという順序をふむ考え方が,欧米,特に米国を中心に一般的である.経済的,物質的合理主義に立脚した考え方である.しかし,わが国では,必ずしもそうした手術適応のとり方はされていない.潰瘍が再発してもまた根気よく治療し合併症でも招かない限り手術にはふみきらず,ある意味では,潰瘍と共存しながら,一病息災を決め込む方針のものも少なくないのが現状である.これは,手術適応の考え方に内科と外科との見解が必ずしも一致していないという結果でもあるが,しかし,残念なことに,どうも十二指腸潰瘍は胃潰瘍に比し,より唯物的,西欧的であるようで,再発,再燃と共に合併症を招きやすく,なかよく一生共存することは困難なようである.すなわち,わが国での十二指腸潰瘍手術患者の半数近くはなんらかの意味で合併症を有しているものであり,結果的にみると20%近くは要緊急手術患者であることは驚くべき数字であるが,これはひとえにelective caseが少ないためのものと考えてよいようである.著者らはかねてより,これらの点に関し,緊急手術例のmortality,morbidityの高さから,従来からいわれてきた「絶対的適応」は,一種の手遅れ症例であることを強調してきた3)3).近年,十二指腸潰瘍症例(Fig.1)の増加は著しく手術適応決定の時期選定の困難さはますます問題になっていくものと思われる.特にわが国では,単に“統計的有意性をもって手術的治療法のほうが保存的治療よりも有効である”という事実だけでは手術適応範囲を拡大しようということにはならないという,「手術」に対する日本人特有の思考型が,医者にも患者にもある.いいかえると,手術的治療法を,原則的には,比較的相対的方法とは認めず,絶対的,最終手段であるべきであるとする考え方が根底にあるからであろう.

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 悪性腫瘍に対する放射線治療は,各種抗癌剤が普及している現今でも不可欠の治療法である.その方法は高圧装置の開発とともに治療面ですぐれた効果をおさめているが,反面副作用もまたまぬがれない.

 放射線照射による消化管障害は,1897年Walsh1)によって報告されて以来,消化管粘膜にたいする放射線障害が論じられている.一般に消化管の放射線障害は子宮癌,精巣癌などにおける放射線治療の際,隣接する直腸,膀胱粘膜への影響にかんして多くの論文がみられるが,胃粘膜障害についての報告は少ない.

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 家族性大腸ポリープ症(familial polyposis coli)は比較的稀な疾患であるが,大腸癌の発生頻度の高いことが知られており,全国調査(1961~72)の集計では,20歳以下で既に29%に達し,放置すれば全例が癌化すると推定されている1).一方,大

腸ポリープ症のほかに骨腫などの随伴病変を合併するGardner症候群は更に稀な疾患とされているが,最近では遺伝学的な研究も含め,家族性大腸ポリープ症との関連が注目されている.

 今回われわれは大腸ポリポーシスに下顎骨腫を随伴した症例と,その母で孤立性の大腸ポリープおよび頭部のsoft tumorを検出し得た症例を経験したので,これらの例に一部免疫学的検索も加え報告する.

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 最近,腸疾患とくに非特異性炎症性腸疾患に関心がたかまるとともに,その病態は次第に解明されつつあるとはいえ,まだ問題点が多い現状である.

 なかでも潰瘍性大腸炎,大腸クローン病,単純性潰瘍,孤立性直腸潰瘍などの潰瘍性疾患は,それぞれがさまざまな病状を呈するため鑑別に困難さを感ずる場合がある.また単純性潰瘍にしろ孤立性直腸潰瘍にしろ,本邦における報告例が少なく,本症に対する認識も少ないのはやむを得ない,しかし,最近に至り,高野1)や武藤2)の報告がみられ,関心がたかまりつつある.われわれも孤立性直腸潰瘍の2例を経験し,幸いに治癒せしめえたので文献的考察を加えて報告する.

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 結腸憩室症は,欧米では比較的多い疾患であるが,本邦ではまれとされている.しかし近年,注腸造影法,大腸ファイバースコープなどの診断技術の進歩により本症の報告が増加してきた.

 最近,われわれはS状結腸憩室症で結腸膀胱瘻を生じ,急性腎孟腎炎さらに急性腎不全を合併し,血液透析により軽快した後,診断を確定しS状結腸切除により完治しえた1例を経験した.本邦ではあまり報告をみないので詳細を述べー般の参考に供したい.

