公衆衛生 78巻7号 (2014年7月)

特集 行為への依存症―スマホ・ネット・ギャンブル

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 従来,アルコール依存症,ニコチン依存症,薬物(麻薬・覚せい剤・大麻・睡眠薬・有機溶剤など)依存症などが依存症として取り扱われてきました.これらは化学物質への依存症ですが,近年,物質ではなく,行為への依存が依存症として取り扱われるようになり,精神医学において診断および治療の対象となってきています.

 行為への依存を起こしている代表的な依存症としては,ギャンブル依存症があり,DSM-Ⅳに掲載されています.また,専門家がインターネット依存症やオンラインゲーム依存症をDSM-Ⅴに掲載するように推奨しているという情報もあります.DSMに掲載の有無にかかわらず,これら3種の依存症は既に臨床的に診断・治療の対象となっています.さらに,行為への依存としては,借金依存症,買い物依存症,性依存症なども臨床的に取り上げられているようです.また,行為への依存とは異なる特定の人間関係への依存である共依存症の存在も指摘されています.

行為への依存とは何か 渡辺 登
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はじめに

 依存とは人間が生まれつき持っている,こころの安心や肉体の満足を求める行為である1).私たちは,底知れぬさびしさに耐えられなくなった時,もっぱら人にしがみつく.家族や友人から安心を受けとれず安心感の乏しい人に,しがみつく依存は認められやすい.対人関係依存である.

 もたれかかる依存は相手の立場を考えない.自分の安心を得るために,相手をどのように利用するかをひそかに計算している.しかし他人とのかけ引きが苦手な人も多い.そこで身近な行為に頼って,自分の不快な感情を処理しようと試みる.ギャンブルやスマホ,インターネット,オンラインゲーム,浪費,恋愛など行為の過程に依存すれば快感を得られ,さらに不快な感情を招く現実から目をそらせる.行為(プロセスとも呼ぶ)依存である.

 人とのかけ引きや行為を続けるのが億劫な人が,アルコールやドラッグ,ニコチンなどを体内にとりこめば,快感をたちまち手にすることができる.安心の乏しい人は,それらを体内にとり入れた時の快感が忘れられなくなり,手軽な手段に頼りきってしまう.物質依存である2,3)

 さびしさを癒す適切な手段をとれば,ほっとした気持ちになるだろう.ところが他人を操作して安心を手にしようとしたり,ドラッグや行為で不快を除いたりする自分本位のしがみつきでは,本当の安心は得られない.つかの間の快感を覚えるだけだ.望ましくない行為とわかっていても,やめられない.安易な生き方が身について手放せなくなり,生活に支障を来せば依存症と診断される.

インターネット依存 中山 秀紀
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はじめに

 インターネットは近年急速に発達・普及し,われわれの生活の各所に入り込み,利便性を高めている.多くの人が直接的・間接的にその恩恵にあずかっていると考えられる.しかし普及とともに問題点も多くあり,その一つとして若者世代を中心にインターネット依存が大きな問題となっている.本稿ではインターネット依存注)の診断・分類,有病率,引き起こす諸問題,予防,治療などについて総論的に述べる.

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スマートフォン(携帯電話)依存症について

 最近,駅の階段や歩道で歩行者渋滞に遭遇することが少なくない.人溜まりへ行くと,熱心にケータイやスマートフォン(スマホ)を操作している人が目に入る.他人への迷惑を省みず,周囲とは隔絶された世界に没入しているようである.

 ケータイやスマホの普及率は目覚ましい.他者とのコミュニケーションを容易にし,手軽に検索ができ,娯楽性などが多くのメリットをもたらしたが,一方でさまざまなデメリットが顕在化した.本稿ではデメリットの1つであるスマホ(携帯電話)依存症についてとりあげたい.

ギャンブル依存症 田辺 等
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ギャンブル依存の概念と診断基準

 ギャンブル依存とは,ギャンブルを体験した後に,ギャンブル行為を自分の意志で制御できなくなって反復し続ける病的なギャンブルの習癖を言う.ギャンブルの反復により,経済状況や家族関係が悪化し,破産,離婚,離職,自殺などの転帰もある.

