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I.はじめに
精神疾患を多因子的現象としてとらえる考えから,患者の身体的所見を生理学的,自律神経・内分泌学的,形態学的,生化学的ならびに病理組織学的に多方而から把握しようとする研究が試みられているが,いまだ確定的な手がかりは見出されていない。
Altschuleら3),Pincusら26),Hoaglandら10)は精神分裂病を内分泌学的にとらえようと試み,副腎機能異常の存在することを報告した。これらの多くの所見は果して精神障害の原因であるのか,二次的変化にすぎないのかということが常に問題となっているが,その所見の大部分は情動の変化に伴う非特異的なものであると考えられ,症状の回復に伴い異常値が正常値に近づくといわれる。しかしながら精神分裂病患者においては,単に,情動に伴う二次的変化としては説明できない所見もある。大和田25)は,精神病像とUropepsin排泄量との関連性を追求した結果,精神分裂病の荒廃群では,両者の変動は一致せず,排泄量が不規則で著しい変動がみられ,生体のhomeestasisの著しい障害の存在を想定した。また諸治20)は血中17-OHCSの日内リズムの研究から慢性分裂病では,日内リズムを司る調節中枢のもつ強固な機能的統治性が持続的に障害されていることを示唆すると報告した。また木野15)をはじめ多くの研究者達は,精神病患者にアドレナリン,ピロカルピン,アトロピンなどを用いて,病態をその自律神経機能面からとらえることを試み,これらの患者では自律神経機能の異常反応を示すものが多いことを指摘した。他方,Funkensteinら6)7)は精神疾患患者において,電撃療法の前後にエピネフリン・メコリール試験を行ない,彼の分類のVI,VII型(交感神経低反応型)を示すものは電撃療法に対する予後が良好であると報告した。またGellhornら8)はラッテに電撃療法を行ない,交感神経・副腎系統の中枢の反応性亢進をおこすことを実験的に証明した。石金13)は自律神経遮断剤であるChlorpromazine(CP)およびReserpine(R)により精神疾患の治療を行ない,諏訪法29)のメコリール反応P型を示すもの(交感神経低反応型)にCPが,S型を示すもの(交感神経過反応型)にRが有効であると述べた。かように,精神疾患の治療にさいして,その患者の生体反応を考慮して行なおうとする試みが今日なされているがまだ十分とはいえない。したがって著者らは,精神疾患の治療にあたって,その自律神経・内分泌機能を把握し,より合理的な治療を行なうための基礎的な資料を得る目的で,今回は精神分裂病および正常人について,各種の自律神経機能検査を施行した.すなわち,薬効的自律神経機能検査として,メコリール,アドレナリン,ピロカルピンおよびアトロピン試験と理学的自律神経機能検査としてHines-Brown寒冷血圧試験,さらに内分泌機能検査としてThorn試験を併せて行ない,精神分裂病患者と正常人(対照群)の結果を比較検討し,かつ若干の考察を加えた。
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