精神医学 13巻4号 (1971年4月)

巻頭言

  • 文献概要を表示

 大学病院の精神科に13年,ついで総合病院の精神科に19年つとめ,単科の精神病院にはつとめた経験がない。それで,これを書いている。近頃のことばでいえば,「これではまるで危機感がない,どういう点を踏まえて立っているのか,偏見にみちてとらえられているという告発をうけとめよ」などといわれるかとおもう。もちろん私共精神科医自身は,日常の行動について深刻に反省を重ねるべきであると思う。治療が進んだといったところで,薬の副作用で患者をぼやっとさせておいて,その間に自然に治るのを待っているというだけのことだと,西丸四方先輩はいわれる。悲しいかな,いってみればその通りかも知れないが,何といっても目前の私共の最大の関心事は,患者やその家族に,私共が何かしてあげられるとすれば,総合病院で精神科医としてどのように働けばよいかということである。

 精神科医の大部分が単科の精神病院,それもその8割が私立の病院に,フルタイムで或はパートタイマーとしてつとめていて,現在日本の精神科医療をおしすすめている中心が,実はここにあるという事実。そして,私共のように総合病院につとめる者の数も,その精神科病床数も,ふえているとはいいながら,問題にならぬくらい少ないという状況がある。

  • 文献概要を表示

I.はじめに

 精神機能の高位統合部位として,あるいは人格と密接な関連をもつ脳部位として,前頭葉,とりわけ前頭前皮質が古くから注目されてきた。そして現在もなお,その機能の解明は重要な課題として残っている。これまでの多数の研究にもかかわらず,前頭前皮質の機能が明確でないことにはいくつかの理由が考えられる。なかでも大きな理由の一つは,動物実験にもちこむ際の問題であり,動物の前頭前皮質の領野規定と,精神機能の統合という複雑な精神現象のとらえ方の,二つの基本的な問題が未解決であったことによろう。しかし,前者は機能を重視した解剖学的研究の進歩により,後者は行動科学的接近により次第に解決されてきた。これまで,前頭前皮質に関する実験は多数あるが,その機能を知る上で特に重要なものは,1936年Jacobsen64)が行なった猿の破壊実験であろう。彼はこの実験で遅延反応(delayed response)が特異的に障害されることを最初に発見している。

 この遅延の障害はその後,前頭前皮質の機能を知る重要な糸口として取りあげられ,現在まで主要な研究対象となってきた。

特別論文 精神医学の基本問題—精神病と神経症の構造論の展望

  • 文献概要を表示

精神病構造論のこれまでの展望の概観

 私はこれまで数章にわたり,精神障害の発生と構造とについて,近代の主な研究者の意見を紹介してきた。そして,狭義の精神病のそれは,主としてクレペリンの疾患単位論を中心として展開されたものだが,問題の真の解明までには,まだ,おびただしい迂余曲折が残されているとの印象を強くしたのである。

 ところで,以上述べたさまざまな意見や議論のうち,著明なものの1つとして,カール・クライスト独特の脳局在論へのヤスパースの批判と,それに対するクライストの反撃があったことは,第8章の終段で紹介した通りである。それゆえ,次にはヤスパース自身の意見を紹介するのが順序であったが,私は敢えてそこに第9章をはさみ,その中で,クライストの分裂病原因論に賛意を抱いていたオイゲン・ブロイラーと,ブロイラーに関連してアドルフ・マイヤーを取り上げ,この2人の思想を紹介したのであった。

研究と報告

  • 文献概要を表示

 自閉,無為,嫌人などの分裂病様症状をもってはじまり,精神病院入院後,約12年9カ月のあいだ無言状態を続け,最近再び話をするようになった症例について報告した。この無言症は,結核の再発による保護室への隔離が大きな要因となっているものと考えた。隔離からの解放,遊戯療法による働きかけが,非言語性交通をもたらし,外泊による家族との接触再開をきっかけとして,言語性交通も回復した。

