検査と技術 12巻1号 (1983年12月)

病気のはなし

von Willebrand病 長尾 大
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 von Willebrand病は,奇妙な病気である.昔から,その病気の概念・病因論などについて非常に議論が多い.しかし一方では,最近の第Ⅷ因子に関する知見の進歩は,主としてvon Willebrand病(以下vWDと略す)について検索を進めた結果である.一昔前までは,血友病Aが凝固第Ⅷ因子分子を先天的に欠き,vWDが第Ⅷ因子の分子異常であると考えられていたが,約10年前からそれが逆になった1).すなわち,vWDが第Ⅷ因子分子の欠如,低下と考えられるようになった.ところが,第Ⅷ因子分子異常によるvWDの亜型がみつかり,数年前に確立したかに見えたvWDの分類が,最近では再度みなおされ,新しい分類が行われている.

 このように,学問の進歩とともに,めまぐるしく考え方の変わる病気について解説することは,なかなか難しい.しかし,vWDは先天性出血性素因の中で,血友病Aに次いで頻度が高く,実際臨床上,診断・検査上も重要である.

技術講座 生化学

ICG負荷試験 日下 公代
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 インドシアニングリーン(Indocyanine Green;ICG)試験は,プロムサルファイレン(Bromsulphalein;BSP)試験とともに,色素負荷試験といわれ,肝の異物排泄機能を検査する方法である1,2)

 BSPは肝以外の組織からも摂取され,血中からの消失は比較的遅く,胆汁中への排泄もICGに比較して低率であり,副作用も報告されていることからしだいにその使用頻度は減少してきている.一方ICGは,静脈に注射すると血中で血清蛋白(ICG低濃度では主にβ-リポプロテイン)と結合し3),全身の血管内に分布して選択的に肝に摂取され,腸肝循環や腎からの排泄もなく,肝から遊離の型で胆汁中に排泄されるため,正確に肝の異物排泄機能を表わすことができる.

技術講座 血清

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 免疫グロブリン・フラグメント病(表)とは,免疫グロブリンの構成成分(フラグメント)が病的に血清または尿中に出現する病態であると今村1)は提唱した.このフラグメントの同定法であるイミュノセレクション(immunoselection)法およびその変法は,特殊装置を必要とせずにα鎖病2),γ鎖病3),μ鎖病のheavy chain病(H鎖病)などの診断が容易に可能となるため,欠くことのできない日常検査法と思われる.今回H鎖(Fcフラグメント)を中心に,本法およびその変法について原理,操作法,注意事項について記述する.

検査法の基礎理論 なぜこうなるの?

鍍銀染色の反応機構 千馬 正敬
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 鍍銀染色はBielschowsky(1904)が創始し,今日までGomori(1937)など多くの改良法が行われてきた1,2).これまで日常染色室にて行われる染色法の中では他の染色法に比べて一般に難しく,技術者の習熟以外によい結果を得ることはできないように思われている.

 鍍銀染色における銀塩の反応機構に不明な点があることが指摘されている.このことは,硝酸銀を使用した組織染色はその発現機構が一様でなく,あらゆる化学反応が考えられるために銀反応機構は複雑なものと考えられている.著者は銀塩を使用した染色法の反応機構を紹介するとともに,鍍銀染色における染色過程の反応機構の説明を行った.

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ホモジナスイムノアッセイとは何か

 ラジオイムノアッセイ(radioimmunoassay;RIA)やエンザイムイムノアッセイ(enzyme immunoassay;EIA)で代表されるイムノアッセイは,その測定系の違いにより大きく二つのカテゴリーに分類することができる.その一つがホモジナス(homogeneous)法であり,他の一つがヘテロジナス(heterogeneous)法と呼ばれる方法である.

 イムノアッセイを用いて抗原を測定する場合,抗体に結合した抗原(Bound;B)と抗体に結合せず遊離の形で存在する抗原(Free;F)を何らかの方法により認識し区別して定量する必要がある.

アーチファクト

病理組織 河又 國士
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 顕微鏡を用いて組織・細胞を観察する場合,その構成要素のみを選択的に染色することが望ましい.しかし染色法によっては組織片に色素自体,あるいは色素と他の染色試薬が反応して,形成された物質が付着することがある.

心電図 鈴木 恒夫
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心電図記録に際し混入するアーチファクトには,大きく分けて

 1)心電計自体から発生するもの,

 2)心電計の付属品から発生するもの,

 3)患者自身から発生するもの,

 4)外部雑音として周囲環境から発生するもの,

 に大別される.

