検査と技術 41巻6号 (2013年6月)

病気のはなし

筋ジストロフィー 林 由起子
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サマリー

筋ジストロフィーは,骨格筋の細胞が壊死・再生を繰り返し,徐々にその数が減少することによって筋力低下と筋萎縮が進行する遺伝性の疾患である.遺伝形式,原因遺伝子,発症年齢,障害筋分布,進行度,予後などの異なる多くの疾患が存在する.診断には,血清クレアチンキナーゼ値の上昇,筋電図,骨格筋画像,生検筋を用いた病理所見が有用であるが,病型を確定するためには遺伝子診断が行われる.心障害,呼吸障害,骨・関節異常などを合併することが多いため,全身状態も含めた経過観察が必要である.

技術講座 生理

シリーズ 基礎から学ぶ神経伝導検査─信頼されるデータを導き出すために・3

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新しい知見

一般に塩化銀皿電極(以下,皿電極)を用いた神経伝導検査(nerve conduction study,NCS)では,電極設置部位,ペースト塗布,皮膚抵抗,検者の熟練度,検査時間などの要因によって検査結果は大きく影響される.例えば,両側上下肢のNCSを完了するのに30分以上の時間を要することもある.このため,NCSは非常に手間と時間を要するという印象を与えている.慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室と理工学部は共同研究で,NCSを簡便に行える独自の能動電極を作製した.

 能動電極は,オペアンプ・抵抗器・電源からなり,電極部は皮膚に比べて極めて高いインピーダンスをもつ.そのため,皮膚抵抗は無視することができ,検査前の皮膚洗浄とペーストは不要であるにもかかわらず,CMAP(compound muscle action potential)やSNAP(sensory nerve action potential)を記録することができる.

 能動電極は,記録と基準電極がモールドされているため電極間距離が一定である.検査前に四肢の解剖学的指標を確認・マーキングし,筋腹中央に確実に記録電極を設置し,基準電極は筋走行に沿って固定するだけである.

 筆者らは,健常人を対象に,皿電極と能動電極を用いて運動神経伝導検査を2回ずつ施行した.2回の検査間における活動電位の指標(遠位潜時・運動神経伝導速度・振幅)の相関性を検討した.その結果,両電極で計測された指標に有意差は認められなかった.しかし,2回の検査の指標の相関係数は皿電極に比べて能動電極で高値であった.また,能動電極を用いた検査時間は皿電極に比べて有意に短かった.アルコール綿による皮膚清拭,ペーストの塗布,テープ固定などの作業が不要であるためであろう.能動電極は皿電極と同等の検査精度を有すると同時に,病状変化を追跡するために経時的に検査を繰り返す場合や,多くの神経の伝導検査が必要とされ時間の短縮が必要な場合に有用であると考えられる.

 今後,能動電極の臨床応用が期待される.

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新しい知見

Panton-Valentine Leukocidin(PVL:leucocidinとも記載される)の細胞毒性は多核白血球,単球,マクロファージを標的とし,その他の細胞はほとんど傷害を受けない.また,動物種で感受性が異なり,ウサギとヒト細胞は感受性を示すが,マウス細胞は比較的耐性がある.平素,健康なヒトでの重篤なメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus,MRSA)感染,市中感染型MRSA(community-acquired MRSA,CA-MRSA)が近年注目されており,これらCA-MRSAを特徴付けるのがPVL産生であるとされている.わが国でも皮膚・軟部組織感染症の外来患者,特に癤,癰由来のMRSAでPVL陽性が多いことや,散発的ながら敗血症や壊死性肺炎などの重症例が報告されている.しかし,CA-MRSAの病原因子については,将来的なワクチン開発を念頭に置いて,PVLと溶血毒Hla(α毒素)の2つの研究についてホットな議論が展開されている.

疾患と検査値の推移

鉄過剰症 高見 昭良
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はじめに

 鉄過剰症は余分な鉄が蓄積して起こる症状である.再生不良性貧血や骨髄異形成症候群などの骨髄不全では長期間繰り返し赤血球輸血を受ける患者が多い.輸血後鉄過剰症は,輸血を続けるうえで大きな問題であったが,経口鉄キレート療法や,厚生労働省による「輸血後鉄過剰症の診療ガイド」1)によって状況は一変した.