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 現在,慢性膵炎に対するもっとも信頼できる診断法は,機能的にはpancreozymin-secretin試験(あるいはsecretin試験)であり,形態学的にはERCPであろう.しかし,両者ともに中等度以下の膵炎の診断にはその有用性を発揮しえず,特に“defnite but mild chronic pancreatltis”について十分な診断基準を設定しえないでいる.軽症膵炎の診断は膵実質細胞の些細な機能的・形態学的変化を反映する検査法によってのみ可能と考えられる.この意味で,最近の合成ペプタイドを用いた血清・尿および膵液中の酵素測定法には大きな期待がかけられている.一方,ERCPと同じ挿管手技によりPure pancreatic juiceを簡単に採取でき,これを使用した各種膵液成分の分析が進められている.通常,生化学検査のための純膵液の採取はERCPとは別の機会に,最小限度の内視鏡前処置のもとで実施される.そして,外分泌細胞刺激剤を使用することなしに充分な量の純膵液を集めることは困難であるから,刺激剤としてpancreozymin,secretinやcaeruleinが使用されている.GIH secretin 1 CUの1回静注により膵液量は且E常者で3~4ml/minまで増加する.健常者においてsecretin 4CUの静注により純膵液のvolumeおよびbicarbonate concentrationはほぼ最大となり,70CU投与時と有意の差を認めないという(Cotton,ロンドン).刺激剤投与前の基礎分泌のamylase concentrationはsecretin静注後に急速に低下するが,secretin 70 CU投与後に再びwash out的に増加することが知られている.bicarbonate concentrationは'1曼性膵炎例でもしばしば高値を示し,時にmaximum bicarbonate concentrationで正常群のそれとoverlapすることが見出されている.通常,純膵液とP-S試験による十二指腸液の同一症例での比較で,純膵液は十二指腸液に比し,volumeの低下を示すが,concentrationでは高値を示すと言われる.一方,正常者の純膵液中の無機成分では,クロール濃度はbicarbonateと逆相関を示し,両者の和はナトリウムとカリウムの和に等しい,またカルシウム濃度は総蛋白量とほぼ平行する.慢性膵炎例での無機質の変動は膵石症でのカルシウム濃度の増加を除いて一般に観察されていない.

 しかし,純膵液においても以一Lのような,conventionalな因子の検討では従来のP-S試験以上に秀れている点は報告されていず,新しいparameterの発見のために生化学的・形態学的検討が進められている.慢性膵炎に際して,膵液中のアルブミン/総蛋白の比は増加し,また鉄結合性蛋白であるlactoferrinが認められるとい

う報告がある(Sarles,マルセイユ).分子量69,000のlactoferrinは乳腺,唾液腺,気管支粘液腺などから分泌され,正常者の膵液には存在しない.この蛋白は石灰化膵炎患者の膵液には極く微量(総蛋白の0.03~0.34%)に認められ,膵管中のprotein plugの形成に一役かっていると推定されている.しかし,lactoferrinは慢性膵炎例に必ずしも証明しえず,今後の詳細な検討が待たれている.膵液中の蛋白質は血清蛋白成分を除くと大部分は酵素あるいは酵素原であり,現在,これら各種酵素の定性および定量が行われ急性あるいは慢性膵炎での意義について検討が進められている.

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欧文目次

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 Gastrointestinal Plasma Protein Loss During Ethanol Ingestion: A. R. Chowdhury, L. s. Malmud, V. P. Dinoso, Jr. (Gastroenterology 72: 37~40, 1977)

 エタノールが胃粘膜へ及ぼす不利な影響はいろいろと研究されている.急性びらん性胃炎はその1つである.著者らは,慢性萎縮性胃炎では正常者または慢性表層性胃炎に比べて,エタノール摂取中に便中にCr51をラベルした赤血球を多く認めたことを既に報告した.今回はエタノール摂取中に人の正常胃粘膜で同様なことがおこるかどうかを調べた.まず血漿蛋白の便中への排出を調べると,対照では,正常,表層性胃炎,萎縮性胃炎の三者ともきわめて軽微で差はなかった.ところがエタノール摂取後で,三者とも排出が多くなった.表層性胃炎では著増を示し,萎縮性胃炎では更に高く,対照時の2倍値を示したが,正常では増加を示したものの有意ではなかった.胃での血漿漏出はエタノール摂取後増加した.萎縮性胃炎では,正常,表層性胃炎に比べて高値を示した.

第3回「胃と腸」賞 決定
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 雑誌「胃と腸」では1976年その創刊10周年を記念し,「胃と腸」賞(賞状・賞牌・賞金50万円)を創設致しました,これは「胃と腸」に掲載された全論文中,年間の最優秀論文に贈呈されるものです.選考は「胃と腸」編集委員会にて行なわれます.

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 胃潰瘍の臨床にたずさわっているものはおそらく,ほとんどの人が,胃潰瘍の生態,自然史について幾多の疑問とともにつきない興味を抱くに至るであろう.今診断しえた胃潰瘍はこの患者さんにとって初めての新生潰瘍なのであろうか,あるいは既に何度目かの再発潰瘍なのか,この潰瘍の治癒は,その後の長期予後ははたしてどうであろうか,どうしたら再発なしに潰瘍症の離脱が可能であろうかなどと考えてゆくと,臨床できわめてありふれた本症でありながらなにか正体不明のままにがっちりと前にたちはだかった感じで何一つ明確な答が出ない.すなわち1例1例についてはその明確な長期予後は予測出来ぬが,しかしながら症例の経過について経験を重ねて来るに従い,何かそこに医師の力の及ばぬ自然の法則が胃潰瘍の経過を支配していることに気づいてくる.さてその法則とは何であろうか,この謎にみちた胃潰瘍はまず日本人の中にどれ程の頻度で発生しているものであろうか.治癒再発を繰り返すその実態はどのようなものであるのか,治癒速度,治癒率,再発率についてどの程度それを明らかにしうるであろうか,そしてその繰り返し胃潰瘍を出没せしめる胃潰瘍症といわれるものはどのように把握することが可能なのか.