 今回は,3)で分類され病室のポータブル心電図検査において記録された,比較的まれなアーチファクトについて解説し,鑑別すべき類似疾患,対策などについて述べる.

学会印象記 第30回日本臨床病理学会記念総会

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 本年はちょうど臨床病理学会の第30回記念総会にあたり,10月8日に始まった学会の最終日である10月10日が第12回世界臨床病理学会議の初日ということもあり,行事も非常に多彩で,成功をおさめた総会と言える.日本の臨床病理とともに歩んで30年,まさにそのパイオニアのお一人としての昭和大石井暢教授の総会長講演「臨床病理と30年」は我々後輩として十分に傾聴に価するものであり,また雑誌「臨床病理」の編集委員長を昨年までやられた日野志郎博士の記念講演「雑誌臨床病理の歩み」も先人のご苦労と,数々の困難の中で,「臨床病理を守り続けられた情熱は衿を正して我々が引き継いでゆく責任の重さを感じさせるものであった.ちょうど30年経過した臨床病理が今後どのようにあるべきかを問かけたシンポジウム「臨床病理の将来」(大場康寛,河野均也教授司会)はまことにタイムリーな企画で,多くの聴衆を得て,熱気の中で行われた.演者はそれぞれ国立。私立の大学,病院の検査部または検査科で第一線で活躍されている方々ばかりで,21世紀に向かって治療医学から予防医学へ進んでいくであろう医療に臨床病理の果たす役割は多く,その手始めとしてマススクリーニングによってクレチン病の早期発見をし,治療予防する実例で網野博士(阪大)は論じ,乳児と老人の医療問題を喜多博士(奈良医大),上田博士(久留米大)・桑島博士(香川県立中央病院)・森博士(佼成病院)は検査データの利用,診断への応用などについてそれぞれの立場で意見をのべられ,戸谷博士(国立小児病院)は臨床病理分化論を述べられた.いずれも将来に向けて各々の臨床病理への取り組み方法またはヴィジョンを形成する資料を与えてくれる有益なものであった.この企画が第50回臨床病理学会記念総会に再び行われたらどんな状態になるかという司会者の言葉は象徴的であった.

 一般演題では癌の新しいマーカーとしてCA−19−9,POA(Pancreatic Oncofetal Antigen),TPA(Tissue of Polypeptide Antigen), PFK(Phosphofluo-kinase), ASP (Acid Soluble Protein), Cytosol LAP,などがあげられ, CK-BB,マクロCK,γ−GTPアイソザイム, Elastase−1,5−NPP−V,5−NT,ポララミンなども報告され,それぞれ50〜60%の胆癌患者からの検出率を示しよく臨床経過と相関するということであったが,ほとんどが消化器癌(腺癌)を中心にしたマーカーであった.最近の遺伝子工学の発達によるモノクローナル抗体についてはリンパ球のT細胞サブセットを扱ったものが6題もあり,かなりOK,LeuシリーズのMCA(Monoclonal Antibody)が使用されていることがわかった.その中で新しいロゼットを応用したT細胞サブセットの検定法,GMS,チオプロニンを用いる方法も見られた.また新しい試み鴬して細菌の同定に応用したもの(Campylobacter jejuni)があり注目を集めた.その他細菌の自動化・システムの演題もこの2,3年で出始め,理想的なシステムを模索中であると感じられた.

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 石井暢総会長(昭和大学臨床病理学教授)による第30回日本臨床病理学会記念総会は,1983年10月8日から10日の3日間,東京・新宿の朝日生命ホールおよび京王プラザホテルを会場として開催された.本学会は昭和29年の第1回総会より数えて30年目の記念総会であると同時に,3日目の10月10日には極東ではじめての第12回世界臨床病理会議(WASP)〈10月10日〜14日,会長小酒井望博士,京王プラザ〉とのJoint Meetingが開催された.

 一般演題総数は514題で,このうち212題はボスターセッションで発表された.特別講演は日野志郎博士による「雑誌・臨床病理の歩み」,総会長講演は「臨床病理と30年」,シンポジウムは2題で「酵素測定による病態解析-新しいアプローチ」「臨床病理の将来」,Joint Meetingではシンポジウム6題,特別講演は2題で一つはRIA創始者でノーベル賞受賞に輝くYalow博士の「臨床検査におけるRIA」,および英国の著明な血液学者Lewis博士の「血液学における標準化」ときわめて特徴的で内容豊富な講演,発表があり,その他に機器,試薬の展示が新宿NSビル地階を中心に行われた.