 本稿では,輸血後鉄過剰症の診断・治療戦略について,臨床的観点から述べる.

オピニオン

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 私が2013年3月まで8年間,理事長を拝命していた臨床検査振興協議会の活動を紹介し,そこで感じた臨床検査の課題と今後への期待について述べる.

 今から約9年前の2004年当時のことであるが,検体検査実施料は1990年から約15年間にわたって下落し続け,この間に60%程度の大幅な減少をみていた.このままでは経済的に臨床検査室は追い込まれ,存続するのも困難であるという意見があった.あるときに私はこのことについて,たまたま業界の方々と話し合う機会があった.その頃,厚生労働省などからは,臨床検査の診療報酬を改善するためには検査の有用性とコスト調査が必要であり,そのエビデンスを添えて要望すべきとの意見を聞いていた.また,臨床検査業界が一致した要望意見を挙げることの重要性も聞いた.そこで私は,業界の方々と産学共同で参加する団体を設置し,そこから診療報酬の改善要望をするべきであると考え,臨床検査業界の有志の協力のもとに2005年に臨床検査振興協議会を発足させた.

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 穿刺液検査は,検体が漏出性か滲出性かの鑑別になり,それらは原因疾患を診断するうえで重要になります.穿刺液検体の検査には,一般及び生化学検査,細菌検査,細胞診検査などがあります.一般検査から報告される外観情報や細胞数と細胞分類について,原因疾患究明に役立つような結果を提出するためには,どのような方法がよいかを考えなければいけません.今回は細胞数と分類についてお答えします.

ラボクイズ

超音波検査 田村 悦哉

5月号の解答と解説 佐々木 正義

Laboratory Practice 〈病理〉

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はじめに

 バーキットリンパ腫(Burkitt lymphoma,BL)は成人では比較的まれであるが,小児では非ホジキンリンパ腫の25~40%を占める高悪性度のB細胞性リンパ腫である.早急な,そして的確で正しい病理診断が治療には不可欠である.

 本稿では,BLを解説するとともに,その診断の一助となりうるMYCの免疫組織化学(immunohistochemistry,IHC)検索に関して解説する.

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はじめに

 肺癌患者の約2/3は受診時にはすでに手術不能であり,治療は化学療法が中心となる.現在,殺細胞性抗癌剤に加え分子標的治療薬が注目されており,肺癌ではEGFR(epidermal growth factor receptor)遺伝子変異を有するものに対するEGFRチロシンキナーゼ阻害剤や,EML4-ALK(echinoderm microtubule associated protein like 4-anaplastic lymphoma kinase)融合遺伝子を有するものに対するALK阻害剤の有効性が確認されている.分子標的治療薬は治療にあたって対象症例を適切に抽出することが重要となるが,症例の多くは遺伝子検査として使用できる検査材料が生検組織検体や細胞診検体に限られる.

 細胞診検査は組織検査と比較すると捺印標本など少量の検体で検査が可能であり,迅速性にも優れているため,迅速細胞診検査を併用して細胞の詳細な評価を行うことで,迅速に採取材料を遺伝子検査などへ活用することが可能と思われる.

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はじめに

 臨床検査技師は診療の補助として採血を行うことを業とすることができ(「臨床検査技師等に関する法律」第二十条),その知識は国家試験で問われることが法律で定められている(同 第十一条).当初,臨床検査技師の行う採血は「一回あたりの採血量が20mL以内であることを原則とする」〔厚生労働省医務局長通達(医政医発第1416号)〕とされていたが,2008年1月17日の医政医発第0117001号によって今日では20mL以上の採血も可能という解釈がなされるようになった.

 近年では多くの医療機関・施設において臨床検査技師による採血が行われており,医療現場において不可欠な役割を担っている.その一方で,採血業務に関連したリスクについて十分な解決策が提示されておらず,現場の混乱が残存したままの業務拡大となっていることがうかがわれる1).こうしたリスクに対して理解を深めておかなければ医療安全の達成は困難であるため,本稿では,採血時の代表的な合併症である血管迷走神経反射への対応策について解説する.

