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現在,慢性膵炎に対するもっとも信頼できる診断法は,機能的にはpancreozymin-secretin試験(あるいはsecretin試験)であり,形態学的にはERCPであろう.しかし,両者ともに中等度以下の膵炎の診断にはその有用性を発揮しえず,特に“defnite but mild chronic pancreatltis”について十分な診断基準を設定しえないでいる.軽症膵炎の診断は膵実質細胞の些細な機能的・形態学的変化を反映する検査法によってのみ可能と考えられる.この意味で,最近の合成ペプタイドを用いた血清・尿および膵液中の酵素測定法には大きな期待がかけられている.一方,ERCPと同じ挿管手技によりPure pancreatic juiceを簡単に採取でき,これを使用した各種膵液成分の分析が進められている.通常,生化学検査のための純膵液の採取はERCPとは別の機会に,最小限度の内視鏡前処置のもとで実施される.そして,外分泌細胞刺激剤を使用することなしに充分な量の純膵液を集めることは困難であるから,刺激剤としてpancreozymin,secretinやcaeruleinが使用されている.GIH secretin 1 CUの1回静注により膵液量は且E常者で3~4ml/minまで増加する.健常者においてsecretin 4CUの静注により純膵液のvolumeおよびbicarbonate concentrationはほぼ最大となり,70CU投与時と有意の差を認めないという(Cotton,ロンドン).刺激剤投与前の基礎分泌のamylase concentrationはsecretin静注後に急速に低下するが,secretin 70 CU投与後に再びwash out的に増加することが知られている.bicarbonate concentrationは'1曼性膵炎例でもしばしば高値を示し,時にmaximum bicarbonate concentrationで正常群のそれとoverlapすることが見出されている.通常,純膵液とP-S試験による十二指腸液の同一症例での比較で,純膵液は十二指腸液に比し,volumeの低下を示すが,concentrationでは高値を示すと言われる.一方,正常者の純膵液中の無機成分では,クロール濃度はbicarbonateと逆相関を示し,両者の和はナトリウムとカリウムの和に等しい,またカルシウム濃度は総蛋白量とほぼ平行する.慢性膵炎例での無機質の変動は膵石症でのカルシウム濃度の増加を除いて一般に観察されていない.
しかし,純膵液においても以一Lのような,conventionalな因子の検討では従来のP-S試験以上に秀れている点は報告されていず,新しいparameterの発見のために生化学的・形態学的検討が進められている.慢性膵炎に際して,膵液中のアルブミン/総蛋白の比は増加し,また鉄結合性蛋白であるlactoferrinが認められるとい
う報告がある(Sarles,マルセイユ).分子量69,000のlactoferrinは乳腺,唾液腺,気管支粘液腺などから分泌され,正常者の膵液には存在しない.この蛋白は石灰化膵炎患者の膵液には極く微量(総蛋白の0.03~0.34%)に認められ,膵管中のprotein plugの形成に一役かっていると推定されている.しかし,lactoferrinは慢性膵炎例に必ずしも証明しえず,今後の詳細な検討が待たれている.膵液中の蛋白質は血清蛋白成分を除くと大部分は酵素あるいは酵素原であり,現在,これら各種酵素の定性および定量が行われ急性あるいは慢性膵炎での意義について検討が進められている.
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