  • 文献概要を表示

I.はじめに

 向精神薬が臨床に導入されてすでに十数年になる。この間,精神分裂病に限っても薬物の効果や標的症状などをめぐっておびただしい研究が輩出し,最近は特に効果判定の方法論についても論議が多い。

 これらの研究の方向は精神分裂病の病像をいわゆる標的症状に要素化細分化し,その各々の薬物による影響を多くは短期間でとらえることに向けられた。したがって,分裂病の全体像が長い間にどう変化し経過していくものか,また全体の経過はどう変わっていくものかなど分裂病症候論の立場からみると実りの少ない欠点をもっていた。

  • 文献概要を表示

I.はじめに

 精神疾患を多因子的現象としてとらえる考えから,患者の身体的所見を生理学的,自律神経・内分泌学的,形態学的,生化学的ならびに病理組織学的に多方而から把握しようとする研究が試みられているが,いまだ確定的な手がかりは見出されていない。

 Altschuleら3),Pincusら26),Hoaglandら10)は精神分裂病を内分泌学的にとらえようと試み,副腎機能異常の存在することを報告した。これらの多くの所見は果して精神障害の原因であるのか,二次的変化にすぎないのかということが常に問題となっているが,その所見の大部分は情動の変化に伴う非特異的なものであると考えられ,症状の回復に伴い異常値が正常値に近づくといわれる。しかしながら精神分裂病患者においては,単に,情動に伴う二次的変化としては説明できない所見もある。大和田25)は,精神病像とUropepsin排泄量との関連性を追求した結果,精神分裂病の荒廃群では,両者の変動は一致せず,排泄量が不規則で著しい変動がみられ,生体のhomeestasisの著しい障害の存在を想定した。また諸治20)は血中17-OHCSの日内リズムの研究から慢性分裂病では,日内リズムを司る調節中枢のもつ強固な機能的統治性が持続的に障害されていることを示唆すると報告した。また木野15)をはじめ多くの研究者達は,精神病患者にアドレナリン,ピロカルピン,アトロピンなどを用いて,病態をその自律神経機能面からとらえることを試み,これらの患者では自律神経機能の異常反応を示すものが多いことを指摘した。他方,Funkensteinら6)7)は精神疾患患者において,電撃療法の前後にエピネフリン・メコリール試験を行ない,彼の分類のVI,VII型(交感神経低反応型)を示すものは電撃療法に対する予後が良好であると報告した。またGellhornら8)はラッテに電撃療法を行ない,交感神経・副腎系統の中枢の反応性亢進をおこすことを実験的に証明した。石金13)は自律神経遮断剤であるChlorpromazine(CP)およびReserpine(R)により精神疾患の治療を行ない,諏訪法29)のメコリール反応P型を示すもの(交感神経低反応型)にCPが,S型を示すもの(交感神経過反応型)にRが有効であると述べた。かように,精神疾患の治療にさいして,その患者の生体反応を考慮して行なおうとする試みが今日なされているがまだ十分とはいえない。したがって著者らは,精神疾患の治療にあたって,その自律神経・内分泌機能を把握し,より合理的な治療を行なうための基礎的な資料を得る目的で,今回は精神分裂病および正常人について,各種の自律神経機能検査を施行した.すなわち,薬効的自律神経機能検査として,メコリール,アドレナリン,ピロカルピンおよびアトロピン試験と理学的自律神経機能検査としてHines-Brown寒冷血圧試験,さらに内分泌機能検査としてThorn試験を併せて行ない,精神分裂病患者と正常人(対照群)の結果を比較検討し,かつ若干の考察を加えた。

  • 文献概要を表示

Ⅰ.序言

 現代いたる所で"対話の場"とか"対話の欠如"などといった言葉がしきりに語られている。このこと自体すでに現代の人間についての精神病理学的研究の対象となることであり,それは人間と人間との間に真の対話の欠けた現代の人間の精神状況を物語っていると考えられる。

 古くギリシャのプラトンの哲学がソクラテスとの対話の形式で述べられたことの意義といった根本問題はさておき,対話とはそもそもいかなる内容と形式をもってかわされるべきかという問題について,ここで挙げた3例の老人痴呆患者の対話に関する本論文が,その精神病理学的見地から光を投じ,かつまた実りなき対話,疎通性の欠如,断絶を感じているわが国の老若を問わず,それぞれの世代の精神科医自身の自らの問題についてもなんらかの参考になれば幸いである。