 このように自分の行為を自分の意志でやめられなくなり,病的に反復してしまう習癖には「addiction(嗜癖)」という概念があるが,WHOは1960年代に診断用語で「addiction」を廃して,生理学的,薬理学的な「dependence(依存)」を採用した.

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はじめに

 嗜癖の問題に対する医学的治療は,アルコール依存や薬物依存が主たるターゲットとされてきた.横浜に位置する当クリニックも例外ではなく,高度経済成長を支えた京浜工業地帯にあって,出稼ぎ労働者の一次的な居住地域(いわゆる,ドヤ街)を中心に,アルコール問題,薬物問題に対して医療活動を行ってきた.近年では,アルコール問題と薬物問題以外にも,窃盗行動,過剰な買い物行動,および性的問題行動を主訴とする者の来院が徐々に増えつつある.このような問題に対するわが国の医学的治療は,アルコール問題,および薬物問題と比較して,歴史が浅く,また知見も限られている.

 そこで本稿では,窃盗行動,過剰な買い物行動,および性的問題行動といった嗜癖問題に対する医学的治療について,当クリニックの取り組みを踏まえて,その理解と対応について紹介する.

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はじめに

 アディクション(addicton)とは,日本語では「嗜癖」と訳されており「依存症」とほぼ同じ意味で使われている.つまり,何かに耽溺してしまいそれをやりたいやりたくないにかかわらず,本人の意思の力ではコントロールできない状態のことを指す.コントロール障害をきたしているわけであるから,「意志が弱い」「だらしがない」などはよく聞く誤解である.コントロールできないのが「症状」であるから依存症というのである.この例を参照すると,スリップやリラプス(再発)について非難,批判することに意味がないことがわかる.関係者や家族はこれらを依存症の「症状」として理解することがポイントとなる.

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リアルとネットはメビウスの輪

 厚生労働省の補助金を受けた研究グループ(代表・大井田隆日本大学教授)の推計によると,現在,インターネットへの依存度が高い中高生は全国におよそ52万人いるという.その6割には睡眠の質に問題があり,また2割には寝つきの悪い傾向も見受けられたと報告されている.

 もっとも,ネット依存と一口にいっても,その様態はさまざまである.オンラインゲームや動画など,ネット上に溢れる多様なコンテンツの魅力にはまる場合もあれば,メールやSNS(social networking service)などを介した他者との交流にのめり込む場合もある.コンテンツ依存とつながり依存では背景が異なるから,その対処法も違ったものになるだろう.

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 全国保健所長会地域保健の充実強化に関する委員会「在宅医療・地域包括ケアシステムの推進に関する見解(平成25年度報告)」が全国保健所長会のホームページに掲載されている.見解は筆者が分担事業者の地域保健総合推進事業研究班1)と協働でとりまとめられた.政策的に,在宅医療・介護連携は市町村主体で進められ,今後,介護保険の地域支援事業にも位置付けられるが,保健所の具体的な役割も含めて,論じたい.

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はじめに

 呼吸器症状を有する患者に対する画像診断として,通常,最初に行われるのは胸部X線検査であり,世界で最も広く行われているX線を使った検査である.胸部X線検査の特徴は,検査時間が比較的短く,感染症など病変の形態と位置をフィルム上に描出できることである.さらに,結核菌を排菌していない早期感染時の患者を発見できる可能性がある一方,結核菌の感染特定はできない.日本では,X線撮影装置を搭載した検診車が1940年に開発された経緯から,喀痰検査を主な診断手段とする多くの開発途上国(以下,途上国)とは歴史的背景が異なる.