検査値を読むトレーニング 信州大学R-CPC・18

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信州大学のreversed clinicopathological conference(R-CPC)では,なるべく多くの検査を行った症例を選び,経時的検査値で解析している.しかし,決して多くの検査を行うことを推奨しているわけではない.陰性データも陽性データと同じように重要と考え,できる限り多くのルーチン検査を行った症例を選択してR-CPCで検討している.ある病態において,検査値が陰性になることを知って初めて必要のない検査と認識できる.その結果,必要な検査を最小限に行える医療従事者になれると考えている.また,検査値は基準値内でも動くことに大きな意味があり,動いている検査値を読むことによってより詳細な病態が解明できる.時系列検査結果を読むことができれば,異常値の出るメカニズムを理解できたことになり,入院時のみのワンポイントの検査値であっても容易に理解できるようになる.

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はじめに

 手術材料,生検組織など,日常の病理組織検査に提出される検体は,通常の組織鏡検にとどまらず,新たな項目が加味され最終診断に至る機会が増えている.代表的なものは免疫組織染色である.特定の標的となる蛋白を検出するため病理組織診断の精度は格段に高まった.一方,診断精度の向上はさらに新たな分野の要求を生み出している.ゲノム分野での分子生物学的手法の応用,例えば変異遺伝子の検出と診断治療への利用である.当初,対象は血液細胞あるいは新鮮な摘出組織などに限られていたが,ホルマリン固定された通常の病理組織標本を利用できるようになると,診断病理の領域に広く浸透してきた.

 病理組織標本を用いた検索には,病変を直視下で正確に切り出せることが大きな利点があり,今後,ますます応用範囲は拡大すると考えられる.しかし,それに伴い注意すべき問題も指摘されるようになっている.本稿では,日常的に行われる遺伝子変異の検索において留意すべき点を指摘する.

トピックス

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はじめに

 悪性卵巣腫瘍のなかで最も頻度が高いのは漿液性腺癌である.漿液性腺癌は,卵巣,卵管,子宮内膜,腹膜のいずれにも発生しうるが,卵巣原発とされるものの頻度が高いとされてきた.ところが近年,形態に加えて分子病理学的手法を含めた研究から,これまで卵巣や腹膜原発の漿液性腺癌とされてきたもののなかには,卵管癌の卵巣や腹膜への播種・転移例が含まれている可能性が示唆されるようになった.

 本稿では,卵巣高異型漿液性腺癌(high grade serous adenocarcinoma,HGSC)の発生に関する従来の考えと,卵管癌との関係に注目した最近の知見について述べる.

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はじめに

 母体と胎児の血液型が異なり,かつ母体に抗赤血球抗体(不規則抗体)が存在する場合,この抗体が胎児血中に移行して胎児血と抗原抗体反応を起こし胎児や新生児に溶血がみられることがあるが,このような可能性のある妊娠を血液型不適合妊娠という.臨床的に問題になるのはRh式血液型不適合妊娠が大半を占める.Rh式血液型を形成する6因子の1つであるD因子〔factor D,D,Rh(D),Rho〕は他の因子に比べ抗体産生能が特に強く,胎児・新生児溶血性疾患(hemolytic disease of the fetus and newborn,HDFN)の原因として最多である.D陰性の多い人種(例えば白人種で15%,アフリカ系アメリカ人で8%)に比べ,日本人ではD陰性が1%未満しか存在しないが1),Rh(D)不適合妊娠によりHDFNが発症した場合,児は極めて予後不良となることがあり,決して軽視できない病態である.

 しかし,Rh(D)不適合妊娠は血液型不適合妊娠で唯一,感作予防が可能である.D陰性の妊婦がD陽性の児を妊娠・分娩した場合,D抗原に感作する可能性が高まるが,抗D人免疫グロブリン投与によりD感作の可能性を有意に減らすことができる.

 本稿では,推奨される抗D人免疫グロブリンの投与について,背景と最近の知見を述べる.なお,D因子はD(Rho)とも表記されるが,本稿ではRh(D),あるいは単にDと表記する.