  • 文献概要を表示

I.緒言

 古くは,自分が精神疾患を病んでいると意識しているかいなかが,疾病分類の一つの目安になると考えられていた。そしてまた,このような能力が欠如している場合には,その患者は精神病者であるとみなす傾向があった。しかし,Pick10),Heilbronner2)やHinrichsen4)5)をはじめとする諸著者により,さまざまな種類の精神病の患者においても,現在自分が病んでいるという意識を有している場合が多いことが指摘され,また提唱された。

 一方,Jaspers6)がKrankheitseinsicht(病識)について厳密な定義づけをし,その定義が支配的なものとなっている。すなわち,彼によれば,病者が個々の疾病症状の全部,あるいは病全体として,その病の種類も重さも正しく判断できるならば,それを病識とするのである。しかし,彼の定義による病識なるものを一般臨床において扱う場合,かなりの問題点があることを感じる。

  • 文献概要を表示

I.まえがき

 本研究の「作業能力」とは,職業適性検査によって測定しようとする能力のことではなく,「仕事ぶり」といったもので,仕事の量と質をタッピング(打叩度数計)の連打によって測定した。

 すなわち,この検査の動機と目的となった要点は,次のことがらである。

  • 文献概要を表示

I.まえがき

 別府市は,波静かな瀬戸内海を前に,名峰由布,鶴見岳など秀麗な山並に抱かれ,風光明媚な観光地として昔からその名を広く知られている。そのため別府市には毎年多数の観光客が訪れる。

 筆者は,この別府市にあるA精神病院に勤務している間に,修学旅行や,社会人の観光旅行,新婚旅行,主婦層による団体旅行などで来別し,市内に滞在中,精神障害を引き起こし,警察や鉄道公安室に保護されたり,直接旅館などから連絡を受けた人々を,診察する機会を得た。そしてこれらの症例の中のかなりのものが病像,経過,患者の性格溝造などに共通した特徴を持っていることを知るに至った。彼らの大部分は,旅行直前になんらかの精神身体的負荷をもって出発している場合が多い。旅行中に発生する病像は,躁状態(まれにうつ状態)と軽い意識の混濁を伴いながら漸次非系統的な内容を持つ妄想幻覚状態に進み,さらに重篤な場合は夢幻・錯乱・せん妄状態に移行する。一般に予後は比較的良く回復後疏通性も良く保たれている症例が多い。そしてこれらの症例における性恪特徴は,執着気質(下田)に属する者,および顕示的,愛情欲求的傾向のある未熟な人格を持つ者が多かった。

  • 文献概要を表示

I.緒言

 最近の向精神薬は,phenothiazineおよびbutyrophenone系薬物が,その二大主流をなしており,薬剤効果もほぼ確立されている。しかし,個々の症例に対する効果・随伴症状などを考えあわせるとき,いまだ十分とは言い切れぬ点も多い。

 今回,われわれは藤沢薬品の提供で,フランスで開発された新しい向精神薬,FK-880(sulpiride)の臨床経験の機会を得たので,ここにその結果を報告する。

  • 文献概要を表示

I.はじめに

 Sodium dipropylacetate(DPA)はアメリカで合成され,フランスで抗てんかん薬として臨床的に開発されたものである。その化学構造式は,第1図のように,これまでの抗てんかん薬とはまったく異なり,直鎖系の低級脂肪酸であり,とくにNを含まないことを特徽としており,このことは抗てんかん薬に新しい方向を示すものとして興味深い。

 今回わたくしたちは,各種てんかん患者に本剤を使用する機会を得たので,その結果の概要を報告する。

基本情報

04881281.13.4.jpg
精神医学
13巻4号 (1971年4月)
電子版ISSN:1882-126X 印刷版ISSN:0488-1281 医学書院

文献閲覧数ランキング(
10月11日~10月17日
)