 胸部X線検査の精度を左右するのは,医師の読影能力だけでなく,X線写真の画質の優劣もある.途上国で行われる胸部X線写真は,さまざまな理由から,医師が読影できないほど高い濃度の写真,肺野がごく一部しか写っていない写真,焦点がずれたものなど,胸部疾患の診断ツールとしては不適当と考えられる胸部X線写真が少なからずあり,筆者ら1)はその撮影技術改善の必要性を以前より指摘してきた.この問題解決の糸口として,世界結核支援技術連盟(Tuberculosis Coalition for Technical Assistance;TBCTA)の支援を受け,途上国での胸部X線検査精度管理のためのハンドブックを2008年に作成し,これをテキストに用いた放射線技師対象の研修をカンボジアとケニアで実施した.さらにその後,フィリピンでオペレーショナル・リサーチとして同様の研修を実施し,放射線技師の胸部X線写真撮影技術向上に有用であることを報告した.

 本稿では,途上国における喀痰塗抹陰性肺結核患者の確実な発見を目指した取り組みについて報告する.

連載 公衆衛生Up-To-Date・18

[結核予防会結核研究所発信・その2]

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 2015年はミレニアム開発目標(Millennium Development Goals;MDGs)年であり,ポスト2015年世界結核戦略が策定中である.2012年のWorld Health Assembly(WHA)で,世界保健機関(WHO)がポスト2015年戦略とその目標を作成することが勧告され,2012年6月のWHO戦略的技術諮問委員会(STAG)を皮切りに,その内容が国際会議等で検討されてきている.2015年以降の結核対策に関する決議案は5月のWHAで討議されることになっている.

 この原稿作成時点(2014年4月30日)はWHA前であるが,本稿では今までに公開討議されてきた戦略草案の概略と結核問題の課題を紹介したい.

連載 リレー連載・列島ランナー・64

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はじめに

 保健所には猫のフン害についての苦情相談が多く寄せられますが,猫を忌避する有効な方法がなく,対応に苦慮することがしばしばあります.そこで,発想を転換し,猫の習性を利用した猫トイレの作製を試み,効果の検証を行いましたのでご紹介します.

連載 衛生行政キーワード・96

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 革新的な医薬品・医療機器やiPS細胞等を用いた再生医療等製品の迅速な実用化が求められている.他方,その前提として,過去の健康被害の経験を踏まえ,その安全性を十分に確保することが必要とされている.こうした中,薬事法等の一部を改正する法律案(以下「改正法案」)が平成25(2013)年秋の臨時国会で成立,11月27日に公布された(表1).

 本稿では,平成26(2014)年11月下旬に施行が予定されている本改正法案のうち,主に医療機器ならびに再生医療等製品に関わる内容につきその概要を説明したい.

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 わが国でも水上生活者が多く生活していた時代もありました.香港でも,かつて「蛋民(たんみん)」と呼ばれる,独自の文化をもった大勢の水上生活者が暮らしていました.

 若い蛋民の女性が嵐の中,船上で子どもを流産し,蛋眠の多くがお参りする媽祖のお寺で養子を貰うシーンから映画が始まります.女性は子どもがイギリス人と中国人の「ハーフ」であることを知って,一瞬躊躇しますが,一度抱いた子を離せなくなります.短いシーンですが,その後の親子の愛着を感じさせる重要なシーンで,母親となる若い女性を演ずるジョシー・ホーが観客に深い印象を残します.

予防と臨床のはざまで

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 ライフスタイルと健康.自分が医師になってからずっと興味を持ち,取り組んでいる分野です.その分野の大先達である森本兼曩先生(産業医学研究財団常務理事,元大阪大学教授)をお招きして,4月18日にさんぽ会月例会にて,「ライフスタイル研究と健康価値創造」をテーマにお話いただきました(http://sanpokai.umin.jp/).

 日本人のライフスタイル指標として有名な「森本の8つの健康習慣」は,健診やさまざまな健康調査の問診票に広く採用されています.私が森本先生に初めてお会いしたのは,今からちょうど20年前.患者教育や健康教育に興味を持ち始め,その評価指標やゴールとして必要不可欠なものでした.まだ研修医であった私にとって,これから大学院で研究を始めようか…というタイミングでもあり,日本のライフスタイル研究のパイオニアである森本先生に,当時大阪大学を訪ねてお話をうかがえたことは非常に大きな刺激となりました.それから20年が経ち,今回,普段一緒に業務や研究・勉強をしている仲間と,森本先生のお話を共有できたことは大きな喜びです.

