胃と腸 1巻6号 (1966年9月)

今月の主題 胃潰瘍〔3〕

綜説

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Ⅰ.はじめに

 疾患を集団の立場で考察することが疫学であるとされている.集団の立場で考えるということは,Host(宿主)とAgent(病因)とEnvironment(環境)との関係を分析することである.だから胃潰瘍の疫学では先ず第一に潰瘍のEtiologyに対する何らかのアポーチをしなければならないことになる.ところが臨床的に確認された潰瘍が,何時,いかにしてその宿主に発生したかをわれわれは知らない.この潰瘍の発生状況を確認する資料が臨床的にも極めて乏しいとすれば,胃潰瘍のAgentに対する疫学的考察は現在のところなかなかむずかしいことになる.そこで胃癌との関連性と,潰瘍治療を含めた社会医学的な考え方について2,3考察してみた.

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まえがき

 胃潰瘍手術は,今日全くpopularなものとなっており,BillrothⅠ法あるいはⅡ法の,幽門輪を含めた胃1/2~2/3部分切除がもっとも広く採用されている.手術が定型化されるということ自体は,その手術が手技上も,治療成績の面からも優秀なものであることを物語るものではあるが,今日定型的に行なわれているBillrothⅠ法あるいはⅡ法の胃切除術について問題がない訳ではない.本稿ではこれらの問題点を中心に,近年行なわれつつある二,三の手術について触れてみたいと思う.

 胃潰瘍は十二指腸潰瘍に較べて,自覚症状が少なく,穏和であり,それだけに穿孔,大出血が初発症状であることがまれではない.また胃潰瘍は治癒しやすい代りに,再発も起しやすいことが特徴とされる.文献集計上,胃潰瘍手術後の再発率は,BⅠ法で3.6%,BⅡ法で1.7%法であって1),内科的治療の再発率に比して圧倒的に低い.さらに死亡率の面では,内科的治療の場合の死亡率が4.5%2)3),胃潰瘍に対する胃亜全剔術の死亡率が2.5~4.5%のごとく3)4)著差をみない.この数値は一見,胃潰瘍に対しては内科的治療よりも外科的治療の方が優るかの感を与える.しかし,他方当科症例の検討5)では,術前胃切除後6週~10年のfollow-upで,正常および表在性胃炎が80%前後を占めるのに対し,胃カメラ,胃生検による残胃粘膜の所見は萎縮性過形成胃炎が55~83%の高率にみられた.当科に於るfollow-upでは胃切除後症状と残胃粘膜の胃炎像との間には密接な関係があるとは考えられなかったが,この術後胃炎像と切除後胃症状との間に関連性があるとの報告6)も見られる.さらにダンピング症候群を始め,いろいろな胃切除後症候群の問題もあり,治癒しやすい傾向を持つ胃潰瘍に対しては,部分的欠損を必然とする外科的治療の前に,まず内科的治療を行なうべきはいうまでもない.内科的治療で,急性胃潰瘍は1週間で,慢性胃潰瘍も多くは4~6週間でレ線的にも内視鏡的にも治癒するという7).内科的治療で1~3カ月間観察し,その間出血の反覆,疼痛の持続など症状の改善のみられぬもの,自覚症状が改善されてもレ線的または内視鏡学的所見で治療傾向のないものなどが手術の適応となる.適応を決めるに当っては,精神身体医学的立場から自覚症状と他覚症状の勘案,性格テストの吟味なども十分に考慮されなければならない.穿孔,大出血などの合併症の場合はもちろん外科的治療の対象になり,大出血に対してはショックの治療を中心とした従来の治療の他,近年胃冷凍法あるいは胃冷却法も行なわれるが,本稿ではこれら合併症の対策には触れない.