基礎実習講座

濾紙の選び方,使い方 島袋 宏明
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 濾紙は,濾過(固体と液体とを濾過材を用いて分離する方法)を主目的とするものであるが,他にpH測定用のpH試験紙,各種反応試薬を含ませた簡易検査試験紙,さらに新生児代謝異常マススクリーニング用の血液や尿採取,およびその輸送保存,電気泳動法による蛋白分画用支持体と,検査室における濾紙の応用範囲は広い.

 濾過目的としての濾紙についても,粗大粒子からミクロン単位,分子サイズ,その他特殊なものを含めると多種多様のものがある.したがって,その用途や目的に応じた選定をすることにより検査および分析を効率良く進めることができる.そのため濾紙の特性や使用目的を十分理解して用いるべきであろう.本文では,日常的に使用されているものについて概略を述べ,具体的な詳細については各専門書にゆだねることとする.

採血のしかた 相賀 静子
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 採血業務は臨床検査室にとってもっとも大切なそしてもっとも基本的な事柄である.

 採血方法がいい加減であったり不十分な消毒であれば,患者に対して大きな弊害を及ぼすことになる.また技術が未熟であると患者に不安感をあたえかねない.臨床検査技師はなによりも"検査に必要な採血"を正しく行うことである.

マスターしよう基本操作

吸収セルの知識と管理 関口 光夫
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 吸収セル(absorption cell)とは,吸光光度法において試料液や溶媒の透過パーセントや吸光度を計測するための光路長が定まっている石英やガラス製の容器である.日常的には単にセルと呼ばれていることが多い.その形状は角形で光路長(L),光路幅(W),高さ(H)が10×10×45mmのものがもっともよく使用されている.一般に角形のセルをキュベットと呼んでいる.その他に試験管形のものや試料液を細い管を通して充満させたり,あるいは流しながら計測することができるフロー形のセルもある.

 セルの材質には石英,ガラス,プラスチック製のものがある.石英製は主として紫外(200〜370nm)可視(370〜700nm)および近赤外(700〜2,600nm)の波長範囲の測定に,ガラス,プラスチック製は主として可視および近赤外の波長範囲の測定に使用される.プラスチック製セルはアクリルやポリスチレン樹脂製のものが多く,低コストであることからディスポーザブル的に使用できる.感染性のある試料やRIの試料などのように回収して使用したくないような場合に有用である.セルの材質に対する透過率曲線を図1に示した.

トピックス

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 元来健康な同性愛男子における後天的免疫不全症(AIDS)の多発が米国で問題になっていることを前回(本誌11巻3号,267頁)紹介した.AIDSはわが国でも注目されるようになった症候であるが,その後白人の同性愛男子のみならず,ハイチ移民や少数の血友病患にみられ,その発生の原因は確認されていないが,性交や静注などを含めた種々の経路による生物学的物質の感染によるのではないかという考え方を裏づけているようである.

 ニューヨークのMontefioreメディカルセンターのHarris博士らは,その原因を確かめるため,男性の患者のパートナーのごく普通の女性7名について検査を行ってみた.男性の7名は皆コカインやヘロイン静注の常用者であり,鵞口瘡をもち,そのうち6名がニューモシスチス・カリニを検出している.パートナーの女性は異常を認めなかったものは1名だけで,1名はAIDS,1名はその前駆症状を呈し,4名が異常症状を示していた.

検査技師のためのME講座 マイコンと友だちになろう・6

情報の編集 熊田 勝代
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 コンピューターは,記憶装置,演算,制御,装置,入出力装置からなるハードウェアで構成され,このハードウェア機能を最大限生かすために各々の機能に対応するソフトウェア機能があります.記憶,演算,制御,入力,出力はその重要な五つの機能であり,マイコンから大型コンピューターに至るまでその基本概念は同じです.今回はこの五つの機能に共通する編集について述べてみたいと思います.

君はアメリカの試験にパスできるか(英和対訳)

機器 池本 正生 , 富田 仁
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 [1]Instrumentation for photometric absorption analysis*1 in the ultraviolet (UV) region of the spectrum will generally employ a/an or light source.