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 本書はタイトルが示す通り,著者が一精神科看護師として,見学可能な日本の精神科病院に足を運び,保護室の構造,あり方を研究した労作です.大判の本の大きな帯には,中井久夫先生からの「こんなにきめ細かな保護室の記録は,世界に例がないんじゃないか?」とのコメントがあります.確かに,「写真で見る保護室」の章において,全国35か所の精神科病院で撮影された大量の資料写真が配置され,詳細に解説されている様を見ると,建築関係の本に近いような印象です.しかし,単なる保護室のカタログに留まらず,著者による各保護室の印象記や,各施設の看護師による意見(自施設の保護室の良い点,改善すべき点)も記されており,それが最終的に「保護室における生活の援助とは」という著者の意見に結び付きます.

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 平成24(2012)年にがん対策推進基本計画が刷新され,がん患者の精神的苦痛に対する心のケアを含めた全人的な緩和ケアのさらなる充実に向けた取り組みが始まっている.がん対策基本法の制定以降,がん診療を行う各地域の主要な医療機関に緩和ケアチームなどが置かれ,がん患者の疼痛管理やせん妄およびうつ症状などへの対応が積極的に行われるようになり,がん患者の心のケアの基盤は整いつつある.しかし,がん患者が医療者に望んでいる心のケアの範囲と内容は,もっと多岐にわたっていると思われる.がん診療を行う医療者も,患者が「がん」という病を抱えながら生きていくがゆえに抱えるさまざまな生活上の不安や葛藤をいかに理解し,ケアしていくかが今後のがん診療の中核的な課題であることは理解しつつも,「誰が」「どこで」「どのように」ケアしていくかという点においては,スタッフの専門性や方法論,さらには状況的な制約などから,具体的な取り組みを実行できないジレンマを感じているのではないだろうか.

 このたび刊行された『がん患者心理療法ハンドブック』は,がん患者の心のケアの充実に向けた新たな取り組みへの「道しるべ」になるような,大変優れた解説書である.国際サイコオンコロジー学会(IPOS)公認テキストブックにも指定されており,その内容はがん患者への心理療法の全体像を理解しつつ,かつ各論の重要ポイントをしっかり学ぶことができる構成となっている.

お知らせ

日本産業看護学会 第3回学術集会
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日程:2014年9月5日(金)~6日(土)

会場:産業医科大学

 〠807-8555 福岡県北九州市八幡西区医生ケ丘1-1

 JR折尾駅からバス・タクシーで10分

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日程:2014年10月11日(土)~12(日)

会場:千葉大学西千葉キャンパス

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投稿規定

次号予告

あとがき 西田 茂樹
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 仕事の関係で午前10時前に外出したときなどに,車の中から街を眺めていると,パチンコ店前に行列ができているのをしばしば見かけます.パチンコには全く興味のない私は,行列している人たちは,いわゆるパチンコのプロという人たちなのかと以前は思っていました.今回,行為への依存症を企画していく過程で,ギャンブル依存症について,既に疾病としての概念が確立していることを初めて知り,不勉強であったことを恥じ入りました.パチンコ店の前に並んでいる人たちの中には,ギャンブル依存症の人が多数存在していたのです.そのギャンブル依存症の人たちは,本人もそして家族も病に苦しんでおり,治療が必要な人たちであったのです.

 今回の特集では,他にも数多くの行為への依存症があり,予防,治療が必要な疾患であることが詳しく解説されています.いわゆる痴漢まで依存症として考えることができ,単に犯罪者と捉えるのみではなく,治療の対象となりうることが説明されています.覚せい剤等の物質依存症に対しても,同様に,単に犯罪者ではなく,治療の対象と考えることができます.このように,犯罪者を依存症の治療対象として扱っていくことは,より良い社会を形成していくためのひとつの方向だと思われます.

基本情報

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公衆衛生
78巻7号 (2014年7月)
電子版ISSN:1882-1170 印刷版ISSN:0368-5187 医学書院

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