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 広く最近の膵臓に関する諸問題を外科側からとりあげる場合に,先ず最初に問題となるのは本年の第66回日本外科学会総会において公募シンポジウムとして行なわれた「膵癌の早期診断」があげられる.膵臓はこの腺が腹部に深在し腫瘍は外から触れにくく,後腹膜腔にあって浸潤に対する抵抗がすくなく,門脈,肝動脈,上腸間膜動静脈の接近により早期にこれらに浸潤して剔出術の適応外となることが多いこと,リンパ流が豊富で早くから広汎な播種をまねき,又神経周囲リンパ腔への浸潤は腫瘍がまだ肉眼的に認められない位の早期から起こることがあり,あるいは細胞自体の悪性度も強く,主として膵管上皮から発生するので頭部癌といえどもこれが発育増大し,総胆管を圧迫または浸潤して黄疸を発生した場合にはすでにかなり進展しており,体尾部癌では周囲に重要な臓器がないため圧迫症状も明瞭でなく,共に発見されたときは手術不能のことが多く,消化器癌の中でももっとも切除率が低く予後不良な疾患とされている.したがって膵臓癌の治療成績を向上せしめるためにはぜひ共早期診断,早期手術が必要となってくる.

 最近膵疾患の重要性が認識され,従来ほとんど注目をあびていなかった膵臓検査法も近時著しく進歩し,これらを応用して膵臓癌を早期に発見するための努力がつみ重ねられている.先ずレントゲン像では上部胃腸管の変化をほとんどの症例で認めることが出来るが,本症を疑うことの出来る位著明な所見は10%前後にみられるにすぎず,したがってむしろその陰性所見が他の疾患を否定するために役立っている.しかし本法は従前通り膵臓癌診断の基本をなすものであり,最近では二重カフ付経ロカテーテルを挿入し積極的に十二指腸を選択的に造影し,あるいは位置的関係と形態学的変化との両者を綜合判定する二段階的検索1)を行なってその異常を発見せんと努力されている.

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Ⅰ.まえがき

 今年の日本内視鏡学会総会の研究討議会(昭和41年3月20日司会村上忠重教授)では,胃ポリープが取上げられ論議されたが,その席上ポリープというには隆起の程度が軽度扁平である良性上皮性の病変が問題になった.その際このような胃の上皮性の扁平隆起はほとんどが癌(Ⅱa型早期胃癌など)であり,養老院というような特殊な所を除けば,そのような良性上皮性の扁平隆起性病変はほとんど存在しないのではないかという発言がなされた.このような病変は松本1)によっても経験されているが,いずれにせよきわめてまれなものとされている.

 著者らは最近このような胃粘膜の軽い隆起性病変で癌でなかった2例を経験した.Ⅱa型早期胃癌との鑑別診断上興味ある症例と考えられるのでここに報告する.

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Ⅰ.まえがき

 内視鏡検査の発展にともない.早期癌の発見や線状潰瘍の詳細な研究が行なわれてきている.以下の例はこの両者を疑い,手術にまわした例である.

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Ⅰ.症例

 患者:神○照○ 63歳 男,会社役員

 主訴:心窩部痛

 既応症:8年前テール便,十二指腸潰瘍として治療

 家族歴:特記すべきものなし

 現病歴:2年前より心窩部圧重感,不快感あり,最近増強し,心窩部痛ことに空腹時痛を訴えるようになり,阪大西川内科を受診した.胃レ線で胃癌を疑われ,胃内視鏡で早期胃癌として手術適応と決定,外科へ紹介された.

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 患者:鳴〇二〇,65歳,♂,染色業

 家族歴:特記すべきことなし.

 既往歴:3年前,十二指腸潰瘍と診断され,その治療を受けたことがある.

 現病歴;約1週間前より心窩部痛,胃部不快感,むねやけがありて来院.

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Ⅰ.はじめに

 近年,消化器疾患の診断はX線検査をはじめ,内視鏡検査,組織生検および細胞診とそれぞれ長足の進歩を遂げ,ことに生検による胃腸粘膜の形態学的検査は消化器疾患における日常検査の一つとなっている.