 A.incandescent, tungsten

ザ・トレーニング

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 数値計算を行うにあたっては,常に誤差を考慮する必要があり,"有効数字"もこの誤差についての考え方が基本になります.特に最近は電卓やマイコンの普及が著しく,これらにプログラムされている数値計算パッケージを用いれば,多量の数値の処理がいとも簡単に行え,見かけ上もっともらしい解が得られてきますが,その計算に用いられた個々のデータの誤差を考慮に入れない場合には,求められた数値の信頼性は保障されません.すなわち,計算機は見かけ上多数桁の結果を出しますが,もとデータの精度以上の意味を持っていないという事実が忘れられがちになっているのではないかと思われます.

 本欄で既に平均値,標準偏差,検定などについては勉強してきたので,ここでは"丸め"による誤差を基本に,有効数字について解説してみます.

けんさアラカルト

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 通常,一般検査室において,尿検体は,沈渣鏡検が終わらないうちに処分されているのが大部分と思われます.ところで,当病院においては,沈査鏡検が終了し検査データがすべて出そろうまで,ハルンカップに採取したまま検体を保存しています.それは次の利点があるからです.

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 近年,電子機器による血圧計も作られるようになったが,昔からの血圧計を使う限り,必ず肘窩に聴診器を当てて最高,最低血圧を測定する.この方法はイタリアの小児科医マテオ・リッチがこの種の血圧計を1896年に創案したときには用いられていなかった.指で脈を調べて,脈が触れだしたときを最高血圧と判定していたのである.それでは最低血圧は測れなかった.ところが,聴診器を使うと,最低血圧の測定が可能になったばかりか,最高血圧も脈を触れて測るより10mmHg前後高いことがわかり,これによって簡便にして正確な血圧の値を知ることが可能になった.この方法を見つけたのがロシアの外科医コロトコフであった.

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 脳波は,一般に①てんかんおよび類縁疾患,②熱性痙攣,③失神発作,④その他発作性症候群(頭痛,悪心,嘔吐,etc),⑤行動異常,⑥非行,⑦精神薄弱,⑧夜尿症,⑨脳性麻痺,⑩先天性発達異常,⑪精神病,⑫神経症,⑬自律神経失調症,⑭頭部外傷,⑮脳腫瘍,⑯脳炎,髄膜炎,⑰各種脳症,⑱血管性障害,⑲変性疾患,⑳聴覚障害,㉑言語障害,㉒意識障害,㉓各種中毒症,㉔腎不全,㉕肝不全,㉖内分泌障害,㉗代謝障害,㉘心疾患などの補助診断のために行われる検査であり,今日まで脳の異常に基づくあらゆる疾患について脳波が研究されてきた.その結果,脳波検査はてんかんにおいて,診断上の相対的価値が最も高いということになっている.てんかんは,発作を繰り返す慢性の病気で,発作が起きない時は,異常のない特徴をもっている.

 ヒポクラテス以来,脳の病気として医学研究の対象にされてきた.薬剤の開発などで治療法も確立され,患者は日常生活に何ら支障がないほどになった.しかし,この病気に対する社会的偏見もあり,「患者の会」の活動などが活発である.

りんりんダイヤル

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 問 亜硝酸アミル負荷心音図検査では,薬剤吸入後,経時間的に心雑音が異なって聞こえるそうですが,その生理学的作用機序についてお教えください.

コーヒーブレイク

レセプション W. S.
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 国際学会では最先端の知識の交換ばかりでなく,レセプションにも大きな意味がある.学会場での質疑よりもっと本音の討論ができるし,文献で名前だけ知っている人が意外に若かったりする.近寄り難いと思っていた老大家から,親切な助言を受けたりして感激することもある.

 最近の若い人たちはずいぶん積極的になったと思うが,それでもあちらこちらに日本人だけで集まっているのを見かける.外人たちもよく見れば同じような顔ぶれでかたまりがちなのだが,黒い髪の故か日本人は数人集まると目だってしまうからかもしれない.外国のメンバーは,知らない人がいるとすぐ紹介してくれる.こうしたことは国内のパーティのときから習慣をつけないとできないから,特に学会のリーダー格の人は他学の若い人たちに積極的に声をかけていただきたいものである.

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基本情報

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検査と技術
12巻1号 (1983年12月)
電子版ISSN:1882-1375 印刷版ISSN:0301-2611 医学書院

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