 このような疑問に対して,敢然として立ち向かい,この今までIE体不明のままに漠然と想定されていた胃潰瘍症について疫学的な面から一つの結論を出したのが本書である.ところでまた本書の他に類を見ない特徴は,その方法論である.従来から胃潰瘍に関する統計としては,死因統計,剖検統計,胃集検統計,臨床統計があり,その数は目本において決して少なくないが,これらがそのまま胃潰瘍の疫学的実態を示すものでないことは言うまでもないこととして,それらの示す数字は各論文にてバラバラであり,時には相矛盾することさえあるためにむしろ絶対値としてよりも比較的な数値にすぎぬとして従来うけとられていた.これに対し本書の著者は剖検統計がまずもっとも信頼しうる資料であるという論理的結論のもとに本邦における剖検統計を古くは明治時代のものからあますところなく集め,それを経時代的に整理し,それぞれの目的に応じた論理的な取捨選択を行い日本人の胃潰瘍有病率について見事な結論に達している.ついで胃集検統計から無症候性潰瘍の頻度をさぐり,更に従来の臨床諸統計から胃潰瘍の治癒率,再発率を検討している.そして最後には胃潰瘍症の疫学に及んで,むすんでいるが,その各章各項における筆のすすめ方は,まことにロジカルであり,読者を一つ一つ納得せしめながら結論に達してゆく.治癒率,再発率の項では,諸論文の数値が一見きわめてバラバラであるものを経時的に整理し,共に時間の函数であり,一定の函数曲線で治癒率,再発率が数学的に見事にとらえられることを示しているが,これはいわばコロンブスの卵的発見であり,読みながらまさに膝を叩くおもいであった.

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 消化器内視鏡学の最近の進歩は目覚ましいものがある.わが国では上部消化管の内視鏡に関する名著は少なくないが,小腸・大腸に関するものは必ずしも満足すべきものではなかった.この期にあたってBeck,Dischler,Helms,Oehlert博士らによる共著『腸疾患の内視鏡と生検』が竹本,多賀須両博士によって翻訳され,本書がより多くの人々に読まれる機会が与えられたことは喜びにたえない.なぜなら本書が腸疾患の内視鏡に興味を持つ医師にとっては欠かすことのできない必読の名著だからである.

 本書の構成はきわめて簡潔明解である.すなわち,手技の概要,検査の基本的事項が簡潔に要約された後に,小腸と大腸の正常状態および諸疾患における内視鏡所見の見事なカラー写真が載せられている.説明文は左頁に,写真は右頁にまとめられているために,写真だけ眺めていても実に楽しく,また勉強にもなる.1枚1枚の写真の美しさもさることながら,腹腔鏡所見によって腸疾患の漿膜側の変化も示されているなど,心憎いばかりの配慮も忘れてはいない.本書の価値をさらに高めているのは,病理組織,オートラジオグラフィー,組織化学,電子顕微鏡,走査電顕,実体顕微鏡などの数々の見事な最新の写真によって,様々な状態における内視鏡所見との対比が行なわれていることであり,これが本書に単なる内視鏡図譜とは異なった優れた個性を与えている.形態学に興味を持つ者ならば誰でも,本書に含まれている,700枚に及ぶ豊富で,しかもマクロなりミクロなりのバラエティーに富んだ美しい写真に感嘆せずにはいられないであろう.著者の中に病理学者が含まれていることも単なる内視鏡写真の羅列に止まらない内視鏡専門書が生まれた所以であろうが,全体としていかにもドイツ人による本らしく,がっしりした重量感のある内容を持った本である.われわれに馴染みのないスプルー,Whipple病についても十分に視覚的に勉強させてくれるし,潰瘍性大腸炎の炎症動態についても多くの頁を割いて詳しく説明してある.直腸鏡による写真の美しさは特に抜群で見飽きることがない.また十二指腸,大腸の項は竹本,大井,長廻博士らが分担されているために,内視鏡写真のかなりの部分が国産品で占められていて,何となく親密感が湧いてくるのである.

編集後記 城所 仂
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 胃・十二指腸潰瘍の治療はきわめて古いテーマでありながら,なかなか解決しにくい問題の1つである.潰瘍の発生と経過には,神経性,心因性,内分泌性および局所性の諸因子が複雑に関係し合っているため,その中の1つの因子だけを取り上げてみても到底全貌を明らかにすることはできない.

 本号では胃・十二指腸潰瘍の治療に関係する事項を内科および外科のそれぞれの異なった立場から取り上げて検討している.内科治療における問題点は再発の防止にしぼられてきている.再発さえ防げれば長い経過からみて潰瘍は治癒しやすい疾患ということができよう.

基本情報

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胃と腸
13巻6号 (1978年6月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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