 今回,著者の一人本田がアメリカ留学中に経験したRubinによって改良されたMultipurpose Suction Biopsy Tubeを入手する機会を得たので,これについて簡単に説明を加え,かつその使用経験を報告をしてご参考に供するしだいである.

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Ⅰ.緒言

 われわれはファイバー食道鏡の将来性に注目しいち早く米国製ファイバー食道鏡(ACMI)を輸入し,かなり多くの症例に使用してみたが,グラスファイバーの黄色調が強く,レンズ面に附着した粘液除去が不十分であり,また,解像力などの点でも食道鏡として満足なものとは考えられなかった.ファイバーガストロスコープ同様一日も早く優秀な国産のファイバー食道鏡の完成することを期待していたが,最近漸く十分実用に供しうるファイバー食道鏡が完成したので以下その概要について報告する.

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 司会(市川) 前回は,胃潰瘍の疫学と集団検診とを話題といたしましたが,今回はレントゲンを中心に話してまいりたいと思います.

 診断ということになると,話がどうしても潰瘍の病理的なことにふれてくると思いますので,村上先生恐縮ですが,村上分類といわれる胃潰瘍の分類について,簡単に御説明願えませんでしょうか.

技術解説

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Ⅷ.ファイバースコープによる胃内各部位の観察順序と観察体位

 ファイバースコープを胃内に挿入したのち,どの部位から観察を開始すべきであるかについて述べる.実際には臨機応変に観察順序を変更しなければならないことが少なくない.たとえば比較的出血しやすい症例あるいは病変では問題部位を早く,より良好な条件で観察しておいた方がよい.

 しかしながら,胃内病変を探しだすには原則的なルールを設けておくことが必要である.観察中途で病変を探しだし,そこの観察に相当時間を費したとしても,あとは再び通常の観察順序に戻って最後までくまなく胃内を観察することが病変をみおとしなく発見する要点である.とかく一つの病変を発見してしまうと安心してしまって,そこで検査終了としがちであるが,それでは多発性病変を見落としてしまうのが当然であろう.一つみつけたらもう一つと探し求めてゆかなければならない.増田10)らはファイバースコープはややもすれば1個の病変のみの観察のみに満足する嫌いが多く,胃疾患の診断のためにはかなり技術の熟練が必要であると警告しているが,どんな症例でも胃全体をいつもみる習性を身につけておくべきである.

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 熊倉 先生のお話を伺うことを非常に楽しみにしております.きょうの企画といいますのは,やはり内科の最長老として永年にわたり,常に第一線に立って実際に歴史を作ってこられたし,また作りつつある先生のお口から,生きた歴史とか,これからの希望とか,若い者の心構えとか,そういうものをお伺いしたいということだと思います.どうか宜しくお願いいたします.

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編集後記 白壁 彦夫
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 数年前の雑誌に,次のようなことを書いたことがある.職場の胃集団検診を行なうと,はじめの年には癌が思うように見つかるだろう,しかし,だんだん胃潰瘍患者の健康管理ということになるのではないかと.そんなに潰瘍性胃は多いものである.最近は,ひどい潰瘍は減ってきた.ところが,今まではわからなかった小潰瘍や瘢痕の診断が進み,ひろい上げられるようになると,頻度としては少しも減らないようである.こと胃潰瘍にかんしては,くりかえし,くりかえし論じてもあきない.それだけ時点により考察面に新味がでてくるし,旧態の論との融合が面白い.診断,治療について,諸先生の論旨をかみしめ,自分の胸の中で経験例と照し合わせるのは楽しみである.何歳頃,胃潰瘍が,胃にはじめて生ずることが多いのだろうか,なぜ胃潰瘍は減らないのだろうか,難治性潰瘍というものの現時点での定義は,村上分類Ul Ⅱは粘膜集中像を作らないのか,などなど自分勝手な夢をみているところである.

基本情報

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胃と腸
1巻6号 (1966年9月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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