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【症例の概要】

 46歳,男性.2年前の健診で,心電図異常・心雑音.事務仕事中,突然胸痛と呼吸苦が出現し,急性左心不全で救急入院.拡張期雑音,心電図でV4~V6,Ⅱ,Ⅲ,aVFのST低下,心エコーで上行大動脈高度拡大(径60mm),高度大動脈弁閉鎖不全を認め,内部にフラップ(flap:解離した内膜および中膜の一部)様組織がみられた.準救急的大動脈基部置換術中所見では,弁輪部内膜の全周性亀裂から解離が中枢側に進行し,双方の冠動脈口に及び,交連を含めた大動脈弁が脱落していた.弁付着部を含めて切除(Bentall手術)し,術後経過は順調.組織学的に中膜弾性線維は不規則に脱落し,囊胞状中膜変性が多数存在し,大動脈弁には粘液腫様変性を認めた.

けんさ外国語会話・30【最終回】

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①○○さん,(お部屋に)お入りください.

②これから腹部エコー検査を行います.上半身はお腹が出るようにして,ズボン(スカート)は腰まで下げて足を伸ばしベッドに仰向けに寝てください.

③検査のために,ゼリーをお腹につけます.両手は頭の上に上げてお腹は触らないようにしてください.

④大きく息を吸って,止めてください.

⑤息を吐いて楽にしてください.

⑥次は体の左側を下にして横向きに寝てください.

⑦仰向けに戻ってください.

⑧起き上がり後ろに手をつき,ベッドに座った状態になってください.

⑨検査終了です.

⑩このタオルでゼリーを拭き取ってください.

⑪ゆっくり起き上がり,洋服を着てください.

INFORMATION

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 臺 弘先生(元東大教授,現坂本医院)の提唱による簡易客観的精神指標検査(Utena's brief objective measures,UBOM)は,精神活動を情報受容・意思・行動・観念表象という機能の視点から,簡易かつ客観的に評価するための精神生理検査バッテリーです.これは,機能障害の視点を精神科臨床実地に取り入れ,症状評価と脳機能を結びつける役割を担うものです.UBOMは医療・福祉に従事する誰もが実施可能です.

主 催:NPO法人UBOM研究会

日 時:2013年8月3日(土)~8月4日(日)

8月3日(土)13:00~18:00

8月4日(日)9:30~14:30

会 場:コラッセふくしま 5階研修室

〒960-8053 福島県福島市三河南町1-20

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『臨床検査』6月号のお知らせ

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 「さあ,2013年,頑張ろう」と思ったら,もう4月になってしまいました.全く時の早さに驚きます.多くの職場でもそうと思いますが,先月末には,長年,私たちの職場を支えてくださったのち定年退職された方々をお送りする会があり,昨日は新入職員の歓迎会がありました.変化しない組織には当然ながら進歩はなく,この時期は組織にとって大変重要な時期であり,自分たちの組織の原点を見つめ直す時期かと思います.自分も,働きだしてもう30年もたってしまったことに愕然としてしまいますが,やはり,長い年月も一日一日の積み重ねであり,本当に毎日を大切にしないといけないと感じています.

 さて,本号の「病気のはなし」では筋ジストロフィーが取り上げられています.生化学検査,生理検査,遺伝子検査などの臨床検査が,その診断に重要な役割を果たしています.他のコーナーも,第一線の先生方のご執筆によって,いつもと同様,大変充実した内容になっています.また,「オピニオン」は『臨床検査振興協議会の活動と今後』と題されています.本協議会は,臨床検査の価値を高めるため,そして,臨床検査の重要性に対する理解を広く深めるため,臨床検査にかかわる団体が集結した組織です.「臨床検査の価値を高めるため」と書きましたが,1990年代以降,検体検査の実施料は不当に切り下げられ,「臨床検査が正当な評価を受けるため」としたほうがよいかもしれません.いずれにしても,本協議会の努力によって,右下がりであった臨床検査の評価が逆に上昇に転じようとしています.多くの読者は臨床検査そのものの技術・知識の勉強のために本誌をお求めになっていると思いますが,このオピニオンを読んで,臨床検査の医療(経済)のなかの位置付け,評価にも関心をもっていただければと思います.

基本情報

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検査と技術
41巻6号 (2013年6月)
電子版ISSN:1882-1375 印刷版ISSN:0301-2611 医学書院

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