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消化器内視鏡学の最近の進歩は目覚ましいものがある.わが国では上部消化管の内視鏡に関する名著は少なくないが,小腸・大腸に関するものは必ずしも満足すべきものではなかった.この期にあたってBeck,Dischler,Helms,Oehlert博士らによる共著『腸疾患の内視鏡と生検』が竹本,多賀須両博士によって翻訳され,本書がより多くの人々に読まれる機会が与えられたことは喜びにたえない.なぜなら本書が腸疾患の内視鏡に興味を持つ医師にとっては欠かすことのできない必読の名著だからである.
本書の構成はきわめて簡潔明解である.すなわち,手技の概要,検査の基本的事項が簡潔に要約された後に,小腸と大腸の正常状態および諸疾患における内視鏡所見の見事なカラー写真が載せられている.説明文は左頁に,写真は右頁にまとめられているために,写真だけ眺めていても実に楽しく,また勉強にもなる.1枚1枚の写真の美しさもさることながら,腹腔鏡所見によって腸疾患の漿膜側の変化も示されているなど,心憎いばかりの配慮も忘れてはいない.本書の価値をさらに高めているのは,病理組織,オートラジオグラフィー,組織化学,電子顕微鏡,走査電顕,実体顕微鏡などの数々の見事な最新の写真によって,様々な状態における内視鏡所見との対比が行なわれていることであり,これが本書に単なる内視鏡図譜とは異なった優れた個性を与えている.形態学に興味を持つ者ならば誰でも,本書に含まれている,700枚に及ぶ豊富で,しかもマクロなりミクロなりのバラエティーに富んだ美しい写真に感嘆せずにはいられないであろう.著者の中に病理学者が含まれていることも単なる内視鏡写真の羅列に止まらない内視鏡専門書が生まれた所以であろうが,全体としていかにもドイツ人による本らしく,がっしりした重量感のある内容を持った本である.われわれに馴染みのないスプルー,Whipple病についても十分に視覚的に勉強させてくれるし,潰瘍性大腸炎の炎症動態についても多くの頁を割いて詳しく説明してある.直腸鏡による写真の美しさは特に抜群で見飽きることがない.また十二指腸,大腸の項は竹本,大井,長廻博士らが分担されているために,内視鏡写真のかなりの部分が国産品で占められていて,何となく親密感が湧いてくるのである.
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